染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
板金製品の完成には、材料、図面、加工(機械)の3つが欠かせません。
今回は板金加工で使用される加工について解説します。
板金加工には、大きく分けて切る、曲げる、作るという加工方法があります。
その中で、今回取り上げるのは切る(切断)です。
板金加工ではせん断という加工方法があります。せん断と切断は近い概念ですが、違いも存在します。
この2点に着目し、以下、順を追って見ていきたいと思います。
切断とせん断は、板材を切るという意味では同じ加工です。
しかしながら、切断にはさまざまな方法があり、せん断は切断の中の一領域にすぎません。
切断加工には、機械的に切削したり、熱的溶断(レーザー切断を含む)などによる除去切断と、引張り、曲げ、せん断といった破壊切断の2つがあります。
今回取り上げるせん断加工は、破壊切断(非除去切断)に分類されます。
ただし、せん断加工は単に板材を切るということにとどまりません。以下の図を見てください。
せん断加工には、以上の5つの加工があります。
それぞれの加工についての解説は別の機会で行うこととして、本記事では切断的加工について考えていきます。
せん断(英:shear)は、1909年にイギリスから平行刃せん断機(ギロチンシヤー)が日本に輸入され、シヤーによる加工が始まりました。日本のせん断加工は、100年以上の歴史を持っています。
現在では、全工程を自動化したオートシャーまで登場しています。
引用元:AmadaCompany
シヤーは金属のみならず、紙や、樹脂など様々な素材の加工にも利用されています。
板金加工において、シャーはブランク加工で使用されます。ブランク加工とは、定尺材から必要寸法に切断してブランク材をつくりだす加工のことを指します。
このブランク材に穴あけ、切り抜き加工後、曲げ工程を経て、溶接工程、組立工程を経て、板金製品が完成するわけです。
シリーズの第2回「板金加工、材料の基礎」で、板材がどのように作られるのかについて言及しました。この板材が成形された後に、製品にあった大きさに切断するせん断加工が行われるのは、上で述べた通りです。板金加工やプレス加工では、加工品を連続して高能率で製作します。したがって、同じ形状の金属板が必要になります。
この同じ形状の金属板のことをブランク材と呼び、ブランク材を作る金属加工をブランク加工といいます。
コイルや切り板などの金属素材からブランク板を切り出すブランク加工は、金属加工にとって非常に重要な工程です。単に加工素材としてのブランク板を安定して採取するのみならず、金属素材からできるだけムダなくブランク板を採取する必要もあるからです。ムダなくブランク板を採取ために、ブランク加工設計を考えなければなりません。
せん断加工とは、一対の工具(パンチとダイ)により材料にせん断変形を与え、所望の形状や寸法に材料を分離する加工のことをいいます。
加工の原理は、材料を接近した位置で、直角方向にお互いに逆方向の力を加えて割る点にあります。
シヤーによるせん断の場合、パンチは上刃、ダイは下刃となります。
下刃を固定刃にして上刃を可動させて板材をせん断するのが一般的です。
上刃は板材面に対して刃を傾けて切り込むようにします。
この傾きのことをシヤー角と呼びます。
シヤー角は重要な概念ですので、そのメリットとデメリットについて、以下で確認してみたいと思います。
せん断をする際に、シヤー角を設けることでせん断力の軽減や長い板材を加工することが可能になります。
シヤー角は薄板の場合は小さく、厚板の場合は大きく取ります。
シヤー角を小さく設定することで、以下で述べる不良現象を軽減することができます。そのため、近年はシヤー角を小さく取る傾向にあります。
ただし、ブレードの形状によってはシヤー角を落としすぎると上刃の下面で圧縮が生じて、板材上面が変形することがあります。
また、せん断力が大きくなることから機械剛性を大きくする必要もあります。
また製品精度とシヤー角は大きく影響します。
以下で、JIS B0410で規定されている金属板せん断加工品の普通公差を示しておきます。
JISや普通公差(公差)については、「板金加工、図面の基礎」をご覧ください(以下の3つの図はすべてkikakurui.comからの引用です)。
切断幅とは、シャーの刃で切断された辺とその対辺の距離のことをいいます。
切断長さとは、シャーの刃で切断された辺の長さのことをいいます。
真直度とは、切断された辺の刃当たり部分の、幾何学的に正しい直線からの狂いの大きさのことをいいます。
直角度とは、長辺をデータム形体とし、データムに対して直角な幾何学的平面からの短辺の刃当たり部分の狂いの大きさのことをいいます(以下の図のf部分)。
真直度や直角度を理解するためには、前回触れることのできなかった幾何公差の理解が不可欠です。データムも同様です。この点については、別記事で考察することとします。
シャー角は、板材に不良現象(ひずみ)を生じさせるというデメリットもあります。
不良現象にはボウ、キャンバー、ツイストの3つがあります。
ボウとは、切り落とされた板材に発生する現象で、板厚方向に湾曲が生じるものです。一般的に、シヤー角を小さくすればボウの値は小さくなります。また、幅と板厚にも関係し、せん断幅が板厚の10倍以上になるとボウの発生が少なくなります。
ツイストとは、切り落とされた板材に発生する現象で、製品にねじれが生じるものです。ツイストはシヤー角が大きいほど大きくなります。また、せん断幅が小さくなると大きくなります。一般的には板厚の20倍以上のせん断幅があればねじれ発生による精度への影響を考慮しなくてよいとされています。
キャンバーとは、断面がせん断幅に円弧状(扇形)に湾曲する現象です。一般的には板材の材質と残留応力が大きく影響します。せん断時には材料の残留応力が開放され、キャンバーが発生します。キャンバーの量はせん断幅に大きく影響します。
続いて、クリアランスについて見てみたいと思います。
せん断の場合、クリアランスは上刃と下刃の隙間のことを指します。
クリアランスの設定はとても重要です。
なせなら、クリアランスは、製品精度、せん断精度、断面の良否、刃物の劣化(寿命)と影響が多岐にわたるからです。
パンチに荷重(W)を加えると、材料の断面にずれようとするせん断力が働きます。材料のせん断強さ以上の力が加わると、材料内部ですべりが生じて、材料が打ちぬかれます。荷重(W)を受ける断面積(A)で割った値を「せん断応力」(T)といいます。
せん断応力(Τ)=荷重( W)/断面積(A)
この式でせん断応力を計算することができます。これは平均せん断応力の算出方法で、実際に発生する最大せん断応力とは異なるので注意が必要です。
せん断による変形が大きくなると上下刃の刃先付近から亀裂(割れ)が発生します。上下からの割れが結合すると素材が分離され、せん断加工の過程は終了します。ここで、素材を切断することができたというわけです。
この際に、適切なクリアランスが設定されていないと上下の割れはうまく結合せず、クラックが製品内部に残ってしまいます。
このクリアランスの設定の良否は、製品断面に現れます。
クリアランスは一般にダイとパンチの片側の隙間をいいますが、前後左右が対象なNCタレットパンチプレスなどの金型の場合はは、ダイとパンチの差(両側の隙間)をいうこともあるので注意が必要です。
上下からのワレが適正に結合され、上下刃が食い込んで発生したせん断面と、割れによって発生した破断面が直線的につながっている場合、適正となります。
クリアランス過小の場合、割れが行き違いになった後で結合します。
素材の中央部に残された部分が上下刃で削られたり、せん断されることを、2次せん断といいます。素材中央付近にブツブツとした凸凹のような面が発生していると、クリアランスが過小であると判断できます。
クリアランス過大の場合、ダレが大きくなり、素材に対して内面の引張力が大きくなり亀裂が早く発生するため、せん断面が小さく、破断面が大きくなります。
④シヤーにおけるクリアランス設定の基準
以下で、既に取り上げた代表的な素材(材料)のクリアランス設定の目安を示しておきます。
引用元:村田ツール株式会社「板厚に対するクリアランスの割合<目安>」
以下でせん断面の形状を示しておきます。
せん断面は重要な面で、せん断精度における寸法精度はこの面で決まります。
板金加工の基本的な加工である「切る」にも様々な種類があることを理解してもらえたかと思います。
また、切るの一種でしかないせん断がとても込み入った内容を持っていることもまた理解してもらえたかと思います。
実際にせん断をしながら、理論を覚えていくことをおすすめします。現在では、個人でも手に入るような加工機械も登場しています。
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