水素脆性割れとは?原因と対策、ベーキング処理

水素脆性割れとは、鋼材が水素を吸収することで靭性(粘り強さ)が低下して脆くなり、割れてしまう現象のことで、別名「水素脆化」とも呼ばれています。水素は、めっき・溶接・酸洗い・腐食などによって鋼材に吸収し、脆化を引き起こします。

水素脆性は、HRC(ロックウェル硬さ)40以上・抗張力130kgf/mm2などの、高張力鋼や高強度鋼で発生しやすいとされています。低強度の鋼にはほとんど影響を与えないとされていますが、水素の吸収量が多いと発生することもあり、一概にこの鋼材なら安心と言えるものはありません。

本記事では、このような水素脆性割れの原因と水素脆化割れの対策について解説します。

水素脆性割れの原因

水素を吸収することで脆化する原因は、「水素原子が集合することで分子になり内部圧力が上昇するため」や、「水素原子が鉄同士の結合を阻害して材料の強度を下げるため」などの説があるものの、はっきりとした原因は現状不明とされています。

引用元:鍋屋バイテック会社

また、水素脆性割れは、遅れ破壊も引き起こす可能性があります。遅れ破壊は、引張荷重がかかっている鋼材に塑性変形が見られないものの、応力が集中している部分にクラックが発生し、後に急速に破壊してしまう現象のことをいいます。

遅れ破壊は、橋梁などの建築物に使われている高力ボルトに見られやすい現象です。水素脆性割れと遅れ破壊は、酸洗いやめっきなどの過程で水素を吸収している恐れがあるため、橋梁の現場などでは1本のボルトが遅れ破壊を起こすと、同じロットで製造されたものすべての点検および交換を必要とする場合があります。

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水素脆性割れの対策、ベーキング処理

水素脆性割れを防ぐには、ベーキング処理を行うのが有効です。ベーキング処理とは、綴りである「baking」の名前の通り、200℃程度の温度で8~24時間ほど加熱する脱水素処理のことをいいます。

温度と加熱時間については、鋼材やめっき処理の内容によってさまざまです。例えば、高温にすることで硬度が低下する鋼材に対しては、高い温度での処理を避けなければなりません。その場合は、低い温度かつ長い時間をかけて処理します。めっき皮膜に厚みがあるものは、鋼材に吸収された水素が抜けにくくなるので、こちらも同様にベーキング処理の時間を長くする必要があります。

そのほかにベーキング処理で注意しておくべきポイントとして、「めっき後すぐにベーキング処理をしなかった」、「ベーキングの効果が低い亜鉛めっき・光沢めっきを行った」、「酸洗いの時間が長い、または高濃度の処理液を使用し、多くの水素を吸収した」などの場合は、水素が抜けにくく、水素脆性割れが起こる場合もあります。

ベーキング処理以外の対策としては、めっき工程において酸洗いを行う際、「低濃度の酸を使う」、「短時間で酸処理を終える」、「ショットブラストなどの機械的処理を利用して長時間の酸処理を避ける」といった方法も効果的です。

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