加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!

2023-11-06

加工硬化とは、金属に力を加えると硬くなる現象のことです。針金を何度も折り曲げていると、だんだん硬く脆くなって、ついには切れてしまう現象がこれに当たります。

また、全ての金属に起こる現象でもあるため、金属加工に携わる方にとっては必須の知識であり、現場においては加工硬化が起こることを見越した対処が必要となります。

そこで、今回の記事では、加工硬化の仕組みや金属を加工するときの影響、材料ごとの加工硬化のしやすさについて解説していきます。加工硬化した金属の扱い方も説明しますので、ぜひ参考にしてください。


加工硬化とは、塑性変形により変形抵抗が大きくなる現象

加工硬化とは、金属に応力を加えて塑性変形(永続的な変形)させたとき、金属が硬くなる現象のことです。変形の度合いである「ひずみ」が増加するにつれて抵抗が大きくなるため、ひずみ硬化とも呼ばれます。

古くから知られていた現象で、ハンマーなどで材料を叩いて成形する加工法などで金属を硬くする手段として利用されていました。ただし、加工硬化が進むと脆くもなるため、一定の硬さ以上にならないよう、定期的に焼なましを実施。打撃による加工硬化と焼なましを繰り返し行うことによって、成形すると同時に硬度を調整していました。

なお、焼なましとは、金属を軟らかくするために行われる熱処理のことで、加工硬化などによる内部のひずみを除去するために行われます。つまり、焼なましを行うことで、加工による塑性変形を維持したまま、加工硬化した金属組織を元に戻すことが可能です。

加工硬化のしくみ

引用元:公益社団法人日本金属学会

塑性変形によって生じる加工硬化ですが、その仕組みを理解するためには金属の変形について知る必要があります。

そもそも金属は、格子の交点に整然と配置された原子によって構成されています。そして、これに力を加えると、上図の弾性変形に見られるように、ある一定の変形量以下では、力を抜いても元の形状に戻ります。しかし、その変形量を超えると、局所的な原子配列を維持しながらも、元の形状に戻らない塑性変形が起こります(上図の塑性変形)。

このとき、下図のような原子配列の乱れ(転位)や、格子の交点が空となる格子欠陥などが発生することがあり、これらは加工を加えるほどに増大。そして、原子配列の乱れや格子欠陥が互いに干渉して、弾性変形が生じにくくなると共に、原子が再配列する塑性変形も起こりにくくなります。このように、原子配列が変動する余地がなくなると同時に、再配列もできなくなることで加工硬化が生じます。

なお、下図の「転位」とは、線状に形成された原子配列の乱れを指す言葉です。左図の刃状転位は、原子が真ん中の水平面で横にすべることで発生する転位で、すべり面と垂直であることが特徴です。一方、らせん転位は、原子が真ん中の垂直面で縦にすべることで発生する転位で、すべり面と平行であるという特徴があります。

引用元:コトバンク

加工硬化のメリット・デメリット

加工硬化のメリットは、上述したように材料の硬さが増すことです。しかし、それは、材料が脆くなると共に粘りが低下することも意味するため、割れや破断が発生しやすくなり、耐久性の低下の原因となります。

また、加工途中で加工硬化が起こると、後工程の加工で不備が生じることがあります。例えば、ステンレス鋼では、表面を擦るタイプの切削加工で加工硬化が起きやすく、後工程で用いる工具の寿命に悪影響を与えることがあります。

なお、この加工硬化を防ぐためには、材料や工具に合わせて、工具の送り速度や回転速度などを調整すると共に、最適な潤滑剤などを用意し、加工硬化が生じにくい条件を見つけることが必要となります。

その一方で、プレス加工における深絞り成形と張り出し成形では、加工硬化が成形に有利に働くことがあります。これらの成形方法では、下図中の上部のように板材に金型を押し込み、板材の一部を伸ばすことで成形します。そのため、下図中の下部のように伸びる部分の板厚のみが薄くなり、成形品の板厚が不均一になることはもちろん、破断の原因となることがあります。しかし、加工硬化が起きやすい材料では、変形すると同時に硬化するため、伸びる部分が次々と移り変わり、変形が一様化しやすく破断も起き難くなります。


参考:深絞りとは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!


引用元:toishi.info


材料の種類と加工硬化

加工硬化は、材料によって起きやすいものと起きにくいものがあります。ここでは、加工硬化のしやすさを表す指数を説明すると共に、代表的な材料の加工硬化のしやすさについてご紹介します。

加工硬化しやすい材料・しにくい材料

引用元:サイバネットシステム株式会社

材料の加工硬化のしやすさは、加工硬化指数(n値)が目安となります。

n値とは、応力-ひずみ曲線(上図)における、降伏点(塑性変形が始まる応力)以上の塑性域の応力σとひずみεとの関係を「σ=Cεn」で近似させたときの指数nのことです。n値が大きいほど、局部収縮発生までに要する応力(最大応力)が大きくなり、加工硬化しやすいことを示します。なお、「C」は、塑性係数と呼ばれる定数で、降伏点における塑性域側の傾きを表します。

代表的な金属のn値が下表です。SUS304やSUS301、銅、黄銅は加工硬化しやすく、チタンは加工硬化しにくいことが見て取れます。また、同じステンレスであっても、SUS430は、加工硬化しやすいわけではありません。

なお、「1/2材」や「H24」の表記があるものは、加工済みの材料であり、すでに加工硬化が起こっているものです。一方、「0」や「0材」の表記があるものは、完全焼なまし処理を行い、加工硬化が起きていないものを示します。

引用元:toishi.info


加工硬化した金属を軟化する方法は?

加工硬化した金属は、焼なましを行うことで、軟化させることが可能です。

上述したように、加工硬化は、転位や格子欠陥などが増大することで起こります。しかし、このような状態は、原子配列が周期的である状態に比べて不安定です。そのため、原子が動きやすくなる温度(再結晶温度)まで加熱すると、転位や格子欠陥などがなくなっていき、原子配列は周期性を持った状態へと移行していきます。この現象は金属内部のひずみが緩和されていくことを意味するため、加工硬化した金属は軟化していきます。

なお、鉄鋼は、1時間半程度、450℃~600℃を保つことで軟化することが可能です。


参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!


まとめ

いかがでしたでしょうか。

加工硬化は、金属を塑性変形させたときに硬くなると同時に脆くなる現象です。そのため、工具の損耗などの原因となったり、割れや破断などに繋がることがあります。

しかし、悪いことばかりではなく、プレス加工においては加工硬化の性質を利用することで、破断を防止したり品質を高めたりすることが可能です。

このように、加工硬化は、金属加工を行う際には注意しなくてはならない現象ですので、金属加工に関わりがある方は頭に入れておくことをおすすめします。

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