表面焼入れには、炎焼入れ・高周波焼入れ・電子ビーム焼入れ・レーザ焼入れの4種類がありますが、そのなかでも高周波焼入れは、最も多く利用されている表面硬化法です。
高周波焼入れは、コイルを使った電磁誘導電流により材料を加熱する仕組みで、主に炭素鋼や低合金鋼の部品表面に対して耐摩耗性や耐疲労性を向上させるために行います。
今回は高周波焼入れの原理や適した材料、メリット・デメリットなどについて見てみましょう。
高周波焼入れとは?
高周波焼入れとは、高周波電流から発生する誘導加熱を利用した熱入れ方法で、加熱コイルにより鋼材を熱したあとに、急速に冷却して鋼材の表面を硬化させることが可能です。表面焼入れしたままだと、破損や研磨割れが発生しやすくなるため、基本的に高周波焼入れ後は200℃以下の低温焼戻しを行います。
高周波電流の浸透深さは、鋼材の比透磁率や抵抗だけでなく、周波数によっても決まります。これにより、さまざまな周波数に対応する高周波発振機があります。加熱する際には、一般的に1~500kHzの広範囲の周波数が用いられています。
高周波焼入れを行う主な鋼材は、炭素鋼や低合金鋼が代表的で、産業機械のベッド・シャフト・歯車などの部品に多く使用されています。
高周波焼入れの特徴とメリット・デメリット
メリット
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・必要な部分や表面だけを硬化することができる。
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・高い表面硬さが得られることで、耐摩耗性に優れる。
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・製品の内部は元の素材のままで、高い靭性が保たれる。
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・表面の圧縮残留応力が大きく、耐疲労性に優れる。
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・脱炭が発生しにくく、耐疲労性が低下する心配がない。
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・酸化スケールが少なく、表面が綺麗。
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・硬化層深さの調整が可能。
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・電気を用いた加熱で運転と停止がスムーズ。
デメリット
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・焼入硬化の程度は材料に含まれる炭化物の種類や大きさに左右される。
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・製品形状にあった加熱コイルが必要。
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・突起部や鋭角的な角などエッジ箇所は加熱が過剰になりやすい。
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・正確な温度測定ができないため、経験が必要。
高周波焼入れの原理
高周波焼入れの例として、上図に竪型移動焼入れの構造を添付しています。
高周波焼入れ機は、鋼材の近くにある加熱用コイルに高周波電流を流すと、鋼材表面に渦電流が流れます。鋼材は、渦電流と鋼材の電気抵抗から発生するジュール熱によって発熱します。この熱により、鋼材をオーステナイト領域まで急速に加熱させたあと、内部温度が上昇する前に急速に冷却すると、鋼材の表面がマルテンサイト領域に入り硬化する仕組みです。
渦電流の浸透深さは、周波数が高いほど浅く、周波数が低いほど深くなります。そのため、硬化層深さを浅くしたい場合は高い周波数を、深くまで硬化させたい場合は低い周波数を用います。
高周波焼入れの種類
定置一発焼入れ
定置一発焼入れは、部品のみ回転させて対象箇所全体を一度に加熱し、焼入れする方法です。加熱コイルや製品を大きく移動させない汎用的なタイプです。
一歯毎焼入れ
一歯毎焼入れは、さまざまな種類のギアの一歯毎に焼入れすることを指します。歯の形状によってはコイル製作から行います。
堅型移動焼入れ
引用元:株式会社ナガト 竪型移動焼入機
堅型移動焼入れは、加熱コイルと部品を縦方向に移動させて、連続で焼入れを行います。主に長尺や円柱状の部品に採用されています。
横型移動焼入れ
引用元:株式会社ナガト 横型移動焼入機
横型移動焼入れは、コイルと部品を横方向へ移動させながら、連続で焼入れを行います。主に平面を焼入れする部品に採用されています。
高周波焼入れに適した材質
高周波焼入れに適した材質の例は以下の通りです。
・炭素鋼:S45C・S50C・S55C
・合金鋼:SCM435・SCM440・SNCM439
・軸受鋼:SUJ2
・ステンレス鋼:SUS420J2・SUS440C
・炭素工具鋼:SK3
・合金工具鋼:SKS3・SKD11
高周波焼入れの硬度
高周波焼入れは、炭素鋼S45Cの場合、50~60HRC程度の硬度が得られます。
高周波焼入れに必要な装置と機器
高周波焼入れに必要な装置は、以下のようなものがあります。
・高周波発振機:高周波を発生させるための装置。
・焼入れ機:材料を焼入れ部に搬送・保持・移動・回転させるための機器。
・制御盤:設備全体の制御を行う装置。
・操作盤:焼入れ条件の設定を行う装置。
・加熱コイル:加熱したい箇所に高周波電流を誘導させるための部品。対象のワーク形状より、さまざまなコイル形状が設計される。
・冷却装置(焼入れ用・電源用):焼入れ用の冷却水槽と、高周波発振機、加熱コイルなどの冷却水槽。