2025-01-15
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蒸着加工は、表面処理加工の一つで、製品の表面に薄い膜を付着させるという成膜技術を指します。あまり聞き慣れない加工方法かもしれませんが、蒸着加工は、電子部品、建材のほか、自動車、食品の包装、ファッションなど、非常に幅広い分野で利用されており、私たちの生活には欠かすことができない技術の一つです。
今回は、この「蒸着加工」をテーマに、その基本的な知識についてご説明した後、蒸着加工の種類、メリット・デメリット、また蒸着加工が利用されている分野や製品について、詳しくご紹介いたします。
これから蒸着加工を用いて製品の製作を検討している方、また蒸着加工についてさらに知識を深めたい方はぜひご一読ください。
蒸着加工とは、蒸着材料と呼ばれる金属や酸化物などの物体を蒸発→気化して、基材や基板の表面に付着させて薄膜を形成するという加工方法です。一般に、蒸着加工を施すことによって、強度を高めることができるほか、装飾性・光学特性(光を吸収、反射、透過などする特性)・機能性を、基材や基板表面に付加することが可能となります。
蒸着加工の用途については、後ほど詳しく解説しますが、蒸着加工は電子部品や自動車部品など、さまざまな分野に使用されている加工方法です。
次に、蒸着加工の種類についてご説明していきます。蒸着加工には、「物理蒸着」と「化学蒸着」の二種類があり、それぞれ加工方法が異なります。
引用元:尾池工業株式会社
物理蒸着は、PVDとも呼ばれ、固体材料を熱やプラズマのエネルギーを用いて気化させ、基板に付着させることで薄膜を形成する方法です。
中でも、真空蒸着加工では、上図のように、蒸発源を加熱することで、気化させた蒸着材料を基材や基板の表面に付着させることで薄膜を形成させます。通常、物質をより気化させやすくするために、真空状態の環境で加工が行われます。
この方法は、例えばCDの記録面などに用いられており、CDはポリカーボネイトにアルミを蒸着することで作られています。
引用元:株式会社シンクロン
化学蒸着は、CVDとも呼ばれ、薄膜となる原料を含むガスを熱や光、プラズマなどのエネルギーにより励起・分解させ、基板表面で化学反応を用いて物質を吸着させ、薄膜を形成させる方法です。
この方法は、プラズマCVD法などとも呼ばれ、特に半導体製造において広く利用されている技術です。
前述したPVDには、真空蒸着のほかに、スパッタリング及びイオンプレーティングといった方法が存在します。
引用元:東邦化研株式会社
スパッタリングは、真空中で膜にしたい材料(ターゲット)に、プラズマなどによって励起された高いエネルギーを持つ粒子を衝突させることで、材料成分中の金属原子などを放出させ、それらを基板上に堆積させることで薄膜を形成させる方法です。
薄膜となる材料が高エネルギーを持ち基材へ付着することから、真空蒸着法と比較してより膜の密着性が高いという利点があります。
引用元:東邦化研株式会社
イオンプレーティングの原理は、真空蒸着とほぼ同じです。ただし、真空蒸着では、気化した物質をそのまま基板に付着させていたのに対し、イオンプレーティングでは気化した金属をイオン化させて基板に薄膜を形成します。
具体的には、気化させた物質をプラズマ中に通過させ、物質にプラスの電荷を帯びさせ、基板にはマイナスの電荷を印加し、物質を基板上に電気的に引き付けて堆積させています。そのため、薄膜の基材への密着力は、スパッタリングよりもさらに強くなっています。
上述した通り、真空蒸着加工で形成した薄膜の基盤への密着力は、スパッタリング法やイオンプレーティング法と比べて弱いという欠点があります。この問題を解決するために、真空蒸着では下図に示したように、成膜装置の下部にセットした「イオンアシスト装置」を用いて、成膜中にそこからイオンを照射し、蒸着材料分子を加速させて、基板に押し付けることで、より密着性の高い膜を形成することが可能となります。
引用元:CBCオプテックス株式会社
Mitsuriは、真空蒸着加工から、スパッタリング、イオンプレーティングまで、さまざまな加工方法に対応している多数のメーカーと提携しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
次に、蒸着加工のメリット・デメリットについてご紹介していきます。
まず、蒸着加工のメリットとして、金属、非金属、また樹脂など幅広い素材に加工を施すことができるという点が挙げられます。
蒸着加工では、金属製の製品はもちろんのこと、ガラスやプラスチックなどの樹脂などにも薄膜をつけることが可能であるため、さまざまな製品に利用することができます。
一方、代表的な表面処理方法である電気メッキは、電流を用いて表面処理を行う方法であるため、樹脂製品などの導電性が無い物体では加工を施すことが難しくなってしまいます。
また、蒸着加工では、蒸着材料や基板に電気的な力を加える必要もなく、気化した材料が基板に付着するため、基板への負荷を抑えて加工を行うことができます。
蒸着加工は、高温・真空中で加工を行う必要がある加工方法であるため、高圧電源や真空ポンプなどの装置にかかる費用が高くなってしまう傾向にあります。また、真空装置内で加工を行うことから、製品サイズが真空装置の大きさに限定されてしまうという短所も挙げられます。
一方で、電気メッキでは簡単なプロセスであるため製造コストも抑えられ、さらに、常温・常圧空間で加工を行うことができるため、製品サイズに応じて加工スペースの拡大なども可能です。
参考:金属のメッキ処理の効果・種類を専門家が解説!【メッキ処理ならMitsuri!】
最後に、蒸着加工が用いられる場面についてご説明していきます。
前述したように、蒸着してできる薄膜によって「光学特性」を付加させることができます。
光学特性とは、光の透過・反射・吸収などを変化させることができる特性を指します。このような特性を持つ薄膜は、光学薄膜とも呼ばれます。
光学薄膜には、例えば、反射防止膜や選択透過膜などが挙げられます。反射防止膜では、光の反射率を下げ、光の透過性を高める役割があり、メガネやカメラ、望遠鏡などのレンズ、光ファイバーの端面、その他にもCDやDVDなどに利用されています。その他にも、自動車のヘッドライトなどの反射鏡(リフレクター)にも用いられています。
また、パソコンや携帯電話に使用されているコンデンサー、半導体などの電子部品には、セラミックなどでできた基板を保護する目的で、下図のように電極膜やバリア膜と呼ばれる薄膜が施されています。これらの薄膜形成にも、蒸着加工の技術が活用されています。
引用元:住友金属鉱山株式会社
さらに、選択透過膜は、特定の波長、波長領域を透過・反射させる(赤外線・紫外線を分離させるなど)ことができ、デジタルカメラややプロジェクターなどに用いられています。
また、蒸着薄膜によって機能性を加えることも可能です。このような薄膜は、機能性薄膜と呼ばれます。例えば、撥水・親水性、抗菌・防カビ性や、導電性を高めることが可能で、スマートフォンやカーナビなどのタッチパネルや、各種建材、メガネのレンズなどに利用されています。
これら光学薄膜や機能性薄膜としての利用の他にも、蒸着加工は、工具や金型の一部表面に耐摩耗性や耐衝撃性に優れる薄膜を付着させることで、工具・金型寿命を高める超硬質コーティングや、製品の意匠性を高める装飾薄膜としても広く利用されています。
引用元:大阪真空工業株式会社
Mitsuriは、さまざまな用途に利用される蒸着加工に対応している多数のメーカーと提携しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
本記事では、「蒸着加工」をテーマに、その基本的な知識に加え、蒸着加工の種類やメリット・デメリットのほか、その用途などについて詳しく解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。一口に蒸着加工と言っても、いくつかの種類が存在し、それぞれ用途によって使い分けがなされています。それぞれの加工方法の違いなどを事前に知っておくことで、メーカーに依頼する際にもスムーズに話を進めることができるでしょう。
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