志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
金属の加工方法の一つに「ローレット加工」があります。ローレットとは、フランス語を起源とする言葉でギザギザの形状を表します。つまり、ローレット加工とは金属表面に、細かい凹凸の加工を施す方法を指します。
実は、このローレット加工ですが、私たちの身近なところでもよく使われている技術なのです。例えば、ライターのローラーやダンベルのシャフト、シャープペンのグリップなどに使用されており、滑り止めとしての役割を果たしています。
今回は、ローレット加工について、その加工の種類やメリット・デメリット、ローレット加工に適した素材、加工事例など幅広く解説していきます。ローレット加工についてさらに知識を深めたい方や、ローレット加工でお悩みの方は、ぜひご一読ください。
ローレット加工とは、金属に細かい凹凸状の加工を施す加工方法を指します。その加工方法には、ワークの表面を削り取る切削加工とワークを転がしながら圧力を加えて変形させる転造加工があります。
切削加工では、主に旋盤で回転させているワークにローレット工具を押し付け、等間隔の溝を形成するように削り、表面に凹凸を付けます。
一方、転造加工では、施したい凹凸と同じ模様の工具をワークに押し付け、工具の形状を転写することで成形します。
ローレットには主に二つの役割があります。一つは、滑り止めとしての役割です。手や指が使用中に滑らない様に、ハンドル部品やネジの頭などで使用されます。もう一つは、抜け止め、回り止めとしての役割です。圧入する部品の接合部分にローレット加工を施すことで、摩擦や食い付きによる作用を付加することができます。他にも、模様をつけるという点で、意匠性の役割としても用いられます。
このように、ローレット加工は私たちの生活の中の様々なところで使用されている技術なのです。一般的に、ローレット加工では、平目、あや目という2種類の模様が用いられますが、他にも斜目、四角目などの特殊な形状もあります。
平目、あや目
斜目
四角目
また、ローレット加工は、主に日本の金属加工で使われている言葉で、英語圏などではナーリング加工と呼ばれます。これは、ローレットが単にフランス語のルレット(roulette)に由来し、ローレット加工と同様の加工法が英語圏ではナーリング加工と呼ばれているだけのことです。
このフランス語のルレットは、「小さい輪」や「小さくて回るもの」を語源とし、洋裁におけるギザギザの付いたローラで布地に刻み目を入れる道具を指す言葉です。この道具の形状や使用法から、ローレット加工という言葉が生まれたと考えられます。
一方、英語のナーリング(knurling)は、つまみネジなどに付けられたギザギザ形状などの模様を指し、日本で使われているローレットとほぼ同じ意味を持ちます。
ローレット加工は、加工方法によって切削・転造の2種類に分けられます。それでは、それぞれの加工方法の特徴について見ていきましょう。
切削タイプのローレット加工では、被削材にローレット駒を押し付けて削ることで加工を施します。金属を削るので、切りくずを排出します。主に、ツマミネジやインサートナットなどの加工に使用されます。加工には、必要な模様に応じて、下図のような工具を用います。
転造タイプのローレット加工では、ワークを削らず、工具を押しつけて圧力を加え、塑性変形を施すことで加工を行います。押し付けて盛り上げることから、盛り上げ加工と呼ばれることもあります。切削加工とは異なり、切りくずは排出されません。主に、熱圧入用インサートナットやインサートカラーなどの加工に使用されます。加工には、必要な模様に応じて、下図のような工具を用います。
参考記事:【板金加工】専門家が教える板金加工の「特徴・種類・材料」について!
ここからは、切削・転造の両加工方法について、それぞれのメリットを挙げていきます。
切りくずを排出する削りのため、抵抗が抑制され、工作機械への負担は小さくなります。
これは、工作機械への負担が少ないこととも関係しており、切削加工では、ワークの盛り上がりがほとんど生じないため、薄肉や長物、細物の加工に適しています。
工具の幅分しか加工を施すことができない転造加工とは異なり、連続して削り加工を行うことができる切削加工では、特に長尺ワークへの加工に向いています。
削らず押しつけて圧力をかける加工なので、切削加工と比べて短時間で加工することが可能です。
切削加工の工具と比較して、部品点数が少ないため工具が安価です。
切削加工では被削材に段差がある場合は、工具の干渉により段差の際まで加工することは難しいですが、転造加工では可能となります。
ここからは、切削・転造の両加工方法について、それぞれのデメリットを挙げていきます。
切削加工では、金属を削り切りくずを排出するため、素材径より小さくなってしまいます。
工具が干渉するため、フランジ(円筒形あるいは部材からはみ出すように出っ張った部分)の際まで加工を施すことはできません。
量産時には、工具摩耗によって切れが低下してしまうため、品質を保証するために工具の交換など管理を行う必要があります。
転造加工では押し付けて圧力をかけることで加工を施すため、工具の幅分しか掛けられず、長尺ワークの加工などには不向きです。
大きな抵抗が作用するため、工作機械への負担が大きく、塑性変形によって工作物の盛り上がりも大きくなります。
次は、ローレット加工に適している素材について見ていきましょう。下表に、切削・転造の両加工方法について、対応可能な材質をまとめています。
切削加工では、ほとんどの材質に対応可能ですが、難削材であるチタンの加工は対応が難しくなります。
一方、転造加工では塑性変形によって加工が行われるため、チタンや鋳鉄のような硬い材料への加工は難しく、さらに金属ではありませんが、樹脂などのもろい材料には加工ができません。
ここでは、ローレット加工の加工事例についてご紹介していきます。
<熱圧入用インサートナット(転造ローレット加工、材質:アルミ)>
<ツマミネジ(切削ローレット加工、材質:画像左からアルマイト、SUS303、アルミ)>
<熱圧入用インサートナット(転造ローレット加工、材質:快削鋼)>
今回は、ローレット加工(ナーリング加工)の詳細やその加工方法である切削加工と転造加工についてご説明しました。これらの加工法は、それぞれ異なる特徴を持ち、得意とする素材や形状も違います。
ローレット加工をご依頼する際は、解説した異なる点を考慮した上で適切な加工方法を選択しますが、ローレット加工に対応しているメーカーの多くは、得意とする加工法があるため、メーカー選びも重要となってきます。
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