2024-09-09
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
せっかく板金部品の設計を終え、部品の製作に取り掛かりたくても、加工工場から断られ続けてしまい、設計をし直す必要が出てきてしまうことはないでしょうか。
断られ続けているにも関わらず、どの部分を設計し直したらいいのかも明確にわからないまま修正を進めていることはないでしょうか。
板金加工は、工程ごとに加工範囲があり、どの工程で加工できない形状になってしまっているのか判断がつきにくいでしょう。
今回は切断加工のみに重点を置いて解説します。
「曲げや溶接が不要なプレートであるにもかかわらず、なぜか加工を断られてしまう」
「過去に加工可能だった似たようなプレートが今回は加工できないと言われる」
今回はこのようなお悩みを解消できるように解説いたします。
工場が加工できないために、見積や製作を断る際は必ず理由があります。
加工をお断りするときは、大きく2つのパターンがあります。
では、それぞれ具体的にどのような事例があるか解説していきます。
製品の端と穴の端が近すぎるとレーザーで加工した際に、熱で溶けてしまう場合があります。特に角穴や複雑な形状の穴は、レーザー加工が唯一の選択となる場合が多く、細い部分が熱で溶けてしまうリスクが発生します。φ20程度までの丸穴の場合は、キリ加工で対応できる場合もあります。
一般的に、製品の端と穴の端の距離が板厚よりも短いと加工が困難となることが多いです。例えば、板厚が3mmの材料を考えた場合、製品の端と穴の端との距離が3mm未満になると、加工ができなくなるケースが多くなります。
穴の端と穴の端の距離についても、同様の問題が生じます。具体的には、この距離が板厚未満になると、加工が困難となることが頻繁に起こります。
同様に板厚3mmの材料で考えた場合、穴の端同士の距離は3mm以上キープするようにしましょう。
細長い形状の部品は、レーザー加工では厳しくなります。
特に繊細で細長い部分がレーザー加工時の熱で溶けてしまう場合があります。繊細であればあるほど加工難易度が上がります。
製品が大きくても全体が細長い場合は、レーザー加工時の熱により全体的に歪みが発生します。歪みが発生した場合は、「レベラー加工」という歪みを戻す加工で戻す場合もあります。しかしながら、レベラー加工を行える工場は非常に限られています。レベラー加工をできない工場が大半ですので、フラットバーに置き換えることができる場合は、板材ではなくフラットバーからの加工を検討しましょう。
製品が大きくても全体が細長い場合、例えば25mm×1000mmというような2桁×4桁の寸法になると歪みのリスクが非常に大きくなり、加工が厳しくなります。
レーザー加工、タレパン加工、シャーリング加工それぞれの加工方法に加工範囲があります。
この加工範囲には、「材料サイズ」と「材質と厚さ」が関わってきます。どちらも工場の設備力で大きく左右される項目です。
1219x2438(シハチ)、1524x3048(ゴトウ、ゴットウ)までが一般的です。
工場によっては、2000x4000の材料サイズを切断できたり、鉄の板厚がt25mmやt30mmまで切断できるというところもあります。しかしながら、そのような工場は限られています。上記の加工範囲から外れる場合は、厚物板金、大型板金で検索をしてみたり、切削加工での加工を検討してみましょう。
板材にはそれぞれ定尺があります。
一般的には、下記の表になります。
アルミのみ定尺は4x8が1250×2500mm、5x10が1525×3050mmになります。
しかし、板厚がt0.2、t0.3、t0.4と薄い場合は、大きい板だと歪みや打痕(へこみ)が懸念されることからサイズの小さい板しか流通していません。
材料メーカーによって違いますが、365x1200、320x1000、400x1000、がメジャーです。
銅や真鍮の薄板や、鉄とステンレスのバネ材がこのように小さいサイズの板しか流通していません。鉄とステンレスでバネ材ではない材料は、t0.3、t0.4でも1000x2000のサイズがあります。
材質によって流通している板厚の規格は違います。鉄とステンレスを比較すると流通している板厚が違うことがわかります。
例えば、鉄はt1.0mm、t1.2mm、t1.6mm、t2.0mm、t2.3mm、t3.2mmです。一方、ステンレスはt1.0mm、t1.2mm、t1.5mm、t2.0mm、t2.5mm、t3.0mmと異なります。したがって、鉄でt2.5mmや、ステンレスでt2.3mmと指定すると、流通していない板厚の材料を指定してしまいます。特に鉄からステンレスへの設計変更時に、板厚の指定を変更し忘れて起こりがちな事例です。
さらに、鉄の板厚では、t2.6mm、t3.0mm、t5.0mmという規格があります。
これらは流通量が限りなく少ないため、常にその板厚で加工できるとは限りません。流通量が非常に少ないので加工工場が必ず調達できるとは限らないためです。安定した調達のためには、t3.2mmやt4.5mmといった、近似の板厚に変更することを検討しましょう。
公差が厳しすぎると、板金加工では対応できなくなってしまいます。
具体的には、JIS公差中級(JIS B 0405-1991-m(中級))よりも厳しい公差であったり、小さい部品でも±0.2mmより厳しい公差になると対応が難しくなってきます。
厳しい公差での製作を受ける場合もありますが、10個製作してすべてが指定の公差内で完成する保証がありません。このような場合は、注文された10個に対して、15個や20個と多めに製作し、その中から公差が守れていて出来のいい10個を出荷する形を取ることがあります。製品単価は、注文された10個に対し、15個や20個分の単価が乗りますので、必然的に高価になります。
面取り部分を除く長さ寸法に対する許容差 JIS-B-0405-1991より抜粋
面取り部分の長さ寸法 JIS-B-0405-1991より抜粋
板金加工工場では、稜線に対して大きなC面取りやR面取りをする設備があるとは限りません。C1やR1を超える場合、多くはサンダーを用いて手作業で削る作業となります。手作業による削り加工は、おおよその精度でしか仕上げることができないというデメリットが存在します。手を使ってサンダーで長時間削る作業は、作業者に大きな負担がかかります。特に、面取りがC3やC5のように大きい場合や、面取りの範囲が広い場合は、作業者の体への負担、加工に要する時間の増加、および精度が求められる場面での加工難易度の高さから、加工を断られてしまいます。
面取りが手を怪我しない用途の場合は、「糸面取り」と指示しましょう。糸面取りはC0.2~C0.3程度の面取りで、手を怪我しない用途に適しています。
穴数が多く、穴同士の距離が近いと、レーザー加工の熱によって歪みのリスクが発生します。歪みが発生した場合は、「レベラー加工」という歪みを戻す加工を行う場合もありますが、レベラー加工を行える工場は非常に限られています。歪みの修正が難しい場合に加工を断られてしまいます。
穴の目的が通気や排水の場合は、パンチングメタルやメッシュを溶接で貼り付けする構造にすることによって加工できるようになる場合があります。
レーザー加工機で材料を切断する際は、機械が材料をしっかりと掴んで切断します。どのように掴むかというと、材料の長手方向を掴んで加工します。また、材料の端から加工できるわけではなく、材料の端から少し離れた位置から加工をスタートします。製品の精度を守るためです。
また、製品同士の間にも桟幅(隙間)を確保する必要になります。
設備と材質・板厚によって掴み代と桟幅は変わりますが、目安としては掴み代は50mm、材料端からの桟幅は20mm、製品間の桟幅は15mmで考えておけば安全でしょう。t9mmを越えるような厚板の場合は、この寸法を越える場合もあるので注意しましょう。
製品のサイズが1219x2438の場合、1524x3048の材料から加工するか、シャーリング加工で加工することができます。
製品のサイズが1500x3020の場合、掴み代と桟幅を考慮すると1524x3048を超えてしまいます。2000x4000の材料から加工することもできますが、対応可能な工場が非常に限られます。設計時に掴み代と桟幅を考慮して、1450x3000程度までに収まるように設計しましょう。
板金加工では、平板の状態でも加工を断られてしまう場合があります。
これらのいずれかに当てはまると、加工が難しくなってしまいます。
ただ、板金部品では設計を工夫することで加工できるようになることが多いです。各項目で紹介した回避策を検討することで、加工が叶います。
板金加工は、切削加工より安価に加工ができる加工方法です。設計の工夫を施すことで、製品単価を抑えることができる加工方法になります。加工上の制約を理解して対策を取ることで、効率的でコストの低い部品設計が可能となります。
このページは板金加工で加工できない形状の図解シリーズの第1弾です。
第2弾は曲げ加工、第3弾は溶接に重点を置いて解説しています。併せて読んでいただくとより理解が深まります。是非ご覧ください。
第2弾:【図解】板金部品で曲げ加工できない形状とは?難しい理由と共に解説!
第3弾:【図解】板金加工で溶接できない形状とは?難しい理由と共に解説!
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