2024-09-17
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
三価クロメートは、ヨーロッパなどで使用禁止となっているクロメート処理の代替として採用されている表面処理です。主に亜鉛めっきの防錆性能の向上や外観の色調変化などが目的で、通常は亜鉛めっきとセットで行われています。
自動車や電気・電子、建築など、幅広い分野で使用されており、身近な例では、青銀色や黄金色、黒色のネジ・ボルト・ナット類が挙げられます。
この記事では、三価クロメートとは何かというところから、種類や特徴、類似の加工方法であるクロメート処理(六価クロメート)やクロムめっきとの違いについて解説していきます。
三価クロメートとは、主に鉄に施されるめっきの一種です。亜鉛めっきの防錆性能の向上や外観の色調変化などが目的で、通常は亜鉛めっきとセットで行われています。
三価クロムを含むものの六価クロムは含まない溶液に金属を浸すことによって、金属表面で化学反応を起こし、金属表面に防食効果などを発揮する皮膜を形成する化成処理のことです。「三価クロム化成処理」や「クロメートフリー処理」「とも呼ばれます。
詳しくは後述しますが、単にクロメート処理と言う場合、六価クロムで皮膜を形成する化成処理を指します。しかし、この六価クロムは、生体に有害で、欧州などで規制されていることから、現在はクロメート処理から六価クロムを含まないクロメートフリー処理へと移行が進んでいます。そのため、最近では、クロメート処理を「六価クロメート処理」と六価クロムを用いることを明示して呼称したり、記述したりすることが多くなっています。
三価クロメートの適用対象は、主に亜鉛めっきや亜鉛合金めっきが施された鋼材や金属製品で、めっきの後処理として施されるのが三価クロメートです(上図参照)。具体的には、溶融亜鉛めっきや電気亜鉛めっきが施されたもの、ガルバリウム鋼、ガルタイト鋼(ガルファン鋼)が素材のものなどが挙げられ、これらのめっき製品には、六価クロメート処理と三価クロメートのどちらかが適用されています。なお、ガルバリウム鋼とガルタイト鋼は、下表のめっき浴成分によってめっき処理された鋼です。
<ガルバリウム鋼(溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼)のめっき浴>
<ガルタイト鋼(溶融亜鉛-5%アルミニウム合金めっき鋼)のめっき浴>
三価クロメートの用途は、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきの用途とほとんど同じで、自動車や輸送機器、電気機器、建築部材、事務機などと幅広い分野に及んでいます。特に、自動車や電機などの輸出企業が取り扱う製品は、欧州市場などを考慮して、三価クロメートへの切り替えが進んでいます。しかし、建材・建築などの市場が国内中心の企業は、未だ六価クロメートが適用された製品を使用しています。
三価クロメートの主な効果は、耐食性の向上と外観の色調変化です。
そもそも、その下地である亜鉛めっきには、以下のような優れた効果があります。
▼鉄の表面を物理的に被覆して、腐食原因となる水と酸素を鉄の表面から遮断する。
▼中性環境で酸化皮膜を形成し、良好な耐食性を発揮する。
▼鉄の身代わりとなって錆びる犠牲的防食作用が働くため、亜鉛めっき皮膜にキズが生じて鉄素地が一部露出しても、防錆効果を発揮する。
▼めっき処理の直後は、銀色(光沢のある灰色)を呈する。
▼複雑な形状でも、均一な厚さでめっき皮膜を形成することができる。
▼コストが低い。
▼量産加工が容易。
しかし、亜鉛めっきは、大気中で使用していると、時間経過とともに酸化皮膜が厚くなって光沢を失います。さらに、大気が汚染されていたり、湿度が高かったりするような腐食環境下では、亜鉛自身の腐食によって白錆を生成します。
その点、亜鉛めっきの上に三価クロメートを施すと、その化成皮膜が空気に対して反応性のないバリヤー層として亜鉛めっきを保護する上、亜鉛の白錆発生も長期間防止するため、高い防錆効果が期待できます。
また、三価クロメートの処理液や処理時間などを制御することによって、外観の色調をある程度変化させることが可能です。亜鉛めっき直後の銀色そのままの色調から、青白い色、淡い黄色、黒色というように、いくつかの色調を付与することができます。
そのほか、三価クロメートには、以下のような効果もあります。
▼塗料などの密着性向上。
▼耐指紋性や防汚性が向上。
▼亜鉛めっきのみよりも電気抵抗は高いが、導通性は維持される。
六価クロメートの表記がJIS規格(JIS H 8625:1993)にて定められているのに対し、三価クロメートの表記は、規定されていません。
そのため、現状は六価クロメートのJIS規格に従って表記し、注釈として「三価クロメート」や「TC(Trivalent Chromate)」などと追記することが標準的となっています。
例えば、電気めっきで鉄生地に8μm厚の亜鉛をめっきした後、淡黄色の三価クロメートを施す場合は、下記のように記述します。
Ep-Fe/Zn 8/CM1B(三価クロメート)
なお、「Ep」は電気めっきを表す記号で、クロメート処理(六価クロメート)の記号「CM」は色調によって下表のような種類があります。
<クロメート皮膜の種類と表記・色合い>
なお、三価クロメートと六価クロメートの双方に黒色のクロメート処理がありますが、これもJIS規格に規定されていないので、下記のように「三価黒クロメート」などと追記することになります。
・Ep-Fe/Zn 8(三価黒クロメート)
三価クロメートと類似した言葉に「三価クロムめっき」がありますが、三価クロムめっきはめっき処理を指すため、化成処理を指す三価クロメートとは全く異なります。
三価クロムめっきは、三価クロムが安定的に存在するめっき浴に金属を浸し、電流を流すことで、金属表面にクロムのめっき皮膜を生成する表面処理法です。
実際、三価クロムめっきと三価クロメートは、下表のように皮膜の化学組成が大きく異なります。ただし、下表の皮膜の化学組成は、一例であり、めっきはめっき浴に、化成処理は処理剤によって異なります。なお、三価クロメートの黒色以外の処理剤には、有機酸を含有する有機系とシリカを含有する無機シリカ系があります。
<三価クロムめっきと三価クロメートの皮膜の化学組成>
三価クロメートは、色調の違いにより、大きく「三価白」と「三価黒」の2種類に分けられます。
その色調の違いは、化成処理の処理剤や処理時間などによってコントロールされています。ただし、同じ色の処理剤でも、その成分や処理条件などは、処理剤によって異なります。そのため、処理剤のメーカーによって、色調も変わってくるので注意が必要です。
三価白は、銀色、青白色(青みを帯びた銀色)または淡黃色(黄みを帯びた銀色)の色調となるように調整された三価クロメートです。「三価白クロメート」や「三価ホワイト」とも呼ばれます。
銀色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.02~0.05μm程度と薄く、クリアー(透明色)で、亜鉛めっきの色調がそのまま現れるように調整された三価クロメートです。「三価無色クロメート」と呼ばれることがあります。
青白色となるのは、三価クロム化成皮膜が0.05~0.3μm程度の厚みで、六価クロメートで青白色となる「ユニクロ」の代替となっている三価クロメートです。「三価ユニクロ」や「三価光沢クロメート」とも呼ばれています。
淡黃色となるのは、三価クロム化成皮膜の膜厚を0.2~0.5μm程度とした三価クロメートです。「三価有色クロメート」とも呼ばれます。
このように、三価白は、膜厚によって、銀色、青白色、淡黄色と色調が変化します。膜厚は耐食性にも影響し、皮膜が厚いほど、耐食性が高くなるという特徴があります。そのほか、三価白による化成皮膜は、損傷すると、皮膜中の成分と露出した亜鉛が反応し、自己修復する機能も備えています。
三価黒は、黒色となるように調整された三価クロメートです。その処理剤に添加された硫黄とコバルトが反応し、黒味成分となる硫化コバルトへ変化することによって黒色が実現されています。「三価黒クロメート」や「三価ブラック」とも呼ばれます。
三価黒による化成皮膜は、0.2~0.5μm程度の厚さです。この膜厚は、三価有色クロメートと同程度であることから、耐食性についても三価有色クロメートと同水準となっています。
ただし、化成皮膜の表面は、微小な凹凸を形成するため、光が反射しにくく、光沢のないマットな仕上がりとなります。また、耐傷性が低いという欠点もあります。
そのため、三価黒の化成皮膜には、多くの場合、三価黒の後処理としてクリアー塗装を施して、透明な塗膜でコーティングを行います。それにより、耐傷性を高めるとともに、光沢を付与して、光沢感のある美麗な黒色を実現しています。
以上の三価クロメートの種類と名称をまとめると下表のようになります。
<三価クロメートの名称と種類一覧>
三価クロメートと六価クロメートの違いは、六価クロムの有無です。六価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムと六価クロムの双方を含有する一方、三価クロメートの処理液や化成皮膜は、三価クロムは含むものの、六価クロムはほぼ含有していません。
上述したように、六価クロムは人体に対して強い毒性を示す一方、三価クロムには、毒性はありません。
六価クロムは、接触や吸引、摂取によって、皮膚炎や皮膚潰瘍、吐き気、嘔吐、下痢などを引き起こし、消化器系に対しては胃腸炎・胃癌・大腸癌・肝臓障害、呼吸器系に対しては気道炎・呼吸障害・肺癌の原因となります。
従って、六価クロメートの処理液については、作業者への付着はもちろん、周囲への飛散も避けることが必要です。処理液から水分が蒸発し、粉末状となった六価クロムが空気中に浮遊することがあるからです。地下に浸透し、井戸水などを汚染する可能性もあります。
一方、三価クロムには、全く毒性はなく、自然界の河川や海洋などにも存在している物質です。有毒どころか、人間にとっては必須ミネラルであると考えられており、欠乏症ともなると糖の代謝異常を起こすとされています。
六価クロムは、世界の多くの国で使用禁止となっていますが、三価クロムの使用を禁止している国はありません。
六価クロムは、下表で説明しているELV指令やWEEE指令、RoHS指令が施行されて以降、欧州連合(EU)域内で規制されています。
<欧州連合(EU)域内の六価クロム規制>
つまり、EU域内では、六価クロメートが使用された自動車や電気・電子機器は販売できません。
ただし、どのような物質でも完全にゼロにすることは不可能なので、上表の法令でも最大許容含有量が定められています。その中で六価クロムは、0.1wt%(1000ppm)が最大許容含有量です。
参考:RoHS指令について詳細を解説!対象範囲についてもご紹介!
そのほか、中国や韓国、タイ、ベトナム、米国カリフォルニア州などにも、RoHS指令と類似の規制が存在します。
一方、日本では、六価クロムの使用が禁止されているわけではありませんが、下表のような法令および基準が存在するため、六価クロムの取り扱いには注意が必要です。なお、下表は国の法令・基準であり、自治体によっては、より詳細で厳しい基準を条例で定めている場合があります。
<日本における六価クロム規制>
注1. 公共用水域とは、河川や湖沼、海域、用水路などの公共利用のための水域や水路のこと。
注2. 2022年4月1日から0.02mg/Lに改正。
ただし、三価クロメートについても、硫酸クロム・硝酸クロム・酢酸クロムといった三価クロム化合物、硫酸コバルトといったコバルト化合物、硫酸ニッケルといったニッケル化合物など、多様な化学物質を処理液に含みます。そのため、これらの化学物質を含有する排水には、適切な処理が必要不可欠です。そして、その結果生じるスラッジからは、有効活用できる物質は最大限リサイクルし、廃棄物の量を最小限化することが必須となります。
また、これらの化学物質は、PRTR(化学物質排出移動量届出)制度に基づく第1種指定化学物質に指定されています。PRTR制度は、これらの化学物質の排出量などを規制するものではありませんが、公共用水域や土壌といった環境への排出量と廃棄物としての外部への移動量を国に届け出することが義務付けられています。さらに、届出データは国によって公表されることになっているため、事業者は、化学物質を適正に管理することが重要です。
三価クロメートと六価クロメートでは、実現可能な色調も異なります。
下表は、三価クロメートと六価クロメートの実現可能な色調をまとめたものです。六価クロメートの色調には、三価クロメートの色調にはない緑色などが存在し、六価クロメートの方が色調のバリエーションが多くなっています。また、それぞれの色調も、六価クロメートの方が鮮やかだったり、光沢が強かったりするなど、六価クロメートの方が優れているとされています。
しかし、近年では、三価クロメートでも六価クロメートの色調をほぼ実現できるようになっているほか、三価クロメートで下表の色調以外の色調も表現できるようになっています。
<三価クロメートと六価クロメートの色調>
耐食性について、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等か、上回るとされています。
下表は、三価クロム化成皮膜と六価クロム化成皮膜に対し、5%濃度の塩水を吹き付けたときの白錆発生までの時間を記載したものです。下表から、無色または光沢の化成皮膜では、三価クロメートの方が六価クロメートよりも耐食性が高く、有色や黒色の化成皮膜でも、三価クロメートは、六価クロメートと比べて同等以上の耐食性を示しています。
<三価クロメートと六価クロメートの白錆発生にかかる時間>
また、三価クロム化成皮膜は、六価クロム化成皮膜に比べて、高温時の耐食性が高いという特徴があります。六価クロム化成皮膜は、約70℃以上の高温で皮膜にクラックが発生し、耐食性が著しく低下します。一方、三価クロム化成皮膜は、約200℃の高温でもクラックが発生しにくく、それ故に耐食性の低下が起こりません。
上述した三価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロム化成皮膜にも備わっており、六価クロム化成皮膜の自己修復機能の方が効果が高いとされています。
六価クロム化成皮膜の自己修復機能は、六価クロムによって実現されます。六価クロム化成皮膜では、皮膜が傷付いた場合でも、六価クロムが溶出して露出した亜鉛めっきを被覆し、その部分を化成皮膜に変化させます。そのため、六価クロム化成皮膜では、色調に関わらず、自己修復機能が働きます。
一方、三価クロム化成皮膜では、皮膜中の成分が亜鉛めっきと成膜反応を起こすことで、皮膜が再生されます。この成膜反応の反応性は、三価白クロメートの有機系で高く、無機シリカ系では低いために、有機系の方が自己修復機能の効果が高くなっています。なお、三価黒クロメートの化成皮膜には、自己修復機能はありません。
三価クロメートは、以下のような理由から、六価クロメートと比べると高コストになるとされています。
●三価クロメートが六価クロメートよりも高コストになる理由
・三価クロメートの処理剤が高価。
・厳密なpH管理の必要性から処理液の管理が難しく、成膜反応が遅いことから処理時間も長くなるため、処理コストが高い。
しかし、近年、六価クロメートから三価クロメートへの代替が進展したことで、三価クロメートのコストは低下してきており、需要が多い色調・性能の三価クロメートでは、六価クロメートと同程度のコストとなっています。ただし、需要の少ない色調の三価クロメートはまだ割高であり、トップコートなどで性能を高めた三価クロメートは、当然ながら高コストです。
以上のように、三価クロメートは、六価クロメートと様々な違いはあるものの、新たな処理剤の開発や処理方法の高度化、需要増によるコスト低下などにより、六価クロメートの代替としての役割を十分に果たしつつあります。
しかし、三価クロム化成皮膜にコバルトを含有している場合、皮膜に六価クロムが含まれることがあります。これは、皮膜への水分の浸透などによってコバルトが不安定化して三価クロムを酸化し、六価クロムへと変化させることがあるからです。そして、三価クロム化成皮膜から六価クロムが溶出してしまう事例も発生しており、その対策が処理剤のメーカーなどにより進められています。
ただし、注意点として、六価クロムが溶出した事例についても、その量はRoHS指令などで規定された最大許容含有量よりも微量であるため、特に規制に抵触したわけではなく、欧州などでの販売ができなくなったわけではありません。
なお、このコバルトの不安定化は、以下のように不安定化の原因を排除することによって抑制することができます。
●コバルトの不安定化を抑制する方法
・三価クロム化成皮膜中のコバルト濃度の低減。
・三価クロム化成皮膜のクラック発生の抑制。
・三価クロム化成皮膜への水分の浸透を防止。
そして、これらの実現には、以下のような対策が効果的です。
・三価クロメートの処理液中のコバルト濃度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。
・三価クロメートの処理時間を短くし、処理温度を下げることで、皮膜中のコバルト濃度の低減が可能。
・三価クロム化成皮膜の乾燥温度を低くすることで、皮膜のクラック発生の低減が可能。
・高温多湿環境下での保管や使用を禁止することで、皮膜への水分の浸透を防止することが可能。
・三価クロメートの処理液にコバルトの酸化抑制剤を加えることで、コバルトの不安定化の抑制が可能。
三価クロメートの処理剤の各メーカーは、これらを元に処理剤の改良を進めているほか、コバルトを含まない処理剤やクロム自体をも含まない処理剤の開発にも着手しています。
金属加工のマッチングならMitsuri!
法人・個人問わずご利用できます。
Mitsuriでどんな取引が行われている?
新しい機能を使ってどう新規取引につなげる
そんな疑問に毎月メールでお届けします