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焼き戻しの種類、メリット・デメリット、硬度、冷却方法

2024-09-17

更新

この記事を監修した人

志民 直人

技術営業、カスタマーサクセス

切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。

鋼を強くするための工程のひとつに「焼き入れ」があることは比較的よく知られています。緩んだ気持ちを引き締める時に使う「焼きを入れる」という言葉も、刀を作る際に一度熱した刀を水で冷やす「焼き入れ」から来ているため、鋼を強くするということを知らなくても何となく言葉を聞いたことがある人は少なくないでしょう。

ただ、単純に焼き入れをしただけでは鋼は決して強い素材ではないことを知っていますか?鋼を強くするためには、焼き入れと焼き戻しをセットで行う必要があります。

今回は、焼き入れの後に行われる「焼き戻し」について詳しく解説していきます。

焼き戻しとは?

鋼の熱処理は「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」という4つの工程に分かれています。その中で、焼き戻しは一度急激に冷やした鋼をもう一度加熱する処理のことを言います。一般的に焼き入れで硬くなった鋼は強度が弱く、すぐに壊れたり傷ついたりしてしまうため商品になりません。焼き戻しをすることで、粘り強くより強靭な鋼へと変化していきます。

焼き戻しは、そのまま長時間放置しておくと割れが発生してしまう可能性があるため、焼き入れ直後、1時間の間に行います。時間をかけて1回行うのではなく、時間内で焼き入れと焼き戻しを2~3回繰り返す方が、より靭性の高い鋼になります。

焼き戻しの種類

焼き戻しには低温焼戻しと高温焼戻しの2種類があります。それぞれ違った特徴をもっており、製品によっても使い分けられています。

低温焼戻し

低温焼戻しは、150℃~200℃の温度で行われる焼き戻しのこと。これにより、焼き入れによるストレスが軽減され、硬くて粘りのある素材へと変化します。

経年劣化しにくく、研磨割れや耐摩耗性にも優れているため、ナイフや包丁、切削工具など、耐摩耗性が要求される工具などに多く取り入れられています。

高温焼戻し

550℃~650℃で行われる焼き戻しのことを高温焼戻しと呼んでいます。

低温焼戻しよりもさらに高い強さを持つ素材となるため、高級刃物や歯車、シャフトなど、強靭性が求められる工具の製造に多く用いられています。

焼き戻しのメリット

焼き入れで硬くなった鋼に焼き戻しをすることで粘りや強靭性の高い鋼になります。さらに、高温焼戻し・低温焼戻しの特徴を把握することで、製造したい部品が求められている強度や硬度等に合わせて調整することが可能です。

焼き戻しのデメリット

実際に焼き戻しをすると、場合によっては靭性が増すどころか、逆に脆弱性が高くなってしまうケースがあります。これを解消するための手段として、低温焼戻しと高温焼戻しには、温度管理が徹底されています。

低温焼戻しの脆弱

低温焼戻しは、急速に冷やすと歪みや割れを起こしてしまう可能性があるため、空冷などを使って少しずつ冷やしていくことが望まれます。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、必要以上に温度を上げ過ぎないことが低温焼戻しの鉄則となります。

高温焼戻しの脆弱

高温焼戻しは、一度目の急冷で焼き割れと同じような割れが発生する可能性があるため、必ず二回以上行う必要があります。また、鋼は300℃~400℃で脆弱性が増してしまうため、温度を下げる際に急速な冷却が必要とされます。

焼き戻しに伴う硬度の推移

焼き戻しによって、鋼の強度は増しますが、必ずしも硬くなるとは限りません。素材にもよりますが、多くの素材が500℃~600度で二次硬化を起こし、その後は急激に軟化していきます。

ただし、硬い=強靭というわけではないため、硬さが求められる場合と強靭性が求められる場合とでは、素材選びや焼き戻しの温度選びなどをうまく調整する必要があります。目的や用途に合わせて素材や温度を調整することで、求められている硬さ、強靭性を持つ素材が完成します。

焼き戻しの冷却方法

焼き入れの後、温度を上昇させる焼き戻しですが、繰り返し作業を行うため、一度上げた温度をまた下げる必要があります。

低温焼戻しでは、急激に冷やすと歪みや割れが生じてしまうため、空冷などでゆっくり冷やします。一方、高温焼戻しではゆっくり冷却すると鋼に脆弱性が生じる300℃から400℃の温度で長時間温度が維持されてしまうため、急激に冷却することが求められます。

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