染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
板金加工、プレス加工とは、それぞれ金属を加工する方法を指します。両者とも多くのメーカーで採用されている加工方法であり、実際に板金加工やプレス加工を用いた製品の加工をメーカーに依頼したことがある方も多いかもしれません。
本記事では、板金加工とプレス加工をテーマに、両者の違いや共通点についてご説明した後、両者の加工方法についてそれぞれのメリットやデメリットなど、幅広い内容について詳しく解説していきます。
これから、板金加工やプレス加工をメーカーに依頼することを検討されている方はもちろん、それぞれの加工方法についてさらに知識を深めたい方は、ぜひご一読ください。
板金加工とは、金属板を切ったり、曲げたり、穴を開けたり、さまざまな加工を施して製品や部品を製作する加工を指します。これらの加工は、塑性変形と呼ばれる、材料に一定以上の力を加えて変形させることによって、目的とする形状に変形させ、加工を施す方法を指します。この塑性変形を利用した加工方法は板金加工以外にも存在し、その一つがプレス加工です。
プレス加工とは、その名の通り、被加工物を金型に圧着(press)することで、金属を目的の形状に変形させる方法を指します。プレス加工にも幾つかの種類があり、曲げ加工や絞り加工などが挙げられます。
このように、板金加工とプレス加工は、両者とも塑性変形を利用した加工方法であり、どちらも同じ形状の製品を作ることが可能です。完成品を見ただけだと、どちらの方法を用いて加工を施したのかわからない場合もあります。また、会社によっても板金加工とプレス加工の区分が曖昧なことも多いこと、さらに板金加工とプレス加工は共通点が多いため、はっきりと区別するのは難しいと言われています。
では、板金加工とプレス加工の共通点とは何でしょうか。まず、両者とも前工程において、せん断加工と呼ばれる、材料をあらかじめ作りたい形や長さなどに切断する加工を行います。また、両者とも金型を使用するという点も共通点として挙げられます。
ただし、板金加工では、汎用金型と呼ばれる基本的な形状を加工する金型を用いて加工が行われることが多いのに対し、プレス加工では製品の形状に合わせた専用の金型を用いるなど、細かい違いもあります。また、一般に同じものを作るのであれば板金加工は少量~中量生産、プレス加工は大量生産に適した加工方法となります。
また、板金加工とプレス加工の両者にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらを選定するかは、品質やコスト、納期などさまざまな点について考慮した上で判断する必要があります。
参考:せん断加工とは【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説します!
板金加工の特徴について、見ていきましょう。
板金加工のメリットには、次のような点が挙げられます。まずは、発注者にとってイニシャルコストが少なく済むという点です。前述した通り、プレス加工では製品に合わせて設計された専用の金型などを用意する必要があるため初期費用が必要となります。
一方、板金加工ではそのような専用の金型は必要なく、金型が必要な場合においても安く、早く調達できる簡易金型などを用いるためコストを抑えることができます。
また、専用の金型の準備には時間を要することも多く、板金加工のメリットとしてリードタイムを短縮できるという点も挙げられます。
板金加工ではちょっとした曲げ加工や抜き加工などにも迅速に対応できます。工場によっては、短納期での対応や即日納品なども可能です。そのため、試作品などの製作にも向いている加工方法となります。
一方、板金加工のデメリットとしては、次のような点が挙げられます。板金加工は、通常機械を用いて加工を行いますが、人の手に頼る部分も多いのが現状です。そのため、一日に製作できる数が限られてくる場合もあり、大量生産には不向きな加工方法です。
また、加工によっては職人の技量を要し、製品の品質が職人の経験に左右される場合もあります。他にも、曲面加工や絞り加工など、専用の金型を要する複雑な加工などは、プレス加工でなければ行うことは難しく、通常の板金加工では対応できません。
板金加工の中には、手加工板金という特殊な加工方法があります。手加工板金とは、板状の金属をハンマーなどでたたくことによって形状を出していく加工方法です。以下の動画では、実際に職人が手加工板金を行っている様子を見ることができます。
新幹線の先頭車両の流曲線のような複雑な形状にも手加工板金の技術が用いられています。ただし、基本的には手動で全ての加工を行っていくため、製作には時間を要することから、少量生産に向いている加工方法と言えます。
このような複雑な形状を持つ製品は、プレス加工でも行うことは可能なのですが、例えば新幹線の先頭車両のような大型の製品でかつ、少量生産である場合、大型の専用金型を作成する必要があり、時間も初期コストも要するため割りに合わないことが多く、手加工板金のような方法が採用されます。
もう一つの板金加工の方法として、機械板金が挙げられます。機械板金とは、その名の通り、機械を使用して板金加工を行う加工方法を指します。機械を使用するということもあり、より精密な加工を施すことができるという点から精密板金加工と呼ばれることもあります。機械板金では、切断加工や曲げ加工、抜き加工など、幅広い加工に対応することが可能となります。
ただし、形状によっては治具(加工や組み立ての際に、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具)を作成する必要があり、コストが上がる場合もあるので注意が必要です。
また、機械板金では、汎用の金型を用いた板金機械を用いて加工が行われますが、工具のセットや、加工時の位置調整など、人の手に頼る部分も多く、少量~中量生産に向いている加工方法と言えます。
参考:【板金加工】専門家が教える板金加工の「特徴・種類・材料」について!
Mitsuriは、さまざまな形状、材質、サイズの製品の板金加工に対応している多数のメーカーと提携しています。お気軽にお問い合わせください。
最後に、プレス加工の特徴について、見ていきましょう。
プレス加工のメリットには、次のような点が挙げられます。前述した通り、プレス加工は専用の金型を用いて加工を行う方法です。そのため、プレス加工では、金型を用いて一度の工程で複雑な形状を出すことができるため、製造工程にかかる時間も短く、板金加工などと比較して非常に生産性に優れた加工方法と言えます。
また、機械的に作業を行うため、製品の品質が職人の技量などに左右されることもなく、機械の操作を覚えれば加工が行えるという点もメリットの一つです。これらから分かるように、プレス加工は安定的に大量生産を行うことができる加工方法と言えます。
なお、プレス加工は材料の塑性変形を利用した加工方法で、切削加工などとは異なり、材料から排出される切り屑なども少ないという特徴も挙げられます。
一方、プレス加工のデメリットには次のような点が挙げられます。まず、プレス加工に利用される専用の金型の製作には、時間とコストを要します。そのため、生産を始める前に費用や時間を要してしまうという点では、デメリットと言えます。
しかし、初期の投資は必要になりますが、長期間の大量生産の場合においては、板金加工と比べると、プレス加工の方が生産性が高いという点から、総合的に時間もコストも抑えることができます。
また、金型が完成した後に、設計の変更などによって形状を変えるというのは非常に難しく、小ロット生産で、設計が変わる可能性がある場合などには向いていないので注意しましょう。
引用元:株式会社コニック
スプリングバックとは、プレス加工によって成形した後に、製品の形状が元に戻ろうとする現象を指します。板金加工でもこのスプリングバックの現象は見られ、上図は板金加工でのスプリングバックの例となっています。
このスプリングバックは、製品の寸法の精度に大きな影響を与えます。板金加工では、専用の金型などが必要ないため加工ごとにスプリングバックを考慮して行う必要があります。
一方、プレス加工では専用の金型を用いて、一度に複数の加工を行う場合がほとんどであるため、このスプリングバックをあらかじめ考慮した上で、金型の設計を行う必要があります。
最後に、プレス加工の主な加工方法や、プレス加工で使用される金型の種類について見ていきましょう。
プレス加工には、さまざまな加工方法があります。代表的な加工方法を下記にまとめました。
せん断加工とは、主に板金から必要な形状を切り取る加工方法を指します。この他にも、穴をあける加工などもせん断加工に含まれます。プレス加工を用いたせん断加工では、金属の板材を上下から金型でプレスし、強い圧をかけることで切断します。
プレス加工による曲げ加工では、被加工材をプレスし、被加工材の引張り力と圧縮力を利用して加工が施されます。曲げ形状には、V字曲げ、L字曲げ、Z字曲げなどがあります。
絞り加工とは、被加工材に引っ張り力を加えながら、金型のパンチ(雄側)とダイス(雌側)に沿って、継ぎ目のない中空容器を作る加工方法です。おわんのような形状などを作り出すことができます。
このように、プレス加工にはいくつかの加工方法があり、用途に合わせて適切な加工方法が選定されます。また、場合によっては複数の加工方法を組み合わせて加工が施される場合もあります。
プレス用の金型には、主に以下の3種類が挙げられます。製品の形状や生産量などによって使用する金型が選定されます。
単発型では、一つの金型で一つの加工を行うために用いられる金型となります。金型の構造が複雑ではないため、より低コストで導入でき、製品形状が簡単で小ロット生産をする製品の製作などに利用されます。
順送プレスとは、複数の成形機能を1つの型にまとめた金型で、被加工材が進んでいくことで加工を施します。複数の加工が行えるほか、加工スピードも早く生産性も高いため、プレス加工の中では最も大量生産に向いている金型となります。ただし、金型の構造もより複雑になるため、金型のコストが高くなります。
トランスファープレスは、単発型を並べて順番にプレスしていく金型となります。トランスファープレスでは、単発型を複数並べているため、寸法が大きな製品の加工にも対応できるのが特徴です。
Mitsuriは、さまざまな形状、材質、サイズの製品のプレス加工を依頼できる多数のメーカーと提携しています。お気軽にお問い合わせください。
本記事では、板金加工とプレス加工をテーマに、両者の違いや共通点、またそれぞれの加工方法についての特徴など、幅広い内容について詳しく解説しましたが、いかがでしたでしょうか。板金加工とプレス加工の両者には、それぞれメリット・デメリットがあります。製品の加工時には、品質やコスト、納期などを踏まえた上で、加工メーカーと相談しながら、どちらの加工方法を採用するか決定することが必要となってきます。
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