2024-09-18
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
ドリルねじは、鉄骨造の建築物や板金加工製品などで主に用いられているねじです。ねじの先端に金属板へ穴をあけることが可能なドリルが付属しており、ドリルねじ一本で穴あけからねじ穴作成、ねじ締めまでを行うことができます。
鋼板同士を締結したり、木材やボード類を鋼板に固定したりする場合に特に有用であり、保持力と耐久性、そして作業性に優れた多機能ねじとして幅広く利用されています。
この記事では、このドリルねじとは何かというところから、種類、規格、サイズ、強度や使い方まで、詳しく解説していきます。
ドリルねじとは、上図のような、ねじ切りが可能なねじ部と穴あけが可能な先端部分を持つねじのことです。タッピングねじに切れ刃形状のドリル部を付属させたものとも言えます。すなわち、ドリルねじは、それだけで、以下の3つの機能を発揮することが可能です。
・下穴あけ…ドリル部によってタップ立てに必要な下穴をあける。ねじの呼び径毎に適切な下穴のサイズがある。(下図左図参照)
・タップ立て…ねじ部によって下穴に雌ねじのねじ山を作る。(下図中央図参照)
・締め付け…別個の部材を締結して固定する。(下図右図参照)
引用元:正しく使おうドリルねじ(上)「ドリルねじとは」一般社団法人 日本金属屋根協会
そのため、ドリルねじは、ねじ打ちの際、予め下穴をあけておく必要はなく、効率的な締結作業が可能です。また、下穴のサイズを間違えるといったミスも防ぐことができます。さらに、ドリルねじによって作られた雌ねじは、そのドリルねじの雄ねじに専用の雌ねじとしてピッタリと嵌まるため、釘などに比べて高い保持力と長期使用に耐えうる優れた持続性を示します。
ただし、ねじ打ちに大きな力が必要なため、手工具による手動でのねじ打ち作業は困難です。従って、ねじ打ち作業には、電動ドライバーなどの電動工具が必須となります。しかし、電動工具であっても、インパクトドライバーはドリルねじのねじ打ちに向いておらず、頭飛び(ねじの頭部が取れること)を起こすことがあります。やむを得ず、インパクトドライバーを使用する場合は、締め過ぎに注意が必要です。また、ドリルねじは、タッピングねじと同様、自らのネジ部でタップ立てを行うため、頻繁に着脱するような箇所には向いていません。
ドリルねじの材質には、主に炭素鋼とステンレス鋼が用いられています。
炭素鋼では、冷間にて圧造することで製造するSWCH18A〜SWCH22Aがドリルねじによく使われている素材です。これらの炭素鋼は、マンガンの量を多くすることで、耐摩耗性や衝撃強度、引張強さなどの向上を図ったもので、品質の高いアルミキルド鋼(末尾のAにて指定)から製造されます。なお、「18」や「22」などの数値は炭素の含有量を示し、「18」ならばおよそ0.18%の炭素を含みます。
ステンレス鋼では、主にマルテンサイト系ステンレスのSUS410やオーステナイト系ステンレスのSUS305J1・SUS304J3・SUSXM7などがドリルねじに使われています。共に耐食性の高い素材ですが、より高い強度が必要な場合には焼入れが可能なマルテンサイト系が、より高い耐食性が必要な場合にはオーステナイト系が採用されます。また、締結対象が鋼板などの硬い素材ならマルテンサイト系を、アルミ材などの比較的軟らかい素材ならオーステナイト系を使用することが多くなっています。
参考:【SUS(ステンレス)種類と見分け方】用途・特徴を専門家が徹底解説!
参考:SUSXM7(ステンレス鋼)成分、磁性、機械的性質、比重
ドリルねじは、あらゆる箇所の締結に用いられていますが、特に建設業と金属加工業での用途が多くなっています。具体的には、鋼板を鋼板に締結したり、ボード類や木質材を下地鋼板に締結したり、上部鋼板と下地鋼板の間に木質材やボード類を挟んで締結したりする場合に用いられ、締結対象の材料や組み合わせなどに応じて適切な種類のドリルねじが選ばれます。
建設業の用途例としては、建築物の外壁・屋根・床の施工、窓枠の取り付け、看板の取り付けなどが挙げられます。一方、金属加工業では、板金工事や金属製品の組立などに用いられています。
ドリルねじには様々な種類がありますが、ドリル部とネジ部、頭部の形状によって種類を分けることが可能です。
まず、ドリル部の形状には、以下の3タイプがあります。
・標準タイプ…先端にドリルのみが付いているタイプ。
・リーマ付き…ドリルで空けられた穴の径を広げるための刃である「リーマ(ヒレ)」が付いているタイプ。木材などの軟質材を下地鋼板に締結する場合などに用いられ、軟質材の穴径だけをねじ外径よりも大きくすることで、損傷しやすい軟質材へタップ立てを適用しないようにします(下図左図参照)。軟質材の穴を広げた後、リーマは硬い下地鋼板に達して飛散しますので、鋼板の穴が拡張されることはありません(下図中央図参照)。
・パイロット(PL)付き…ねじ部とドリル部の先端との間隔を延長するための平滑な軸が付いているタイプ(下図右図参照)。平滑な軸の部分とドリル部をまとめた部分は、パイロット部と呼ばれます。パイロット部(ドリル部)に長さが必要な理由は、ドリルねじの打ち込み時、下穴が開け終わる前にネジ部が取付部材へ達してしまうと、ねじ部が食い込んで取付部材が浮き上がってしまうためです。
引用元:正しく使おうドリルねじ(上)「ドリルねじとは」一般社団法人 日本金属屋根協会
ドリルねじのねじ部には、以下の2タイプがよく使われています。
・タッピングねじ山…並目のねじ山。ねじ締めの作業性が良好です。
・マシンねじ山…細目のねじ山。保持力が高いため、締結対象が薄くても固定可能です。また、保持力を確保しやすいため、タッピングねじ山に比べて、ねじ外径を小さくすることができます。
そして、ドリルねじの頭部の種類には、代表的なものだけでも以下のようなものがあります。
PANドリルねじは、なべ底のような丸みを帯びた頭部を持つドリルねじです。その形状から、「なべ頭ドリルねじ」や「なべドリルねじ」とも呼ばれます。最も多く流通しているドリルねじで、駆動部の形状は十字穴であるのが一般的です。
なお、十字穴が付いたねじ全般に言えることですが、十字穴は、ねじを回転させたときにドライバーやビットの先端が外れる「カムアウト」が起きやすく、カムアウトが原因で十字穴が潰れてしまうこともあります。カムアウトは、ドライバー・ビットのねじに対する、押す力が足りなかったり、軸がぶれていたり、サイズが合っていなかったりする場合に発生するので注意が必要です。
皿頭ドリルねじは、頭部の上面が平らで、円錐を引っ繰り返したような形の頭部を持つドリルねじです。その多くは、PANドリルねじと同じく、駆動部の形状が十字穴となっています。
ねじの取付位置に皿モミ加工を施しておくことで、頭部の上面と取付部材とを面一にすることができます。ねじの頭部による引っ掛かりをなくしたい箇所や外観を良くしたい箇所などに用いられます。
参考:皿モミ加工とは?一般的な寸法や加工方法について専門家が解説!
HEXドリルねじは、六角柱形状の頭部を持つドリルねじです。六角ボルトのドリルねじ版とも言えます。六角頭ドリルねじや六角ドリルねじとも呼ばれます。
頭部の外側からスパナや六角ソケットビットで締めるため、トルク伝達力が大きく、カムアウトの心配もありません。そのため、大きなトルクが必要な太径ねじに適しています。ただし、十字穴が付いているものもあり、その場合は十字穴をねじ締めに利用することが可能です。
平頭ドリルねじは、円柱形状の薄い頭部を持つドリルねじです。頭部の高さが低いため、頭部による出っ張りが目立ちにくく、頭部の突き出しを最小にしたい箇所に使われます。
なお、平頭ドリルねじの頭部の厚みは、製品によって様々です。頭部が薄い平頭ドリルねじでは、頭部高さが1.0mmのものもあり、「薄平頭ドリルねじ」や「極薄平頭ドリルねじ」などの名称で販売されています。
トラス頭ドリルねじは、緩やかな丸い形状の頭部を持つドリルねじです。PANドリルねじと比べて、頭部の高さが低く、頭部の径が大きくなっています。
頭部径が大きいために着座面が広く、先穴(上部の取付部材に対する予めあけておく穴のこと)やバカ穴の径がある程度大きい場合でも部材の締結が可能です(下図参照)。
ドリルねじは、JIS規格(JIS B 1124 2015)にて「タッピンねじのねじ山をもつドリルねじ」として規定されています。
特に規格化されているのは、以下の4種類です。
・つば付き六角ドリルねじ
・十字穴付きなべドリルねじ
・十字穴付き皿ドリルねじ
・十字穴付き丸皿ドリルねじ
これらのそれぞれに対して、以下の呼び径のドリルねじがあります。
・ST2.9
・ST3.5
・ST4.2
・ST4.8
・ST5.5
・ST6.3
さらに、呼び径毎に、以下の呼び長さのいくつかが規定されており、同径のドリルねじでも多様な板厚に対応できるようになっています。
・9.5mm
・13mm
・16mm
・19mm
・22mm
・25mm
・32mm
・38mm
・45mm
・50mm
例えば、つば付き六角ドリルねじのサイズは、JIS規格で以下のように規定されています。なお、以下では、「JIS B 1124 2015」のほか、「JIS B 1007 2015」も参照しています。
単位:mm
上表の「不完全ねじ部長さ(a)」は完全なねじ山が存在する最初のねじ山の位置から頭部座面までの長さ、「六角部の有効高さ(kw)」は頭部高さ(k)からつば厚さ(c)と頭部上面の凹みの深さを差し引いた高さ、「穴あけの範囲(適用板厚)」は適用可能な板厚のことで締結対象となる全ての部材の合計板厚(板と板との間に空間がある場合は空間の距離も含める)です。
「頭部座面から完全ねじまでの長さ(lg)」は、頭部座面から完全なねじ山が存在する最後のねじ山の位置までの長さです。ドリルねじでは、切り屑の排出性向上などを目的にスレッドカットと呼ばれるねじ山に対する切り欠きが施される場合があり、lgでは、このようなねじ山は除かれます。
ドリルねじは、しっかりとした締結が可能で、長期にわたって高い強度を維持することができます。ここでは、ドリルねじの引抜力・単体せん断力・単体引張破断力・単体ねじり強さの実験値をご紹介します。なお、ここでの値は、代表的な特性値であり、メーカーや製品によって若干異なる場合があります。
引抜力は、材料にねじ込んだドリルねじの頭部を引き抜く方向に引き上げ、ドリルねじ又は材料が破壊したときの最大荷重を測定します(下図右図参照)。
下図左表は、ドリルねじを鋼板にねじ込んだときの引張力です。
単体せん断力は、ドリルねじの完全ねじ山が存在するねじ部に対して垂直方向に力を加え、ドリルねじが破断したときの最大荷重を測定します(下図右図参照)。
下図左表がドリルねじの単体せん断力です。
単体引張破断力は、ドリルねじのドリル部をチャックで完全に固定して、頭部を引っ掛けて軸方向に引き上げ、ドリルねじが破断したときの最大荷重を測定します(下図右図参照)。
下図左表がドリルねじの単体引張破断力となります。
単体ねじり強さは、ドリルねじをバイス(万力)で完全に固定し、頭部を締め付け方向に回転させてねじり力を加え、ドリルねじがねじ切れたときの最大トルク値を測定します(下図右図参照)。
下図左表がドリルねじの単体ねじり強さです。
ドリルねじを使用する際にまず問題になるのは、締結対象の板厚に対するドリルねじのサイズ選びです。
JIS規格準拠の製品を使うのであれば、締結対象の板厚(適用板厚)がJIS規格の「穴あけの範囲」にあるサイズのドリルねじを選択することで、問題なく締結することができます。ただし、適用板厚(T)は、基本的に穴をあけて締結する全ての部材の合計板厚となります。しかし、上部の部材などにねじの呼び径よりも大きな先穴があいている場合は、その部材の板厚を合計板厚から除いたものが適用板厚(T)となります(下図参照)。
JIS規格に記載されていないドリルねじを使用する場合は、以下の2点を満たすサイズのドリルねじを選ぶ必要があります。
・適用板厚(T)<パイロット部長(ドリル部)
・最小働き長<適用板厚(T)<最大働き長
適用板厚の厚みよりも長いパイロット部を持つドリルねじを選ぶ理由は、下図のように、下穴あけとタップ立てが同時に進行してしまうことがあるからです。
●上部鋼板と下地鋼板の間に木質材やボード類を挟んで締結する場合
●ボード類や木質材を下地鋼板に締結する場合
ただし、下図のように、リーマ付きのドリルねじを使用してボード類・木質材を下地鋼板に締結する場合では、ボード類・木質材にタップ立てが行われることはないため、ドリルねじのパイロット部が適用板厚より短くても締結することができます。
また、しっかりと締結するためには、最上部の締結対象がドリルねじの頭部によって押さえ付けられ、最下部の締結対象がドリルねじの完全なねじ山に掛かっている必要があります。この条件を表したのが、上述の「最小働き長<適用板厚(T)<最大働き長」です。下図に、ドリルねじの働き長をタイプ毎に示しています。なお、下図のPは、ねじのピッチです。先端側の3山(3P)は、スレッドカットなどの存在によってねじ山が不完全であることが多く、通常は働き長に含みません。
ドリルねじの締結は、基本的に以下の手順で進めます(上図参照)。
ドリルねじは、木ねじやコーススレッド、万能ねじなどの木用ねじの代替品として、木材同士の締結に使うことができます(下図参照)。
しかし、木用ねじと比べると、ねじ山が低いためにねじ山の木材への食い込みが小さく、材木同士の保持力には劣ります。また、木材が経年変化で木痩せしていくことを考えると、そのねじ山の低さから保持力の持続性も低いことが予想されます。さらに、ドリルねじは、木用ねじよりもピッチが小さいため、ねじ締めの作業性は良くありません。
とは言え、それらの違いはそれほど大きくなく、高強度が要求されるような締結でない限りは問題なく締結することが可能です。
ドリルねじとタッピングねじの違いは、上述したようにドリル部の有無です(上図のAタッピング参照)。
そのため、タッピングねじを使用する際は、ねじ締めの前に予め下穴をあけておく必要があります。その下穴の径は、ねじの呼び径の約70%~95%程度が普通で、穴をあける部材が厚いほど大きな径の下穴をあける必要があります。例えば、呼び径3.5のタッピングねじ1種(Aタッピング)の場合、板厚が0.6mmならば直径2.6mmの下穴を、板厚が1.2mmならば直径2.9mmの下穴をあけることが推奨されます。
そのほか、タッピングねじは、ドリル部が無いことから、ねじの呼び長さに対する働き長の割合が大きく、ねじを締めた後に無用の産物となるドリル部を収める空間が不要という利点があります。
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