染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
アルミニウムは、合金の種類にもよりますが、比較的軟らかい金属です。そのため、軽くて加工しやすいなどの利点を持ちながらも、強度を必要とする機械部品などには使いづらいといった問題がありました。
その点、アルマイト処理は、アルミニウムの硬度や耐食性などを向上させる効果があり、またその効果もある程度制御することができます。それにより、アルミニウムの用途は、機械部品などにも拡大しています。
今回の記事では、アルマイト処理の内容やメッキとの違いについて説明します。続いて、その工程、アルマイト処理が可能なアルミ合金の種類、アルマイト処理を行うメリットについても詳しく解説していきます。カラーアルマイト処理や硬質アルマイト処理についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
アルマイト処理は、防サビや絶縁性の付与、強度向上などを目的として、アルミ表面に酸化皮膜を人工的に形成させる表面処理法です。
アルミニウムは、空気中で酸化して自然と表面に酸化皮膜を形成。その酸化皮膜によってある程度の強度と耐食性を持つようになります。しかし、自然と形成される酸化皮膜は数ナノメートルと薄く、傷や腐食などがアルミ素地に達してしまうことも多いため、強度や耐食性を必要とする場合にはアルマイト処理が施されます。
アルマイト処理の過程で美観をある程度制御できることもあり、アルミ製のやかんや鍋等の日用品、電車や航空機の内装品、建材などに広く適用される表面処理法です。
また、アルマイトの膜厚は通常10マイクロメートル程度ですが、より膜厚を増した硬質アルマイトは厚さ50マイクロメートルにも達し、その硬度は鉄鋼を超える400HV以上にもなります。そのため、アルマイト処理を施したアルミ製品は、耐摩耗性を必要とする自動車部品や航空機関連部品、シャフトやロールなどの機械部品などにも広く用いられています。
参考記事
アルミニウムの基本的な情報については、以下の記事に詳細がありますのでご参照ください。
⇒【アルミの基礎】アルミの加工上の特性やメリット/デメリットまで徹底解説!
アルマイトと、メッキは全く異なる表面処理なので注意が必要です。
アルマイト処理では、アルミニウムを電気分解の陽極として通電し、アルミニウムを溶解させながら酸化させて酸化皮膜を形成させます。このとき、酸化皮膜は、アルミ表面の外部方向へ成長すると同時に、内部方向にも浸透していきます。(上図参照)
また、製品の素材そのものが電気分解によって溶解するので、重量や寸法が厳格に定められた製品には向いていません。
その一方、メッキは、耐食性や強度を上げる、外観を変える、多様な機能を付与するなどの目的で行われる表面処理です。酸化皮膜を除去してアルミニウムの素地を露出させ、素材とは別の金属をコーティングする方法です。つまり、メッキでは、酸化皮膜を全て剥がしてしまいますし、メッキ後には酸化皮膜は残りません。
また、アルマイトとメッキにおいて電気分解を行う点は共通していますが、メッキでは電気分解の陽極ではなく陰極にメッキされる金属を使用。電解液中の金属イオンを被メッキ金属へ乗せるように還元析出させます。
つまり、アルマイト処理は電気分解の酸化を利用して膜を形成していますが、メッキは逆に電気分解の還元を利用して膜を形成しているのです。
アルミニウムのメッキについて、以下の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
参考記事:アルミニウムのメッキについて解説!実際の工程やメリットについてもご紹介!
それでは、アルマイトはどのような処理工程によって施されるのでしょうか。
アルマイトの処理工程は、通常以下の手順で行われます。ただし、工程の間には、水洗や湯洗などの処理が入ります。また、工場によっては、品質向上などのため、追加の工程が入ることがあります。
アルマイト処理は、通常自動化されており、治具(処理物を支持または通電するために用いる支持具)にたて吊りにしたアルミニウム部品を各工程の処理を施す浴槽に順番に沈めていくことで実施します。そのアルミニウム部品を治具に吊る工程がこの枠吊りです。
脱脂処理は、アルミニウム部品の成形に伴って付着した油分等を取り除く工程です。施される酸化皮膜の密着不良を防止するために行われます。
一般的な金属は通常、アルカリ性の溶液に浸漬することで脱脂を行います。しかし、アルミニウムは、両性金属で酸性にもアルカリ性にも溶けてしまうため、弱アルカリ性や中性の溶液が主に採用されます。場合によっては、液中に泡を発生させて撹拌する超音波清浄機などを併用することがあります。
エッチング処理は、アルミ表面の自然に形成された酸化皮膜や脱脂で取り切れなかった油分などを除去する工程です。苛性ソーダなどの水酸化ナトリウムを含んだアルカリ性溶液にアルミニウムを浸漬。酸化皮膜を溶解させると同時に油分などを除去します。
スマット除去処理は、アルミ表面に露わとなった不純物や合金成分を除去する工程です。
アルミニウム合金には銅やケイ素などの不純物や合金成分が含まれていますが、これらの成分の中にはエッチング処理で溶解しないものが存在します。そのため、エッチング処理の後には、このような成分が微粉末として表面に露わになります。この「スマット」と呼ばれる微粉末を取り除く工程がスマット除去工程です。
ケイ素などの除去にはフッ素を含んだ酸性溶液が、銅合金の除去には硝酸を含んだ酸性の溶液が用いられます。
陽極酸化処理は、アルミニウムを電気分解の陽極として通電し、表面に酸化皮膜を形成させる工程です。電解液には、硫酸やシュウ酸などの酸性溶液が用いられます。
この工程においては、上図のように、まず平面的なバリアー皮膜が成長します。その後、表面に凹部が形成されると、硫酸イオンが凹部に入り込んで硫酸アルミを形成。さらに、その硫酸アルミが溶出して表面に無数の穴が空きます。この穴の成長は、皮膜が厚みを増していくと同時に進行していき、最終的には穴が規則正しく伸びた構造となります。
結果として形成される皮膜の厚さは、電解時間に比例します。
再び陽極酸化処理を行い、酸化皮膜表面に形成された穴の底に塗料やアルミ以外の金属粒子を電着させる工程です。染料を電着するカラーアルマイト処理については後述します。
金属粒子を電着させる交流電解着色では、スズやニッケルなどを含む金属塩水溶液中へ交流電流を加えることで再度電解処理を施します。それによって穴に金属粒子が入り込み、酸化皮膜を補強すると共に防サビ性能が向上します。さらに着色も行うことが可能です。
例えば、スズやニッケルでは、黄色やブロンズ、黒色、またそれらの中間色を着けることができます。なお、色調は、電解液の成分や濃度、浸漬時間などによって変化させることが可能です。
交流電解着色を施したアルマイトは、日光に対する堅牢性が高く、紫外線などで変退色しにくいという特徴を持ちます。そのため、アルミサッシなどの屋外で用いられるアルミ製品に頻繁に採用されます。
以上でアルマイト処理は完了です。製品を水洗するなどした後に枠から外します。
なお、電解着色を行わない場合や塗料で電解着色する場合(後述)には、十分な耐食性を確保するため、アルマイトの穴を封じる封孔処理を行います。
封孔処理には、酢酸ニッケルや酢酸コバルトなどの金属塩で穴を塞ぐ方法(上図)や、高温加圧水蒸気を当てたり沸騰水中で煮沸したりすることで穴を狭める方法(下図)などがあります。
アルマイト処理はアルミ合金のみ対応可能です。
それでは、どのアルミ合金に対してもアルマイト処理は行うことができるのでしょうか。
まず、アルミ合金には、「一般的な金属加工で用いられる展伸用」と、「鋳物やダイキャストで成形する鋳造用」がありますが、鋳造用合金はアルマイトに向かないとされています。それは、鋳造用合金では不純物が多く、アルマイト層がうまく生成されないことが理由です。
一方、展伸用合金は、番手によって1000番から8000番までに分けることができますが、ジュラルミンなどがある2000番手はアルマイト処理が困難な合金として知られています。それは、2000番手では、導電性が高い銅の含有率が大きく、電流密度にムラが生じやすいことから、アルマイト層の厚さがバラツキ易いためです。
また超々ジュラルミンである、A7075もアルマイトが特に困難な合金です。
アルミ合金の番手については、以下の記事で詳細を解説していますので、ご参照ください。
参考記事:アルミ合金の種類や特徴、用途について詳しく解説【専門家が語る】適切なアルミ番がわかります!
アルマイト処理を施すと、以下のような様々な効果をアルミニウムに与えることができます。
アルミニウムは、空気中でも容易に酸化して表面に酸化皮膜を形成します。しかし、アルミニウムそのものはアルカリや酸などにも反応しやすく、傷などから変色や腐食を起こすことがあります。
従って、アルマイト処理を施し、分厚い酸化皮膜を形成しておくことで、傷などもアルミニウムの素地まで到達しにくくなり、結果として腐食に強くなります。
アルミニウムは導電性が高い金属ですが、アルマイト膜を構成する酸化アルミニウムは絶縁性で電流を通しません。
アルマイト処理を施すことで硬度や耐摩耗性が向上します。
硬さがHv20~150であるアルミニウムは、アルマイト処理を施すことでHv200~600まで硬さが向上します。
アルマイト処理では、そのときに形成される微細な穴に金属を電着させたり染料を吸着させたりすることで多様な色を着けることができます。
アルマイト膜の熱伝導率は、アルミニウムと比べると約3分の1なので、遮熱性を持ちます。
アルマイト膜は、遠赤外線などの放射性が高いという特性を持っているため、ヒートシンクなどの放熱性向上に用いられます。
アルマイト処理は、上述した方法のほか、カラーアルマイト処理と硬質アルマイト処理があります。ここでは、これらのアルマイト処理法について説明します。
通常のアルマイト処理は無色透明です。カラーアルマイト処理とは、文字通り色のついたアルマイト処理です。赤や青といった色はもちろん、白アルマイトや黒アルマイトもカラーアルマイトの一種になります。
方法は、アルミニウムの陽極酸化処理後、表面に出来た穴に有機塗料を閉じ込めて着色しています。金属表面に塗料を焼き付けるのと違い、剥がれにくいという特徴があります。塗料は、アクリル塗料やメラニン塗料などを使用するので、カラーバリエーションが豊富なところも魅力です。
ただし、カラーアルマイトは、紫外線や熱などに弱く、様々な影響で変退色します。そのため、建材などには用いられず、モバイル機器の筐体や化粧品容器、インテリア雑貨などに使われています。
また、カラーアルマイト処理を行う場合には、以下のような工程で進めます。
1〜5.上述したアルマイトの処理工程と同じ。
6.着色:有機塗料や溶剤などを溶かした電解液に浸漬して通電する電解着色で製品を着色。染料液中へ単に浸漬することで着色する場合もある。
7.封孔処理:染料の流出や汚れの付着を防止するために穴を塞ぐ。(封孔処理については上述)
8.水洗い後、枠外し:製品を枠から外す。
一方、硬質アルマイト処理は、文字通り硬度があるアルマイト処理です。
方法は、陽極酸化処理において、通常のアルマイト膜よりも硬く分厚い酸化皮膜を生成します。電解液に特殊な溶液を用いる、高電圧・高電流で通電する、低温の電解液で時間をかけて処理するなど、メーカー毎に多様な方法で硬く厚い酸化皮膜形成を実現しています。
硬質アルマイトは、通常のアルマイトと比較して、硬度(耐摩耗性)や耐食性、絶縁性、耐熱性などに優れているため、シャフトやロールなどの摺動部品、自動車のエンジン部品、航空機関連部品など、様々な用途で用いられています。
なお、色や硬度、皮膜の厚さについて、通常のアルマイトと硬質アルマイトを比較すると以下のようになります。
アルマイト処理は、製品に耐食性や絶縁性を付与するだけでなく、強度と美観も向上させることができます。
また、カラーアルマイトはアルミ製品のカラーバリエーションを多様化させ、硬質アルマイトは高い硬度が必要な機械部品までにもその用途を拡大させています。
難アルマイト素材と言われていた超ジュラルミンやダイキャストのアルマイト処理も、工場によりますが対応可能なところもあります。
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