染谷 ひとみ
Mitsuri Media元管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
管(パイプ)は、上下水道や化学プラントなどの配管設備、自動車のドライブシャフトや産業機械のシリンダーなどに用いられている、私たちの生活に欠かすことのできない部材・部品です。
その中でも電縫管は、板を丸めて長手方向に沿って縫い合わせるように電気抵抗溶接することで成形するパイプです。生産性が高い上に、生産コストも低く、寸法精度に優れており、強度も高くなっています。最も幅広い用途に使われているパイプで、配管をはじめ、自動車部品、機械部品、建築物などに用いられています。
この記事では、電縫管について解説していきます。特徴や用途、規格、製造工程など、電縫管に関する様々な事項について詳しく説明しますので参考にしてください。
電縫管とは、電気抵抗溶接の一種である縫合せ溶接と呼ばれる溶接法を使用して製造した鋼管のことです。電気抵抗溶接鋼管とも呼ばれます。
電縫管の製造では、鋼帯コイルを連続的に引き出し、引き出した先で鋼帯を円筒状に成形して、円筒状となった鋼帯の端を溶接することで、鋼管の継ぎ目となる部分を接合してパイプにします。
電縫管は、鋼帯から作製するため、肉厚の薄いパイプの製造に最適です。大量生産に向いており、コイルの引き出しと円筒形状への成形、継ぎ目の溶接などの一連の工程を連続的に行うことから、高い生産性を確保することができます。
継目部(シーム部)については、溶接痕(溶接ビード)が発生してしまいますが、溶接ビードを削り取ることで滑らかに仕上げることが可能です(上図参照)。一方、シーム部以外については、シーム部周辺の溶接熱が影響した部分を除いて、素材そのままの表面性状が維持されます。
また、溶接接合したシーム部の強度が懸念されることがありますが、近年の技術の高度化により、高強度かつ高品質、高精度なパイプの製造が可能となっています。
材質については、多くが炭素鋼で、低炭素鋼のS10Cから、高炭素鋼のS50Cまで、様々な炭素含有量の炭素鋼が用途に合わせて使い分けられています。そのほか、ステンレス鋼やクロムモリブデン鋼、高マンガン鋼などの合金鋼も用いられます。
製造可能な寸法は幅広く、外径は6.35mm~700mm、肉厚は0.6mm~28.0mm、長さは20m程度までの製品が鉄鋼メーカーなどで製造されています。
電縫管は、電気抵抗溶接によって製造された鋼管として、以下のJIS規格に規定されています。
・JIS A 5525 鋼管ぐい
・JIS A 5530 鋼管矢板
・JIS C 8305 鋼製電線管
・JIS G 3441 機械構造用合金鋼鋼管
・JIS G 3442 水配管用亜鉛めっき鋼管
・JIS G 3443 水輸送用塗覆装鋼管
・JIS G 3444 一般構造用炭素鋼鋼管
・JIS G 3445 機械構造用炭素鋼鋼管
・JIS G 3446 機械構造用ステンレス鋼鋼管
・JIS G 3447 ステンレス鋼サニタリー管
・JIS G 3448 一般配管用ステンレス鋼管
・JIS G 3452 配管用炭素鋼管
・JIS G 3454 圧力配管用炭素鋼鋼管
・JIS G 3456 高温配管用炭素鋼管
・JIS G 3459 配管用ステンレス鋼管
・JIS G 3460 低温配管用鋼管
・JIS G 3461 ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管
・JIS G 3462 ボイラ・熱交換器用合金鋼管
・JIS G 3463 ボイラ・熱交換器用ステンレス鋼鋼管
・JIS G 3464 低温熱交換器用鋼管
・JIS G 3466 一般構造用角形鋼管
・JIS G 3472 自動車構造用電気抵抗溶接炭素鋼鋼管
・JIS G 3473 シリンダチューブ用炭素鋼鋼管
・JIS G 3474 鉄塔用高張力鋼管
・JIS G 3475 建築構造用炭素鋼管
・JIS G 3478 一般機械構造用炭素鋼鋼管
・JIS G 3479 焼入性を保証した機械構造用鋼管
電縫管は、その製造方法である「電気抵抗溶接」を表す記号として「E」が割り当てられており、鋼管の種類を示す記号の後に付けることと定められています。
また、鋼管の仕上げ方法を表す記号も下表のように定められており、製造方法の記号の後に付けることとされています。
溶接後そのままの鋼管のこと。シーム部だけが加熱された状態であることから、素材そのままの表面性状が維持される。
そのため、電縫管は、鋼管の種類を示す記号の後に以下のどれかを表示することが必要となります。
・−E−H…熱間仕上電気抵抗溶接鋼管
・−E−C…冷間仕上電気抵抗溶接鋼管
・−E−G…電気抵抗溶接まま鋼管
例えば、炭素鋼やステンレス鋼を素材とする鋼管では、以下のような表記が考えられます。
・SGP−E−H…一般機械構造用炭素鋼のS45CTKを材質とする熱間仕上電気抵抗溶接鋼管
・SUS304TP−E−G…配管用ステンレス鋼のSUS304TPを材質とする電気抵抗溶接まま鋼管
参考:SUS304TP|jis規格の違いと使い分け、スケジュール番号
電縫管は元々、ガス管・水道管などの配管やガードレール・支柱などの構造物に用いられていました。しかし、近年の技術の向上によって、継ぎ目のないシームレス管が採用されていた、厳しい環境で用いられる油井掘削管やラインパイプ、高温環境で用いられるボイラやエンジン、精度の要求が高いドランスミッションやプロペラシャフトなどにも採用されるようになっています。
電縫管の用途として、炭素鋼鋼管と合金鋼鋼管とを分けると、下表のようにまとめることができます。
<炭素鋼鋼管>
<合金鋼鋼管>
電縫管は、以下のような製造工程に従って生産されます。
1. 鋼帯の引き出し
2. 鋼帯の成形
3. 電気抵抗溶接
4. 溶接ビードの除去
5. 鋼管のサイジング
6. 鋼管の切断
7. 鋼管の仕上げ
電縫管は、上述したように、薄鋼板をロール状に丸めた鋼帯コイルを素材として用います。
この工程では、鋼帯をコイル材を巻き戻すアンコイラー(材料供給装置)で供給し、供給された鋼帯をピンチローラーなどの送り装置で引き出して、次工程に鋼帯を送ります。
その過程で、場合によっては、鋼帯に以下の処理を施します。
・ひずみ除去…レベラーによって鋼帯の上下方向から交互に変形を与えることで、巻きぐせなどのひずみを取り除く処理。
・ループコントロール…アンコイラーと送り装置との間で生じる鋼帯のたるみを管理する処理(下図参照)。たるみの程度によっては、アンコイラーや送り装置に大きな負担が掛かり引き倒されてしまうことがある。
・エッジ処理…鋼帯の端に形成されたバリなどを除去したり、鋼帯の端の形状を整えたりする処理のことで、溶接継目の溶け込み不良などを防止し、品質のバラツキを抑制する効果がある。
鋼帯コイルから引き出した鋼帯を円筒状に成形する工程です。
この工程では、下図のように、連続的に供給される鋼帯を種々の曲率のロールによって幅方向に曲げることで、円筒状に成形します。
引用元:BAB 2.pdf「Pipa dilas (butt-welded pipe)」Research Repository of UMY Repository
円筒状に成形された鋼帯の端を高周波電気抵抗溶接で接合する工程です。
この工程では、上図のように、鋼管の継ぎ目となる部分を突き合わせ、高周波電流を流して溶接温度まで加熱し、スクイズロールによって圧迫することで圧着します。この圧着は、局所的かつ瞬間的に行われるため、溶接熱が影響する範囲は小さく、高速な接合が可能です。
なお、高周波電流の供給方法には、同心円状のコイルに鋼管を通して非接触で通電する誘導加熱法(下図左図)と電流供給装置を鋼管に接触させて通電する直接通電法(下図右図)があります。誘導加熱法は、鋼管の凹凸に影響を受けないために溶接欠陥が生じにくく、小径・薄肉の鋼管の溶接に向いています。しかし、電力効率は低いため、鋼管のサイズが大きくなると、溶接速度が低下します。一方、直接通電法は、電力効率が高いため、大口径管の溶接が可能です。しかし、口径が小さいと通電ができない場合がある上、凹凸があると接触不良によって溶接欠陥が発生することがあります。
引用元:最近の電縫管溶接装置「高周波電流の供給方法」富士電機株式会社
鋼管のシーム部の内外面に生じた溶接ビードを除去する工程です。
この工程では、溶接直後のシーム部の内外面にバイトを当てて溶接ビードを除去します。内面の溶接ビード除去は、溶接点の手前側の管がまだ閉じられていない箇所からロッドを差し込み、バイトを当てることで実行します(下図参照)。
なお、下図は、誘導加熱法によって高周波電流を供給しているケースで、インピーダーは、誘導電流を局所化し、溶接熱の影響範囲を小さくする役割があります。
引用元:小径厚肉機械構造用鋼管「内面ビード切削」JFEスチール株式会社
溶接ビードの除去が完了した後は、鋼管を水などで冷却し、鋼管の寸法を整えるサイジングを行います。
サイジングは、ロールによって鋼管の形状を整えたり、丸管から角管へと形状を変化させたり、絞りを加えて管を引き伸ばしたりする工程です。
連続的に製造している鋼管を切断工具を使用して一定の長さに切断する工程です。
鋼管を切断した後は、鋼管の開口部の面取りを行い、検査を実行します。仕上げを行わない電気抵抗溶接まま鋼管としては、これで製造完了です。
仕上げを実行する場合は、鋼管の切断後にさらなる処理を施します。
熱間仕上げを実施する場合は、金属組織の均一化を目的に、鋼管を連続加熱炉に通して加熱します。冷間仕上げを実施する場合は、寸法精度の向上を目的に、鋼管を金型に通して加圧し、形状を矯正します。
電縫管は、上述したように、幅広いサイズのラインナップが揃っていますが、他の方法で製造された鋼管も含めて比較すると、小径から中径で比較的薄肉のサイズのものが入手可能となっています。
しかし、鋼管類の寸法は、外径・厚さ・長さのほかに、JIS規格にて「A呼称」と「B呼称」という呼び径が定められており、サイズの指定の仕方が分かりにくくなっています。さらに言うと、A呼称とB呼称は、それぞれミリメートルとインチの内径サイズを反映しているように見えるものの、そのサイズは正確ではなく、単に外径サイズごとに定められた、おおよその内径を示すものとしか見ることができません。そのため、鋼管の正確な内径は、外径から2倍した厚みを引くことで算出します。
また、現場では、鋼管のサイズをB呼称で呼ぶことが多く、B呼称の分母を「8」に固定した呼び方が「通称」として用いられています。例えば、B呼称で「1/8」であれば「1分(イチブ)」、「3/4 = 6/8」であれば「6分(ロクブ)」、「1 1/4 = 1 2/8」であれば「インチ2分(インチニブ)」と呼びます。
以上を前提に、代表的かつ入手可能な寸法の電縫管を挙げたのが下表です。なお、下表の「厚さ」の列では、外径サイズごとの入手可能な厚さのおおよその範囲を示しています。
水配管として用いられる電縫管では、シーム部のみが上図のようにV字形に腐食する「溝状腐食」が起きることがあります。この溝状腐食は、水分を含む液体の輸送配管に用いられる以下の炭素鋼鋼管で主に発生します。
・配管用炭素鋼鋼管(SGP)
・水配管用亜鉛めっき鋼管(SGPW)
・圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG)
この現象は、水質に関係なく起こりますが、工業用水や海水の輸送に使用された電縫管で多く見られます。特に、海水輸送に用いられた電縫管では、溝状腐食速度が年間14.0mmにも達する事例が存在します。また、溝状腐食は、進行が速く、溝状腐食が発生した電縫管の約80%が使用開始後4年までに貫通して漏水に至っています。
溝状腐食は、シーム部の急速な加熱と冷却で生じる、金属組織の変化と鋼帯の肉厚中央部に存在していた硫化マンガン(MnS)系非金属介在物の金属表面への露出が原因で起こるとされています。
表面が露出したMnS系非金属介在物の周辺には、腐食しやすい硫化鉄(FeS)が高い濃度で形成され、溝状腐食の起点となるからです。シーム部と母材との金属組織の違いも、電位差を生じさせることから溝状腐食の引き金となります。
そして、溝状腐食が進行すると、溝の水分が淀んで酸素濃度が低下し、腐食の原因となる酸素濃淡電池作用が生じて腐食が進展します。さらに、MnS自体も不安定化して溶解し、腐食を加速する硫化水素などを生成して、溝を深くしていくのです。
近年では、溶接後の熱処理の適用や素材の化学成分の調整といった対策方法が考案され、実行されています。
溝状腐食はそもそも、金属組織の変化や含有成分の偏りから生じる現象であり、熱処理によって金属組織を均一化することで、ある程度の溝状腐食抑制効果が得られます。ただし、熱処理温度は、鉄鋼の焼なまし温度である900℃程度が必要とされ、900℃以上に加熱して10分以上保持することで溝状腐食の発生を低減できます。
溝状腐食は、硫黄(S)の含有量の低減と銅やニッケル、アルミなどの添加によっても抑制することができます。Sは含有率を0.002%以下に下げて、MnS量を低減することで、溝状腐食の発生を著しく減らすことが可能です。それに加えて、ニッケルを0.1%程度添加すれば、ほぼ溝状腐食は発生しないとされています。そのほか、銅やアルミ、カルシウム、ニオブなどの添加も有効です。
鉄鋼メーカーからは、化学成分を調整したSGPやSGPW、STPGが耐溝状腐食電縫鋼管として販売されており、耐溝状腐食電縫鋼管には、溝状腐食無しを意味する「MN」が表示されています。
管(パイプ)は、製造方法の違いにより、電縫管と鍛接管、アーク溶接管、シームレス管に分類することができます。ここでは、電縫管の鍛接管やシームレス管との違いについて説明します。
まず、鍛接管は、加熱した鋼帯を引き出しながら円筒状に成形し、その両端を圧着して接合したパイプのことです。生産性は比較的高く、大量生産に適していますが、シーム部の強度はそれほど高くありません。また、全体を加熱するため、スケールが発生しやすく、表面性状は良くありません。
続いて、シームレス管は、円筒形状の金属塊を高温に加熱し、中心に金具を押し付けることで穴をあけて成形したパイプのことです。大量生産には向いていませんが、肉厚のパイプの製造に適しています。パイプに継目がないことから高強度ですが、高温に加熱するため、表面性状は電縫管に比べて劣ります。また、寸法精度がそれほど高くなく、管の同一断面の肉厚が非均一となる「偏肉」が発生するという欠点があります。
電縫管と鍛接管、シームレス管との違いをまとめると下表のようになります。
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