2024-09-18
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
二相系ステンレス鋼とは、オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスのそれぞれの金属組織を混合させたステンレス鋼のことです。
オーステナイト系と比べて、高い強度と同等以上の耐食性を示し、オーステナイト系の弱点となる孔食や応力腐食割れに対する耐性を持ちます。ただし、高温強度が弱く、フェライト系の弱点である高温環境下での脆化も起こりやすくなっているため、高温用途には向いていません。
耐食性の向上を志向した鋼種と、高価なニッケルを減量して低コスト化を図った鋼種があり、用途に応じて使い分けられています。耐孔食性に優れ、海水などの塩化物環境への耐性が高いことから、海洋構造物や淡水化装置の材料などにも用いられています。
二相系ステンレスは、金属組織が「フェライト相」と「オーステナイト相」から構成され、その構成比がおおよそ1:1となるステンレスです。
フェライト相は、フェライト系ステンレスの主要相で、炭素をほぼ含有しない組織です。磁性を示し、軟らかく変形しやすいという特徴があります。
一方、オーステナイト相は、オーステナイト系ステンレスの主要相で、およそ2%までの炭素を含むことができます。非磁性の組織ですが、熱処理や塑性加工によって、磁性を持つマルテンサイト相に変化します。
二相系ステンレスは、クロムとニッケルを主要な添加元素として含むクロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類されます。主要成分として、鉄以外にクロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。オーステナイト系よりもニッケルの含有量が少なく、フェライト系が含有しないニッケルを少量含むステンレスとなっています。
二相系ステンレスには、様々な鋼種がありますが、含有する化学成分と耐食性を代表する耐孔食指数(PREN)によって以下の種類に分類されます。なお、耐孔食指数は、表面の穴から進行する腐食に対する耐性を示す指数で、オーステナイト系の代表鋼種であるSUS304で18、耐食性の高いSUS316で26となっています。
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汎用二相系ステンレスは、上表のJIS規格(JIS G 4305:2015)で規定された鋼種を含む二相系ステンレスです。PRENが35前後で、耐海水腐食性に優れています。
参考記事:SUS329J1(ステンレス鋼)化学成分、磁性、機械的性質
参考記事:SUS329J4L(ステンレス鋼)加工性、磁性、化学成分
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スーパー二相系ステンレスは、PRENが40〜45の二相系ステンレスで、JIS規格には上表の「SUS327L1」が規定されています。汎用二相系ステンレスに比べ、耐食性が向上していますが、高価なニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を多く含むため、高コストとなります。
ハイパー二相系ステンレスは、PRENが45以上の二相系ステンレスで、JIS規格に規定されている鋼種はありません。アメリカのUNS規格では、「S32707」や「S33207」などの鋼種があり、スーパー二相系ステンレスよりもクロム含有量が多くなっています。
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リーン二相系ステンレスは、モリブデンをほぼ添加しないことで低コスト化を図った二相系ステンレスです。JIS規格では、上表の2鋼種が規定されています。SUS304やSUS316といったオーステナイト系ステンレスの代替材料として設計された鋼種です。SUS304と同等以上の耐食性を示し、PRENは25〜30程度と良好な耐孔食性を有します。SUS304と比べて、応力腐食割れが生じにくく、高価なニッケルの含有量も少ないため、コストパフォーマンスに優れています。
二相系ステンレスの機械的性質は、JIS規格によって上表のように規定されています。
二相系ステンレスは、耐力と引張強さが共にオーステナイト系やフェライト系よりも高く、強度に優れます。一方、延性や靭性については、オーステナイト系よりも劣り、フェライト系よりは優れる傾向にあります。
フェライト相を含むことから、低温で靭性が急激に低下する「延性-脆性遷移」が起きます。ただし、フェライト系の延性-脆性遷移よりは緩やかに起こるため、−40℃程度まではある程度の靭性を維持することが可能です。
また、高温では強度が低下するため、耐熱用には適していません。フェライト系で問題となる「475℃脆化」や「σ相脆化」も起こるため、溶接や熱処理を施す際には注意が必要となります。
参照元:山陽特殊製鋼株式会社
二相系ステンレスは、オーステナイト系とフェライト系の中間的な物理的性質を示します。その値は上表の通りで、それぞれの値はオーステナイト系とフェライト系の中間的な値となっています。
また、二相系ステンレスは、磁性を持つフェライト相を含むことから、磁性を示します。その磁性は、フェライト量の比率が大きいほど強くなります。
二相系ステンレスは、常温の強度が高いため、強度向上を目的とした焼入れなどを行うことはほとんどなく、靭性・延性を最大限に発揮できる固溶化熱処理後のものが使用されます。その固溶化熱処理では、上表(JIS規格の参考値)の温度に加熱して保持し、急冷します。
二相系ステンレスへ熱処理を行う際には、σ相脆化と475℃脆化の発生に注意する必要があります。σ相脆化は、700〜1000℃でゆっくりと冷却すると起こりやすく、σ相の析出部では耐孔食性が低下します。一方、475℃脆化は、475℃近辺で長時間保持することで起こり、靭性と耐食性の低下に繋がります。固溶化熱処理のみを行う通常の製造過程では問題とはなりませんが、応力除去熱処理を行う際には475℃の周辺温度は避ける必要があります。
二相系ステンレスに対する溶接では、溶接部の冷却速度によって、オーステナイト相とフェライト相のバランスが変化し、耐食性や靭性が低下するので注意が必要です。冷却速度が速くなり過ぎると、オーステナイト相が十分に形成されず、クロム窒化物やクロム炭化物が析出して耐食性が低下します。逆に、冷却速度が遅くなり過ぎると、金属化合物や窒化物が析出したりσ相脆化が起きたりするため、耐食性や靭性が低下します。
二相系ステンレスは、高強度かつ高硬度であるために被削性が悪く、難削材として知られています。また、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すことから、加工が進展するほど切削が難しくなります。切削加工性は、合金元素を多く含むスーパー二相系やハイパー二相系の方がより悪くなります。一方、リーン二相系の切削性は、オーステナイト系と比べても良好です。
参考記事:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!
二相系ステンレスの塑性加工性は、熱間では良好であるものの、冷間ではあまり良くありません。二相系ステンレスは、高温強度が低く、固溶化温度付近では特に軟らかくなるため、熱間で容易に変形させることが可能です。実際の熱間成形加工では、固溶化温度付近において加工した後、固溶化熱処理と同等の処置を施すことで靭性や耐食性を回復させます。一方、二相系ステンレスは、常温の強度が高く、加工硬化も生じやすいことから、冷間成形加工に多大なエネルギーを要します。また、変形部が元に戻ってしまうスプリングバックが生じやすく、曲げ加工やプレス加工で問題となります。
二相系ステンレスの用途は、以下のように種類によって異なります。
汎用二相系ステンレスには、高強度と塩化物環境における耐性を活かした、海岸周辺の構造物や橋梁、海水ポンプや海水淡水化装置の材料としての用途があります。
また、汎用二相系は、オーステナイト系でよく問題となる応力腐食割れが起きやすい箇所での代替材料としても用いられます。例えば、石油生産設備の熱交換器では、応力腐食割れや局所腐食の発生が想定されるため、二相系の使用が有効です。
そのほか、耐荷重性能が必要な土木・建築分野の構造材、高耐食性の材料が必要な化学プラントやエネルギー関連プラントの設備・機器などにも用いられています。
スーパー・ハイパー二相系ステンレスは、より高い耐食性を持つことから、より厳しい腐食環境下で採用されます。主な用途として、海に浸漬する海洋構造物や水淡水化装置部品、様々な化学物質に曝される公害防止機器などが挙げられます。
リーン二相系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスのSUS304やSUS316の代替材料として主に用いられています。建材や機械の構造材、貯蔵タンクの材料としてなど、多様な用途があります。
汎用二相系と同じく、オーステナイト系で応力腐食割れが懸念される箇所の代替としても用いられます。耐孔食性もSUS304よりは良好で、価格も大きな違いはないため、需要が高まっています。
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