2024-09-17
更新
志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
小さく深い止まり穴や細く長い貫通穴をあけるガンドリル加工と呼ばれる加工法があります。元は銃の穴をあけるために開発された方法ですが、他の穴あけ加工ではあけることができない深い穴を精度良くあけることができるため、近年多様な用途に採用されています。
また、ガンドリル加工は、他の穴あけ加工に比べて、切り屑の排出性が良く、加工面も滑らかで、高速に深穴をあけることができるという利点があります。マシニングセンタなどの汎用性の高い工作機械でも、工具を用意すれば実施することができるため、通常の穴あけ加工の代わりに採用するケースも増えています。
この記事では、ガンドリル加工の詳細や特徴、加工可能な材質、類似した加工法であるBTA加工との違いについて解説していきます。
ガンドリル加工とは、ガンドリルと呼ばれる小径・深穴加工用のドリルを用いた穴あけ加工のことです。小径の深い穴を高精度かつ高速度であけることができる加工法です。
ガンドリルは、主にガンドリルマシンと呼ばれる専用の加工機に装着して用いられますが、最近はマシニングセンタなどに装着して使用できるものもあります。
ガンドリルの名称の通り、元々は、ピストルやライフルといった銃の銃身の穴をあけるための加工法でした。しかし、現代では、高い精度が求められるシリンダーやシャフト、スピンドルといった機械部品などの加工にも採用されています。
深穴は、JIS規格(JIS B 0106:2016)にて、長さと直径の比が4倍以上の穴と定義されています。しかし、近年、一般的なドリルでも比較的高い精度の深穴加工が可能となっていることから、穴の長さと直径の比が10倍以上の穴あけ加工を深穴加工とすることも多くなっています。
ガンドリル加工は、深穴加工の中でも、穴径が1mmから30mm程度までの小径穴が対象です。加工可能な深さは、一般的に穴径の50倍から100倍程度までとなっています。なお、穴径が30mm以上の深穴はBTA(Boring & Trepanning Association)加工、穴径が1mm以下の深穴は微細深穴加工と呼ばれる加工法が採用されます。
ガンドリルは、上図に見られるように、超硬刃部とシャンク、ドライバという3つの部位から構成されます。先端に切れ刃のある超硬刃部、続いてドリルの柄となるシャンク、後端にシャンクを保持して加工機と接続するドライバがあります。そして、ガンドリルの内部には切削油の流路、先端には切削油を噴射する油穴があり、超硬刃部とシャンクの側面には切り屑を排出するV字溝が刻まれています。
ガンドリルは、先端の油穴から切削油を高圧噴射しながら高速回転することで、切り屑をV字溝を通して外部へ排出しながら穴を削り出します。
参考:穴開け加工とは【専門家が解説】タップ加工、リーマー加工との違いを説明!
ガンドリルマシンは、大まかに、横向きに取り付けられたガンドリル、ガンドリルを高速回転させる駆動装置、ドリルブッシュ、切削油(クーラント)の循環機構から構成されます(上図参照)。
ガンドリルマシンでは、ドリルブッシュは、ガンドリルをガイドして中心軸を安定させ、ガンドリルが加工穴の中心軸からずれることを防止します。切削油は、ポンプの働きによってガンドリルの先端から噴射され、切り屑と一緒に回収されてタンクに溜め置かれ、浄化されて再利用されます。
これらの機構によって、ガンドリルマシンは、高精度かつ高速度な深穴加工を実現しています。
参考:切削油(クーラント液)の種類、成分、メリット・デメリット
最近では、マシニングセンタ用のガンドリルとして、マシニングセンタのほか、NC旋盤やタレット旋盤、ボール盤などでも使用できるガンドリルを入手できるようになっています。
ただし、マシニングセンタ用ガンドリルと言っても、その構造自体に異なる点はなく、先端から切削油を噴射しながら深穴を削り出す工具であることに違いはありません。しかし、ガンドリルマシンに存在するドリルブッシュがないため、深穴加工の際には、その代替として予めワークにガイド穴をあけておく必要があります。
また、ガンドリルマシンを用いた場合ほどの精度は出ないため、加工可能な穴深さも小さくなっています。
ガンドリル加工は、自動車・家電などの薄型化・軽量化が進展し、電気機器・電子機器などの高精度化が強く求められるようになったことから、様々な分野の幅広い用途で採用されるようになっています。
ガンドリル加工の用途例としては、例えば、以下が挙げられます。
・食品…液体充填機、冷却器部品、酪農用搾乳機、食品製造機械部品
・輸送機器…自動車部品、鉄道車両部品、航空機部品
・機械…スピンドル、シャフト、シリンダー、噴射機のノズル、油圧機器部品、減速機部品
・電気…電機・電子機器部品、半導体関連熱版、液晶製造装置部品
・建築…重機部品
・金属加工…各種金型
ガンドリル加工は、上述したように、一般的なドリル加工と様々な点で異なります。ここでは、ガンドリル加工の特徴について解説します。
ガンドリル加工は、小径穴の深穴加工に特化した加工法です。対応している穴径は、メーカーによって異なりますが、1mm~32mmが標準的です。つまり、ガンドリルの刃径は、だいたい、この範囲内となっています。
ガンドリル加工は、通常のドリルでは穴あけが不可能な、深い止まり穴や長い貫通穴をあけることができる加工法です。
加工可能な深さはガンドリルによって違い、マシニングセンタ用ガンドリルよりも、ガンドリルマシン用ガンドリルの方が加工可能な深さの大きいものが揃っています。また、ガンドリルは、刃径が大きいものほど、加工可能な穴の深さも大きい傾向があります。
下表は、マシニングセンタ用とガンドリルマシン用の既製品として入手できるガンドリルのサイズデータです。ただし、特注のガンドリル製作を受け付けているメーカーもあるので、ガンドリルが下表に記載されているサイズに限られているわけではありません。
ガンドリル加工は、切り屑の排出性が高いという特徴があります。
深穴加工は、通常のドリルを単に長くしたツイストロングドリルでもできないわけではありません。しかし、ツイストロングドリルでは、切り屑はドリルのねじれ溝を通ってのみ排出されるため、排出効率が低くなっています。また、切削油も外部から供給するのみで、ドリルの先端に浸透しにくく、切り屑排出にもほとんど役立ちません。そのため、ツイストロングドリルで深穴をあける場合は、ドリルの送りを進行させては後退させるステップフィードで、後退させる度に切り屑を排出して、切り屑の詰まりを防ぐ必要があります。
一方、ガンドリル加工では、切り屑は、ドリルの先端から高圧噴射される切削油と一緒に、ドリルのV字溝を通って流れ出ていきます。そのため、ガンドリル加工は、切り屑の詰まりや切り屑と加工面の干渉などが非常に少ない加工法となっています。また、切削油の循環性が高いことから、切削温度の上昇や工具摩耗の抑制効果も期待することができます。
ガンドリル加工は、曲がりが小さく、高精度の深穴をあけることができる加工法です。
加工穴の芯ズレの精度は、加工機・工具・加工条件・加工材料などによりますが、100mmの長さで0.1mm以下、ガンドリルマシンを用いれば100mmの長さで0.01mm以下を実現することも可能です。
穴径の精度も高く、径公差は、下表のような許容誤差となるH7~H9程度となっています。
ガンドリル加工は、ツイストドリルによる穴あけ加工に比べ、表面粗さが良好な穴を成形することができます。
ガンドリルは、超硬刃部の側面に滑らかな表面を持つガイドパッドを備えています。ガイドパッドは、ガンドリル加工の穴あけ加工中、穴内面に押し当てられて塑性変形と加工硬化を起こし、穴内面を滑らかに仕上げます。これをバニシング効果と呼びますが、この効果によって、穴内面の強度が向上するとともに、面粗度が良くなります。
その面粗度は、通常の穴あけ加工の仕上げに用いられるリーマと同等以上のRa0.2~Ra3.2(0.2μm~3.2μm)程度です。なお、Raは、算術平均粗さと呼ばれる表面にある凹凸の高さの平均値で、小さいほど表面は滑らかとなります。ちなみに、リーマはRa0.8~Ra3.2程度、ツイストドリルはRa3.2~Ra12.5程度となっています。
ガンドリル加工は、上述したようにステップフィードすることなく、一度の送りだけで加工できるため、通常のドリルで深穴加工を行う場合に比べて、およそ3倍~5倍の速度で深穴加工を行うことが可能です。
ただし、ガンドリルマシンではなく、マシニングセンタなどでガンドリル加工を行う場合は、深穴加工の前にガイド穴の穴あけ加工が必要であるため、その分の時間が掛かります。
ガンドリルは、再研磨が可能です。メーカーが再研磨を受け付けているので、切れ味が悪くなったり、加工回数が多くなったりしたら再研磨を依頼しましょう。
また、ガンドリル専用の研磨機や汎用の研磨機に取り付けられるガンドリルの再研磨用アタッチメントを販売しているメーカーがあります。ガンドリルの使用回数が多く、ランニングコストが高くなっている場合は、再研磨機器の導入を検討してみると良いでしょう。
ガンドリル加工は、様々な材質の加工に対応しています。炭素鋼やステンレス鋼などの鉄鋼をはじめ、アルミや銅などの非鉄金属、耐熱鋼であるチタンやインコネルなどの難削材、焼入れした後の材料も加工可能です。その高い精度から、樹脂に対する深穴加工の引き合いも多くなっています。
下表は、いくつかのガンドリルのメーカーサイトにて、対応可能な材質として記載されているものを纏めたものです。
ガンドリル加工とBTA加工は共に深穴加工の加工法ですが、小径の深穴加工はガンドリル加工、中・大径の深穴加工はBTA加工が適用されるのが標準的です。ガンドリル加工は穴径が1mm~30mmの場合、BTA加工は穴径が30mm以上の場合に採用されますが、特に決まっているわけではなく、メーカーによっては穴径50mmの深穴加工に対応したガンドリルやガンドリルマシンを販売しています。
ガンドリル加工とBTA加工は、工具と加工機も異なります。BTA加工では、ボーリングバーと呼ばれる中空の工具とその先端に付いた刃物であるボーリングヘッド、専用の加工機であるBTAマシンを使用します。
ボーリングバーが中空なのは、ガンドリル同様、切削油を流すためです。しかし、ボーリングバーは、ガンドリルとは逆に、先端のボーリングヘッドから切削油と一緒に切り屑を回収します。
ガンドリルマシンとBTAマシンは類似した構造を持つ加工機ですが、BTAマシンは、切削油の循環がガンドリルマシンとは逆向きであり、オイルプレッシャーヘッドと呼ばれるガンドリルマシンにない装置を搭載しています(下図参照)。BTAマシンでは、切削油を穴あけ途中の穴とボーリングバーの隙間から高圧を掛けて注入し、ボーリングバーの先端のボーリングヘッドから切り屑と一緒に回収して循環させます。その切削油に圧力を掛ける装置がオイルプレッシャーヘッドです。
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