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鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!

2025-01-15

更新

この記事を監修した人

金属加工業界最大級のマッチングプラットフォーム「Mitsuri」を手掛ける企業。
「未来の製造業をつくる」をモットーに、製造業DXを推進している。

鋼の性質を熱によって変える、それが金属加工における熱処理です。熱処理には様々な種類があり、その方法によって、同じ金属でも異なる性質を帯びてくる、不思議な加工といえます。

今回はこの熱処理に着目し、その仕組みや工法など詳しく触れていきます。

熱処理とは?

熱処理とは、ある一定の温度以上に金属を加熱し、適当な方法で冷やすことでその性質を変えることを言います。英語ではheat treatmentと記載します。

もちろん、意図的に行うわけですから、性質を悪くするのではなく、改善することが第一の目的。材料の用途に応じて金属の機械的性質や組織を自在に操るのです。

鋼の性質とは?

鋼の性質には、強さ、硬さ、粘り、耐衝撃性、耐摩耗性、耐腐食性、耐食性、被削性、冷間加工性などが挙げられます。これらは、熱の入れ方や温度、冷まし方によって変わってくるものなのです。

鋼の性質強さ・硬さ・粘り・耐衝撃性・耐摩耗性・耐腐食性・耐食性・被削性・冷間加工性

鋼は、ある温度に達するとその組織に変化が起こります。この現象を変態(へんたい)といいます。そして変態を起こす温度を変態点と言います。

一口に鋼と言っても、構成する素材の含有量によっても変態点は変わりますし、冷まし方によっては成果物も変わってきます。例えば炭素鋼。これは炭素量と温度によって状態が異なります。温度と炭素量の含有率を変えるだけで、炭素鋼はフェライトやオーステナイト、炭化鉄、セメンタイト、パーライトと変化します。

炭素鋼の種類

炭素鋼はどのように性質が変わるのでしょうか?4つの炭素鉄を比較してみましょう。

4種の炭素鉄①フェライト②オーステナイト③セメンタイト④パーライト

①フェライト

酸化鉄を主成分としたセラミックの総称のこと。700℃程度の温度域で発生します。その結晶構造が体心立方格子となっており、別名α鉄と呼びます。

②オーステナイト

フェライトの変態点を上げて911℃以上になったときに生成されるものを指します。その結晶構造は面心立方格子で、Γ(ガンマ)鉄とも言われます。

③セメンタイト

オーステナイトが発生する温度域で発生する炭化鉄で、金属組織学上の呼び名です。フェライトと同様、白色でもろい結晶ですが、強磁性を示します。パーライトが現れる前にオーステナイトと混在して出現します。

④パーライト

炭素鋼の組織の一種で炭素量の多い炭素鋼に見られます。フェライトよりも色が黒いのが特徴です。黒曜石などのガラス質火山岩を1000℃程度の温度で焼いたときに発生します。

冷まし方で異なる性質

変態点以上に加熱した炭素鋼をゆっくり冷却すると、オーステナイトからパーライトに性質が変わります。通常、高温のオーステナイトを冷却するとフェライトに変態しようとします。

ところがこれを急激に冷却すると、マルテンサイトとなります。マルテンサイトとはオーステナイトを焼き入れしたときに発生する鋼。急冷することで変態が完了せずに、きれいな体心立方格子が形成されず、一部に炭素が紛れ込んだ準安定状態の結晶構造をとります。その組織構造は形状でいうと針状や板状になるので、壊れやすいのです。

これを無拡散変態というのですが、こうした性質のちょっとした違いを利用して性質を変え、私たちの生活に役立てたものがあります。そのひとつがマルテンサイト変態を利用して形成された形状記憶合金です。

このように、ほんの少しの構造の違いにより、性質も変わってくるのです。

熱処理の種類

熱処理により、鋼に強度と粘りを与えることができます。どんな処理法があるのかをい探っていきましょう。

熱処理の種類①焼きなまし②焼きならし③焼き入れ④焼き戻し

①焼きなまし

普通熱処理と呼ばれるもののひとつで、鋼の結晶粒を調整し、鋼を軟らかくするために行うものです。英語ではannealingと記載し、JIS記号ではHAと表記されます。

炭素鋼の場合、変態点から30~50℃加熱して、オーステナイト化したのち炉中冷却してオーステナイトをパーライトに変化させます。

■焼きなましの種類

焼きなましにはいくつか種類があります。

焼きなましの種類1) 完全焼きなまし2) 球状化焼きなまし3) 応力除去焼きなまし4) 拡散焼きなまし

1) 完全焼きなまし

もっとも一般的な焼きなまし法で、JIS記号ではHAFと表記します。変態点以上に加熱後、ゆっくりと炉中冷却するもので、臨海区域(火色消失温度:約550℃、炎の色により温度が変わるが、色が保てなくなった状態)まで炉の中で冷却したのち、空冷したものを二段焼きなましと言います。

2) 球状化焼きなまし

鋼が熱処理されて冷却すると、その構造は層状になったり網状になったり、針状になったりと冷却の仕方によって変わります。この形状では脆いので、球状化するために行うのが球形化焼きなましです。球状化にするためには加熱と冷却を繰り返したりする方法などがあります。JIS記号ではHASと表記します。

3) 応力除去焼きなまし

金属処理で冷間加工や溶接などで発生した熱(残留応力:物体内部に商事、外力を除いた後にも保留される応力のこと)を除去するために行う焼きなましのことを応力除去焼きなましといいます。JIS記号ではHARと表記します。

4) 拡散焼きなまし

鋳造部品によっては合金成分の一部が組織の構造内で偏ってしまう(偏析)ため、それを均一化するための焼きなましのこと。JIS記号ではHADと表記します。偏析を解消するには、変態点を超えて長時間加熱したのち、普通の焼きなましを行います。

②焼きならし

金属の加工による影響を取り除き、結晶粒を微細化して組織のばらつきをなくして機械的性質を向上させる熱処理のことを焼きならしと言います。英語ではnormalizingと記載し、JIS記号ではHNRと表記します。

炭素鋼で示すと、変態点から30~50℃上げて加熱し、完全にオーステナイト化したのち、冷却を空中放冷で行ったものを指します。

■焼きならしの種類

焼きならしには2つの種類があります。

焼きならしの種類1) 普通焼きならし2) 二段焼きならし

1) 普通焼きならし

鋼によって所定の焼きならし温度から常温まで、大気中放冷することを示します。JIS記号ではHNRと表記します。

2) 二段焼きならし

所定の焼きならし温度から火色消失温度まで空冷したのち、ピットや箱内で徐冷(目標温度までゆっくりと冷却すること)する方法のこと。炭素鋼では内部き裂などを防ぐことができます。

③焼き入れ

鋼を硬く、強くする熱処理のことです。英語ではhardeningあるいはquenchingと訳します。JIS記号ではHQと表記します。

これを炭素鋼を参考に具体的に見ていきましょう。

まず鋼を加熱してオーステナイトにしてから、急激に冷却してマルテンサイトにします。

マルテンサイトは硬いものの、脆い(もろい)性質があるので、再度、30~50℃の変態点以上に鋼を加熱し、オーステナイト化したら、臨海区域(770℃から550℃までの温度域)までは早く冷却し、危険区域(焼割れや焼入れひずみなどが生じる危険性のある温度範囲)はゆっくり冷却します。

マルテンサイトが発生すると、低温で硬くなる時に膨張するので、急激に冷やすと焼割れが発生しやすくなるのです。

■焼き入れの種類

焼き入れには、引上げ焼き入れというものがあり、鋼を焼き入れ温度から焼入れ液の中に入れ、ある程度時間がたったのちに引き上げて、ゆっくり冷やす方法を引上げ焼き入れ、または時間焼き入れと言います。

焼入れ液は一般的には水、または油が使用されます。水は急速冷却に使用されますが、その一方で鋼の曲がりや焼割れが発生しやすい難点もあります。

これに比べ、油は水の冷却性能の3分の1なので、焼割れや曲がりが生じにくいのです。

④焼き戻し

焼き入れ、または焼きならしを行った鋼の硬さを軽減し、代わりに粘性を高めるために行う熱処理のこと。英語ではtemperingと訳し、JIS記号ではHTと表記します。

鋼の粘り気を高めるとはどんな感じでしょうか?言うなれば、鋼に力を入れたときにしなる感じを高めること。硬くてもろい鋼よりも、強くてしなやかな鋼は扱いやすいですものね。

■焼き戻しの種類

焼き戻しにもいくつか種類があります。鋼の用途によって冷却の仕方を変えれば、最適な鋼を得ることができるのです。

焼き戻しの種類1) 低温焼き戻し2) 高温焼き戻し3) 焼き戻し硬化

1) 低温焼き戻し

刃物やゲージなど、かなりの硬度と耐摩耗性を必要とするものに行います。焼き戻し温度は150~200℃、冷却は空冷で徐々に冷やします。

焼き入れのときに発生する残留応力(以前に加えた力が組織の内部に残っている力のこと。例えば曲げたときの熱など)を除去したり、耐摩耗性を向上したり、経年変化による寸法の狂いを防止したり、研削割れを軽減することが可能です。

2) 高温焼き戻し

機械構造部品に使用される、強度と靭性(金属の粘り強さのこと)を兼ね備えた構造用合金鋼に用いられます。具体的には焼き戻し温度400~650℃からは急速に冷却します。この温度帯で徐冷すると、かえって高温焼き戻し脆性が発生してしまいます。焼入れののち、400~650℃で急冷して焼き戻しする作業を特に調質と呼びます。250~400℃の温度帯で焼き戻しを行うと、鋼がかえってもろくなる(低温焼き戻し脆性)ので注意が必要です。

3) 焼き戻し硬化

金属を高速度で切削加工する工具の材料となる合金工具鋼を高速度鋼とよびますが、これらはタングステンやコバルト、クロム、バナジウム、モリブデンなどが加えられています。こうした鋼を焼き入れしたのち、550~600℃から焼き戻しを行うと、再び硬化します。これを、焼き戻し硬化といいます。この場合、冷却は空冷で徐々に冷やすことが必要です。急激に冷やすと焼き戻し割れが発生します。

その他の熱処理

上記のほかにも、等温熱処理(等温焼きなまし、等温焼ならし、等温焼入れ)や浸炭、窒化などの化学的表面硬化法、高周波焼入れ炎焼き入れなどに代表される物理的表面硬化法があります。

まとめ

以上、熱処理について触れてきました。

まず、熱処理すると鋼の構造に変化が生じることがわかりましたね。変態点を理解し、生成している素材の含有量によって物質の性質が異なることを活かして、鋼の持つ性質を調整することができるのです。

また、熱処理には大きく4つの作業(焼きなまし、焼きならし、焼き入れ、焼き戻し)があり、目的とする鋼の性質を求めるための、各作業の役割も大きなポイントです。

鋼を自在に操る術ともいえる熱処理に、今後も注目していきたいですね。

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