2025-01-13
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今回説明する軸とは、回転することによって動力を伝える機械部品のことです。そのため、回転という要素があるほとんどの製品の構成部品となっています。軸が用いられている製品は、身近なものでは、扇風機やパソコンのファン、自動車のトランスミッションなどがあります。
しかし、軸が用いられているものは、それだけではありません。軸は、モータに不可欠な部品であるため、モータがあるところには軸があります。電気自動車は、モータで駆動していますし、家電製品の中にモータが搭載されていないものは、ほぼありません。
このように、幅広く用いられている軸ですが、この軸に対して断面がDの字となるように加工することをDカットと言います。しかし、それだけでは、何のためにDカットを行うのか分かりません。
そこで今回の記事では、Dカットについて、その意味や軸の固定方法などを詳しくご紹介していきます。
Dカットとは、トルクを出力する軸に対する加工方法の一つです。このような軸を出力軸と呼びますが、その軸の断面を「D」の形状となるように削り取る加工のことです。
出力軸の多くは、丸棒の形です。そのため、出力軸を他の部品と結合して、トルクをその部品に伝えようとしてもそのままでは空回りしてしまいます。Dカットは、この出力軸に引っ掛かりができるように加工。その部品と強固に締結できるようにします。
Dカットの加工には、フライス加工などの切削加工が採用されますが、精密性を要する場合には、研削加工なども用いられます。
Dカットを施した出力軸をDカット軸と呼びますが、出力軸の形状には、他に丸軸やキー溝軸などがあります。これらの軸の形状は、軸の締結先の形状や締結方法などに合わせて選択されます。例えば、Dカット軸では、ネジ締結やクランプ締結といった締結方法が採用されますが、詳細は後述します。
引用元:株式会社タミヤ
Dカット軸は、多数のギアを組み合わせたギアボックス(上図)やモータなどで用いられている機械要素です。ギアボックスを通して伝達されてきたトルクや、モータで発生させたトルクを別の装置に伝達する部分に使用されています。従って、Dカット軸には、ギアやモータを備えた家電製品や産業機械、自動車などの幅広い用途があります。
参考記事
切削加工の特徴や種類などについては、以下の記事で解説していますので、気になる方はご覧ください。
⇒【切削加工とは?】特徴・種類・注意点を動画と一緒にご紹介します!
丸軸は、丸棒の形状を持った出力軸のことです。そのため、上述したように、トルクを別の部品に伝達しようとしても、引っ掛かりがなく、そのままでは空回りしてしまいます。しかし、後述するように、丸軸には、丸軸に適した締結先の形状や締結方法が存在します。
キー溝軸は、キー溝と呼ばれるキー(下図)をはめ込む穴を持った出力軸のことです。キーを使用する場合、締結先の部品にもキー溝があります。そして、キー溝軸と締結先部品の双方のキー溝にキーを楔(くさび)のようにはめ込むことで、これらを締結します。
なお、キーの寸法はJIS規格で標準化されていますので、通常は、その規格に合わせてキー溝も成形します。
引用元:株式会社朱雀技研
Dカット軸は、別の部品と固定するための機械要素です。ここでは、Dカット軸の代表的な固定方法であるネジ締結とクランプ締結、また、Dカットが適さない場合に採用されることがある面圧締結、ピン締結についても併せて説明します。
引用元:株式会社朱雀技研
ネジ締結は、上図のようにネジをDカット軸の平面部に当て、押さえつけることで締結する方法です。セットスクリューとも呼ばれます。また、このときのネジとして、六角穴付き止めネジが用いられることが多々あります。
取り付けや取り外しが容易な方法です。しかし、ネジの締め付けで軸が破損したり振動などでネジが緩んでしまったりする場合があります。また、ネジによって加えられる力の向きが一方向であるため、Dカット軸と締結対象の中心がずれやすいという欠点もあります。
他の締結方法に比べて簡単に固定できる方法ですが、欠点が多く締結の強さもあまり強くはありません。
より強固に締結する方法として、軸を押さえつけるネジを増やすという手段があります。そのために、軸をもう一部分カットし、下図のようにカットした平面部をもう一つのネジで押さえつけます。これにより、軸の強度は低下しますが、締結の強さは向上します。
引用元:慶應義塾大学ロボット技術研究会
ネジ締結は、Dカット軸に対する固定方法として一般的な方法です。しかし、その欠点や締結力の弱さが問題になることがあります。その場合、より高い締結力が得られるキー溝軸のネジ締結が採用されます。
キー溝軸にネジ締結を適用する場合、下図のように、キー溝にキーを差し込んだ上で、キーを固定するためにネジで締め付けます。このキーは、締結先の部品と軸のキー溝にぴったりとはまるようになっているので、Dカット軸のネジ締結に比べて高い締結力が得られます。
引用元:株式会社朱雀技研
引用元:株式会社朱雀技研
クランプ締結は、工具のクランプと同様の仕組みで、Dカット軸を挟んで締結する方法です。
締結対象となる部品は、Dカット軸の断面形状に合わせた穴とその穴に続く切り込みがあります。そして、上図のように、この切り込みをネジで締め付けることで、Dカット軸と部品を固定します。
締結先の部品に対して、Dカット軸の断面形状に合わせた加工が必要です。この加工には、ワイヤー放電加工機などが主に用いられていますが、形状によっては、ボール盤とノコ盤だけでも加工できます。
このように、クランプ締結では、多くの場合に締結先の部品を用意しなくてならないという欠点があります。しかし、強固に締結できる方法であるため、充分なトルク伝達が期待できます。
なお、クランプ締結は、キー溝軸にも適用されることがある方法です。この場合、下図のように、キー溝にキーを差し込んだ上で、切り込みをネジで締め付けて締結します。Dカット軸に適用した場合と同様、強固に締結できますが、軸と締結先の部品、そしてキーの精密な加工が必要となります。
引用元:株式会社朱雀技研
引用元:株式会社朱雀技研
面圧締結は、軸と締結先の部品との間の摩擦抵抗によって固定する方法です。締結先の部品には、上図のように、円形の穴と穴に続く切り込みがあります。そして、この切り込みをネジで締め付け、それによって発生する面圧で締結します。
前述の他の締結方法では固定角度が一方向に固定されてしまうのに対して、面圧締結であれば固定方向が自在に変更可能である点、締結先の部品に対する加工が不要、回転のバランスが良いなどの利点があるため、ネジ締結やクランプ締結ほどではありませんが、Dカット軸の固定方法としても採用されることがあります。
しかし、Dカット軸では、ガタつくことがある上、摩擦抵抗がカットしている部分の分だけ低下します。そのため、大きなトルクが生じる場合、トルク伝達に不備が生じることがあります。そのため、通常は丸軸が採用されます。ただ、軸の強度に対してトルクが大きくなると、Dカット+ネジ固定もしくはクランプ固定のほうが強固であるので、場合によって使い分けることが肝要です。
引用元:株式会社朱雀技研
ピン締結は、上図のように、軸に穴を空けてピンを圧入して締結する方法です。
穴とピンの寸法には、精密性が必要であり、加工精度が悪いと締結できなくなります。また、ピン締結は、締結力もそれほど強くはなく、穴を空けた部分の強度が低下するという欠点もあります。
しかし、締結先の部品のサイズが小さい場合や形状が特殊な場合にも適用しやすい方法です。Dカットに比べて軸への加工が簡単で、組立もピンの付け外しのみで簡単であることから、軸の強度に対して伝達トルクがさほど高くない場合には頻繁に使用される方法です。Dカット加工が難しい場合などには採用を検討してみてください。
以上、Dカットの意味や用途、他の部品にトルクを伝達するという役割やトルクを伝達するための固定方法について解説しました。
Dカットは、モータやギアなどの出力軸を別の部分と締結するために必要な軸に対する加工方法の一つです。その加工方法は、Dカットの他にもありますが、その中でもDカットを施した軸は、簡便に別の部分と締結することが可能であり、頻繁に採用されています。
決して目立つ加工方法ではありませんが、幅広く用いられていますので、ぜひこの機会に覚えておいてください。
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