目次
鉄・鋼・鋳鉄・鋳物の違い|炭素量・製法・用途を比較

鉄は元素・材料を表す広い言葉、鋼と鋳鉄は鉄を主成分とする材料、鋳物は溶かした金属を鋳型で固めた製品です。 つまり、鋳物は材質名ではありません。鋳物には鋳鉄製だけでなく、鋳鋼製やアルミニウム合金製などもあります。
鋼と鋳鉄を分ける重要な目安が炭素量です。ただし、両者の性質は炭素量だけでは決まりません。合金元素、鋳鉄中の黒鉛形状、基地組織、熱処理、冷却速度、肉厚なども強度や加工性に影響します。
| 用語 | 何を表すか | 炭素量の目安 | 主な成形方法 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 鉄 | 元素Fe、純鉄、鉄系材料の通称 | 純鉄は約0.02%程度まで | 圧延、鍛造、切削など | 電磁材料、研究用途など。日常語の「鉄」は鋼を指すことが多い |
| 鋼 | 鉄を主成分とする材料 | 一般に約2%以下 | 圧延、鍛造、切削、溶接、鋳造 | 建築、機械、車両、工具、配管など |
| 鋳鉄 | 鉄と炭素を主成分とする材料 | 一般に約2%超 | 主に鋳造後、必要面を切削 | 工作機械、ポンプ、自動車部品、管、マンホール蓋など |
| 鋳物 | 溶融金属を鋳型で凝固させた製品 | 材質による | 鋳造 | 複雑形状の機械部品、筐体、羽根車など |
炭素量の目安は、JIS G 0203:2023への改正時に公開された日本鉄鋼連盟の改正原案(4.1.1「鋼の種類」)で確認できます。改正原案では、純鉄は炭素含有率約0.02%まで、鋼は一般に約2%以下、鋳鉄は一般に約2%を超えるものとされています。境界値は資料によって2.0%や2.14%などと示されることがありますが、材質選定では数値だけでなく、適用する製品規格と材質記号を確認してください。
関連する鋳鉄材質は、FC200、FC250、FCD(球状黒鉛鋳鉄)の順に確認できます。
鉄・鋼・鋳鉄・鋳物の関係
鉄は元素名であり、鉄系材料の通称でもある
鉄の元素記号はFeです。工業材料としての「純鉄」は炭素などの不純物が非常に少ない鉄を指しますが、構造物や機械部品で純鉄をそのまま使う場面は限定的です。
日常会話や図面の打ち合わせで使われる「鉄」は、SS400やS45Cなどの鋼を含む鉄系材料全般を指すことがあります。「鉄で作る」という依頼だけでは材質が特定できないため、発注時は規格番号と材質記号まで確認する必要があります。
鋼は鉄を主成分とする材料
鋼は、鉄を主成分とし、一般に約2%以下の炭素とその他の成分を含む材料です。炭素鋼だけでなく、クロムやニッケルなどを加えた合金鋼、ステンレス鋼も鋼に含まれます。
同じ鋼でも、化学成分、熱処理、圧延・鍛造条件によって強度、硬さ、靭性、耐食性は大きく変わります。したがって「鋼は鋳鉄より軟らかい」と一律にはいえません。焼入れした工具鋼のように、鋳鉄より高い硬さを持つ鋼もあります。
鋳鉄は炭素を多く含む鉄系材料
鋳鉄は、鉄と炭素を主成分とし、一般に約2%を超える炭素と、けい素などの成分を含む材料です。溶湯の流動性を得やすく、複雑形状を鋳造しやすいことから、機械部品や管類などに広く使われます。
鋳鉄の性質を大きく左右するのが、炭素がどのような形で存在するかです。片状黒鉛を持つねずみ鋳鉄、黒鉛を球状化した球状黒鉛鋳鉄、炭素がセメンタイトとして存在する白鋳鉄などがあり、同程度の炭素量でも機械的性質は異なります。
鋳物は材料名ではなく、鋳造で作った製品
鋳物は、溶かした金属を製品形状に対応する鋳型へ注ぎ、凝固させて取り出した製品です。鋳鉄を鋳造したものは鋳鉄鋳物、鋼を鋳造したものは鋳鋼品です。アルミニウム合金、銅合金、マグネシウム合金などの非鉄金属にも鋳物があります。
このため、「鋳鉄と鋳物の違い」は、材料と製品・製法の違いと考えると整理できます。鋳鉄は材質、鋳物は鋳造で得た製品です。
炭素量だけでは違いを説明できない理由
炭素量は鋼と鋳鉄を分類する大切な指標ですが、材料の性能を単純に「炭素が多いほど硬く、強く、脆い」と並べることはできません。
- 鋼は、炭素量だけでなく合金元素、焼入れ・焼戻し、加工履歴によって組織と性質が変わる
- 鋳鉄は、片状・球状などの黒鉛形状と、フェライト・パーライトなどの基地組織が性質を左右する
- 鋳物は、冷却速度や肉厚によって同じ材質記号でも局部的な組織や硬さが変わり得る
- 引張強さ、硬さ、伸び、衝撃への強さは別の特性であり、一つの数値だけでは選定できない
例えば、片状黒鉛鋳鉄のFCと球状黒鉛鋳鉄のFCDは、ともに炭素を多く含む鋳鉄です。しかし、片状黒鉛の先端は応力集中を起こしやすい一方、球状黒鉛は応力集中を緩和するため、FCDはFCより伸びと靭性を得やすくなります。
炭素量・製法・機械的性質・加工性・用途を比較
| 比較項目 | 純鉄 | 鋼 | 片状黒鉛鋳鉄(FC) | 球状黒鉛鋳鉄(FCD) | 鋳物 |
|---|---|---|---|---|---|
| 分類 | 材料 | 材料 | 材料 | 材料 | 製品・製法による呼称 |
| 炭素量 | 約0.02%程度まで | 一般に約2%以下 | 一般に約2%超 | 一般に約2%超 | 材質による |
| 製法 | 電解・精製など | 製鋼後に圧延、鍛造、鋳造など | 溶解、成分調整、接種、鋳造 | 溶解、成分調整、黒鉛球状化処理、接種、鋳造 | 溶解、造型、注湯、凝固、型ばらし、仕上げ |
| 機械的性質 | 軟らかく延性が高い傾向 | 鋼種と熱処理により幅広い | 振動減衰性、耐摩耗性に優れる。伸び・衝撃強さは低い傾向 | FCより伸び・靭性を得やすい | 使用材料と鋳造品質による |
| 加工性 | 塑性加工しやすいが用途は限定的 | 圧延、曲げ、鍛造、切削、溶接に対応しやすい。鋼種で差がある | 切りくずが分断されやすく、一般に切削しやすい。塑性加工には不向き | 鋳鋼より切削しやすい場合があるが、等級・基地組織で差がある | 抜き勾配、肉厚、加工代を考慮。精密面は二次加工する |
| 主な用途 | 電磁材料、分析・研究材料 | 建築骨組み、板金、軸、歯車、工具、配管 | 工作機械ベッド、ハウジング、ブレーキ部品 | 自動車足回り、産業機械、水道用部品、マンホール蓋 | 複雑形状の量産品、ケーシング、羽根車など |
純鉄・鋼・鋳鉄の定義は、上記のJIS G 0203:2023改正原案を参照しています。FC200・FC250の規格値はJIS G 5501:1995の正誤票・表2、FCDが球状黒鉛鋳鉄品の規格であることはJIS G 5502:2022の公式プレビュー・適用範囲で確認できます。
鋼と鋳鉄の製法の違い
鋼の一般的な製造工程
高炉法では、鉄鉱石を還元して得た銑鉄を転炉で精錬し、炭素や不純物を調整して溶鋼にします。電気炉では主に鉄スクラップなどを溶解・精錬します。溶鋼は連続鋳造でスラブ、ブルーム、ビレットなどの鋼片となり、その後、圧延や鍛造によって板、棒、形鋼などへ加工されます。
製造工程は、日本鉄鋼連盟の「鉄ができるまで」で確認できます。なお、鋼を鋳型へ注いで製品形状にした鋳鋼品もあるため、「鋼は圧延、鋳鉄は鋳造」と完全に二分できるわけではありません。
鋳鉄鋳物の一般的な製造工程
鋳鉄鋳物では、銑鉄、鋼くず、戻り材などをキュポラや電気炉で溶解し、狙う組織と性能に合わせて成分を調整します。ねずみ鋳鉄では接種、球状黒鉛鋳鉄では球状化処理と接種を行い、砂型などへ注湯します。凝固後は型ばらし、ショットブラスト、湯口・押湯の除去、熱処理、機械加工、検査を行います。
鋳造は複雑な形状を一体化しやすい一方、急な肉厚変化、薄肉、鋭い角は湯回り不良、引け巣、割れなどの原因になります。設計段階で肉厚をできるだけ均一にし、抜き勾配、フィレット、加工代を鋳造工場と確認することが重要です。
FC200・FC250の違い
FC200とFC250は、どちらもJIS G 5501に規定される片状黒鉛鋳鉄です。記号末尾の数字は、規格所定の別鋳込み供試材に求める最小引張強さを表します。
| 材質 | 最小引張強さ | 硬さ | 選定の目安 |
|---|---|---|---|
| FC200 | 200 MPa | 223 HB以下 | 強度要求が比較的低く、切削性や振動減衰性を重視する部品 |
| FC250 | 250 MPa | 241 HB以下 | FCの特徴を保ちながら、FC200より高い引張強さが必要な部品 |
出典:JIS G 5501:1995 正誤票・表2。数値は別鋳込み供試材の規格値であり、鋳物本体の全ての位置で一律に保証される値ではありません。製品の性能は肉厚、冷却速度、供試材、検査方法などの影響を受けます。
FCD(球状黒鉛鋳鉄)とは
FCDは、黒鉛を球状化した球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)です。JIS G 5502:2022の公式プレビューでは、適用範囲が球状黒鉛鋳鉄品であることに加え、区分・種類の記号、引張特性、衝撃特性などが規定項目であることを確認できます。複数の等級があり、要求される機械的性質が異なるため、用途に合う材質記号を選びます。
片状黒鉛を持つFCに比べ、FCDは引張強さ、伸び、靭性を得やすく、衝撃や内圧が加わる部品の候補になります。一方、振動減衰性、切削条件、コストなどを含めると、常にFCDが最適とは限りません。FCDの特性とFCとの違いは、日本鋳造工学会の球状黒鉛鋳鉄の解説でも確認できます。
鋼・FC・FCDはどう選ぶ?
- 板金、溶接構造、鍛造、薄肉化を重視する:用途に合う鋼種
- 複雑形状、振動減衰性、切削性を重視する:FC200またはFC250
- 鋳造による一体成形に加え、伸び、靭性、衝撃への強さが必要:用途に合うFCD等級
- 鋳鉄では必要な靭性を満たしにくいが、鋳造形状が必要:鋳鋼も比較
最終的な材質は、荷重の種類、使用温度、腐食環境、肉厚、加工方法、必要数量、検査条件から選びます。「鉄」「鋳物」のような大分類だけで発注せず、JIS番号、材質記号、必要な機械的性質、供試材と検査方法を図面・仕様書で明確にしましょう。
まとめ
鉄は元素・鉄系材料の広い呼び方で、鋼と鋳鉄は鉄を主成分とする材料です。鋳物は材料名ではなく、溶かした金属を鋳型で固めた製品を指します。
鋼と鋳鉄を分ける目安の一つは炭素量ですが、実際の機械的性質と加工性は、合金元素、黒鉛形状、基地組織、熱処理、鋳造条件にも左右されます。要求性能を整理し、鋼、FC200、FC250、FCD、鋳鋼などを比較して選定してください。
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