センタードリルは、ドリルの先端にさらに細いドリルを付け加えたような変わった形状をしたドリルです。しかし、その用途は幅広く、本来の役割であるセンター穴加工のほか、穴あけの位置決め(センタリング)や面取り、薄板の穴あけなど、多様な加工に使用できます。
有用性の高いセンタードリルですが、変則的な形状をしているため、センター穴加工以外の用途で用いる場合は、選定方法や使い方など、わからない部分もあるかと思います。
そこで、この記事では、センタードリルは何かというところから詳細までを説明し、種類や規格、切削条件などについても解説していきます。
センタードリルとは
センタードリルとは、センター穴を加工するために用いられるドリルのことです。全長と溝長(ドリルに刻まれている切り屑排出のための溝の長さ)の双方が小さいため、剛性が高く、位置ズレしにくいという特長があります。
センター穴は、旋盤加工や研磨加工などを行う際に、円筒形材料の端面の軸中心にあけられる穴です。センター穴は、下図のように、センターと呼ばれる工具を差し込むことで材料を支えます(下図の材料と芯押し台との間にあるのがセンター)。センターは、材料をチャックの逆側からも支持することで材料のタワミや芯ブレを防ぎ、センター穴は、全ての加工の基準となって高精度の加工を可能とします。
センタードリルには、小径の刃先があるドリル部とセンター穴角の傾斜が付いたテーパ部から構成されているタイプ(下図左図参照)と、さらに外側に保護角の傾斜が付いた面取り部があるタイプ(下図右図参照)があります。
これらの部位は、センター穴加工において、以下の役割があります。
・ドリル部…穴あけ加工の役割を担う部位です。回転する材料によってセンターの先端が破損・変形しないように深目に穴あけを行います。
・テーパ部…センターの先端角度に適合する角度で穴の面取りを行う部位です。テーパ部によって削られた部分は、センターの先端が接触して、旋盤加工時などに材料の保持を担う面となります。
・面取り部…テーパ部によって取った面の外縁に対して、より大角度の面取りを行う部位です。つまり、あけた穴の縁に2段のテーパが形成されることとなります。面取り部によって削られた部分は、センターを挿入する際のガイドの役割を果たすとともに、バリ・カエリの発生やセンター穴の損傷を防ぎます。ただし、センタードリルによっては、面取り部がないものや、面取り部が座ぐり形状になっているものがあります。
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センター穴加工以外の用途
そのほか、センタードリルは、以下の加工にも用いられます。
●穴あけの位置決め(センタリング)
ドリルによる穴あけ加工のガイドとして、予め穴をあける位置に下穴をあける加工を行っておく作業のことです。
ドリルによる穴あけに下穴が必要となるのは、穴あけ加工に使われるドリルでは、切削能力のないチゼルエッジが長いため、材料の表面でドリルの先端が滑ることがあるからです(下図左図参照)。ただし、チゼルエッジを薄くして切れ刃とする、シンニングと呼ばれる処理が施されたドリルもあります(下図右図参照)。また、穴あけ加工に使われるドリルは、ねじれ角が大きいために剛性が低く、ドリルが曲がりやすいことも下穴が必要な理由となっています。
その点、センタードリルは、チゼルエッジが短く、ドリルの剛性も高いため、ドリルが滑ったり、曲がったりすることなく、高精度な位置に穴をあけることが可能です。
なお、高精度の穴あけ加工には、位置決めは必須ですので、必ずセンタードリルなどで下穴をあけておくようにしましょう。また、下穴の径は、ドリルのチゼルエッジよりも大きくなるようにしておくと、後の穴あけ加工がスムーズになります。
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●穴の面取り
センタードリルは、テーパ部の角度が60°・75°・90°と穴の面取りに適した角度であるため、穴の面取り加工にもよく用いられます。
●薄板の穴あけ
センタードリルは、ドリル部のサイズが豊富であることから、薄い材料の穴あけ加工に用いられることがあります。また、センタードリルのテーパ部によって、穴あけ加工と面取り加工を同時に行うことも可能です。下穴をあける必要がなく、また場合によっては面取りも一緒に実行できるため、作業時間の大幅な短縮に繋がります。
センタードリルの種類と角度
センタードリルには、A型・B型・C型・R型の4種類の形状があり、各型のテーパ部の角度には、バリエーションがあります。ここでは、代表的なセンタードリルのタイプについてご紹介します。
A型60°
A型60°は、面取り部がなく、テーパ部の角度が60°のセンタードリルです。面取り部がないセンタードリルがA型に分類されます。最も一般的に用いられているタイプのセンタードリルです。このセンタードリルによるセンター穴は、上図のようになります。
センター穴加工に用いる場合は、基本的にテーパ部の角度がセンターの先端角度と同じものを選びます。
A型75°
A型75°は、面取り部がなく、テーパ部の角度が75°のセンタードリルです。多くはありませんが、一部のセンター穴加工に採用されています。このセンタードリルによるセンター穴は、上図のようになります。
なお、センターは、先端角が大きいほど損傷しにくくなりますが、中心軸は合わせづらくなり、軸中心の精度が低下します。
A型90°
A型90°は、面取り部がなく、テーパ部の角度が90°のセンタードリルです。このセンタードリルによるセンター穴は、上図のようになります。
一部のセンター穴加工に採用されているほか、面取り用や面取りを兼ねた位置決めに用いられることが多いセンタードリルです。
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B型60°
B型60°は、テーパ部の角度が60°で、面取り部の角度が120°のセンタードリルです。面取り部が存在し、その角度が120°のセンタードリルがB型に分類されます。このセンタードリルを使用して加工すると、上図のように、センター穴の外側にもう一つテーパが形成されます。
センター穴周りを面取りすることで、センター穴周りに生じるバリやカエリなどを取り除き、これらの不良によるセンターを差し込んだ際の精度悪化を防止します。また、センター穴が材料表面の一段奥にあるため、外部からの表面への打痕や変形などに対してセンター穴は影響を受けにくくなります。センター穴の間口が広くなるため、センターが挿入しやすくなるというメリットもあります。
C型60°
C型60°は、テーパ部の角度が60°で、面取り部が座ぐり形状になっているセンタードリルです。面取り部が座ぐり形状のセンタードリルがC型に分類されます。このセンタードリルによって加工すると、上図のように、センター穴の外側に座ぐり穴が形成されます。
C型のセンター穴周りの座ぐりも、B型のセンター穴周りの皿穴と同様の役割を果たします。
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R型60°
R型60°は、面取り部がなく、テーパ部の傾斜が円弧で、その円弧の端を結んだ角度が60°になっているセンタードリルです。ただし、円弧のR中心は外側(テーパ部は内側に反った形状)です。このセンタードリルによるセンター穴は、上図のようになります。
R型によって加工したセンター穴は、センターの先端角と角度が多少違っていたり、センターの軸と軸心とズレていたりしている場合でも比較的安定してセンターを支持することができます。
ただし、センターとセンター穴との接触が線接触になるため、重量物の支持には向いておらず、センターも損傷しやすくなっています。微小なズレにも対応しやすいため、センターの支持に精密性が必要な場合のセンター穴加工に多く用いられるセンタードリルです。
ロングタイプ
ロングタイプは、胴部(シャンク部)が長いセンタードリルです。胴部が長いため、センタードリルの突出し長さの調整が可能です。
工具を取り付けるツーリング(工作機械と切削工具とのアダプタの役割をする器具)と材料との干渉を避けたい場合などで採用されます。ただし、長い分、剛性が低くなるので、硬い材料の加工には注意が必要です。
ねじれ溝タイプ
ねじれ溝タイプは、ドリルに刻まれている溝のねじれ角が大きいタイプのセンタードリルです。ねじれ角が大きいほど、切り屑が排出しやすくなり、切削抵抗が小さくなる傾向にあります。ただし、剛性は弱くなります。
軟らかい素材や粘い素材の加工に適しており、低炭素鋼やステンレス鋼などの加工に採用されます。
センタードリルの規格
センタードリルは、センタ穴ドリルという名称で、JIS B 4304(2018)にて規格化されています。
センタードリルの種類は、センター穴のJIS規格に合わせてA形・B形・C形・R形の4種類があり、さらに寸法によってA形-1・A形-2・B形-1・B形-2・C形-2・R形-1・R形-2に分類されます。
例えば、最も標準的なA形-1の形状及び寸法は以下の通りとなっています。
(単位:mm)
呼び | 先端直径 | シャンク径 | センター穴角 | 全長 | 刃長 | ||
Dc/Ds | Dc | Ds | θ | L | ℓ | ||
最大 | 最小 | 最大 | 最小 | ||||
(0.5/3.15) | 0.5 | 3.15 | 最大60° | 21 | 19 | 1.0 | 0.8 |
(0.63/3.15) | 0.63 | 1.2 | 0.9 | ||||
(0.8/3.15) | 0.8 | 1.5 | 1.1 | ||||
1.3/3.15 | 1.0 | 33.5 | 29.5 | 1.9 | 1.3 | ||
(1.25/3.15) | 1.25 | 2.2 | 1.6 | ||||
1.6/4 | 1.6 | 4.0 | 37.5 | 33.5 | 2.8 | 2.0 | |
2/5 | 2.0 | 5.0 | 42 | 38 | 3.3 | 2.5 | |
2.5/6.3 | 2.5 | 6.3 | 47 | 43 | 4.1 | 3.1 | |
3.15/8 | 3.15 | 8.0 | 52 | 48 | 4.9 | 3.9 | |
4/10 | 4.0 | 10.0 | 59 | 53 | 6.2 | 5.0 | |
(5/12.5) | 5.0 | 12.5 | 66 | 60 | 7.5 | 6.3 | |
6.3/16 | 6.3 | 16.0 | 74 | 68 | 9.2 | 8.0 | |
(8/20) | 8.0 | 20.0 | 83 | 77 | 11.5 | 10.1 | |
10/25 | 10.0 | 25.0 | 103 | 97 | 14.2 | 12.8 |
参照元:データベース検索 >> JIS検索「JIS B 4304:2018 センタ穴ドリル」日本工業標準調査会(JISC)
なお、上表の呼びに括弧が付いているものは、なるべく用いないこととされています。
センタードリルの切削条件と回転数
センタードリルで何らかの加工を行う際には、以下の条件が重要です。
・センタードリルのドリル部の直径
・被削材の材質
・センタードリルの材質
ドリルの直径が切削条件に重要なのは、下式のように、直径が異なると回転数が同じでもドリル外周部の速度(切削速度)が異なるからです。
ドリル外周部の速度(切削速度)
V:切削速度 (m/min)
π:円周率 (3.14)
Dc:ドリルの直径 (mm)
N:回転数 (/min)もしくは(rpm)
また、被削材の材質とドリルの材質によって、適切な切削速度と送り量があります。切削速度と送り量の適切な値は、センタードリルのカタログなどに記載されているので、それを基に切削条件を求めます(場合によっては、さらにドリルの直径毎に切削速度と送り量の推奨値が記載されていることも)。
切削条件
センタードリルのカタログには、例えば、ドリルの材質と被削材の材質によって異なる切削条件が下表のように記載されています。なお、ドリルの直径が小さいほど、剛性が低くなるため、その分、送り量の適正値は小さくなります。
ドリルの材質 | 切削条件 | 被削材の材質 | |||||
軟鉄 | 炭素鋼 | 合金鋼 | ダイス鋼 | ステンレス鋼 | 鋳鉄 | ||
ハイス | 切削速度 (m/min) | 20〜30 | 15〜25 | 5〜15 | 〜5 | 5〜10 | 20〜35 |
送り量 (mm/rev) | 0.16〜0.4 | 0.12〜0.4 | 0.08〜0.28 | 0.06〜0.18 | 0.1〜0.28 | 0.25〜0.5 | |
超硬 | 切削速度 (m/min) | 35〜80 | 30〜70 | 30〜70 | 15〜30 | 15〜30 | 50〜70 |
送り量 (mm/rev) | 0.2〜0.5 | 0.2〜0.4 | 0.2〜0.4 | 0.1〜0.3 | 0.1〜0.3 | 0.25〜0.4 |
参照元:切削工具の再研磨・製作・レンタルはツールリメイク「ドリルで穴開けはこれでバッチリ!【切削条件をマスター】」東海商事株式会社
回転数の計算式
さらに、回転数は、上記の切削速度の式から下式のように算出可能です。
回転数
また、送り速度についても、下式から求められます。
送り速度
F:送り速度 (mm/min)
f:送り量 (mm/rev)
以上のように、センタードリルの材質と直径、被削材の材質、カタログに載っている切削速度(又は回転数)と送り量(又は送り速度)から切削条件を決定することができます。ただし、カタログの値も参考値であり、工作機械によっては適正でないことがあります。従って、最初は、回転数と送り量を多少低めに設定し、少しずつ上げていきながら最適値を見つけていくなど試行錯誤が必要です。
センタードリルの下穴径と深さ
センタードリルで穴あけ加工の下穴をあける場合は、後工程で用いるドリルのチゼルエッジよりもドリル部の小径が大きいものを用いると良いでしょう。上述したように、チゼルエッジには、切れ刃がなく切削能力がないため、ドリルが材料の上を滑ってズレたりすることがあるからです。ただしもちろん、センタードリルのドリル部の小径がドリルの径より大きくてはいけません。また、下穴の深さについては、表面を軽くもむだけでも十分です。逆に、深くし過ぎて、センタードリルのテーパ部が材料に当たってしまうような深さにしてはいけません。
センタードリルで下穴をあけると同時に面取りも行う場合は、センタードリルの小径を後工程で用いるドリルの径と合わせる必要があります。そして、このときの下穴の深さについては、要求の皿穴の径となるまで掘り込んだ深さとなります。ただし、皿穴径がセンタードリルの胴径となるまで掘り込んではいけません(下図参照)。センタードリルが損傷する危険性があります。
センタードリルとリーディングドリルの違い
引用元:新商品情報「センタリング・面取り加工用ソリッドドリル“リーディングドリルシリーズ”にハイスドリル「GKCD」を発売開始」三菱マテリアル株式会社
センタードリルとリーディングドリルの違いは、専門としている加工が異なることです。センタードリルがセンター穴加工用のドリルでありながら、穴あけの位置決めなどにも用いられるのに対し、リーディングドリルは、穴あけの位置決めが専門ですが、面取りなどにも使われることがあるドリルです。
リーディングドリルは、センタードリルと比べて、先端が細く、チゼルエッジも短いため、材料表面への食い付きが良好です(上図参照)。特に、食い付きが悪い湾曲面などに穴をあける場合は、リーディングドリルによる位置決めが必要となります。センタードリルと同様、溝長が短く、ねじれ角も小さいため剛性にも優れます。また、先端角も60°・90°・120°・140°などとバリエーションがあり、90°のリーディングドリルは面取りにもよく使われます。
このように、リーディングドリルは、穴あけの位置決めについては、センタードリルよりも向いており、より高い精度が期待できます。そのため、穴あけの位置決めだけを目的とするなら、リーディングドリルを選択すると良いでしょう。しかし、リーディングドリルでは、センター穴加工はできませんので、センター穴加工が目的の場合は必ずセンタードリルを選択する必要があります。また、リーディングドリルは、センタードリルと違って、下穴と面取りの同時加工ができないことも留意しておきましょう。