2024-09-18
更新
志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
FC200とは、ねずみ鋳鉄又は普通鋳鉄と呼ばれる鋳鉄の一種です。特に引張強さが200 MPa以上のものを指します。鉄鋼よりも強度が低いものの硬く、切削性に優れた素材です。耐熱性や耐摩耗性、振動減衰性にも優れるため、エンジン部品や耐磨耗部品などに用途があります。
しかし、塑性加工や溶接には向いていないため、鉄鋼のような万能性のある素材であるというわけではありません。
FC200の後部における3桁の数値は、引張強さを示しています。JIS規格においては、引張強さの異なるねずみ鋳鉄が6種類(FC100からFC350まで)定められています。
FC200は、硬くて脆い素材で、耐摩耗性に優れるほか、振動や騒音の吸収能が高いという特徴もあります。
これらの特徴は、FC200がねずみ鋳鉄であることに由来します。上図は、ねずみ鋳鉄の組織を示したもので、鉄鋼の組織である「パーライト」に「片状黒鉛」と呼ばれるフレーク状の黒鉛がランダムに分布しています。ねずみ鋳鉄は、この片状黒鉛によって、割れやすくなってしまいますが、振動を吸収する能力も獲得しています。さらに、片状黒鉛が摩擦に対する潤滑剤のような役割を果たすため、耐摩耗性が高くなっています。
FC200は、高い耐摩耗性から、軸受や歯車、ブレーキシュー、マンホールの蓋といった耐磨耗部品としての用途があります。比熱や熱伝導率も高いため、高温となりにくく、エンジンや油圧ポンプなどの部品にも用いられます。
また、FC200は、比重が7.2〜7.3と鉄鋼の約7.8と比べて小さいため、自動車などの部品に使用する場合には鉄鋼を使用する場合に比べて軽量化が可能です。
FC200は鋳鉄であるため、鋳鉄の定義上、炭素(C)を2.14〜6.67%、ケイ素(Si)を約1〜3%含みます。それ以外の化学成分は特にJIS規格で定められておらず、販売者と購入者の間で決められるものとされていますが、主に出回っているのは炭素量が2.5〜4.0%、ケイ素が0.8〜3.0%程度のものです。
一部の販売者は、特定の指定がない場合のFC200の化学成分を公表しています。下表は、その一例です。
参照元:株式会社泰平
FC200の機械的性質は、JIS規格(JIS G5501:1995)にて上表のように定められています。
FC200は、鉄鋼と比べると、強度が低いものの硬い素材です。硬いために脆くもあります。例えば、SS400は、引張強さが400 MPa以上で、ブリネル硬さが130程度です。
参考:【SS400】とは!?SS400の規格や加工方法について専門家が解説!
参照元:いものびと講座
FC200の物理的性質は、上表の通りです。
FC200は、SS400などの鉄鋼と比べると、鉄よりも軽量な炭素を多く含むため、密度は低くなっています。一方、比熱はSS400よりも1割程度高くなっています。また、FC200のヤング率の値は、SS400の2分の1程度と小さく、それゆえにFC200の引張強さも小さくなっています。そのほかの物理的性質は、鉄鋼と大きな違いはありません。
FC200は、切削加工には向いていますが、塑性加工や溶接には向いていません。
FC200内部には片状黒鉛が分布しています。そのため、片状黒鉛が存在する箇所から剥がれやすく、また割れやすくなっています。切削加工を施すと、細かな切り屑が生じます。FC200は、硬度が高いものの切り屑が小さいために切削抵抗が小さくなり、また切り屑が潤滑剤としての役割も果たすため、切削性に優れます。
一方、FC200は、鉄鋼に比べて展延性に劣るため、塑性加工には適していません。炭素の含有量が多いことから加工硬化も起こしやすく、余計に塑性加工を困難にしています。
また、FC200は、溶接の熱影響部が硬化して割れる「溶接割れ」が生じやすくなっています。溶接割れは、炭素量が多いほど起こりやすいため、鉄鋼よりも炭素含有率が高いFC200は溶接が困難です。
参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!
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