2025-01-10
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包丁・スパナ・ペンチなどの身近な道具から、航空機のジェットエンジン部品や胴体フレーム、自動車・電車のギヤ部品などにも用いられる鍛造加工。指輪などの装飾品にも利用され、非常に柔軟性のある加工法と言えます。
しかし幅広く活用される一方で種類も多く、具体的に鍛造加工とは何なのか理解するのはなかなか容易ではありません。そこで今回から鍛造加工について、初めて鍛造加工に触れる方でも分かりやすいように、全3回に分けて基本的な知識をお届けします。
第1回となる今回は、鍛造加工の定義や特徴から、加工法と加工温度による分類について解説します。
まずは、鍛造加工とは何かを確認し、そして鍛造加工で実際に作成される製品例などをご紹介します。
鍛造は、金属などの物質が持つ塑性という特性を活かした塑性加工の一種で、ハンマーなどの工具や金型で金属に大きな力を加えて、目的の形に成型する加工法です。一般的には、熱した鉄を叩いて鍛える、昔ながらの鍛冶屋のイメージが強いかもしれません。
日本工業規格であるJISの定義によれば、鍛造は「工具、金型などを用い、固体材料の一部または全体を圧縮または打撃することによって、成形および鍛錬を行なうこと」となっています。
圧縮・打撃などによって材料に大きな力を加えることで、高い強度と靭性を持つ、一言でいえば耐久性のある製品を作成できるのが鍛造加工の強みです。
なぜ耐久性を持つかというと、圧縮・打撃を受けた金属は、金属内部の気泡などが圧着されることで欠陥がなくなり、結晶が微細化して結晶方向が揃うためです。方向の揃った結晶組織が形成するラインを、鍛流線(メタルフローライン・ファイバーフローライン)と言います。
鍛流線が形成されることで薄肉化や中空構造が可能となるため、材料費の削減に繋がるだけでなく、複数部品の一体成型といった工程の短縮まで可能となります。
さらに、そのほかの加工法が抱える問題不良もほぼ発生しないため、加工時間そのものも短縮でき、生産効率が高いことが特徴として挙げられます。
また、近年では鍛造技術の進歩によって精密加工も可能となり、鍛造後の機械加工がほとんど必要ないニアネットシェイプ加工、後加工が不要なネットシェイプ加工などが実現しています。
鍛造加工のメリットをまとめると、次の4点に集約されます。
鍛造加工のメリット
引用:株式会社 東亜鍛工所
金属を叩いて加工する、というシンプルな定義を持つ鍛造加工の歴史は非常に古く、その起源は紀元前4000年――今から6000年以上前にさかのぼります。
そもそも金属の加工法としてはじめて用いられた方法が、この鍛造だったのです。今後発見される史料によっては覆される可能性も十分にありますが、金属を削る切削加工や、金属を溶かして型に流し込む鋳造などに比べると、「金属を叩いて成型する」という加工法は実にシンプルで、これが人類初の金属加工だったとすることに、あまり違和感はないのではないでしょうか。
さて、日本で鍛造が用いられるようになったのは、それから6500年近く経過した紀元470年ごろ、大陸から鉄が持ち込まれたことに端を発します。日本における鍛造技術といえば、古墳時代の鉄製の刀剣に始まり、平安時代に完成したと言われている日本刀です。
日本刀を製作する刀鍛冶の鍛造技術は世界的に見ても非常に優れており、同時代における農工具や鉄砲製作技術などもあいまって、精密鍛造などにおいて日本は世界トップクラスの技術力を持つようになりました。
鍛造加工によって製造されている製品の一例をご紹介します。なお鍛造は本当に幅広く用いられている加工法のため、ここに挙げたものはあくまでもその一部です。
製品例
引用:大連柴田精密機械有限公司
一般的な鍛造加工の工程は、4つに分けられます。
鍛造加工の工程
続いて、鍛造加工の分類について解説します。
まずは加工方法による分類からです。鍛造加工は、加工方法により「自由鍛造」と「型打ち鍛造」に分けられます。
自由鍛造とは、型を用いずに台(金敷)とハンマーで自由に材料を成型する、昔ながらの鍛造法です。
基本的にはすべて手作業で成型するため初期投資があまりかからず、複雑な形状の多品種少量生産や大型鍛造品など、金型を用意するのが難しい場合に用いられます。
古くは職人の技量が製造品の精度に直結する手法でしたが、現在では機械ハンマーによるものが主流です。
自由鍛造とは対照的に、大量生産向きの鍛造法が型打ち鍛造です。ダイスと呼ばれる金型を用意することで、高い生産効率で同形状の製品を大量に作ることが可能です。
型打ち鍛造の中にもいくつか種類があります。上下の型が隙間なく閉じて材料を密閉する密閉鍛造、余分な材料をはみ出させて材料を充満させる半密閉鍛造、型で圧縮したのちにさらに型やピンを動かし、材料を押し出して成型する閉塞鍛造、などが挙げられますが、このうちどの方法を採用するかは成型したい形状などによります。
続いて、加工する温度による分類です。
こちらは下記の4つに分類されています。
主に車のアルミホイール成型などで用いられる鍛造法で、名前の通りアルミを半ば溶融させた状態で成型します。純粋な鍛造というよりは、鍛造と鋳造(溶融させた金属を成型する工法)の間のような手法で、鍛造の強度と鋳造の自由度を両立させた加工法です。
熱間鍛造は、金属が再結晶する温度(約1200度程度)に一度熱してから行う鍛造法です。これにより、柔らかくなった金属はゆがんだ結晶が正常な結晶に変化するため、適切なメタルフローラインを形成することができます。
熱間鍛造の場合、複雑な形状であっても強度を確保しやすい点がメリットとして挙げられます。
熱間鍛造が「再結晶温度以上」で鍛造を行うのに対し、常温で行う鍛造を冷間鍛造と呼びます。金属が硬い状態のまま加工を行うため、精度に優れる一方で非常に高い圧力が必要になります。
そのため、大量生産品かつ小さな部品(ねじ、ボルト、ナットなど)に向いた鍛造法です。
熱間鍛造と冷間鍛造の間(一般的に300~800℃程度、1000℃まで拡大することも)で行われる鍛造を温間鍛造と呼びます。
冷間鍛造では成型が難しい範囲の複雑な形状加工や、高硬度の材料加工も行えるうえに、熱間鍛造よりも高い精度の鍛造品を製造することが可能です。主な製造品としては、自動車部品では各種ギヤ類などが挙げられます。
鍛造加工は、「金属に熱と力を加えて成型する」というシンプルな工法ですが、多品種少量生産には自由鍛造、大量生産には型打ち鍛造、とフレキシブルに工法を選べる優れた塑性加工です。
次回は、そのほかの加工法と比べて、その違いから、さらに具体的なメリット・デメリットについて解説します。ぜひあわせて参考にしてください。
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