志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
今回はステンレスの種類・特徴や切削加工時の工具選定などのポイントについて解説します。
ステンレスはサビにくく、強度も備えた材料です。その優れた性質から、さまざまな用途で採用されています。しかし難削材とも呼ばれる材料で、被削性に乏しい特徴もあります。
ステンレスの鋼種はJIS規格に記載されているものだけでも豊富にあるほか、メーカーによっては独自で開発した鋼種まであります。鋼種の違いによって特性に違いがあり、それぞれに適した用途で使い分けられます。
ステンレスは耐食性や強度に優れている一方で、難削材とも言われる鋼材です。
その理由は、一般的な鋼に比べて熱伝導性が低いことと、加工硬化が発生しやすい点にあります。熱伝導性が低いと切削加工を行った際に刃先に熱が集中し、切粉が逃げにくくなります。また、熱が溜まった刃物は破損しやすくなってしまいます。
加工硬化とは、金属に負荷をかけると金属が硬くなる現象のことで、ステンレスの切削加工においては、適切な刃物や切削条件を選ぶ必要があります。
参考:加工硬化とはどんな現象?仕組み・影響・扱い方をご紹介!
ステンレスを切削する際の工具材質は、耐摩耗性に優れたコーティング付き超硬合金製のものが有効です。
工具の形状については、エンドミルの場合、強ねじれ刃が熱による負担を軽減できます。剛性があり、刃にかかる負担が少ない多刃やポジティブすくい角などの形状も効果的です。
ドリルで穴あけ加工を行う場合は、ねじれ角が途中で変化したデュアルリードドリルが有効です。デュアルリードドリルを用いることで、切粉の排出性と剛性を両立できます。
ステンレスは切削加工で一定以上の負荷がかかると硬化してしまう特性があるので、温度が高くなりすぎないようにクーラントを必要とします。クーラントは切削箇所にエアーを供給するので十分ですが、仕上げ切削では、切れ刃の逃げ面側にオイルミストを供給すると、逃げ面の摩耗を抑えられ、切削面精度と工具寿命の向上が期待できます。
エンドミルでステンレスを切削加工する際は、切込み量を少なめ、送り量(mm/刃)を多く設定するのがポイントです。
参考:切削油(クーラント液)の種類、成分、メリット・デメリット
オーステナイト系のステンレスは、18クロム-8ニッケルのSUS304が代表的です。延性と靭性に優れており、深絞りや曲げ加工などの冷間加工性や溶接性も良好です。耐食性にも優れた材料なので、幅広い用途で採用されています。製造量は全ステンレスのなかでも多く、薄板・厚板・棒・管・線など、形状も全般的にラインナップされています。
オーステナイト系ステンレスの切削加工については、粘り気があり、加工硬化を起こしやすいことから適していません。
フェライト系のステンレスは、18クロム系のSUS430が代表的です。
熱処理により硬化することが少なく、主に焼なまし状態で使われています。マルテンサイト系よりも成形加工性・耐食性が優れており、溶接性も乏しくないことから、厨房用品や建築内装、自動車部品などの一般耐食用として採用されています。形状は主に薄板や線がラインナップされています。
フェライト系ステンレスの切削加工は、オーステナイト系に比べて加工硬化しにくく、加工変態(オーステナイトがマルテンサイトに変化すること)も起こらないため、加工難度は低い傾向にあります。
二相系のステンレスは、オーステナイトとフェライトの2つの金属組織をもちます。
物理的性質については、オーステナイトとフェライトの中間になります。耐海水性と耐応力腐食割れ性に優れているほか、強度も良好です。これらの特性から、海水や工業用水を用いるポンプなどに利用されています。二相系の形状は、主に厚板や管、鋳物が代表的です。
二相系ステンレスは、オーステナイト系に匹敵する加工硬化性を示すため、難削材に該当します。
参考:二相系(オーステナイト・フェライト系)ステンレス鋼の基礎知識まとめ
マルテンサイト系のステンレスは、13クロム系のSUS403・SUS410が代表的です。
マルテンサイト系は焼入れにて硬化し、成分と熱処理条件を選ぶことで、さまざまな性質が得られます。フェライト系とオーステナイト系よりも乏しいものの耐食性もあります。そのほかに、耐熱性や耐酸化性に優れているのも特徴です。用途は高強度・耐食性・耐熱性を要する機械構造用部品が挙げられます。
マルテンサイト系ステンレスの形状は、主に棒鋼や平鋼で使われていることがほとんどです。
マルテンサイト系は硬くて加工しにくいため、焼きなましをしてから加工を行うのが一般的です。焼きなまし状態では、フェライト系と同等の被削性になります。
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