2025-01-10
更新
大川 嘉雄
有限会社大川板金 取締役
創業50年、板金加工・機械加工等の金属加工を手掛ける有限会社大川板金で取締役を務める。町工場の3K(きつい、汚い、危険)イメージを変え、カッコいい人達で溢れる職場を目指している。
マーキングとは、製品または部品に商品名や型番、シリアルナンバーなどの印を付けることです。それらの印は、製品・部品の管理・追跡、盗難・偽造防止、IoTなどに利用されており、近年の製造者責任や製品の安全性に対する社会的要請などから、現在では必要不可欠なものとなっています。
しかし、従来のマーキング手法であるスタンプやラベル、少し前から利用されているインクジェットは、経年劣化や濡れなどで読めなくなったり、剥がれたりするリスクがあります。
そのため、近年では、製品・部品そのものに印を付けるレーザーマーキングや刻印などの手法が主流となっています。
この記事では、これらのマーキング手法の中でも、今後重要性が高まることが考えられるレーザーマーキングについて解説していきます。
引用元:3Dファイバーレーザー「3DファイバーレーザーTASTE」株式会社ヨコハマシステムズ
レーザーマーキングとは、対象物にレーザーを照射して、文字や記号、図形などの印を付けることです(上図参照)。レーザーで印を付けると言っても、その方法は様々で、対象物の表面を剥がしたり、削り取ったり、変色させたりすることによって実現します。
参考:レーザー刻印をしたい方必読!【金属別事例あり】適したレーザー・金属を徹底紹介!
そもそも、マーキングには、以下のような手法があります。
●手書き…作業員がペンなどで書く方法。手作業なので、作業速度に限界があり、人為ミスが起こる可能性もある。少量生産の場合のみ有効。
●スタンプ…インクが付着したスタンプを押し当てる方法。手押しと機械押しがある。印の潰れやかすれが起きやすい。印字内容の変更に手間が掛かり、場合によってはスタンプの作成が必要。
●ラベル…プリンターなどで印刷したラベルを対象物に貼り付ける方法。ラベル自体にコストが掛かる上、ラベルの作成・在庫管理に工数が必要となる。経年劣化や濡れに弱く、剥がれる危険性がある。
●刻印…打撃を加えることで素材そのものを凹ませる方法。金型をハンマーなどで手打ちする方法と、機械でプレスする方法がある。手間が掛かり、精度も悪い。金型のコストが高く、印字内容の変更には、金型の作成が必要。
●インクジェット…対象物に接触することなく、インクを吹き付ける方法。精度は比較的良く、処理速度も速い。印字内容の変更も容易。インクがかすれたり、消えたりするリスクがあるほか、インクなどにコストが掛かる。
これらの中でも、レーザーマーキングは、対象物そのものを加工する手法であり、レーザーによって対象物へ接触せずにマーキングする非接触マーキングに分類されます(下表参照)。
レーザーマーキングには、レーザー加工でマーキングすることに起因する様々な特徴があります。
レーザーマーキングは、対象物を直接加工して、対象物の形状や表面性状を変えることでマーキングする手法です。従って、その印は、厳しい環境で長期間使用されたとしても半永久的に消えることがありません。
その加工を行うレーザー加工機は、精密かつ高精度、高速であるため、小さな文字やディティールの細かい図形でも迅速にマーキングすることができます。
しかし、レーザーマーキングは、熱によってマーキングする手法であるため、着色できないという欠点があります。なお、印の色は、素材に依存しますが、多くの場合、黒やグレー、焦げ茶となります。
また、レーザー加工機が高価であるため、初期投資の負担が大きいというのも欠点と言えるでしょう。
参考:【レーザー加工】原理や種類、メリット・デメリットを専門家が紹介!!
レーザーマーキングには、以下の3種類のレーザー加工機が主に用いられます。
●ファイバーレーザー加工機…光ファイバーを媒質とする固体レーザー。光ファイバーでレーザー光を増幅させて高出力レーザーを実現する。
●YAG/YVO4レーザー加工機…化学組成がYAGやYVO4である結晶を媒質とする固体レーザー。結晶に光を当てることでレーザーを誘導放出させる。
●CO2レーザー加工機…CO2を媒質とする気体レーザー。CO2に光を当てることでレーザーを誘導放出させる。
レーザーマーキングは様々な素材に適用することができますが、対応素材は、下表のように、レーザー加工機によって異なります。
<レーザー加工機別レーザーマーキングの対応素材>
(◎:適合、◯:可能、×:不可)
レーザーマーキングは、長期間使用される製品に適用されることが多く、主に自動車や電気・電子、産業機械、医療、食品などの産業分野で利用されています。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
●輸送機器:自動車部品、電車のレール
●電気・電子:電子部品、半導体部品、家電製品の筐体
●産業機械:各種工具、金型
●医療:医療器具、ペースメーカー、アンプル、医薬品の樹脂製包装容器
●食品:飲料用缶、ペットボトル、食品の紙製包装容器
●建築:鋼材、バルブ、ケーブル
●その他:革製品、ゴルフ用具、カード、フィルム
これらの製品・部品には、例えば、以下のような情報がマーキングされます。
・製造年月日
・製造場所
・製造メーカー、製造者番号
・製品・部品の個体番号
・製品・部品の加工精度
・製品・部品のロットナンバー
・企業ロゴ
・規格の認証マーク
・シリアルナンバー
・購入者の氏名
ただし、最近では、印字する情報が膨大になっているため、データ容量の大きい2次元コード(QRコードなど)に情報を記録する例も多くなっています。
これらの情報は、以下のような用途に利用されています。
・製造履歴管理(トレーサビリティー管理)
・品質管理
・物流管理
・製品の互換性・品質・安全性の保証
・製品の環境保全に配慮した製造を保証
・製品の付加価値向上
・ブランド価値向上
・盗難・偽造防止
・IoT活用
なお、製造履歴管理とは、製品がいつ・どこで・だれによって製造されたのかを、生産から、流通、消費、再利用または廃棄までのどの時点においても追跡・確認できるように管理することです。
それぞれの用途で参照・利用される情報は、下表の通りです。
<レーザーマーキングの用途と各用途で参照・利用される情報>
レーザー加工によるマーキングには、「マスク方式」と「スキャン方式」の2種類の方式があります。
マスク方式は、面で照射したレーザー光をマスクに通すことで、目的の印となる部分は透過させ、残りの部分は遮蔽することでマーキングする方式です(上図参照)。
同一の印字内容であれば、高速にマーキングすることが可能です。しかし、様々なパターンを印字する場合には、印字内容に合わせてマスクを用意しなくてはならないため、手間とコストが掛かります。
スキャン方式は、1点に照射したレーザー光を目的の印となるように走査することでマーキングする方式です。レーザー光の走査は、スキャンミラーと呼ばれる鏡でレーザー光を反射させることで行います(上図参照)。
レーザー光の走査は、加工機に登録したデータに従って自動的に行うため、印字内容をマーキング対象ごとに変えることが可能です。そのため、ロット数やシリアル番号といった連番はもちろん、印字内容がガラリと変わっても連続的にマーキングすることができます。ただし、印字内容が増えると処理時間が長くなります。
レーザーマーキングは様々な素材に対応していますが、レーザー光に対する反応が素材によって変わるため、素材ごとに印字の方法が異なります。
その方法を分類すると、大きく以下の3種類に分けられます。
・表面層剥離
・掘り込み
・発色(変色)
表面層剥離は、対象物の表面に印刷や塗装、めっきなどの皮膜が施されている場合に、その皮膜を剥がす方法です(上図参照)。下地を露出させて下地の色を出し、皮膜の色とのコントラストを付けます。
掘り込みは、対象物の表面を削ったり、彫ったり、溶かしたりする方法です。
金属に対しては、単純に表面を彫って溝を形成する方法があり、陰影が付くことで文字などとして認識可能となります(上図参照)。そのほかに、薄く細かく削って凹凸を形成する方法もあり、光が乱反射されることで削った部分が白く見えます。
一方、樹脂に対しては、表面を溶かして浅い溝を形成する方法が一般的です。ただし、樹脂の種類によっては、溝に沿って盛り上がりが形成され、文字などとして認識しやすくなることがあります。
発色は、対象物の表面を変色させる方法です。
金属に対しては、表面を酸化させる方法があり、鉄やステンレス、超硬合金では黒色、アルミでは濃い灰色になります。なお、金属表面の酸化は、レーザー光の焦点をずらし、表面を削ることなく熱のみを伝えることで実現されます。
表面を焦がすことで黒色に変色させる方法もあり、木や紙類などに適用されます。
表面状態を変える方法もあり、ガラスは、表面に微細なクラックを入れたり、表面を溶かして結晶構造を変えたりすることで白色に見えるようになります。なお、高温にさらされたガラスは、一定条件下で、非晶質から結晶へと構造変化して透明さを消失する「失透」が起こります。
一方、樹脂に対しては、対象物に「発砲」「炭化」「化学変化」という3種の現象を引き起こす方法があります。
●発泡
発泡は、レーザー光を照射して樹脂の表面を熱することで、溶融させると同時に気泡を発生させて気泡を含んだまま凝固させる方法です。その発泡した部分は、隆起するとともに色が薄くなります(上図参照)。そのため、発泡によるマーキングは、濃い色の樹脂に向いており、濃色の樹脂に適用するほど、薄い色となった部分とのコントラストによって印の視認性が良くなります。
樹脂の種類によっては、予め熱によって蒸気を放出する添加剤を樹脂に混合しておくことで気泡を発生させます。
●炭化
炭化は、高エネルギーのレーザー光の照射によって、表面の樹脂を炭化させる方法です(上図参照)。ただし、酸素が存在すると樹脂が燃焼してしまうため、窒素やアルゴンなどの不活性ガスをシールドガスとして用います。
●化学変化
化学変化は、レーザー光の照射によって樹脂を加熱することで、樹脂中に混合している着色剤を分解したり、化学成分の組成を変化させたりなどして、色の変化を誘起する方法です。
レーザーマーキングは、スタンプやラベル、インクジェットなど、様々なマーキング手法の中でも、特に優れた点が多い手法であり、以下のようなメリットがあります。
レーザーマーキングは、以下のようなレーザー加工の優れた特性から、高い品質のマーキングを安定して行うことができます。
・コンピュータ制御によって自動化されているため、品質が安定している
・加熱領域が小さいため、変形などの熱影響が少ない
・非接触加工であるため、加工時の歪みや亀裂の発生が少ない
・レーザー光の出力安定性が高いため、加工ムラが少ない
レーザーマーキングは、指向性と集光性に優れたレーザー光を高精度かつ精密に位置制御することで、ピンポイントに照射して加工するため、複雑かつ微細なマーキングが可能です。他のマーキング手法では印字できない、小さな文字や記号、ディティールの細かい図形でもマーキングすることができます。
参考:レーザーでの精密微細加工とは?メリットやおすすめの工場もご紹介!
レーザーマーキングは、加工速度が速いレーザー加工を用いるため、高速にマーキングすることが可能です。他のどのマーキング手法と比べても、加工速度は速く、生産性の向上が期待できます。
レーザーマーキングは、対象物に直接物理的な加工を施すため、ラベルのように剥がれることがなく、インクを使用するスタンプやインクジェットのように消えてしまうこともありません。そのため、長期間用いられる製品の部品や筐体に適用されることが多く、印字内容も製造履歴などの重要な情報のマーキングに向いています。摩擦や熱などの外的影響を受けてにくいというメリットもあります。
レーザーマーキングは、素材によっては、複数のマーキング方法を選ぶことができます。
例えば、鋼であれば、彫って溝を印とする方法と酸化させて酸化膜を印とする方法があります。
レーザーマーキングは、スタンプやインクジェットのように環境負荷が大きい有機溶剤を含むインクを使用せず、ラベルのように印刷時に発生する台紙なども発生しないことから、環境への影響が比較的少ないマーキング手法です。
ただし、レーザーマーキングも、レーザー加工時に金属や樹脂などが蒸発したり、粉塵が発生したりして空気を汚染する恐れがあるため、集塵機などを用意する必要があります。
その一方で、レーザーマーキングには、以下のようなデメリットがあります。
レーザーマーキングは、対象物の表面を物理的に加工したり、表面で生じる化学的反応を利用したりすることでマーキングするため、印の色を選択できません。
印がはっきりとした赤や青などのビビッドカラーになることはほとんどなく、多くは黒色や灰色、こげ茶色、白色に仕上がります。
これらの色は、材質に依存するほか、対象物が樹脂の場合は、含有する着色剤や着色剤の性質に左右されます。そのため、予めレーザー光によって分解する着色剤を樹脂に添加し、レーザーマーキングを施すことで、着色剤の色と樹脂の色との間にコントラストを付けるといった手段も取られます。
消えないマーキングが可能というメリットは、逆にマーキングを消せないというデメリットにもなり得ます。
特に、対象物そのものを掘り込んで溝などを形成した場合は、消すことは不可能です。そのため、レーザー加工機に対する対象物の固定位置がズレて、許容範囲外にマーキングをしてしまったケースなどでは、修正不可能な不良となってしまいます。
レーザーマーキングは、加熱領域が非常に小さいレーザー加工によって実行しますが、わずかながらも熱影響があります。
例えば、厚みが1mm以下のステンレス鋼板に対して酸化によってマーキングする場合、マーキングの内容や大きさにもよりますが、局部的に熱歪みが発生する可能性があります。
レーザーマーキングは、ステンレスやアルミなどの表面を保護する酸化皮膜(不動態皮膜)が形成されている金属に適用すると、マーキングした部分は不動態皮膜が無くなってしまい、錆びやすくなります。
そのため、酸化皮膜を再生する不動態化などの処理が必要になります。
レーザーマーキングは、その加工機であるレーザー加工機が高価であるため、初期投資の負担が大きいというデメリットがあります。
レーザーマーキングは、対象物の材質によって、適切な加工方法を選んで適用する必要があります。上述した加工法の適用例を挙げると、下表のようになります。
<レーザーマーキングの加工例>
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