染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
ステンレス鋼は耐食性が高いですが、主に屋外で使用される場合は汚れ・水分・塩分の付着やもらい錆びで錆びることがあります。しかし、塗装することで耐食性の向上が図れるため、ステンレス鋼の表面処理として塗装が近年注目されています。需要を伸ばしているのは、メッキや化学発色に比べ塗装のコストが安いためです。ステンレス塗装は、耐食性などの機能性に加えて着色などによる意匠性もアップできるため、用途も多様化しています。
塗装が剥離しやすいステンレスに、耐久性のある塗装をするには、塗膜の密着性が必要で、塗装工程が重要です。
本記事では、剥離しにくいステンレス塗装を施すための工程からその効果、製品事例までをご紹介します。
結論を言うと、ステンレスに塗装することは可能です。しかし、ステンレスにただ塗装を施すだけでは、剥離しやすい塗装になってしまいます。そのため、ステンレスは、塗装をする前に下処理をしなければならないのです。
それでは、ステンレスの塗装が剥離しやすい理由や下処理が必要な理由に加え、ステンレスに塗装は本当に必要なのかを紐解いてみましょう。
ステンレスは、鉄にクロム、種類によりニッケル・マンガンなどが含まれています。
例えば、一般的に金属加工によく用いられるステンレスのSUS304には、鉄の他にクロム18%、ニッケル8%が含まれています。SUS304のように、ほとんどが錆びやすい鉄でできているにも関わらず錆びにくいのは、ステンレスに含まれているクロムに秘密があります。
ステンレスに含まれるクロムは、酸素と結合して酸化クロムになり、ステンレス表面にnm(ナノメートル:1/1,000,000mm)という極薄い緻密な酸化被膜を形成して金属表面を覆っています。この表面を覆う酸化被膜が、周囲の気体や液体を金属から遮断して保護するため、防食性・耐食性が高くなり錆びにくいのです。
耐食性を高めるというメリットがある酸化被膜は、塗装する時には逆に付着性能を下げ、剥離しやすくするというデメリットになります。
そのため、ステンレスを塗装するためには、表面の酸化被膜を取り除く下処理が必要になってくるのです。詳しくは「ステンレス塗装の工程」で後述します。
ステンレス表面を覆う酸化被膜は非常に薄い膜なので、強い酸やハロゲン系イオン、500℃を超える熱にさらされたり、電解質中で他の金属と接触したり、亀裂や傷が付いたりすることで、ステンレスも腐食することがあります。
そのため、ステンレス表面の被膜を厚くし、防食性・耐食性などを高める方法の一つとして、ステンレスに塗装する必要があるのです。
ステンレス塗装の工程
引用元:株式会社ケミコ―ト
ステンレス塗装の一般的な表面処理であるリン酸亜鉛処理の工程は、上図の流れになります。これは、ステンレス塗装の一例ですが、素材加工したものを表面処理してから塗装します。剥がれにくい塗装を施すには、前処理の工程が欠かせません。
ステンレスの塗料は、焼付塗料と常乾塗料があり、それぞれ下塗り(プライマー)と上塗りをします。下塗り後に上塗りをすることで、塗料膜を厚く強固にし、耐久性アップが可能です。
上塗り用塗料には、メラミン樹脂塗料やアクリル塗料他、用途や機能性に合わせて色々選択できます。
参考記事塗装前処理については、下記記事もご覧ください。⇒「塗装前処理とは?目的や工程の流れについて専門家が解説!」
ステンレスは、50%以上が鉄でクロムを10.5%以上含む錆びにくい合金です。ステンレスが錆びにくいのは、ステンレスに含まれるクロムが、金属表面に酸化物の皮膜を作り、空気や液体を防ぐ保護膜となり化学反応を妨げているからです。
この酸化物の皮膜のことを「酸化皮膜」、または「不働態皮膜」といいます。
一方、酸化皮膜はメリットもありますが、塗装にはデメリットをもたらすこともあります。塗装の付着を悪くし、塗装剥離の原因を作ることがあるからです。
剥離しにくい塗装をステンレスにするには、塗膜とステンレス表面の高い密着性が必要です。そのため、均一に覆っていない酸化皮膜や錆(酸化物)は、塗装の前処理で完全に除去しなければなりません。
これが、耐食性の高いステンレス塗装のために、前処理が必要な理由です。
表面処理は、 塗装のために欠かせない前処理工程になります。塗装前の主な表面処理には、脱脂・水洗・表面調整・化成皮膜があります。それぞれの工程の種類や方法を解説します。
脱脂は、防錆や加工のために金属表面に付いた油分やゴミを、きれいに除去するために行われます。金属の表面が塗装を弾き、塗装不良を起こさないようにするための処理です。
脱脂には、物理的方法と科学的方法があります。物理的な脱脂方法には、研磨剤を吹き付けるショットブラスト法と高温の蒸気を吹き付ける水蒸気法があります。
科学的な脱脂方法は、溶剤やアルカリ液、酸性液を使う方法です。ロットが少ない場合は溶剤脱脂、大ロットの場合は、アルカリ脱脂がおすすめです。
各工程の合間にある水洗は、前行程で使用した薬品等の残留物を十分除去してから、次の工程に移るための大切な工程です。水洗することで、次の工程の処理精度や薬品の処理効果を高めたり、加工時間を短縮したりします。
加工によってできる金属表面のスケール(焼け)やキズは、ステンレスの耐食性や塗装剥離の要因になりやすいため、表面調整が必要です。表面調整は、皮膜化成(後述)の性能をアップし、処理時間の短縮をするための工程になります。特に電着塗装をする場合は、薄い均一性の高い化成皮膜を作ることが、耐食性を向上させる鍵になりますので重要です。
引用元:有限会社ブレイヴオート
化成処理とは、金属の表面に化学反応を起こして皮膜を形成し、耐食性や塗装の密着性、意匠性などを高めるための処理です。素材の金属に、足りない性質を加えるための前処理になります。上画像は、右側のみ化成処理し、素材の表面にアンカーが立ったため、撥水性が無くなった状態です。化成皮膜処理は、このように液体を弾かなくすることができるため、ステンレス鋼の塗装に密着性を加え、剥離を防ぐことができます。化成処理には、クロメート処理・リン酸塩皮膜処理・黒染処理があります。
塗布型クロメートの場合は、処理液を塗布して乾燥し、金属表面にクロム酸クロムを主体とした皮膜を形成します。塗布型クロメート処理は、塗布して乾燥するだけで 水洗が必要ないため、重金属の排水が出ず、環境にも良い化成処理法です。
ステンレス塗装には3種類ありますが、その中の焼付塗装を例に挙げます。ステンレスを焼付け塗装する工程は、1回の焼き付け塗装の場合、まず溶剤脱脂の前処理をした後、塗布型クロメート処理します。次に、下塗りプライマー、上塗り指定色を順にコートしていき、焼付けて乾燥させれば2Coat1Bake(ツーコートワンベイク)の完成です。
ステンレス塗装の種類について詳しくは、後述します。
下塗りプライマーは、水性と油性があります。ステンレスの場合、下地の強化や密着力を求めるため、油性の下塗り剤が適しています。塗料の乾きが早いため作業効率は良いですが、においは強烈です。
表面強化に適した浸透性プライマーや防錆機能のあるプライマーもあります。
ステンレスの塗料には、焼付塗料と常乾塗料があります。それぞれ下塗りプライマーを塗布した後上塗りすることで、塗料膜を厚く強固にして耐久性をアップします。常乾塗料は、建材などの大きな制作物によく使われ、焼付け塗料は眼鏡やアクセサリーなどの宝飾品から工業製品まで対応できます。
焼付け塗装の上塗り塗料は、メラミン樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、アクリル樹脂塗料などがあります。
製品の大きさや用途に合わせ、最適な塗料を選ぶことが大事です。
ステンレス塗装の主な役割は、耐傷付き性・耐水性や耐紫外線性などの耐候性・耐食性・意匠性・機能性を与えることです。
塗装をすることで、ステンレスの表面に丈夫な皮膜を作り、傷がつくのを防いで保護します。
耐候性とは、屋外の自然環境において、太陽光・温度・湿度・雨などに耐えられる性質を持っていることをいいます。劣化の要因となる光・水・熱を塗装で防ぐことで、製品の寿命を伸ばせるのです。耐水性や耐紫外線性なども、耐候性に含まれます。
耐食性とは、腐食しにくい、さびにくい、酸化しにくいことです。塗装することで耐食性をアップし、さらに腐食に強いステンレスにすることができます。
塗装による彩色で、美観やデザイン性を与えたり、ステンレスに暖かみなどの表情を与えたりします。これにより、ステンレス製品の用途を広げることが可能です。
ステンレス塗装の機能性には、光触媒・蓄光・遮熱・抗菌・防カビから、耐指紋性(指紋が付きにくい、取れやすい)など、多種多様な機能を持つ機能性塗料があります。
引用元:富士電装株式会社
ステンレス塗装の方法は大きく分けて、①樹脂塗装、②焼付塗装(上画像)、③電着塗装の3種類があります。
樹脂塗装は、自然乾燥で硬化する塗装法です。主な樹脂塗装に、常温~80℃ほどの低温で硬化するウレタン塗装がありますが、 樹脂の分子同士がウレタン結合するため密着性が良く、硬く耐酸性・耐アルカリ性に優れた膜が形成できます。
樹脂塗装は、主に焼付塗装できない製品に用いられ、プラスチック製品やアルミダイキャストなど、高温にすると不具合や変形、そりが起きる材料などの塗装に用いられます。
また、通常焼付塗装できる材料でも、焼付炉に入らない大物などを塗装する場合は、自然乾燥で硬化できる樹脂塗装をします。
焼付塗装は、樹脂の塗膜に熱をかけて硬化させる塗装法です。焼き付ける温度は、100~200℃以上まで、塗料の種類により様々あります。アクリル樹脂塗料で、通常160~180℃で20~30分ほど焼き付けます。
焼付塗装の他に電着塗装がありますが、主流はカチオンになっています。「カチオン」とはプラス電荷をもった陽イオンのことで、マイナス電荷をもった陰イオンである「アニオン」と、磁石のようにプラスマイナスで引き合い、強く密着します。
この強い密着性を利用し、水溶性の塗料の中に塗装したい金属を浸け、電気を流すことで陽極にした塗膜成分(カチオン)を陰極にした金属表面(アニオン)に密着させるのが、カチオン電着塗装です。
ステンレス塗装の製品事例を5つご紹介します。
上水道のステンレス製配水池・受水槽の製品事例です。ステンレスは、耐久性・耐震性にも優れた性質を持つため、安全な飲料水の確保や緊急時のライフラインの確保に役立ちます。内部は塗装していませんが、屋外設置のため外回りに耐候性のある塗装をしています。
引用元:株式会社UACJ金属加工
厨房施設用のステンレスのパンチングかごの製品事例。材質はSUS304板厚t1.0mmです。
引用元:株式会社都留
屋外仕様ステンレス電源機器ケースの製品事例です。屋外設置のため、SUS304板厚t1.0mmに塗装とシルク処理(銘版印刷)を施しています。
引用元:株式会社都留
電力機器ケースの塗装の製品事例です。SUS304板厚t1.2mmにタレパン、ベンダー、溶接、スポット溶接し、塗装しています。屋外仕様のため、塗装を施しました。
引用元:株式会社 都留
ステンレスに粉体塗装を施した3つの製品事例。粉体塗装は、塗装膜が厚いことで、耐食性に強く劣化・変質しにくく、コスト削減および低公害塗装としておすすめの塗装法です。
引用元:ユニオン電装
ご紹介した製品事例のような剥離しにくいステンレス塗装を施すためには、前処理などの工程が大切です。塗装の効果にも様々あり、意匠性や機能性の進歩や技術開発で、さらに色々なニーズの多様化が見込めます。塗装で表面仕上げをすることで、数種の色調にできる上、安いコストでステンレスの制作物に意匠性や機能性をプラスすることができるからです。
ステンレスは100%リサイクル可能なので、環境にも優しい金属として社会的にも注目度が高く、塗装の需要もさらに伸びていくことでしょう。
塗装のステンレス鋼板は、建築物の屋根用としてよく使われますが、デザイン性の高いステンレス製品への塗装も、日本全国に提携工場が140社以上あるMitsuriなら対応可能です!ぜひご相談ください。
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