今回は「硬化層深さ」の種類や測定方法について解説します。
鋼は、炎焼入れ・高周波焼入れ・浸炭焼入れのような熱処理を行うと、表面が硬化します。硬化した部分のことを「硬化層」、硬化層の深さを「硬化層深さ」と呼びます。
上記の熱処理を行った鋼材は、表面からある程度の内部まで硬化層が得られますが、内部に行くほど硬さは低下します。硬化層深さはJIS規格にて、規定された一定の硬さまでの距離を「有効硬化深さ」、材料そのものの硬さまでの距離を「全硬化層深さ」として規定されています。これらの内容について詳しく見てみましょう。
硬化層深さとは、主に焼入れで硬化した層の深さのことを言います。炎焼入れ・高周波焼入れ・浸炭焼入れなどの熱処理では、硬化層深さが品質面において重要視されます。
硬化層深さは、JIS規格にて「有効硬化層深さ」と「全硬化層深さ」の2種類が規定されています。これらの測定方法として、一般的に硬さ試験を、簡便法としてマクロ組織試験が用いられています。
硬化層深さは、JIS規格にて、有効硬化層深さまたは全硬化層深さの2種類が定められています。特に有効硬化層深さについては、炎焼入れ・高周波焼入れによるものと、浸炭焼入れによるもので、規定の数値に違いがあります。
有効硬化層深さとは、JIS規格にて「硬化層の表面から、規定する限界硬さの位置までの距離」のことを指しています。
鋼の炎焼入れ及び高周波焼入れでの、有効硬化層の限界硬さの規定については以下表の通りです。通常、鋼の炎焼入れ及び高周波焼入れの焼戻し温度は200℃以下とします。
<有効硬化層の限界硬さ(鋼の炎焼入れ及び高周波焼入れ)>
※鋼の炭素含有率は、測定しようとする鋼の規格に規定された炭素含有率範囲の中央値とする。
引用元:JIS G 0559:2019 鋼の炎焼入及び高周波焼入硬化層深さ測定方法
また、鋼の炎焼入れ及び高周波焼入れでの限界硬さは、以下の式を用いる場合があります。
限界硬さの求め方
限界硬さ=0.80×最小表面硬さ
最小表面硬さとは、JIS規格にて、「要求された表面硬さをいい、その値については、受渡当事者間の協定による。」と定められています。
浸炭焼入れの場合の有効硬化深さは、「200°を超えない温度で焼戻しをした硬化層の表面から、ビッカース硬さ550(550HV)の位置までの距離」とJIS規格で定められています。
全硬化層深さとは、JIS規格にて「硬化層の表面から、硬化層と生地との物理的又は化学的性質の差異がもはや区別できない点に至るまでの距離」と定められています。ここでの「物理的性質」とは硬さで、「化学的性質」はマクロ組織のことを際します。
分かりやすく解説すると、上図のように炭素が材料の表面から内部に侵入している所までの距離を意味します。
炎焼入れ・高周波焼入れ・浸炭焼入れは、材料の表面を硬化させられますが、内部に行くほど硬さは低くなり、元の材料と同じ硬さの数値を示します。
そのため全硬化層深さは、元の材料と硬さが区別できなくなるまでの位置を意味しますが、有効硬化深さのように、明確な硬さの基準が設けられているわけではありません。
鋼の炎焼入れ・高周波焼入れ・浸炭焼入れの硬化層深さの測定方法は、JIS規格にて「硬さ試験」または「マクロ組織試験」による測定方法が採用されています。
今回は、これらの測定方法の概要についてご紹介します。
硬さ試験は、試験片の表面に垂直な断面の硬さ変化を読み取り、硬化層深さを測定する方法です。
硬さ試験は、試験片の断面の複数箇所に、硬さ試験機の圧子を押し込み、その部分にできた圧痕から硬さを求めます。試験片の表面から限界硬さ、または硬さが生地と同じになる位置までの距離を定めることで、有効硬化層深さと全硬化層深さが測定できます。
場合によっては、硬さ試験を2回実施して、「硬さ推移曲線」のグラフを2本作成し、それぞれから得た硬化層深さの平均値を採用することもあります。
圧子の押し込み方や、硬さの計測方法などによって、ビッカース硬さや、ヌープ硬さなどの種類が分かれていますが、JIS規格に準拠した鋼の炎焼入れ・高周波焼入れ・浸炭焼入れの硬化層深さの試験方法では、規定によりビッカース硬さが採用されていることが多いです。
試験片は、硬さ試験およびマクロ組織試験どちらの場合でも、実際に用いる製品から用意します。試験片の加工は、始めに材料を硬化した表面に対して垂直に切断し、研磨します。研磨後は適切な溶液を用いてエッチングを行います。マイクロビッカース硬さを適用する場合は、エッチングせず、研磨したままの表面にて試験します。
基本的に試験片は、製品の長手方向に垂直な部位を用います。長手方向がない場合は、受渡当事者間で協定する部分の表面から垂直な部位を用います。硬化層が薄い場合は、試験片を階段状にしたものや、傾斜面状にした試験片を用いる場合があります。
マクロ組織試験法は、試験片の切断面をエッチングして、低倍率の拡大鏡で観察し、硬化層深さを測定します。主に簡便法としてマクロ組織試験による測定が採用されます。
マクロ組織試験法は、硬さ試験と同様に、製品を硬化した表面から垂直に切断して材料を研磨し、適切な溶液を用いてエッチングします。
エッチング後は、エタノールまたは水で洗浄したあとに、20倍を超えない倍率の拡大鏡で、エッチングによる着色状況を見ます。
このとき、試験片の表面から、生地と異なって着色されている部分までの深さを測定すると、全硬化層深さが求められます。
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