染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
鉄と鋼と鋳鉄の違いは含まれる炭素量です。すべて鉄と炭素の合金である点は共通で、炭素の量のみが異なります。炭素の量が変わると、特に鉄が持つ強さの性能(「強度」と「硬度」)が変わります。
※具体的数値については別の考え方もあります。
炭素量が多い場合、材料の硬さが増します。硬さが増すほど、一定限度を超えた力が加わったときに折れやすくなるため、用途に応じて適切な素材を選択する必要があります。
鉄の炭素量はおよそ0.02%未満です。一般的に炭素量が多い金属ほど硬くなり、硬くなるほど脆くなるので、鉄は鋼・鋳鉄よりも強度が劣ります。鉄は酸化しやすく加工も難しいため、製品としてそのまま用いられることはほぼありません。
基本的に、鉄は炭素量を0.02~2.1%に増やして強度を持たせ、「鋼」として活用します。私たちが普段の生活で使っている「鉄」は、ほとんどが正確には「鋼」です。
鉄・鋼・鋳鉄は、炭素量が増えるほど材料は硬くなり、強度が増しますが、粘り強さを表す「靭性」については、性能が落ちます。靭性が高いほど、材料は折れにくくなります。鉄と鋼は、鋳鉄と比較して炭素量が少ないため、硬さには劣りますが靭性に優れています。鋳鉄より厚みが薄くても、割れにくいのが特徴です。
例えば、家庭で使われているフライパンにはプレス加工で作った鋼製のものや、鋳鉄製のものがあります。プレス加工で作った鋼製は、鋳鉄製と比べて靭性に優れているため、薄く成形が可能で重量も軽くなります。一方、鋳鉄製は靭性に乏しいため、割れないように厚みを持たせており、重量も重たくなります。
鉄と鋼と鋳鉄の鉄鋼材料は、性能や規格の種類分類がJISによって定められています。JISの「鉄」は「鋳鉄」を指しています。
鋳鉄と鉄の違いは炭素量だけではなく、製法にもあります。
鋳鉄は、銑鉄・鉄スクラップ・戻り材などの材料を、「キュポラ」と呼ばれる溶解炉などに溶かして作られます。銑鉄は、コークスと鉄鉱石を高炉で溶かしてできたもので、鉄を作るのにも必要な材料です。溶かした鋳鉄は、鋳型に流し込み、冷やし固めることで製品化されます。
鉄は、銑鉄から酸素や石灰を加えて硫黄やリンなどの不純物を除去し、酸素を加えて炭素を低減させることにより作られます。これらを取り除く過程で溶かした鉄は、圧延しやすい鋼片(スラブ・ビームブランク・ブルーム)に生成されます。
鋼片から圧延や鍛造がされ、鋼管・形鋼・鋼板が作られて市場に出回ります。圧延・鍛造ではなく、鋳造で作られた鋼のことを「鋳鋼」と呼びます。
鋳鉄製品と鉄製品は、成形の仕方で見分けることができます。鋳鉄品は溶かした金属を鋳型に入れた後、冷やして凝固させ成形しています。鉄製品は、鍛造・切削・溶接により成形しています。
鋳鉄は、鋳型から取り出して表面を加工していない「鋳放し」のものだと、表面の仕上がりがざらざらしている場合があります。「鋳肌」や「ゆず肌」と呼ばれ、砂型による造形で起こりうるものです。
鉄と鋳鉄は、肉厚にも大きな違いがあります。鉄は炭素量が少なく粘り強さがあるため、薄肉の形状のものを作ることができます。鋳鉄は粘り強さに欠けるほか、鋳型のなかに溶けた金属を充填させる必要があり、どうしても肉厚が必要です。肉厚が薄いと、鋳型に溶けた金属が回りきらず、成形不良を起こしてしまいます。
SS材は「一般構造用圧延鋼材」ともいい、建築関係や土木業界で多く使用されている材料です。SS材は、JIS規格によると、SS330・400・490・540の4種類が規定されています。化学成分は、リンと硫黄の含有量が0.05%以内と定められていますが、SS540のみ炭素が0.3%以下、マンガン1.6%以下の条件も加わります。
SSの後ろにつく数字は、最低保障されている引っ張り強さを表しています。SS400で例を挙げると、引っ張り強さが400~510N/mm2です。SS材のなかでもSS400は、平鋼・棒鋼・形鋼などで多く流通しており、価格も安価なのが特徴です。
炭素鋼鋼材S-C系は「機械構造用炭素鋼材」といい、一般的に「SC材」とも呼ばれています。SC材はJIS規格で20種類以上の種類がありますが、最も多く使用されている素材は「S45C」です。SとCの間に入る2桁の数字は炭素の含有量を示します。S45Cは、0.45%前後の炭素を含むという意味です。
SC材は、SS材に比べて硬度と強度があります。加工性や溶接性にも優れている分、価格も高めです。SS材とSC材の選び方として、硬度や強度などを求める場合はSC材、コストを抑えたい場合はSS材を選ぶのがおすすめです。
参考記事:鉄と鋼の違いについて解説!【専門家が語る】鉄の種類についてもお伝えします!
「鋳物」と「鉄・鋼・鋳鉄」との違いは、素材か製品かという点です。鋳物は金属を流し込んで作られた"製品"で、鉄・鋼・鋳鉄は"素材"です。
鋳物とは、作りたい製品と同じ空隙を持つ鋳型に溶けた金属を流し込み、冷やし固めてできた製品を指します。冷え固まった製品は、鋳型を分解して取り出したのち、不要な注ぎ口のカットや仕上げ工程などを行って製品化されます。
鋳物で使われる鉄系素材は、大きく分けて「鋳鋼」と「鋳鉄」に分類されます。炭素量に違いがあり、鋳鋼は炭素量が0.02~2.1%、鋳鉄は炭素量が2.1~6.67%程度含まれています。鉄と比べて炭素量が多いです。
鋳鋼は鋳造で用いられる鋼で、鍛造では作りにくい複雑な形状かつ、鋳鉄だとすぐに壊れてしまうような製品に対して利用されます。鋳鋼には大きく分けて「炭素鋼鋳鋼」と「合金鋼鋳鋼」の2種類があります。
炭素鋼鋳鋼は、炭素C以外の元素を合金元素として含まない鋳鋼で、電動機部品や車両部品に活用されています。炭素の含有量が0.2%以下を「低炭素鋼」、0.2~0.5%は「中炭素鋼」、0.5%以上は「高炭素鋼」に分類されます。炭素量が多いほど強度が増して靭性が落ちるため、バランスを見て適切な鋳鋼を選ぶ必要があります。
合金鋼鋳鋼は、マンガンMn、クロムCr、モリブデンMoなどを添加し、耐食性・耐熱性・耐摩耗性を向上させた鋳鋼です。合金鋼鋳鋼は、主に機械部品・化学工業用ポンプ・キャタピラで活用されています。
鋳鉄は、鋳鋼よりも融点が下がり、低い温度で溶解できるのが特徴です。炭素を多く含んでいることから、黒鉛を晶出します。鋳物の冷却速度や合金成分によって黒鉛の形状は変化し、より高い強度や靭性(粘り強さ)を持たせることも可能です。
「球状黒鉛鋳鉄」は「ダクタイル鋳鉄」とも呼ばれ、強度がありながらも、靭性に優れています。球状黒鉛鋳鉄は、強度の高さから自動車部品・水道管・車道用マンホール蓋に多く採用されている材料です。
「片状黒鉛鋳鉄」は「ねずみ鋳鉄」とも呼ばれ、硬さはあるものの、球状黒鉛鋳鉄に比べると伸びがなく、脆いのが特徴です。片状黒鉛鋳鉄は、歩道用マンホール蓋で採用されるなど、球状黒鉛鋳鉄ほど強度を必要としない場合に活用されます。
鋳物は、複雑な形状をした製品でも量産が可能な点がメリットです。車のエンジン部品やマンホール蓋のような、硬さが必要かつ複雑な成形が求められる場合だと、鉄よりも鋳物のほうがコストを抑えられます。
しかし、製品ごとに専用の型を用意する必要があるため、仕様変更があった際に融通が利きにくいほか、イニシャルコストもかかる点はデメリットです。
鋳物の原型は、基本的に上型と下型用で別々に用意する必要があるほか、中空がある製品の場合、それを設けるための「中子」も用意しなければなりません。鋳造するうえで成形不良を起こさないために、製品に厚みを持たせる必要もあります。
鉄系の鋳物は、製品が冷え固まる際に収縮するため、寸法精度が出しにくい点もデメリットです。もし、寸法精度が求められる場合は2次加工により精度を出す必要があります。
鉄は、フライパンのような薄い製品を作る場合や、高い精度を求める場合におすすめです。鉄は粘り強さがあるほか、板金加工やプレス加工による成形により、肉厚が薄い製品でも製作できます。
鋳造では鋳物が冷えて固まる際に製品が収縮するなど製品不良を起こす心配がありますが、鉄製品であればこれらの心配はなく、強度や寸法を安定して出せるのがポイントです。
鉄のデメリットは、製品に強度を持たせたい場合に補強部品を追加する必要があることです。鋳物だと、簡単に強度が欲しい箇所へ厚みやリブなどを設けられますが、鉄の場合は別途部品を用意して接合しなければなりません。
それぞれのメリット・デメリットを考慮して、どちらの製法が適切か選択する必要があります。
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