2024-09-17
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
粉体塗装とは、パウダー状の塗料を金属に直接付着させて加熱し、乾燥させて固めることで塗膜とする塗装法です。
一般的な塗装に用いられる有機溶剤を全く使用しないため、環境や人体への影響が小さく、環境保全や健康増進への取り組みが強化されている現在、注目が集まっています。また、省資源性にも優れるほか、自動化しやすいという特徴もあります。これらの理由から、溶剤塗装からの転換が進んでおり、その市場は拡大しています。
この記事では、粉体塗装とは何かというところから、その方法や種類、特徴、メリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。
粉体塗装とは、パウダーコーティングとも呼ばれる、粉末状の塗料を用いる塗装のことです。細かく粉砕して粉状にした塗料(粉体塗料)を、塗装対象物に直接付着させ、高温で溶かしてから、乾燥させて固めることで塗膜を形成します。加熱して固化させることで塗膜を形成することから、焼付塗装の一種でもあります。
粉体塗料には、エポキシやポリエステルなどを含む熱硬化性のものと、ポリエチレンやナイロンなどを含む熱可塑性のものがあります。粉体塗料は、これら樹脂のほか、顔料、添加剤をパウダー状にしたものから構成されており、溶剤塗料や水性塗料の成分である有機溶剤や水などの溶媒は含みません。なお、ここでの添加剤とは、硬化剤や乾燥剤、消泡剤、フィラー(充填剤)などで、塗料の流動性・湿潤性の調整や塗料の脱気(空気を除去すること)などの機能を持ちます。
粉体塗装は、他の種類の塗装と同じく、塗装対象物の防錆や着色、耐候性向上、美観向上、機能性付与などが目的です。また、溶剤塗装に比べて、環境汚染や健康被害、火災などのリスクが低いため、溶剤塗装からの転換が進んでいます。
粉体塗装の方法には、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法があります。
●静電粉体塗装法
静電粉体塗装法は、アースに繋げてプラスに帯電させた塗装対象物へ、スプレーガンにてマイナスに帯電させた粉体塗料を噴射することで、塗料を静電的に対象物へ付着させる方法です。
この塗装法では、一般的に熱硬化性粉体塗料を使用し、加熱によって架橋と呼ばれる化学反応を誘起することで硬い塗膜を形成します。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動することはありません。
この塗装法では、以下の工程に従って塗装を行います。
1. 前処理…油脂成分を除去するアルカリ脱脂処理や錆を落とす酸洗処理、薬液などを洗い流す水洗処理を実施する処理工程。塗装の密着性向上を目的としており、素材によっては、塗膜のさらなる品質向上のために化成処理なども行う。
2. 水切り乾燥…乾燥炉で塗装対象物に付着した水分を完全に除去する処理工程。ブリスター(塗装膜下に残存した水分によって生じる気泡)と呼ばれる外観不良の発生を防止する。
3. 粉体塗装…粉体塗料を静電引力によって対象物に付着させる処理工程。
4. 焼付乾燥…塗装対象物に付着した塗料を180~200℃の高温に加熱した焼付炉で焼き付け乾燥させる処理工程。
5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。
静電粉体塗装法は、流動浸漬塗装法と比較すると、以下のような特徴を持ちます。
・塗装対象物の形状やサイズに対してあまり制約がない。
・均一な膜厚が得やすい。
・膜厚の調節が可能(30〜150μm)。
・電気を通さない素材には塗装できない。
●流動浸漬塗装法
流動浸漬塗装法は、事前に加熱した塗装対象物を、粉体塗料を圧縮空気によって流動させた流動浸漬槽と呼ばれる容器に入れることで、塗料を対象物の熱で溶かして付着させる方法です。
この塗装法では、一般的に熱可塑性粉体塗料が使用されます。熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して形状を変えることができ、冷却によって固化して塗膜とすることができる塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すると、再び軟化・溶融して固化します。
この塗装の工程は、以下の通りです。
1. 前処理…塗装の密着性向上を目的に、脱脂処理や酸洗処理、化成処理、水洗処理などを行う処理工程。
2. 予備加熱…塗装対象物を塗料の融点以上の温度に予熱する処理工程。
3. 流動浸漬…予熱した対象物を流動浸漬槽に入れることで、粉体塗料を対象物に接触させて溶かし付着させる処理工程。
4. 後加熱…塗膜の平滑性向上を目的に、塗装対象物に付着した塗料を融点以上の温度に加熱する処理工程。
5. 冷却…冷却して塗膜を形成する処理工程。
流動浸漬塗装法は、静電粉体塗装法と比べて、以下のような特徴を持ちます。
・塗装対象物のサイズが流動浸漬槽のサイズ以下に制限される
・塗装対象物が複雑な形状である場合、膜厚が不均一になりやすい。
・厚膜が一度の塗装で得られる(200〜1500μm)。
・厚膜の塗装が容易。
・粉体塗料の回収装置が不要。
・予熱を必要とする。
・膜厚の調節が難しい。
・電気を通さない素材にも塗装できる。
粉体塗装は、金属素材の製品を中心に、様々な分野で採用されています。
その使用分野は、下図に見られるように、金属家具や電気機器、建設・産業機械、機械・器具の割合が大きくなっています。
粉体塗装の具体的な使用例は、下表の通りとなっており、特に工業塗装に多く採用されています。
<粉体塗装の分野別使用例>
粉体塗装には、様々な特徴があります。ここでは、溶剤塗装や水性塗装と比較したときの粉体塗装の特徴について説明します。
参考:金属加工の板金塗装の見積りについて解説!塗装の種類ごとについてもご紹介!
粉体塗装は、塗膜の強度および耐久性が高いという特徴があります。
粉体塗装では、一度の塗装で厚膜の塗膜を形成することができます。その膜厚は、静電粉体塗装法で最大150μm、流動浸漬塗装法では最大1500μmにも達します。それは、一度の溶剤塗装による塗膜の厚さ約20μmと比較すると、数倍から数十倍の厚みに相当します。また、焼付塗装の一種であることから、塗膜自体の強度が高く、柔軟性にも優れます。
つまり、粉体塗装では、高強度で柔軟な分厚い塗膜が得られるのです。
従って、粉体塗装の塗膜は、傷が付きにくい上、温度・湿度変化が激しい環境でも、伸縮しやすいことにより、ヒビ割れや剥離などが発生しにくくなっています。それは、耐久性に優れ、寿命も長くなることを意味します。
粉体塗装の塗膜は、耐食性や耐候性、耐薬品性などの性能にも優れます。
粉体塗装では、その塗装方法から、塗装ムラが起きにくく、ピンホール(塗装面に生じる小穴)も発生しにくい塗膜となります。さらに、塗膜が分厚く、高い強度と耐久性を持つことも相まって、塗膜下の金属が空気に触れにくく、降雨なども塗膜下に浸透しにくくなっています。
そのため、粉体塗装の塗膜は、防錆性能をはじめとする塗装対象物の保護機能を高いレベルで発揮するのです。
粉体塗料は、溶媒を含まないという特徴があります。
溶剤塗装や水性塗装の塗料は、顔料・樹脂・添加剤といった塗膜を形成する成分以外に、これらの成分を溶解または分散させるシンナーなどの有機溶剤や水分を含んでいます。これらの溶媒は、塗料を塗装対象物に接着する役割を持っており、焼き付けや乾燥などの過程で揮発します(上右図参照)。
一方、粉体塗料は、塗膜を形成する成分のみから構成されています。そして、塗装の際には、溶媒の代わりに電気や熱の効果を利用することで、塗装対象物に付着させているのです(上左図参照)。
粉体塗装では、塗装時に塗装対象物に付着しなかった塗料を回収して再利用することが可能です。
粉体塗料は、溶剤塗料の有機溶剤や水性塗料の水のような揮発成分を含まないため、熱影響を受けなければ、変質することはほとんどありません。そのため、静電粉体塗装で噴射した塗料も、流動浸漬塗装法で流動させた塗料も回収すれば、再度使用することができます。
その点、溶剤塗料や水性塗料は、溶媒が揮発すると塗料が変質してしまうことがあり、多くの場合、変質してしまった塗料は再度使用することはできません。しかし、塗料を調整して揮発性を低下させても、乾燥して硬化するまでの時間が長くなり、作業性が下がってしまいます。
粉体塗料は、大気汚染や健康被害の原因となる揮発性有機化合物(VOC)を全く含みません。
VOCは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物のことで、溶剤塗料には20~60%、水性塗料には0~10%含まれている物質です。溶剤塗料には、塗料に対して5~50%がさらに投入され、希釈溶剤(シンナー)として使用されます(上図参照)。
その種類は、下表のように多様で、溶解する樹脂や用途に応じて塗料に混合されています。
<溶剤塗料や水性塗料に含まれる代表的なVOCの種類と性質・用途>
しかし、VOCは、以下のように大気汚染の原因となり、人体にも有害です。
●大気環境への影響
VOCは、大気中に拡散されると、光化学反応などを起こして変質します。変質したVOCは、光化学スモッグの原因となるほか、浮遊粒子状物質(SPM)を生成して、目や呼吸器などに悪影響を及ぼし、喘息やアレルギー疾患のリスクを増大させることが知られています。
●室内環境における人体への影響
VOCは、住宅の建材などから発生して、室内の空気を汚染し、シックハウス症候群や化学物質過敏症を引き起こすことがあります。
●作業環境における人体への影響
VOCは、塗装に従事する作業者に下表のような様々な症状を引き起こすことが報告されています。ただし、近年においては、毒性の高いVOCの使用が制限されており、以前よりも塗料の安全性は確保されています。
<毒性の高いVOCによって引き起こされる症状>
粉体塗装は、静電粉体塗装法と流動浸漬塗装法の双方について、いくつかの器具・設備が必要です。
<静電粉体塗装法の器具・設備>
・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)
・粉体塗装ブース
・静電粉体塗装機(静電ガン、静電コントローラー、ホース類など)
・粉体塗料回収装置
・焼付乾燥炉
・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具
・換気装置(塗装ブース用と建屋全体用の装置設置を推奨)
<流動浸漬塗装法の器具・設備>
・浸漬方式の洗浄設備(洗浄槽など)
・流動浸漬槽
・加熱炉
・防塵マスクや防塵ゴーグル、静電服、静電靴などの保護具
・換気装置(建屋全体用の装置設置を推奨)
なお、静電服と静電靴は、静電気による粉体塗料の着火によって発生する粉塵爆発の防止に必要な保護具です。粉塵爆発を防止するため、機器類の接地が必須であり、静電気対策床の設置なども推奨されます。
粉体塗装は、以下の理由から、工場などで施工しなくてはならず、現場での施工は現状の方法ではできません。
・据え置き型の設備が必要
・前処理に確実な洗浄や乾燥が必要
・塗装処理時に粉塵対策が必須
・焼き付け温度が高く、炉での加熱や乾燥が必要
粉体塗装は、工場での施工が標準的であることもあり、機械化や自動化に向いた塗装法です。
粉体塗装は、浸漬洗浄、炉での乾燥・加熱、静電引力や空気流動を利用した静電粉体塗装や流動浸漬塗装など、主要な処理工程の人手を排することが可能です。そのため、塗装対象物をフックに吊り下げるなどして、順番に洗浄槽、乾燥炉、塗装ブース、焼付乾燥炉と流していくことで、主要工程を完了させることができます。
粉体塗装では、様々な塗料が用いられますが、その塗料は、含有樹脂の熱に対する反応性から、熱硬化性粉体塗料と熱可塑性粉体塗料の2種類に分類されます。
熱硬化性粉体塗料は、加熱によって架橋反応を誘起することで、硬化する塗料です。一度硬化した塗料は、再度加熱しても硬いままで、軟化・流動しないという特徴があります。主に静電粉体塗装法で用いられる粉体塗料です。
熱硬化性粉体塗料は、含有する樹脂の系統によって特徴や塗装条件が異なるため、用途に応じた塗料を選ぶことができます。
下表は、代表的な樹脂系ごとの塗装条件や特徴、用途をまとめたものです。
<代表的な熱硬化性粉体塗料の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>
熱可塑性粉体塗料は、加熱によって軟化・溶融して変形し、冷却によって固化する塗料です。化学変化を伴わないため、再度加熱して冷却すれば、再び軟化・溶融して固化するという特徴があります。主に流動浸漬塗装法で用いられる粉体塗料です。
熱可塑性粉体塗料もまた、下表のように、いくつかの樹脂系があります。
<代表的な熱可塑性樹脂の樹脂系ごとの塗装条件・特徴・用途>
上述したように、粉体塗装には他の塗装法とは異なる多様な特徴がありますが、ここではその中でもメリットとなる特徴について紹介します。
<塗膜について>
・塗膜の強度が高い
・塗膜の耐久性が高い
・塗膜の性能が優れる
・厚い塗膜の形成が可能
・錆が発生しにくい
<方法について>
・一度の塗装で厚い塗膜を形成可能
・塗料の回収・再利用が可能
・塗装環境(温度・湿度など)の影響を受けにくい
・塗料の焼付処理が短時間で済む
・塗装の機械化・自動化が容易
<塗料について>
・塗料に有機溶剤(VOC)を含有しない
・臭気がない(有機溶剤は臭気を放つ)
<経済性について>
・塗料を無駄なく使用できる
・耐用年数が長い(15~20年)
<安全性について>
・VOCによる大気汚染や健康被害については考慮不要
・VOCによる火災の発生リスクがない
一方、粉体塗装には、以下のようなデメリットがあります。
<方法について>
・薄い塗膜の形成が困難(一般に30μm以上)
・焼付温度や予熱・加熱温度が高い
・塗装後に色の調整ができない
・色の微調整が難しい
・現場施工が困難
・塗り替えが困難
<経済性について>
・塗装設備が必要であるため、初期投資が掛かる
<安全性について>
・粉塵による健康被害のリスクがある
・粉塵爆発の発生リスクがある
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