SUS304Lは、【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】などに規定されている、オーステナイト系ステンレス鋼の一種です。SUS304から炭素の含有量を減らした低炭素鋼で、耐粒界腐食性に優れています。
材質記号に「L」が付いたステンレス鋼は、Lグレードと呼ばれており、およそ550~900℃の程度の温度に加熱すると腐食しやすくなる「鋭敏化」のリスクを軽減できます。鋭敏化による腐食を「粒界腐食」と呼びますが、SUS304Lは粒界腐食に強い材料として活用されています。
SUS304Lの主な用途は、化学工業・製紙工業・石油精製です。SUS304Lの比重は7.93です。相当材として、ISO規格のX2CrNi18-9、EN規格の1.4307、AISI規格の304Lなどがあります。
SUS304Lの化学成分
SUSの化学成分(単位:%)
種類の記号 | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | Cu | N | その他 |
SUS304L | 0.030 以下 | 1.00 以下 | 2.00 以下 | 0.045 以下 | 0.030 以下 | 9.00~13.00 | 18.00~ 20.00 | - | - | - | - |
SUS304 | 0.08以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 8.00~10.50 | 18.00~20.00 |
引用元:JIS G 4303:2012
上表は、【ステンレス鋼棒 JIS G 4303】から抜粋したものです。比較のためにSUS304の数値も記述しています。
SUS304は、一般的に0.06%程度の炭素(C)を含有しています。一方で、SUS304Lは炭素量が0.030%以下と少ないのが見て分かります。
炭素量が少ないことで、ステンレス鋼が550~900℃程度加熱された際に発生する、炭素とクロムの結合(鋭敏化)を防止します。鋭敏化は650℃前後で発生しやすく、溶接の際に注意する必要がありますが、SUS304Lであれば、鋭敏化による腐食を避けて溶接できます。
SUS304Lの機械的性質
<SUS304Lの固溶化熱処理状態の機械的性質>
種類の記号 | 耐力 Mpa (N/mm2) | 引張強さ Mpa (N/mm2) | 伸び | 絞り | 硬さ | ||
HBW | HRBS 又は HRBW | HV | |||||
SUS304L | 175以上 | 480以上 | 40以上 | 60以上 | 187以下 | 90以下 | 200以下 |
引用元:JIS G 4303:2012
SUS304Lの加工性、切削性
SUS304Lは、溶接性に優れているほか、深絞りや曲げ加工などの冷間加工性も良好です。
一般的にオーステナイト系ステンレス鋼は、鋭敏化を避けるために、溶接後に固溶化熱処理を行います。しかし、SUS304Lのような低炭素オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素量が少ないことから、固溶化熱処理なしでも、サビの原因となるクロム炭化物の生成を防止し、溶接後も耐食性が十分に保持できます。また、焼きなましに関しては、応力の負荷が大きくかかる環境でのみ行われます。
切削に関しては、SUS304と同じく熱伝導率が乏しいことから困難です。
通常、切削加工を行うと、工具のチップに発生する熱はワークなどに分散します。しかし、SUS304Lは熱伝導率に乏しいので、チップに熱がたまり、工具の破損を引き起こしやすい傾向にあります。
加工熱の対策は加工業者によって異なり、仕上がりにも違いが出てきます。そのため、もしSUS304Lの切削加工を依頼する場合は、ステンレス加工を得意とする業者を選ぶようにしましょう。