染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
アルミは、軽量かつ安価で、耐食性や加工性にも優れるため、アルミ缶やアルミ箔など、身近な製品に広く用いられている金属材料です。また、一部のアルミ合金は、高い強度を持つことから、航空機用部材や建築用サッシなどにも使用されています。
このように、家庭用にも産業用にも幅広い用途があるアルミですが、軽量化ニーズの高まりから、その特性や機能性を向上させ、他の様々な金属の代替材料とする技術開発が進んでいます。さらに、導電性の高さにも注目が集まっており、エレクトロニクス分野などでも導電材としての採用が始まっています。
今回の記事では、アルミの特性向上を実現するアルミ材へのめっき方法について解説していきます。めっきの種類やメリットについても説明しますので、ぜひご覧ください。
アルミは、めっきすることが難しい「難めっき材」として知られていました。しかし、現在では、安定しためっきを確実に形成できるプロセスが開発されています。
アルミは、酸素との反応性が高く、空気中で酸化アルミニウムの皮膜を形成します。この酸化皮膜は、水中のわずかな酸素でも形成されてしまうため、除去が追い付かず、めっきが析出することを阻害し、めっきの密着性も悪化させていました。
これを改善するため、一般的にジンケート処理がアルミ材のめっき前処理として採用されています。この方法では、表面の酸化皮膜を除去すると同時に亜鉛皮膜を置換析出させます。亜鉛は下地メッキにも使用されるような材料ですから、置換析出した亜鉛皮膜の上には密着性の高いメッキを施すことが可能となります。
アルミ材は、めっきすることで電気的特性や機械的特性、装飾性などを向上させることが可能です。
ですが、導電性は銅や銀が勝りますし、強度は鉄やステンレスがより優れるので、あえてめっきしたアルミを使う必要はありません。そこで理由となるのがアルミの軽量性です。
アルミは、その比重が鉄やステンレスの3分の1ほどと非常に軽量です。そのため、鉄鋼などの代替材料に用いることができれば、かなりの軽量化が期待できます。もちろん、アルミ合金であるジェラルミンなどを用いれば、強度も鉄鋼などに匹敵させることが可能です。さらに、硬質クロムめっきなどを施せば、さらに耐摩耗性や耐振動性などを向上させることができます。
また、アルミは、導電性が銅の60%ほどですが、その比重は銅の約30%です。そのため、同じ重さの銅に比べて2倍もの電流を通すことができます。しかし、アルミの酸化皮膜は通電性が悪いため、導電材として用いる場合には外部との接触部が抵抗となります。そのため、これまでは電気接点などの用途には使用できませんでした。ですが、ニッケルめっきなどを施せば、酸化皮膜の形成を防ぐことができますので、接触部でも通電性を維持することができます。
アルミ材へのめっきの工程は、一般的に以下のように進めます。なお実際は、各工程の間に、工程で用いた薬液などを落とす水洗などの洗浄工程が入ります。
アルミ材のめっき工程
ここでは、各工程の詳細について解説していきます。
研磨は、鋳造品やダイカスト(ダイキャスト)品、切削加工品で重要となる工程です。
鋳造やダイカストでは、加工後、表面層に鋳巣や湯じわなどが生じることがあります。金型から製品を剥がれやすくする離型剤が残ってしまうこともあり、めっき前にこれらを取り除くための研磨を行います。
また、アルミは軟らかいため、切削加工時、むしれ痕やばりなどが発生しやすく、仕上げ表面に加工硬化や残留応力に起因する加工変質層が生成しやすいです。そのため、これらをめっき前に除去する必要があります。
引用元:株式会社NIMURA
脱脂工程では、付着している工作油や汚れなどを除去するため、上の写真のような薬液に製品を浸漬します。
アルミは、酸にもアルカリにも溶解する両性金属です。よって、鉄やステンレスなどの脱脂工程で用いられる水酸化ナトリウムなどの強アルカリの脱脂剤は使うことができません。
その代わりとして、中性または弱アルカリ性の脱脂剤が使われますが、油性汚れの洗浄効果がより高い弱アルカリ性の脱脂剤を用いることが多いです。その脱脂剤として、ケイ酸ナトリウムやリン酸ナトリウムなどが挙げられますが、この場合においても、pH値はおよそ10以下とする必要があります。ただし、ケイ酸ナトリウムでは、表面にケイ酸皮膜を形成しやすいので、なるべく濃度の低い溶液を使用しなくてはなりません。
そのほか、凹凸があるダイカスト品や切削加工品などは、油分が溜まりやすいため、有機溶媒での脱脂を併用したり、ウォータージェットでの洗浄を行ったりすることがあります。
また、脱脂工程の後のエッチング工程やジンケート工程でもアルカリ溶液が使用されます。そのため、脱脂工程以降においても油脂などを除去する効果が期待できます。
エッチング工程は、予備的に脱脂を行うと共に酸化皮膜を除去する工程です。
この工程では、高温環境で強アルカリ性のエッチング液を使用します。溶解加工を意味するエッチングの言葉通り、酸化皮膜を溶解して除去しますが、溶液の温度や工程の時間によっては溶解が内部に進行してしまうことがあります。
また、強アルカリ性ですから、油脂を乳化分散させる効果があり、脱脂工程と同じく脱脂が可能です。それと同時に、アルミ表面では、水が還元されて水素ガスを発生。ガスが溶液を撹拌して、汚れや異物を取り除きます。
強アルカリを用いたエッチングは、酸化皮膜の除去に有効な方法です。しかし、溶解の効果が高すぎるため、以下のようなデメリットも生じます。
従って、溶液の温度や工程の時間の管理に注意が必要です。また、鏡面光沢仕上げとする場合などには、アルカリ溶液によるエッチングを行わず、酸性フッ化アンモニウムなどを用いた酸性エッチングを行うことがあります。
スマット除去工程は、表面に残留する不純物や合金成分を除去する工程です。
アルミは、不純物や合金成分に銅やケイ素などを含みます。これらの一部は、アルカリに溶解しないものがあり、エッチング工程の後も微粉末として表面に付着したままとなることがあります。めっき加工では、このような微粉末を「スマット」と呼び、アルミ材のめっきでは、エッチング工程の後にスマットを除去する必要があります。
特に、ケイ素などの除去にはフッ素を含んだ酸性溶液が、銅合金の除去には硝酸を含んだ酸性の溶液が用いられ、製品をこれらの溶液に漬け込むことでスマットを取り除きます。
ジンケート工程は、アルミの酸化皮膜を除去すると同時に、密着性の良い亜鉛の皮膜を形成させる工程です。これにより、アルミの酸化皮膜が形成されなくなります。
この工程では、強アルカリ性の亜鉛溶液であるジンケート液を用います。まず、この液に漬けたアルミの酸化皮膜が溶解し、続いて、露出したアルミが溶液中の亜鉛と置換して亜鉛が析出します。なお、この置換析出させるめっき法については、以下の「置換めっきとは」で詳しく解説しています。
しかしこのとき、亜鉛の析出が不均一に生じることが多く、通常は硝酸などの薬液で析出した亜鉛を剥離し、もう一度ジンケート液に漬け込みます。これをダブルジンケート処理と言いますが、これにより均一な亜鉛皮膜を形成することが可能となり、優れた密着性を得ることができます。
ただし、密着性については、アルミ合金の種類(番手)に左右されます。そのため、番手によって溶液の使い分けが必要となります。
置換めっきとは、電気を使わない無電解めっきの中でも、金属のイオン化傾向の大小だけで金属を析出させる方法です。
金属には、溶液中でのイオンのなりやすさを示すイオン化傾向と呼ばれる性質があります。そのため、イオン化傾向が低い金属が溶けた液中にイオン化傾向が高い金属を漬けると、これらの金属が酸化還元反応を起こし、イオン化傾向が高い金属が酸化されて溶解し、イオン化傾向が低い金属が還元されて析出します。この反応は、漬けた金属がもう一方の金属で完全に覆われると終了します。
アルミと亜鉛の場合では、アルミの方がイオン化傾向が高いため、アルミが溶解すると同時に亜鉛が置き換わるようにアルミの表面に析出します。
ジンケート工程が完了したら、めっき処理に移ります。
めっき方法としては、電気めっきと無電解めっきの双方が可能ですが、めっきする金属によっては、ストライクめっきが必要となることがあります。
なお、ストライクめっきとは、ジンケート工程の亜鉛のように、最終的なめっきの下地とする薄いめっきのことです。
アルミ材に対するめっきには、様々な種類があります。ここでは、アルミ材への代表的なめっき金属について説明します。
アルミ材に対するニッケルめっきは通常、銅のストライクめっきを施した後に実施します。
銅ストライクめっきは、ジンケート工程で施した亜鉛がニッケルと置換反応を起こしてしまうことから必要となる下地めっきです。この方法では、シアン化銅とシアン化塩を含んだシアン化銅浴などに、亜鉛皮膜で覆われたアルミを通電しながら漬けることで銅を析出させます。
ストライクめっき後のニッケルめっきは、電気めっきと無電解めっきのどちらでも可能です。複雑な形状の製品などは、均一にメッキできる無電解メッキを採用することが多いです。
しかし、近年では、ストライクめっきが不要なニッケルめっき法も開発されています。これは、亜鉛置換ニッケルめっきと呼ばれる方法で、ジンケート工程後のアルミを無電解ニッケルめっき液に漬けます。すると、下図のように亜鉛とニッケルが置換してニッケルが析出します。つまり、この方法だと、アルミ素地にニッケルを直接めっきすることが可能となります。
銅めっきは、ニッケルめっきで説明したシアン化銅浴などを用いためっき法によって実現することができます。
真鍮めっきは通常、ニッケルめっきの上に施されます。つまり、銅めっきを下地めっきとしてニッケルめっきを施し、その後、電気めっきによって真鍮をめっきします。
クロムめっきは、硬質クロムめっきと装飾クロムめっきでその方法が違います。
硬質クロムめっきは、ジンケート工程の後に、電気めっきを用いて実施します。均一にめっきしづらいため、製品の形状によっては、補助陽極や補助陰極を設置して、めっきの厚みが出来るだけ均一になるように調整します。
装飾クロムめっきは、銅を下地めっきとしたニッケルめっきの後に電気めっきを用いて行われます。
スズメッキは、ニッケルめっきの上から、電気めっきや無電解めっきによって施すことができます。
この方法のほか、ジンケート工程で亜鉛の代わりにスズを用いることが可能で、アルミの直上に形成されたスズ皮膜をめっきとすることができます。この方法をスズ置換めっきと呼びますが、ジンケート工程と同じく、アルカリ溶液でアルミの酸化皮膜を溶解すると同時にスズでアルミを置換してスズを析出させます。
Mitsuriでは、アルミ材に対する様々なメッキが可能なメーカーをご紹介できます。用途をお伝えくだされば、適切なメッキ法をご提示することも可能です。アルミ材のめっきにお悩みでしたら、ぜひMitsuriにご相談ください。
それでは、アルミ材にめっきすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、1.電気抵抗の軽減、2.はんだ付け性の付与、3.溶接性の向上という特徴的な3つのメリットについて説明します。
アルミは、素材そのものの導電性が高いものの、表面に電気抵抗の高い酸化皮膜を生成してしまいます。ですが、めっきを施せば、酸化皮膜は形成されていませんので、他の部品との接触部の通電性を確保することができます。
これにより、アルミは、スイッチやリレーなどの電気接点にも用途を広げることができます。この用途で使用されるアルミめっきには、金めっきや銀めっき、銅めっき、ニッケルめっき、スズめっきなどが挙げられます。
アルミは、その酸化被膜がはんだをはじく上、強酸性のものが多いフラックス(はんだ付け促進剤)に侵されることがあります。そのため、めっきなしのアルミ製電子部品などを電子回路にそのままはんだ付けすることはできません。ですが、スズめっきなどを施すことで、はんだに馴染むようになりますので、はんだ付けが可能となります。
アルミそのものの融点は660℃ですが、その酸化皮膜の融点は2000℃にも達します。そのため、アルミを溶接するには、この酸化皮膜を除去する必要があり、また除去したとしても入念にシールドしないとすぐに酸化皮膜が形成されてしまいます。その点めっきしておけば、シールドは必要ですが、酸化皮膜を除去する工程が不要となります。
また、アルミ材へのスズめっきで、抵抗溶接の作業性を向上させることができます。アルミの抵抗溶接では、溶接機の電極にアルミが付着してしまうことから、電極の研磨が必要となります。しかし、スズめっきを施すことで、電極へのアルミ付着を抑制することが可能です。
アルミの代表的な表面処理加工にアルマイトがありますが、これはめっきとは全く異なるものです。
アルマイトは、アルミの酸化を人工的に進め、表面の酸化皮膜をさらに分厚くする表面処理です。このとき、アルミは酸素と結合して酸化アルミニウムを形成し、外部方向に成長すると共に内部方向にも浸透していきます。
一方、めっきは、酸化皮膜を除去し、アルミの素地を露出させた上で他の金属を乗せていく方法です。
参考:アルマイトとは?【3分でわかる】専門家がわかりやすく解説してみた!
難めっき材と言われていたアルミですが、今では様々なめっき液や方法が開発されており、めっきすることで、アルミの特性を向上させると共にアルミに機能性を付与することができます。
ですが、アルミ合金は種類が多く、その種類毎にめっき液の調製やめっきするときの工夫が必要となります。また、全ての合金にめっきできるわけではなく、めっき可能な合金の種類は、メーカーによって異なります。
Mitsuriは、アルミ材へのめっき技術を保有する全国各地のメーカー様とお付き合いがあります。現在、協力企業は250社以上ございます。そのため、お客様に最適な加工方法をご提示することが可能です。
お見積りは複数社から可能です!
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