2025-01-15
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鍛造加工について、基礎から詳しくご紹介するシリーズ。前回は、鍛造加工と鋳造加工を比較し、さらに各加工によって作られた製品の違いなどから、それぞれのメリット・デメリットを解説しました。
3回目となる今回は、鍛造加工で使用する機械と道具についてです。鍛造加工で用いられる機械・道具類は、大量生産や製造効率化を目的とした鍛造で用いられる鍛造機械と、鍛冶などで用いられる手作業用の鍛造工具との大きく2種類に分けられます。
本記事では、自動鍛造を可能とする大型機械から、昔ながらの道具まで、代表的な機械・道具類をご紹介します。
現代の鍛造加工の機械には、主に、機械ハンマーとプレス機械にが挙げられます。
まず、鍛造で用いられる主な機械ハンマーには、空気ハンマー(エアスタンプハンマー)とスプリングハンマー(ベルトハンマー)の2種類があります。
機械ハンマーの種類
①空気ハンマー
②スプリングハンマー
引用:株式会社大谷機械製作所
空気ハンマーは、名前の通り圧縮空気によってハンマー(金槌)を上下に動かして材料をたたく機械です。おもに、金属が再結晶する約1200℃程度まで熱してから鍛える熱間鍛造に用います。
機械サイズは打ち付けるハンマー部分の重量で表し、0.5~2tほどのものが主流ですが、中には10~75kg程度の小型ハンマーもあり、こちらは芸術鍛造に向いています。反対に、30tを超える超大型のものもあります。なお写真のハンマーは、標準落下部重量約3.5tのモデルです。
機械上部のシリンダー内部に上下に動くピストンがあり、ハンマーはその下部に付いています。ピストンが圧縮空気によって上下運動する際に、ハンマーが連動して動きます。送り込む圧縮空気は弁によって操作され、ハンマーの落下速度の調整、打撃力の加減が可能です。
そもそも歴史的には、蒸気機関を応用した蒸気ハンマーが最初に開発されました。蒸気のかわりに、よりコストを抑えやすい動力として圧縮空気を利用した空気ハンマーが開発されたという背景があります。
引用:有限会社寺澤鉄工所
スプリングハンマーやベルトハンマーは、空気ハンマーよりも小型の電動ハンマーです。モーターの動力をベルトとクランクによって伝導してハンマーヘッドの弓を上下させる、という車などのエンジンとほぼ同様の構造をしています。
最新式の生産体制で取り入れられるというよりは、非常に取り回しやすいことから、昔ながらの工場や鍛冶屋で導入されることが多くなっています。
用途としては鍛接の完了した鋼材を延ばす目的で使用することが多いですが、多品種少量生産の現場では、ほとんどの作業をスプリングハンマーによって行い、手作業による鍛造・鍛冶は仕上げ程度しか施さない場合もあります。なお先端に据え付けられた金敷とヘッドは消耗するため、交換が可能です。
続いて、プレス機械についてです。鍛造で用いられるプレス機械は大きく、液圧式と機械式、そして自動化されたトランスファープレスに分けられます。
プレス機械の種類
①液圧式プレス
②機械式プレス
引用:株式会社柴山機械
液圧プレスとは、水や油を送り込んだシリンダーの圧力を利用して加工を行うプレス機です。荷重や速度は、シリンダーに送り込んだ液圧を調整することで制御が可能で、荷重はシリンダの半径(断面積)に比例し、速度はおよそ1~10mm/sほどとなっています。
液圧プレスは速度が遅いため、冷却の早い小型部品などの熱間・温間鍛造はかえってコストがかかるため不向きです。一方で、油圧によって制御するためプレスを任意の場所で止めるプレスブレーキが可能で、その柔軟性の高さから大型や長尺の材料加工に用いられることがあります。
また、熱を加えない冷間鍛造ならデメリットが顕在化することもないため、冷間鍛造に用いられることも多いです。
液圧プレスには大きく水圧式と油圧式があり、古くは水圧式が主流でしたが現在は油圧式が主流となっています。
両者の違いは、水圧式はメンテナンスの手間が少なくランニングコストが低いことがメリットであるのに対して、油圧式は水圧式よりも精度の高い制御が可能で、精密な加工ができることに加え材料の錆を防げる点などが優れています。
液圧プレス 水圧式・油圧式の各メリット
水圧式:メンテナンスの手間少・ランニングコスト低
油圧式:制御精度高・精密加工可・防錆効果
機械式プレスは、動力にモーターを用い回転エネルギーをクランク機構やスクリュー機構などに変換して材料を加工するプレスです。
機械式プレスは機構や構造によって非常に多くの種類がありますが、共通する特徴は液圧式プレスよりも生産効率が高く、メンテナンスコストも抑えられる点です。そのため、大量生産を求められる電気・電子機器や自動車部品等のプレス加工に多く使用されています。
生産性が高いことが特徴ですが、一方で液圧プレスのように工程の途中でブレーキをかけることはできず、また最大加圧の幅も液圧プレスに比べると狭いです。
一般的にストローク長さの調整なども困難なため、精度の高さよりも大量生産向きのプレスと言えるでしょう。しかし近年では速度などの制御が可能なサーボモーターを動力としたサーボ式なども登場し、機械式プレスでも高精度な加工ができるようになっています。なお、代表的な機械式プレスは次の通りです。
機械プレスの種類
①クランクプレス
機械式プレスの中でもっともポピュラー。大量生産向きであり、フレーム形状やギヤ数などによってさらに種類が分かれる。
②ナックルプレス
クランク機構に加え、リンク機構を使いエネルギーを変換するもの。ストローク長さが短く、プレス部分のスライド速度を遅くできるのが特徴。
③スクリュープレス
スクリュー機構(ネジ機構)によって回転運動を変換するプレス。
プレス機械は、その動作原理から労働災害の主な原因となっており、ハード面・ソフト面でさまざまな対策が講じられてきました。
その解決策のひとつが、自動化です。トランスファープレスは複数のプレス機と搬送機構(トランスファー機構)を内蔵した大型のプレス機で、金型の組み合わせなどによってさまざまな製品を自動で鍛造加工することができます。
大量生産に向いていますが、純粋な順送加工に比べるとやや速度は落ちますが、トランスファー型の金型は組み合わせ次第で応用が利きやすく、非常に柔軟性の高いプレス機械と言えます。
現在の鍛造加工で主流となっている鍛造機械はここまでご説明した通りですが、そもそもこれらは鍛造工具を機械化したものです。昔ながらの鍛造工具を確認することで、より鍛造機械に対する理解も深めやすくなるでしょう。なお鍛造工具と言った場合、通常は自由鍛造で用いられる工具類を指します。
主な鍛造工具には、①金敷②ハンマー③やっとこなどが挙げられます。それぞれの形状や用途は次の通りです。
金敷はかなしきと読み、金床(かなとこ)とも呼びます。材料を載せて、ハンマーで叩くための台です。材料を載せる平らな部分と、とがった「つの」からできていて、単純に叩いて鍛えるほか、つのをうまく利用して材料に曲げ加工を加えることもできます。
引用:株式会社須佐製作所
金槌のことで、金敷に載せた材料を叩くために使います。径の大小によって使い分けたりするほか、中には片側が鋭い刃になっていてたがね(鏨)として使えるものなどもあります。
引用:Amazon
やっとこは、熱した材料を掴むための火箸の役割を果たします。基本的には材料を掴んで金敷に載せるための移動などで使いますが、掴んだ状態で曲げ加工などを行う場合もあります。
代表的な工具の他、はちの巣・へし・タップ・せぎり・たがね・ポンチ・パスなどたくさんの道具が鍛造工具には含まれます。それぞれ、曲げ・穴開け・削り・切断、といった各種加工をより効率的に金属に施すために工夫する中で生まれたものです。
小さな工場などで手作業を減らすことが目的なら、ひとまずスプリングハンマーやベルトハンマーの導入することをおすすめします。
大量生産のコスト低減が目的であれば、熱間鍛造なのか冷間鍛造なのか、扱う材料などによっても選択肢は変わりますが、いっそトランスファープレスなどの大型機械を検討してみてもよいでしょう。ぜひ、加工目的にあった適切な機械・道具を選んでください。
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