2024-09-26
更新
染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
一見簡単な曲げ加工品に見えても、工場から加工を断られる場合があります。その大抵の理由は曲げ加工が原因です。曲げ加工は工場によって加工範囲が大きく左右されることもあり、根本的な原因がわからないまま設計を続けている方も多いのではないでしょうか。
曲げ加工の加工条件を一つ一つ紐解いていくことで、複雑に絡み合った曲げ加工の加工条件がわかるようになります。
曲げ加工の中では一番メジャーなベンダー(プレスブレーキ)に重点を置いて解説します。
「形状は簡単なのに、なぜか加工を断られてしまう」
「過去に加工可能だった似たような部品が今回は加工できないと言われる」
「曲げ加工ができないと言われるけど、根本的にどう修正したらいいのかわからない」
このようなお悩みを解消できるように、背景や原因を交えて解説いたします。
板金加工の加工範囲を、切断・曲げ・溶接で分けて解説しています。
シリーズ第一弾の【図解】板金加工で切断できない形状とは?難しい理由と共に解説!をまだ読んでいない方は、こちらから先に読むとより理解度が深まります。
曲げ加工を行う際、一般的にはプレスブレーキと呼ばれる機械を使用します。プレスブレーキは、V型(ダイ)と上型(パンチ)で挟んで曲げ加工をします。プレスブレーキで加工するには、曲げるときにV型に乗る形状であり、尚且つ上型にぶつからない形状である必要があります。
よくある形状は図のように、
この2つの形状は、分割して溶接したり、曲げてから切断加工をするなど、工程を追加すると加工できるようになります。このことから加工できるとおっしゃる工場が多々あります。しかしながら、工程を追加するので思ったより加工費が高額になる場合がよくあります。
動画でも難しい曲げについて解説しています。
こちらは曲げることはできても製作に通常よりひと手間かかる曲げを紹介しています!]
【4分でわかる】高くなる曲げ加工5選!【板金】
一見簡単そうな形状でも、思わぬ落とし穴があることがあります。展開図にした際に部材同士が干渉してしまい、そのまま切断ができない場合があります。
下記の図を参照してください。
各辺での曲げ加工は実現可能ですが、展開図にすると、立ち上がり部分の板が互いに干渉する状況が生じます。この場合、部材を分割しての製造が必要です。
金属製のトレーは一般的な形状ですが、条件次第では加工できないものとなってしまいます。
折り曲げの角度が過度に緩やか、すなわち鈍角となると、展開図上で立ち上がり部分が干渉することが起こります。このような状況では、板金のプレスブレーキでは加工ができなくなってしまうので、プレス加工での加工を検討する必要が出ます。
ポケットの深さがポイントとなります。ポケットの厚みよりも深さが大きい場合、展開図で干渉します。形状自体簡単なので、思いつきやすいですが、寸法の設定を間違えてしまうと一体曲げができなくなります。
他にも展開図の段階で干渉するリスクが潜んでいるケースが存在します。一体での曲げを避け、溶接を含む設計を検討するか、展開図の干渉を適切に考慮して設計を進めることが重要です。
ベンダーにはそれぞれ耐圧の上限があります。板金工場では複数のベンダーがあり、小型部品用、中型部品用、大型部品用として使い分けられています。
耐圧については「大は小を兼ねる」という考えなので、大型部品用のベンダーの耐圧に焦点を当てて解説します。
耐圧が大きくなる時は、2つのシチュエーションがあります。
『耐圧が大きくなる=曲げるために必要な力が増大する』というイメージを持っていただくとわかりやすくなります。曲げるために必要な力が増大するときはこの2つになります。
・板厚が厚いものを曲げるとき
・曲げ幅が長いものを曲げるとき
つまり、板厚が厚くなり、曲げ幅が長くなると、曲げるためにより大きな力が必要になります。耐圧については、この2つを並行して考える必要があります。
曲げ幅とは、図の部分を指します。
例えば、多くの板金加工工場では、板厚が9mmまでが加工範囲になります。曲げ幅の加工範囲の上限は、2000mmまでのところが多いです。
しかしながら、板厚が9mmで曲げ幅が2000mmのものは、耐圧がオーバーして曲がりません。
板厚が厚くなれば厚くなるほど、曲げ幅の上限は短くなります。また、曲げ幅が長いものを曲げるためには板厚を薄くする必要があります。
工場によって加工範囲が大きく左右される事柄ですが、下記の表で曲げ幅の上限を参考にしてください。
※アルミの場合はクラックというひび割れのリスクが発生するので、板厚3mmまでになります。それ以上の厚さのものを曲げたい時は、O材(オーざい)という硬度を落とした材料で曲げることをおすすめします。
曲げ加工における寸法公差は、切断加工より精度を出すことが難しいです。
ベンダーでの作業時はバックゲージに当てて折り曲げますが、バックゲージに当てる際の力の強さによってもコンマ数ミリの精度が変わってしまうほどです。
曲げ加工の際の公差は、±0.5以上考慮しましょう。
曲げと直接関わらない部分の公差は、JIS公差中級(JIS B 0405-1991-m(中級))よりも厳しい公差であったり、小さい部品でも±0.2mmより厳しい公差になると対応が難しくなってきます。
参考:【図解】板金加工で切断できない形状とは?難しい理由と共に解説!
曲げる部分の近くに穴や切欠きがある場合、穴や切欠きがひっぱられて変形してしまいます。
曲げ加工の際に問題となる典型的な例です。
穴や切欠きが変形すると大きく3つのデメリットがあります。
たとえ曲げる位置から数ミリ離れた位置にあっても、穴は変形します。金属には曲げ加工をした際に伸びる特性があるためです。板厚が厚くなればなるほど、変形する範囲も広がります。
変形への回避策は大きく4つあります。
可能であれば穴の位置を変形範囲から外しましょう。
変形範囲は工場が所持している金型や材質、板厚によって大きく左右されますが、目安は曲げる位置から、板厚の厚さから5倍程度のところまでが目安の変形範囲です。例えば、板厚2mmの場合は、外寸で10mmのところまでが変形範囲です。
変形する穴がφ20以下の丸穴の場合によく使われます。曲げた後にボール盤でキリ加工、タップ加工などを行います。もしくは曲げたあとにレーザー加工で穴を開けることもあります。平板の状態で切断する、通常のレーザー加工よりは精度が落ちます。
どのような形状の穴でも使えます。ただ、スリットを入れることにより、スリット部分の強度が落ちたり、外観に影響が出ます。外観が気になる場合は、溶接であとからスリットを埋めることもあります。
板厚を薄くすることで、変形する範囲が狭まります。板厚を薄くすると強度が低下しますので、必要な強度を確保するかどうか慎重に検討してください。
曲げる際の立ち上がりが短いとベンダーでは曲げ加工ができません。立ち上がりが短いと、板がV型(下型)に完全に収まらず、曲げ時に板が滑ることできちんと曲がらなくなってしまいます。
V型(下型)に完全に収まらない部分が存在する場合、その部分はめくれてしまいます。
回避策は3種類あります
①曲げた後で切断するか、部分的に削る
②変形が懸念される部分にスリット(切り込み)を入れる
③板厚を薄くする
意外と盲点なのが、そもそも曲げ加工に不向きな材料を指定してしまっている場合です。
板金加工でよく使われる材料の中で、曲げに不向きな材料が存在します。
ジュラルミンは一般的には曲げ加工をお断りされる材料です。
ジュラルミンは硬度のある材料です。硬度があると曲げ加工には不向きになります。一般的には、歪んでほしくない(曲がってほしくない)製品を製作する際に、硬度のある材料を選びます。
また、ジュラルミン3種は溶接においても技術力が特に高くないと溶接できない材料です。
特に、最も難易度が高いA7075は、溶接ができてもあとで割れてしまったりするリスクが高い材料です。他の材料に切り替えるか、切削加工による製作を検討しましょう。
板金加工では、一見簡単な曲げ加工でも断られてしまうことがあります。
平板の状態では問題なく加工可能でも、曲げ加工の工程を加えると加工範囲から外れることが多々あります。
これらのいずれかに当てはまると、加工が難しくなってしまいます。
ただ、板金部品では設計を工夫することで加工困難な問題を解消できることが多いです。各項目で紹介した回避策を採用することで、加工が叶います。
板金加工は、切削加工より安価に加工ができる加工方法です。設計の工夫を施すことで、製品単価を抑えることができる加工方法になります。加工上の制約を理解して対策を取ることで、効率的でコストの低い部品設計が可能となります。
このページは板金加工で加工できない形状の図解シリーズの第2弾です。
第1弾は切断加工、第3弾は溶接に重点を置いて解説しています。併せて読んでいただくとより理解が深まります。是非ご覧ください。
第1弾:【図解】板金加工で切断できない形状とは?難しい理由と共に解説!
第3弾:【図解】板金加工で溶接できない形状とは?難しい理由と共に解説!
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