染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
溶接歪みの発生は金属の接合を難しくしている要因であるため、製品に満足できなかったり、作りたいものがあっても一歩踏み出せない人もいるのではないでしょうか?
確かに溶接歪みは金属を溶接すると必ず起こる現象で、製品の精度や見た目に大きく影響します。金属の種類によっては少しの溶接箇所で大きく歪んでしまうこともあるでしょう。
しかし溶接歪みは正しい対処法があり、熟練した作業や適切な溶接方法を用いれば最小限に抑えることができます。
そこでこの記事では、溶接歪みのメカニズムや対処方法、溶接歪みを発生させないファイバーレーザー溶接についてご紹介します。
※溶接の基本についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
⇒溶接に関する『10の基本知見』製造業マニアの私が切る!【重要】
そもそも溶接歪みとはどのような状態なのでしょうか?
金属を熱で溶かして接合する溶接は、母材の金属が非常に高温になります。高温になった金属は一旦は膨張しますが、反対に冷却されると縮小していきます。
もちろん均一に戻れば歪みは発生しませんが、溶接は接合部を溶融するため、局部的に金属を熱する必要があります。そのため現代の溶接方法では対策をしなければほとんどの確率で溶接歪みが発生します。
製品の中には精度が求められたり、外見上の出来栄えも求められる製品もあります。そのため溶接歪みによって製品の品質基準を満たせなくなることも少なくありません。
これが溶接作業の難しい点でもあります。溶接作業は母材をきちんと接合するだけでなく、溶接歪みを小さくして出来上がりの変形を少なくするための工夫も求められるのです。
溶接歪みと言っても製品の形状により「収縮」が起こったり、「反り返り」が発生したりと様々な種類があります。さらにいくつもの歪みが重なり、複雑に変形することもあるため、製品作りの前には溶接歪みの原因を知り、どういう形状になるか把握しておく必要があります。
溶接歪みの主な原因は「母材に対して必要以上に熱を与えること」とも言えるでしょう。もちろん金属の接合のためには、母材を溶かしこむだけの熱量が必要ですが、必要以上に熱を与え続けることで製品自体が大きく歪む原因にもなります。
溶接のメカニズムをもう少し詳しくご説明すると、溶接によって金属に与えられた熱は周囲の金属に熱伝導していきます。
例えば様々な溶接作業で用いられる「TIG溶接」ではアーク部分の温度は約4000~5000℃にもなるとも言われています。
また金属自体の熱伝導率も非常に高いため、溶接作業を行うと製品全体があっという間に高温になり、高温になった金属は膨張を始めます。
膨張した原子が冷却されると、伸びた原子の結合が元に戻ろうとします。均一に熱することができれば膨張も均等に起こるため、冷却後は元の形に戻ります。
しかし溶接によって局部的に高温になると一部の膨張率が大きくなるものの、反対に他の部分の膨張率は小さくなります。均等に広がらず片方に力が集中すると、やがて製品に歪みが発生します。
歪みは変形しやすい方向に集中するため、母材の長さや幅方向では発生しづらく、面外方向への変形が多い傾向があります。
板厚の薄い母材では座屈変形が発生するため、歪み対策をしていなければ極端に変形することもあるでしょう。
母材に対してどれだけ溶接熱量をコントロールできるかが歪みを抑える基本となりますので、必要最低限の溶接時間となるようにするのが理想的です。
しかし熱量を下げすぎると、しっかり溶融できずに溶着不良にも繋がるため、コントロールするのは容易ではありません。
そのため実際の溶接現場では以下のような対策が実施されています。
引用元:株式会社エステーリンク
溶接により製品が歪むのであれば、母材が動かないようにあらかじめ治具で固定してしまおうという方法です。
通常の溶接テーブルに製品の形状に合わせたクランプで固定するため、溶接歪みによる変形を防止できます。
製品によっては専用のクランプが必要であるため製作費用がかかりますが、一度固定してしまえば誰でも簡単に製品の精度が出せます。
引用元:WELDTOOL
溶接歪みを完全には抑えることができないのであれば、出来上がり時に目的の形状になるよう、あらかじめ歪み量を見越した形状で溶接を始める方法もあります。
歪みを修正する必要がありませんので、出来上がりの精度が高い特徴があります。一方、歪み量の予測には熟練の経験が必要であるため、高度な技術が必要とも言えるでしょう。
溶接歪みにより母材が変形しないように、あらかじめ仮付け(点付け溶接)をしておきます。
ただし歪自体は抑えることができないため、仮付け箇所が多いと応力の行き先がなくなり、母材自体に負荷がかかります。負荷が大きいとクラックの発生や製品が割れる可能性も高くなります。
そのため仮付けのみで対応するのではなく、他の対処方法と組み合わせて利用されます。
引用元:鉄友工業株式会社
溶接の熱が集中しないように母材の熱を逃がす方法もあります。
例えば母材の下に熱伝導率が良い「銅板」や「鋼板」を敷いて熱を逃がしたり、鋼板に水をかけて冷却します。
上の写真では水を霧状に吹き付けて溶接箇所を冷却する装置で、歪みの影響を受けやすい製品でも最小限の歪みに抑えることができます。
そのほかにも、溶接で使用する電極棒の先端の接触角度でも熱の伝わり方が変わるため、必要以上に熱を発しない角度に合わせて溶接する方法もあります。
何も考えすに溶接ビードを引いた場合、直線の熱が次々と伝わり歪みが大きくなるため、1点に熱が集中しないよう溶接の順番をコントロールする方法もあります。
片方の溶接が終了したら反対側を溶接して熱を均等に逃したり、歪む方向を意識しながら溶接ビードを反対方向に引く方法などがあります。
溶接の順番を見つけるのは熟練した人でないと難しいものの、一度最適な方法を見つけると溶接の順番をマニュアルに記載して管理できるメリットもあります。
そのため誰でもできる歪み対策として、生産現場で広く活用されている方法とも言えるでしょう。
参考
※溶接現場で必要な資格についてはこちらで詳しくご紹介しています。
⇒【溶接の資格】プロの溶接工がとっておくべき資格を“一挙大公開”!
溶接で変形した部分をその都度叩いて元の形に戻す方法もあります。一見力技のように聞こえるかもしれませんが、少しづつ叩きながら調整するため、製品に与えるダメージはほとんどありません。
ただし修正しながらの作業はかなりの工数が必要のため、大量生産品の製造には向かないとも言えるでしょう。
引用元:菊川工業株式会社
レーザー溶接の一種であるファイバーレーザー溶接は、「希土類添加ファイバー」を媒質とした溶接で、光軸のズレや外部要因による光損失が殆ど無く、加工面まで効率良くレーザー光を伝達できる特徴があります。
そのためファイバーレーザー溶接は、以下が可能になります。
他の溶接作業と比べてビード幅に対する溶け込み量が深く、焼けや歪みが少ない高品質な溶接が可能です。
特に局部的に集中してレーザーを当てることで製品自体が高温になりにくく、ほとんど歪みを生じません。歪み取りの工程削減や大掛かりな治具を使用しなくても済むため、製造コストを大幅に削減できるでしょう。
さらにこれまでの歪み対策のほとんどは熟練した職人の経験により管理されていたため、人によって製品の出来栄えが異なることも少なくありませんでした。
しかしファイバーレーザー溶接を採用することで、誰でも均一な製品に仕上げることが可能となりました。
ファイバーレーザー溶接は設備も新しく、導入されていない工場も多いのですが、もちろんMitsuriの提携工場でもファイバーレーザー溶接を導入している工場が多数ありますので、お気軽にご相談ください。
※レーザー溶接についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
⇒【レーザー溶接】仕組み(原理)やメリット・デメリットなどの特徴をご紹介!!
溶接歪みは必要以上の溶接熱が母材に伝わり、熱膨張や収縮によって母材自体が動き、変形してしまうことを言います。
溶接歪みを抑えて精度の高い製品を仕上げるためには製品によって適切な歪み対策が必要となります。
しかし高品質な溶接を求めればその分コストがかかり、製作費用についても頭を悩ませると思います。
そんな時はぜひMitsuriにご相談ください!
Mitsuriでは日本全国に100社以上の提携工場があり、溶接のスペシャリストとも言える工場とも多数提携しておりますので、「精度が求められる製品をコストを抑えて作りたい」と言うご相談も可能です。
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