2024-09-18
更新
志民 直人
技術営業、カスタマーサクセス
切削加工歴29年の1級機械加工技能士(精密器具製作/フライス盤/数値制御フライス盤)。金型・部品加工経験を持ち、CAD・CAMや各種工作機械に精通。設計からカスタマーサービスまで幅広く対応。製造現場改善や治具設計も得意。趣味は日曜大工、ゲーム。
エンドミルとは、フライス盤やフライス加工が可能なマシニングセンタなどに取り付けて用いられる切削工具の一つです。ドリルと同様、高速に回転させながら材料に当て、削り取ることで成形を行います。先端と側面に刃を備え、主に水平方向に動かして切削加工を進めます。
エンドミルは、その形状の違いによりいくつかの種類が存在します。その中でも、先端が球状のボールエンドミルは、R面や球面、より複雑な三次元曲面の切削加工に不可欠な工具と言われています。
しかし、他の種類のエンドミルとはどんな違いがあるのか、どのような使い方があり、使用時にはどのような点に注意すべきか、知識がない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では、ボールエンドミルの特徴を説明すると共に、使い方についても解説していきます。ぜひ、ボールエンドミルを使用する際の参考にしてください。
参考記事
フライス加工については、以下の記事で解説していますので、ご参照ください。
⇒フライス加工について専門家が解説!加工の種類・加工機の種類がこの1記事でわかります!
エンドミルは、先端の形状の違いによっていくつかの種類に分けられますが、以下のものが代表的です。
代表的なエンドミル
●スクエアエンドミル…先端の形状が平坦なエンドミル。主に水平面や垂直面の加工に使用される。
●ボールエンドミル…先端の形状が球状のエンドミル。主に曲面の加工に使用される。
●ラジアスエンドミル…先端の形状が平坦であるものの、先端と側面の間のコーナーがR形状になっているエンドミル主に平面加工やR加工(凹の底の角部に丸みを残した加工)に使用される。
ここでは、特にボールエンドミルを取り上げ、他のエンドミルと比較した際の特徴を説明します。
ボールエンドミルは、他のエンドミルに比べて曲面加工に適した工具です。
例えば、凹球形状の加工は、ラジアスエンドミルでも可能ですが、5軸加工機などでエンドミルを傾け、エンドミルのコーナー部を当てて切削するなどの工夫が必要となります。
しかし、ボールエンドミルであれば、その球の曲率半径よりも工具の半径が小さくなくてはなりませんが、3軸加工機でも問題なく凹球形状の成形が可能です。
引用元:株式会社MOLDINO
曲面の加工に適したボールエンドミルですが、平面の加工ができないわけではありません。工具経路を塗り潰すように取ることで平面の成形が可能です。
ただし、上図のようなカスプ(尖った凹凸形状)が残り、面粗度に影響します。この面粗度を良好にするには、工具経路の重ね合わせを多くとる必要があります。
平面部分の成形もボールエンドミルで行うことで、工具交換時間の短縮に繋がります。しかし、切削時間が長くなると共に、面粗度の悪化も招きますので、これらを考慮した工具選びが必要です。
ラジアスエンドミルにも共通しますが、ボールエンドミルで凹形状を加工する場合、工具のコーナーの丸みを反映して、凹の底の角や側面の隅が円弧状になります。底の円弧は、スクエアエンドミルで除去することができますが、下図の左のような凹形状の場合は、どのエンドミルを使用しても、下図の中央のように側面の隅に丸みが残ってしまいます。
しかし、このような凹部にシャープな角を持った部品をはめ込むため、円弧を除去する必要があるケースもあります。その場合には、本来の壁面からさらに外側に抉るニガシ形状を設け(側面の隅のニガシは下図の右参照)、角に丸みがあることの不備を回避することがあります。
引用元:アイティメディア株式会社
引用元:三菱マテリアル株式会社
ボールエンドミルでは、工具の先に向かうほど切削速度が小さくなり、先端ではゼロになります。
切削速度は、切削点(工具の材料との接触部)における刃物の動く速度です。その速度は、以下の式で表されるため、工具径が大きい切削点ほど小さくなり、工具径がゼロになる切削点では切削速度もゼロとなります。
引用元:ユニオンツール株式会社
VC:切削速度
n:回転速度
D:工具径
もちろん、他の種類のエンドミルも中心の切削速度はゼロとなりますが、先端の工具径がゼロというわけではありませんので、ドリルのように加工面に垂直に送って加工を行わない限り、特に問題は生じません、
しかし、ボールエンドミルでは、工具の先に向かうほど工具径が小さくなるため、切削点に注意しながら加工を行わないと、切削速度が足りないことによる問題が生じることがあります。
ボールエンドミルを使用する場合、切削点に注意しながら加工を行わないと、加工面の品質がバラツキやすくなります。
切削加工においては、切削速度が大きいほど生じる切りくずが薄くなるため、切削抵抗が軽減されて加工面の品質が向上します。
従って、切削点によって切削速度が異なるボールエンドミルでは、工具のどこを接触させて切削するかにより、加工面の品質が変わります。特に、曲面を加工する場合などでは、曲面との接触角度によって工具の接触位置が変化するため、 加工面の品質にバラツキが発生しやすくなります。
このバラツキを抑える方法として、切削点が先端に集中し過ぎないように工具経路を工夫したり送り速度を小さくしたりする方法があります。また、5軸加工機などの使用が可能な場合は、ボールエンドミルに傾斜を付け、工具の一定の位置を接触させて切削することも有効です。この場合、推奨される切削点の位置は、例えば、下図で「有効加工切れ刃部」とされている部位です。
引用元:社団法人精密工学会北海道支部
ボールエンドミルは、刃こぼれが生じやすいという特徴があります。
上述したように、ボールエンドミルでは、その工具径が先端付近で大きく変わるため、切削点による切削速度の変動が大きく、工具にかかる切削抵抗も位置によって変化します。そのため、切削抵抗が大きい先端に切削点を集中させると、刃こぼれが発生しやすくなっています。
エンドミルによる加工では、切りくずは、刃と刃の間のチップポケットと呼ばれる隙間を通って排出されます。その点、ボールエンドミルでは、先端に向かうほど工具自体が細くなっているため、先端付近のチップポケットが小さく、切りくずの排出性が良くありません。それにより、刃が切りくずをかみ込んで加工面の品質を悪化させたり、切りくずが詰まって刃の損傷の原因となることがあります。
ボールエンドミルは、他のエンドミル同様、以下のような形状の加工も行うことができる万能性の高いエンドミルです。
ポールエンドミルで可能な加工
●平面加工…工具経路を塗り潰すように取ることで平面を成形。
●側面加工…エンドミルの側面に備えた刃を当て、材料の側面を切削。
●段差加工…エンドミルの先端と側面の刃で、段差を成形。
●溝加工…溝を成形。主にエンドミルの側面を当てて切削。(下図左)
●ポケット加工…凹を成形。ドリルで下穴を空け、穴を広げていく形で切削。(下図中央)
●ヘリカル加工…円状の凹を成形。エンドミルをらせん状に動かして穴を広げていく。(下図右)
引用元: 株式会社モノト
しかし、やはりボールエンドミルに適しているのは、曲面加工です。ここでは、曲面加工を行う場合のボールエンドミルの使い方について説明します。
引用元:三菱マテリアル株式会社
ボールエンドミルを使用した曲面の加工方法には、走査線加工や等高線加工などがあります。
走査線加工は、上図の左にあるように、エンドミルを一定方向に動かしながら目的の形状に沿って上下させて加工する方法です。引き上げ加工と押し下げ加工を繰り返すことで加工を進めますが、押し下げ加工時に切削速度の遅い工具の先端中心付近で切削するため、工具の損傷が生じやすいという欠点があります(下図参照)。
引用元:三菱マテリアル株式会社
一方、等高線加工は、見出し下の右図にあるように、エンドミルを水平面内で目的の形状に沿って動かして加工。これを、順次高さを変えながら行っていく方法です。切削点を工具の一定位置に保持しやすく、切削速度が遅く刃が損傷しやすい先端付近での切削を回避しやすいという特徴があります。ただし、刃の一定の位置を酷使することになるため、その部分の摩耗の進行が早くなります。
それぞれの方法に短所がありますが、工具の損傷に繋がらない等高線加工を選択することが妥当です。
なお、5軸加工機などでエンドミルを傾斜させることができる場合、双方の方法における短所を補う事が可能です。しかし、切削する曲面の角度に合わせて順次傾斜角も変化させる必要があり、プログラムが複雑化します。そのため、関連した技術や経験が必要となると共に、工数が増加してしまうことがあります。
ボールエンドミルで加工を行う場合、平面や曲面に限らず、加工面にカスプ(尖った凹凸形状)が残ります。このカスプの高さが大きいほど、面粗度が悪化するので、良好な加工面を得たい場合は、ピックフィード(下図のae)を小さくする必要があります。しかし、そのためには、工具経路を長く取る必要があるため、加工時間は長くなってしまいます。
引用元:株式会社MOLDINO
そこで有効なのが、工具の回転数を高めると同時に、工具の送り速度を上げることです。これにより、加工時間の延長を抑えながら、面粗度を向上させることができます。さらに、切削速度が上昇して切削抵抗も小さくなるため、加工面の品質も向上します。
また、工具径の小さいボールエンドミルを使用する場合、切削点によっては工具がたわみ、加工精度を悪化させることがあります。
曲面を加工する場合、曲面の形状によっては、下図の左のように、軸の垂直方向に大きな力がかかることがあります。この力の大きさによっては、エンドミルがたわみ、形状がたわんだ分だけずれる可能性があります。
たわみを防ぐ方法として、上述したボールエンドミルに傾斜を付ける方法があります。5軸加工機などが必要となりますが、切削点を一定の位置とすることにより、軸の垂直方向に生じる力を低減することが可能です(下図の右)。
引用元:国立大学法人熊本大学
ボールエンドミルの特徴や使い方、使用時の注意点について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
ボールエンドミルは、平面や凹凸、曲面など、多様な形状を成形できる多機能万能工具です。特に、複雑な曲面を対象とする場合の有用性が高く、ボールエンドミルでは加工できても、他の形状のエンドミルでは加工できないというケースもあります。また、4軸以上の多軸加工機に取り付けて使用することで、さらなる高い精度や品質、工具寿命の延長が期待できます。
ボールエンドミルは、今や金型や航空機部品など、三次元曲面を有する輪郭形状の切削に不可欠な工具となっています。その重要性は、今後も持続すると考えられますので、ぜひこの機会に覚えておいてください。
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