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SPHCとは【基礎】SS400/SPCCとの違い

2024-09-18

更新

この記事を監修した人

染谷 ひとみ

Mitsuri Media管理人

精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。

SPHCとは、熱間圧延軟鋼板の一種で、【JIS G 3131:2018 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯】に規定されている材料です。

SPHCのように、高温で圧延された鋼板は別名「HOT(ホット)」とも呼ばれています。熱間圧延した鋼板は、焼けた状態で空気中にさらされることで、「黒皮(クロカワ)」と呼ばれる酸化被膜(ミルスケール)が発生します。これは名前の通り、表面が黒に近い色をした皮膜のことで、黒皮が鋼板を覆い、新品である鋼板のキズや錆びを保護します。

しかし黒皮は、小さな穴(ピンホール)があったり、ボロボロと剥がれ落ちたりと、安心して錆びから守るには心もとないものです。そのため製品として利用する際は、黒皮を除去し、めっきや塗装を施して使うことがほとんどです。

SPHCとは?特徴と用途

SPHC(steel plate hot commercial)は、【JIS G 3131 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯】のなかでも一般用と分類されている材料です。用途としては自動車・電気機器・機械部品などが挙げられます。

SPHCは冷間圧延鋼板に比べて製作工程が少なく、比較的安価に手に入れられます。また、柔らかい材料であるため、曲げ加工性に優れているのも特徴です。

しかしSPHCは、引張強さが270MPa以上の規定であるため、あまり強度が求められる場所には不向きです。市場に多く流通しているほか、価格が安い点が魅力ですが、コストを下げるためにSS材から代用する場合は、強度の仕様を満たしているか確認しておきましょう。

また、SPHCの板厚は、1.2~14mmが適用厚さとして【JIS G 3131】で規定されています。板厚に対しての寸法の許容値は以下の表の通りです。

<SPHCの厚さの許容差>

厚さ 幅(mm)
1200未満 1200以上 1500未満 1500以上 1800未満 1800以上 2300以下
1.60未満 ±0.14 ±0.15 ±0.16 ※幅1600未満について適用する -
1.60以上2.00未満 ±0.16 ±0.17 ±0.18 ±0.21 ※幅2000未満について適用する
2.00以上2.50未満 ±0.17 ±0.19 ±0.21 ±0.25 ※幅2000未満について適用する
2.50以上3.15未満 ±0.19 ±0.21 ±0.24 ±0.26
3.15以上4.00未満 ±0.21 ±0.23 ±0.26 ±0.27
4.00以上5.00未満 ±0.24 ±0.26 ±0.28 ±0.29
5.00以上6.00未満 ±0.26 ±0.28 ±0.29 ±0.31
6.00以上800未満 ±0.29 ±0.30 ±0.31 ±0.35
8.00以上10.0未満 ±0.32 ±0.33 ±0.34 ±0.40
10.0以上12.5未満 ±0.35 ±0.36 ±0.37 ±0.45
12.5以上14.0以下 ±0.38 ±0.39 ±0.40 ±0.50

引用元:JIS G 3131:2018

SPHCの比重・密度

SPHCの比重は鉄と同じく7.85(密度7.85g/cm3)です。SPHCに限らず、同じ【JIS G 3131】規格内にあるSPH材は、全て同じ値を示します。

SPHCの化学成分

<熱間圧延軟鋼板及び鋼帯の化学成分(単位:%)>

種類の記号 C(炭素) Mn(マンガン) P(リン) S(硫黄)
SPHC 0.12以下 0.60以下 0.045以下 0.035以下
SPHD 0.10以下 0.45以下 0.035以下 0.035以下
SPHE 0.08以下 0.40以下 0.030以下 0.030以下
SPHF 0.08以下 0.35以下 0.025以下 0.025以下

※必要に応じて、この表以外の合金元素を添加してもよい。

引用元:JIS G 3131:2018

上表は【JIS G 3131:2018 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯】に記述されている、SPH材の化学成分表を抜粋したものです。

SPHCの機械的性質

<熱間圧延軟鋼板及び鋼帯の機械的性質(引張強さ・伸び)>

種類の記号 引張強さ
MPa
(N/mm2)
伸び % 引張試験片
厚さ mm
1.2以上 1.6未満 1.6以上 2.0未満 2.0以上 2.5未満 2.5以上 3.2未満 3.2以上 4.0未満 4.0以上
SPHC 270以上 27以上 29以上 29以上 29以上 31以上 31以上 5号試験片 圧延方向
SPHD 270以上 30以上 32以上 33以上 35以上 37以上 39以上
SPHE 270以上 32以上 34以上 35以上 37以上 39以上 41以上
SPHF 270以上 37以上 38以上 39以上 40以上 40以上 42以上

※受渡当事者間の協定によって、引張強さの上限値として次の値を適用してもよい。

SPHC:440N/mm2、SPHD:420N/mm2、SPHE:400N/mm2、SPHF:380N/mm2

引用元:JIS G 3131:2018

上表は【JIS G 3131:2018 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯】に記述されている、SPH材の機械的性質表を抜粋したものです。

SPHCは一般用として規定されていますが、その他の材質は加工用としての規定がされています。加工用の材質はSPHCに比べて炭素量が少なく、伸びに優れているのが特徴です。

 

SPHCと他材料との違い

SPHCとSS400との違い

  SPHC SS400
名称 熱間圧延軟鋼板 一般構造用圧延鋼材
引張強さ 270N/mm2 400~500N/mm2
規格 JIS G 3131で規定 JIS G 3101で規定
特徴 価格が安価
曲げ加工性に優れる
強度に優れる
板厚の種類が幅広い

SPHCとSS400の大きな違いは引張強さになります。SS400のほうが数値が高いため、強度が求められる箇所では、SPHCは不向きです。また、SS400のほうが、板厚の厚みがあるラインナップが豊富にあります。

参考:一般構造用圧延鋼材(SS材)とは?【専門家が解説】素人でも3分で判ります

SPHCとSPCCとの違い

  SPHC SPCC
名称 熱間圧延軟鋼板 冷間圧延鋼板
製造方法 高温で圧延する 常温で圧延する
規格 JIS G 3131で規定 JIS G 3141で規定
特徴 酸化被膜(黒皮)があり、錆の進行を抑えられる
値段が安価
精度が高い

SPCCは、冷間圧延鋼板(Steel Plate Cold Commercial)の常温で圧延した鋼板であるため、製造方法やJIS規格が異なります。

特徴としては、SPHCはSPCCと比べて冷間圧延の工程がない分、価格が安価です。しかし寸法精度や外観の良さには劣ります。

それぞれのJIS規格で定められている適用厚さに対しても、SPHCが1.2~14mmであるのに対し、SPCCは0.1~3.2mmといった違いもあります。

参考:【SPCC基礎知識】他材料とどう違う?板厚、材質、降伏点、比重、ヤング率

SPHCとSPHC-Pとの違い

SPHC-Pは、SPCHにある黒皮を酸で取り除いたもののことで、「酸洗(サンセン)」とも呼びます。SPCHに比べて、酸洗は塗装性が向上しているのが特徴です。

黒皮はキズや腐食を防止しますが、触れるとボロボロと剥げ落ちたり、ピンホールがあったりするため、防錆効果が高いわけではありません。基本的にSPHCを用いる際は、黒皮を落とし、塗装などの表面処理を施すことで、防錆効果を持たせていますが、その黒皮の除去方法のひとつとして酸洗処理があります。

SPHCのQ&Aまとめ

Q1.SS材をSPHCで代用する際の注意点を教えてください。

SPHCは強度が求められる場所には不向きです。強度の仕様を満たすか確認しておきましょう。

Q2.SPHCは、SS400とどう違うのですか?

大きな違いは引張強さです。SPHCは270N/mm2、SS400は400~500N/mm2です。強度が求められる箇所では、SPHCは不向きです。

Q3.SPHCは、SPCCとどう違うのですか?

SPHCは、SPCCと比べて冷間圧延の工程がありません。そのため価格が安価です。ただし、寸法精度と外観の良さはSPCCより劣ります。

Q4.SPCCとSPHCはどう使い分けるのでしょうか?

SPCCとSPHCが被る板厚は「1.6mm」「2.3mm」「3.2mm」です。このような板厚を使う場合は、精度が必要な外観にSPCC、見えない場所にはSPHCと使い分けることが多いです。

Q5.SPHCとSPHC-Pはどう違うのですか?

SPCH-Pは、SPCHの黒皮を酸で取り除いたものです(酸洗)。SPHCよりも、塗装性が向上しています。

 

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