2024-09-18
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
ステンレス鋼は、英語で表記すると「Stainless Steel」と表されます。この名前の通り、サビに強いため、多くの用途で採用されている材料です。
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304は、耐食性や強度などに優れていることから、市場でよく出回っているため、ご存知の方は多いと思われます。しかし、似た材質名である「SUS304TP」に関して知っている方は少ないのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、SUS304TPの基礎知識についての解説します。また、SUS304TPと近しい材料の使い分けや、SUS304TPが規定されているJIS規格についても説明します。
参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!
SUS304TPとは、【配管用ステンレス鋼鋼管 JIS G 3459】に規定されている配管用ステンレス鋼鋼管のこと。
記号の末尾にある「TP」は、配管用(Tube Pipe)の意味を示す記号です。また、SUS304TP-S-Hのように、TPの後ろに「S」や「H」などの記号が付いているものは、製管方法や仕上方法を表しています。これらの意味については下記表を参照してください。
<製造方法を表す記号>
引用元:JIS G 3459:2016
上表から、SUS304TP-S-Hと表記されていた場合は、熱間仕上継目無鋼管の意味であることが分かります。
配管用ステンレス鋼鋼管は、耐食性・耐熱性・耐高温酸化性などに優れた材料。亜鉛めっき鋼管と比べて、パイプ内にさびこぶが発生する心配がないほか、肉厚が薄くて軽量なのが特徴です。
ステンレス鋼鋼管の規格は、配管用以外にも、機械構造用やボイラ・熱交換器用などがあり、各々で用途や外径の範囲などに違いがあります。
SUS304TPが規定された【配管用ステンレス鋼鋼管 JIS G 3459】規格は、耐食用・低温用・高温用・消火用などの用途に用いられており、上画像のような化学工場や、水道施設などの配管で使われていることが多いです。
外径の範囲については、10.5mm(呼び径 6A または 1/8B)~660.4mm(呼び径 650A または 26B)です。
【配管用ステンレス鋼鋼管 JIS G 3459】と似た規格に、【一般配管用ステンレス鋼鋼管 JIS G 3448】がありますが、こちらは前者に比べてさらに薄肉で、給水・給湯・排水・冷温水・消火用として用いられています。
【配管用ステンレス鋼鋼管 JIS G 3459】規格のSUS304系には、SUS304TP以外に、SUS304HTPとSUS304LTPが規定されています。SUS304系の熱処理の違いについて、JIS G 3459:2016では、以下のように規定されています。
<SUS304系の熱処理>
引用元:JIS G 3459:2016
JIS G 3459:2016規格によると、これらの鋼管は固溶化熱処理を行い、酸洗いまたはこれに準じる処理を行う必要があると規定されています。SUS304HTPのみ、固溶化熱処理の温度がやや高く設定されているのが分かります。
<SUS304系の化学成分(単位:%)>
引用元:JIS G 3459:2016
こちらは、JIS G 3459規格に記述されている、SUS304系ステンレス鋼の化学成分を示す表で、いずれの材料も炭素量に有意差があります。
<SUS304系の機械的性質>
引用元:JIS G 3459:2016
こちらは、SUS304系の引張り強さと耐力を示した表です。炭素量は含有量が多いほど硬くて強度に優れる特徴があります。炭素量が少ないSUS304LTPは、その他の材料と比べて数値が低いことが分かります。
また、一般的に炭素量が多いほど、使用限界温度も高くなる傾向にあります。具体的な温度の数値については下記表を参照してください。
<SUS304系の使用限界温度>
上表は、【圧力容器の構造-一般事項 JIS B 8265】内にある、鉄鋼材料の許容引張応力の表を参考としたものです。
SUS304TPの使用限界温度は、JIS規格では800℃までとなりますが、550~800℃に関しては、炭素量が0.04%以上の材料に限ります。そのため本記事では、JIS規格表内の550℃のひとつ下である、525℃をSUS304TPの使用限界温度として記述しています。
上表から、炭素量の多いSUS304TPとSUS304HTPは、SUS304LTPに比べて使用限界温度が高いことが分かります。
炭素量の違いは、鋭敏化のしやすさにも影響します。「鋭敏化」とは、ステンレス鋼の不適切な熱処理などにより、金属内部の結晶粒界に炭化物が析出し、クロム(Cr)が欠乏する現象のことを指します。
クロムは、ステンレス鋼の「不働態皮膜」と呼ばれる、サビを防止する膜を形成するのに必要な元素です。鋭敏化は、クロムが欠乏することで耐食性が低下し、腐食の原因となります。
炭素量が高い材料ほど、鋭敏化しやすい傾向があるため、SUS304系ステンレスのなかでは、炭素量の少ないSUS304LTPが、鋭敏化を避けやすい材料となります。
以上をまとめると、配管用ステンレス鋼鋼管のSUS304系の使い分けとしては、SUS304TPをベースとして考え、より使用限界温度が高いものを必要とする場合に、SUS304HTPを。使用限界温度や強度よりも鋭敏化を避けたい場合は、SUS304LTPを選ぶのがおすすめです。
SUS304TPのような配管用ステンレス鋼鋼管は、JIS G 3459規格にて、スケジュール番号(Sch番号)が設定されています。
「スケジュール番号」とは、鋼管の外径に対して「鋼管に作用する内圧」と「設計温度における材料の許容引張応力」の比を、一定段階毎に分類したもののことです。スケジュール番号があることで、任意の鋼管外径から必要な肉厚を決定できるほか、異なる外径の鋼管を用いる場合にも肉厚を素早く判定できます。
スケジュール番号は、鋼管に作用する内圧(N/mm2)と、設計温度における材料の許容引張応力(N/mm2)の比に対して、数値を1000倍することで、対応する番号を知ることができます。スケジュール番号を判別するための式は下記の通りです。
スケジュール番号(Sch)=(管に作用する内圧/設計温度における材料の許容引張応力)×1000
設計温度における材料の許容引張応力の数値について知りたい方は、【圧力容器の構造-一般事項 JIS B 8265】にて確認できます。
記述例は、50A×Sch10S、または2B×Sch10Sのように表します。これはどちらも同じ外径(60.5mm)と厚みを示しており、50Aと2Bは呼び径、Sch10Sはスケジュール番号を表しています。この場合、上表のスケジュール番号と照らし合わせてみると、厚みが2.8mmであることが分かります。
スケジュール番号には、Sch10Sのように末尾に「S」がつくものと、つかないものがあります。Sがつくものは「スインスケジュール系」、Sがつかないものは「ノルマルスケジュール系」といいます。
今回ご紹介しているSUS304TPのような、オーステナイト系ステンレス鋼鋼管は、引張強さの数値が一般炭素用鋼管と比べて大きく、同じスケジュール番号では、余分に強度を持った状態になるためコストがかかります。この余分な強度とコストを削減するために、肉厚を薄くした番号を設けたものが、スインスケジュール系です。
このため、オーステナイト系のステンレス鋼鋼管は、スケジュール番号の末尾にSがついた、スインスケジュール系のものが多い傾向にあります。
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