染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
本記事では、SUS303の特徴や用途、化学成分などの基本情報について解説します。SUS303は、SUS304と同じオーステナイト系のステンレスですが、特性に違いがあるため目的によって使い分ける必要があります。
参考:SUS304とSUS430の意味とは? 使い分けや特徴も分かりやすく解説!
SUS303は、オーステナイト系ステンレスに該当します。オーステナイト系ステンレスは耐食性があり、溶接もTIG溶接やプラズマ溶接などが適用可能。また、高温環境でも強度低下が少ないのが特徴です。また、オーステナイト系ステンレスは非磁性のため、ほとんど磁石につくこともありません。
SUS303固有の特徴として、SS400やS45Cなどの鉄と同等の切削性を有しています。
例えば市場に多く流通しているSUS304は、切削時に切粉が帯状になり、刃物に絡まりやすくなるもの。一方、SUS303はリン(P)と硫黄(S)を多く含有していることから、切削時に排出される切粉が細かくなります。切粉が細かくなると、刃物からの抜けが良くなり、掃除がしやすくなるほか、被加工材に傷が付いたり、ケガのもとになったりするなどのリスクも軽減できます。
SUS303はSUS304に比べて、焼き付きにくい材料です。焼き付きとは、金属同士で摩擦した際に、表面が密着して取れなくなる現象のことを表します。
続いてSUS303のデメリットを挙げると、SUS304よりも耐食性と溶接性に劣ります。耐食性については、湿気の多い場所だと錆びる恐れがあります。リンと硫黄を多く含んでいるため、溶接性も低下しています。
また、SUS303はオーステナイト系ステンレスのため、基本的には非磁性ですが、加工の過程で結晶構造が変化した場合に、磁性を持つ特性もあります。磁性を持つステンレスは、フェライト系・マルテンサイト系が挙げられますが、ステンレスの種類を判別するのに磁性の有無で判断する場合があります。SUS303に磁性が付与されてしまうと、オーステナイト系のステンレスであるという判断が付きにくくなる点もデメリットです。
これらのデメリットから、SUS303はSUS304よりも流通量が少なく、値段も若干高い傾向にあります。それぞれの価格の違いは下記表を参考にしてみてください。
<SUS303とSUS304の切板価格参考表(幅20~50mm、厚み10mm)>
SUS303の用途に関しては、切削加工の多いボルトナットやシャフト、精密部品に採用されています。
市場に多く流通しているSUS304は、耐食性に優れていますが、切削性が乏しい点はデメリットです。しかし、SUS303なら切削スピードの向上が期待できるので、SUS304よりも加工のコストを抑えることができます。
SUS303は耐食性を備えている点もメリットです。ただし、SUS304と比べると耐食性に劣るため、常時水に触れるような厳しい環境での使用は避けましょう。
<SUS303とSUS304の化学成分(単位:%)>
引用元:JIS G 4303:2012
上表は、【JIS G 4303:2012】から抜粋した、SUS303とSUS304の化学成分表になります。
一般的に多く見かけるSUS304は、リン(P)が0.045%以下、硫黄(S)が0.030%以下です。一方、SUS303は上表を見て分かるように、リンが0.20%以下、硫黄が0.15%以下と多く含有しています。
<SUS303の物理的性質>
引用元:ステンレス鋼データブック
上表は、SUS303の物理的性質を表しています。上表は、SUS303のみの記載となりますが、SUS304も数値はすべて同じです。
<SUS303の機械的性質>
引用元:JIS G 4303:2012
上表は、SUS303の機械的性質を表しています。機械的性質についても、絞り以外の基準値はSUS304と同じです。
SUS303は、各種丸棒【センタレス(研磨)・引抜・ピーリング(切削)】・六角棒・四角棒が多く流通しています。また、厚板に関しても流通量は多くあります。フラットバー(平鋼)も流通はしていますが、SUS304と比べるとラインナップは少なめです。
しかし、SUS303の形鋼や薄板、パイプについては、ほとんど流通していません。これは、SUS303が切削するのを目的とした材料であることが理由として挙げられます。上記の材料は、切断することは多いものの、切削加工をするケースは少ない材料になります。
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