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AlloyC276(ハステロイ)の化学成分、用途、機械的性質

2024-09-18

更新

この記事を監修した人

染谷 ひとみ

Mitsuri Media管理人

精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。

AlloyC276は、「ハステロイ C276」や「インコネル C276」としても知られる、ニッケルとクロム、モリブデンを主要成分とするニッケル合金です。

高い強度と耐熱性、優れた耐食性を持つ万能な合金ですが、加工性が悪く、特に切削加工が困難な難削材として知られています。

また、レアメタルであるモリブデンを多く含むことから高価で、価格は代表的なステンレス鋼である「SUS304」の数倍です。

AlloyC276は、酸・アルカリ・塩化物などに曝される化学工業装置や廃棄物処理設備などの高腐食環境で主に使用されている合金です。さらに、高温環境下において硫黄化合物などの腐食性物質に接触する排煙脱硫装置といった過酷な環境で用いられる製品にも用いられています。AlloyC276の比重は、8.89です。

AlloyC276の特徴と用途

AlloyC276の特徴は、高強度や高硬度、高靭性であることはもちろんですが、何より多様な腐食環境に対する優れた耐性にあります。

酸化性と還元性の両環境に対する高い耐食性を持ち、特に海水中では10年間浸漬しても全く腐食しません。また、1000℃以上の高温における耐酸化性にも優れています。そのため、多種類の腐食環境に曝される場合や腐食環境が変動する場合に有利です。孔食や隙間腐食、応力腐食割れにも強い耐性があります。

用途としては、腐食性の厳しい化学プラント、強い漂白剤が用いられる製紙工業用装置などが挙げられます。そのほか、海水を使う高濃度硫酸クーラーや濃硫酸を使う塩素ガスの乾燥装置など、多種類の腐食媒体に接触する環境下で使用されています。また、廃棄物処理設備など、様々な化学物質に触れる装置の材料にも最適です。耐熱性・耐熱性合金としての用途もあり、熱交換器や加熱装置といった高温環境においても優れた耐性を発揮します。

AlloyC276の化学成分

鋼種名 C(%) Co(%) Cr(%) Fe(%) Mn(%) Mo(%)
AlloyC276 0.010以下 2.5以下 14.5〜16.5 4.0〜7.0 1.0以下 15.00〜17.00
Ni(%) P(%) S(%) Si(%) W(%) -
残部 0.040以下 0.030以下 0.08以下 3.0〜4.5 -

AlloyC276の化学成分は、JIS規格(JIS H 4553:1999)にNW0276の名称で定められています(上表)。

AlloyC276は、主要成分として、ニッケル(Ni)を約60%、モリブデン(Mo)を約16%、クロム(Cr)を約15%含有するニッケル合金です。そのほか、鉄(Fe)を約5%、タングステン(W)を約4%含みます。

クロムとモリブデンを多く含有することにより、海水などに含まれる塩化物イオンによる腐食耐性を獲得しています。また、この耐性を含有するタングステンがさらに高めています。

金属組織の境界に炭化物が生じて腐食する「粒界腐食」にも強く、それは炭素(C)とシリコン(Si)の含有量が低いことが要因です。

モリブデンの高い含有率によって、孔食や隙間腐食がほぼ発生しないことも特徴です。

AlloyC276の機械的性質

鋼種名 引張強さ MPa 0.2%耐力 MPa 伸び %
AlloyC276 690以上 275以上 40以上

AlloyC276の機械的性質は、JIS規格(JIS G 4551:2099)においてNW0276の名称で上表の値を満たすものとして規定されています。

上表に示したAlloyC276の機械的性質は、ほとんどのオーステナイト系ステンレス鋼よりも高く、AlloyC276の高い強度や硬度を反映しています。また、加工硬化性も高く、冷間加工によって容易に上表の値は向上します。

参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!

AlloyC276の加工性と耐腐食性

AlloyC276は、高強度かつ高硬度で粘り強くもあるため、加工性は良くありません。難削材の一つですが、その中でも特に被削性が悪く、切削加工には高度な技術を必要とします。

板金加工については、熱間でも冷間でも可能ですが、いくつか注意点があります。

熱間においては、適切な加工温度範囲が狭く、またひずみ速度敏感性が高いために慎重な加工速度の設定が必要です。

冷間においては、AlloyC276の剛性の高さと加工硬化の起きやすさを考慮することが必要です。成形に多大なエネルギーを要し、場合によっては加工の間に焼鈍しを挟んだ数段階の冷間加工が必要になることがあります。

なお、AlloyC276の剛性と加工硬化性は、ほとんどのオーステナイト系ステンレス鋼よりも高くなっています。

ただし、溶接性には優れており、様々な溶接方法が適用可能です。溶接部の耐食性も非溶接部とほぼ変わらず、溶接部の有無を意識することなく使用することができます。

AlloyC276は、多様な腐食環境に対する耐性を持っており、酸化・還元媒体を用いる様々な化学プロセスで使用可能です。例えば、室温では、以下のような腐食環境に対する耐性があります。

<AlloyC276の腐食耐性(室温)>

・硫酸

・塩酸

・硝酸

・リン酸

・苛性ソーダ

具体的には、塩化鉄(II)・塩化銅(II)のような高濃度酸化塩、湿潤塩素ガス・次亜塩素酸塩溶液・二酸化塩素などの腐食性の強い塩素系酸化剤、ギ酸・酢酸・無水酢酸などの有機酸、さらに海水・塩水などにも高い腐食耐性を持っています。

また、高温においても以下の腐食環境に対して優れた耐性を示します。

<AlloyC276の腐食耐性(高温)>

・希硫酸

・濃塩酸

・希硝酸

・希リン酸

・濃リン酸

・苛性ソーダ

ただし、濃硫酸や希塩酸、濃硝酸に対しては、室温環境では優れた腐食耐性を持つものの、高温環境では最適な材料ではありません。

さらに、以下の腐食現象にも優れた耐性があります。

・孔食…表面のピンホール(小さな穴)などから内部に向かって進行する局部腐食

・隙間腐食…溶接個所などの細いすきまで起こる局部腐食

・応力腐食割れ…応力と腐食の共同作用で割れる経年損傷

参考:応力腐食割れをわかりやすく!3要素と対策方法

 

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