板金における曲げ加工の限界について専門家が解説!

板金加工と聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか。

多数の方は自動車が思い浮かぶのではないでしょうか。実際には自動車だけでなく、家電製品の身近なものや工業製品といった普段目にしないものにまで幅広く使われている技術になります。

今回は板金の曲げ加工の限界ということで、曲げや穴加工に関係する限界値や製品適用時の注意点等を解説します。具体的な数値例も出していますので、ぜひ、板金加工(曲げ)への理解を深める参考にしてください。

曲げ加工による立ち上がりの限界値について

曲げ加工は上下に設置された二種類の金型を使用し、上の型(ヤゲン)と下の型(ダイ)に金属の板を挟んで加工していきます。ダイの金型には溝加工がされており、加工する板の板厚によってダイの溝幅が違ってきます。ダイは一般的に〇V(〇に数字が入る)という形で呼ばれ、表記の数字が溝の幅になります。

例:12V 溝の幅:12mm

引用元:海内工業株式会社

適切なダイの溝幅よりも狭いダイで加工すると、ワーク(金属板)に反りが発生したり、ダイによるワークへの曲げキズが深くなる場合があるので注意が必要です。

板金の完成形状によっては、金型に干渉して加工できない形状があります。曲げ加工として加工可能な範囲(限界値)は、設計内容や加工メーカーにより異なります。以下の道具を使用することで、曲げ加工が可能か、特殊な金型を用いない普通の型で曲げられるのかを確認できます。

使用する道具

  • ヤゲンの断面形状シート(下図左)
  • リターンベンドの限界グラフ(下図右)

引用元:海内工業株式会社         引用元:株式会社アマダ

ヤゲンの形状シートは実物の金型と同じ形状をしており、紙やプラスチックで作成した原寸大の形状見本や模型があれば、実際に押し当てることで干渉の有無を確認できます。

リターンベンドの限界グラフは、ヤゲン(金型)の寸法や形状を図示したもので、板金加工の完成寸法と比較することで加工可否の確認を行います。

曲げの限界高さ寸法について説明します。なお、曲げの限界高さ寸法(下図 L寸法の最小値)のことを最小フランジという言い方をする場合もあります。この最小とはワークの反りやキズつきが発生せず無理なく曲げられる範囲という意味になります。

引用元:日本電気化学株式会社

板厚と限界ダイ溝幅:板材の曲げが可能となる最大のダイ溝幅の関係については目安として以下の式で表すことができます。

4 × t = 限界ダイ溝幅 (90°曲げの加工時) t:金属板の板厚

曲げ加工は上のヤゲンと下のダイに板材を挟んでの加工になるので、板がこの溝に掛かっている必要があります。そのため、最小曲げ加工高さは限界ダイ溝幅に加え、溝幅の半分(4Vであれば2mm)の値と補正値(メーカーでの品質確保のための余裕)を考慮する必要があります。

曲げ加工による立ち上がりの限界値2t(限界ダイ溝幅4t × ½ (溝幅の半分)) + 補正値

引用元:株式会社小林機械

引用元:株式会社アマダ

上記限界値は考え方の一例であり、詳細はメーカーへの確認が必要です。

Mitsuriは板金加工を依頼できる多数のメーカーと提携しています。お気軽にお問い合わせください。

参考記事板金加工については以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。⇒第8回 板金加工の花形である【曲げ加工】の方法

板金の穴と曲げ加工の関係性について

板金加工後の製品組み立て時に部品が嵌らない、ネジが固くて入らないという場合は、曲げ加工の際に穴が変形している可能性があります。それは、曲げ加工が板材を押しつぶす圧縮という力と板材を引っ張りあげる引張という力の両方が1枚の板に働くためで、その力が働くことで板材が変形します。

穴の変形量は、曲げ部と穴の長さ(距離)によって変化します。穴位置と曲げ加工部との距離が長くなれば穴の変形量は小さくなり、逆に穴位置と曲げ加工部との距離が短くなれば穴の変形量は大きくなります。

穴の変形は穴の中心方向へ膨らみが発生するために起こります。シャフトやネジ以外でも、部品を組み合わせる際には干渉・ガタつきが発生する可能性があるため、穴位置が充分に曲げの加工位置から離れているかといった注意・考慮が必要になります。

穴位置と曲げ加工位置の距離が充分に取れない場合の解決策としては、膨らみが発生した部分を削る、または曲げ工程前に逃げの穴をつけることなどが挙げられます。

すでに量産化の体制となっている場合には、後工程のみの対応となってしまうため、試作・開発時に膨らみが発生するということの予測を立て、設計段階で穴位置と曲げ加工の距離、距離が取れない場合であれば逃げやぬすみを考慮しておく必要があります。

断面と穴の距離に関する限界について

前項で記載したように、曲げ加工時の加工部近傍に穴が存在すると、板材の変形により周辺の肉が引っ張られて穴が変形する可能性があります。このような変形を避けるためには、曲げ加工部の位置(断面)から穴は一定距離以上離して設計する必要があります。

曲げ位置(断面)と穴位置との限界加工距離の目安として、参考式を以下に示します。

f (穴の端から曲げの内側の距離) = 板厚 × 1.5 + r (曲げの内 R)

あくまで参考値ですので、板材の材質、タップ(雌ネジの穴加工)や設計的に意識した公差等が入った穴であれば、安全を見て余裕を取った方が良い場合もあります。

また、金型との関係でダレ(加工によって表面が丸みを帯びる)やカエリ(加工によって端部にカエリやバリ:ギザギザとした形状が発生)が発生する場合があります。そのため、ダレによって板材が穴の中心へ伸びることで、想定していた穴寸法よりも有効となる穴の寸法が小さくなったり、カエリが異物として残留し穴を塞いでしまうといったことを考慮する必要があります。

金型の形状や摩耗状況、板金の加工形状といったその時々での製造状況によっても条件は変わってきます。板金の適切な設計や加工をするためには、板金の加工特性を知っておくこと、メーカー毎に加工可能な限界値や製造条件を知っておくことが大切です。

まとめ

板金における曲げ加工の限界について解説しました。板金の曲げ限界は、上型(ヤゲン)と下型(ダイ)の形状によって変化します。金型形状による加工の可否は今回紹介した道具によって確認は可能ですが、詳細な確認は必ずメーカーへの相談が必要です。

穴加工された板金に曲げを行う場合、穴の中心方向へ膨らみが発生するため、穴位置は加工断面から適切な長さを取ること、穴位置と加工断面との長さが取れない場合には逃げ・ぬすみ等を作っておくことで部品の干渉を避けることができます。

穴加工の位置については、曲げ加工された板金の断面から加工可能な範囲(最小距離)があるため注意が必要です。金型の形状や摩耗状況、板金の加工形状といった製造状況によっても加工可能な範囲は変わってくるため、しっかりとメーカー選定を行う必要があります。

メーカーを選ぶ際には、ぜひMitsuriにご相談ください。日本全国で140社以上のメーカーと提携しているため、きっとご希望に沿うメーカーが見つかるでしょう。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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