志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
S25Cは、主に機械部品に用いられる鋼材です。SC(Steel Carbon)材と呼ばれる炭素鋼の一種で、JIS規格では機械構造用炭素鋼として規定されています。S25Cの比重は7.84~7.86です。
炭素鋼の中でも炭素含有率が0.25%と低く、低炭素鋼に分類される比較的軟らかい素材です。炭素鋼は熱処理を施すことで強靭化しますが、炭素量の少ないS25Cは焼入れを適用しても強度はほとんど向上しません。そのため、熱処理を行うことなく、加工後にそのまま使用されることが多い素材となっています。
市場にも豊富に出回っており、優れた品質かつ多様なサイズの材料を容易に入手可能です。
S25Cの特徴は、熱処理を施さずに使用する低炭素鋼の中では高い強度を持つことです。また、S25Cは、加工性も良く、溶接も可能です。そのため、加工費を抑えたい場合に適しています。
用途としては、特別に高い強度を必要としないネジやボルト、ナット、ピン、機械の構造材などが挙げられます。品質が高いことから、機械部品の材料としても多く採用されています。
S25Cの化学成分は、JIS規格(JIS G 4051:2016)で上表のように規定されています。比較のため、S45Cの化学成分も記載しています。
S25CやS45CなどのSC材は、上表のように化学成分が詳細に規定されています。そのため、引張り強さの下限で規定されているSS400と比べ、化学成分のバラツキが小さく鋼材としての信頼性が高くなっています。
参考:【SS400】とは!?SS400の規格や加工方法について専門家が解説!
S25CとS45Cの違いは、炭素含有率です。
S25Cの名称に含まれる「25」は、炭素含有率の代表値「0.25%」を示しています。これに準じ、S45Cの炭素含有率の代表値も「0.45%」となっています。
また、S28C以上に共通することですが、S45Cでは、マンガン(Mn)の含有率がS25Cに比べて高く規定されています。その理由は、炭素含有率の高いS45Cなどでは、焼入れ等の熱処理を施して使用することが多いからです。マンガンの添加によって、熱処理時に硬化しやすくなるとともに、靭性を維持したまま材料の強度を向上させる効果があります。
参考:SS400とS45Cの違いを徹底解説【専門家が語る】製品による使い分け
S25Cの機械的性質は、JIS規格で規定されているわけではありませんが、直径25mmの標準試験片については上表のように報告されています。焼なまし後と焼ならし後の機械的性質を示しています。
焼なましは、加熱後にゆっくりと冷却する熱処理で、鋼を可能な限り軟らかくする方法です。一方、焼ならしは、加熱後に空冷で冷却する熱処理で、機械的性質の改善や切削性の向上が期待できる方法です。
S25Cは、焼なまし又は焼ならしの状態に近い材料を加工し、加工後に熱処理を施すことなく使用されることが多い素材です。
炭素鋼は、熱処理を行うことで強度を向上させて用いることが多い材料です。しかし、S25Cは、炭素含有率が小さいために焼入れなどによる強度の向上はあまり期待できません。とは言え、低炭素鋼の中では高い強度を持つため、熱処理なしでも機械構造用として十分な強度があります。
なお、S25Cに焼なましを行う場合、およそ850℃に加熱後、材料を炉の中に入れたまま、炉の自然な温度低下に合わせて冷却する炉冷を実施します。一方、焼ならしを行う場合、860〜910℃に加熱後、空冷によって冷却します。
参考:鋼の性質を変える【熱処理】とは?仕組みや種類について徹底解説!
S25Cの物理的性質は、上表の通りです。ただし、S25Cそのものの値ではなく、炭素量が近い炭素鋼の値ですので、注意してください。
S25Cの加工性は良好であり、溶接も問題なく行うことが可能です。
ただし、焼なまし後のS25Cは軟らかいため、切削加工時に切り屑が切断されず、工具に絡んだり、絡んだ切り屑で素材を傷つけたりすることがあります。その場合、工具の送り量を上げたり、切り込みを深くしたりするなどの対処が必要です。また、被削性が良い焼ならし後のS25Cを採用するという方法もあります。
S25Cの溶接性は良好です。しかし、材料ごとの化学成分のバラツキや化学成分の偏在により、溶接部において割れの原因となる硬化などが起こることがあります。また、熱間圧延時の酸化スケールが残っている黒皮材に対しては、溶接前に研磨を施して鉄の生地を露出させる必要があります。
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