とはいえ専門外の方には、金属にはどのようなものがあり、どのような性質を持っているのかなど、詳しいことには馴染みがないことでしょう。
しかし、これから金属を扱う予定の方の中には、
「金属光沢で輝く高級感のある金属を使いたいが、専門外なため金属のことは全くわからない・・・」
「金属加工を依頼したいが、基礎的な知識は確認しておきたい。」
というように、金属についての知識を必要としている方もいるかも知れません。
そこで、この記事では、金属を材料として選択したり加工したりするときに参考になる、金属の基礎知識を誰でもわかるように解説していきます。
金属は、加工性と実用性という観点から重要な、以下の5つの特性を備えています。
押し広げたり伸ばしたりといった加工を可能にする展延性、構造材として使えるほどの強度が挙げられます。また、常温・常圧で固体(水銀を除く)でありながら熱に融けるという溶融性も金属の重要な特性です。さらに金属は、導電性や熱伝導性が高い、つまり電気や熱をよく伝える良導体が多く、金属特有の光沢を示すという特性も持っています。
金属が昔から今まで広く普及しているのは、このような様々な特性から金属が扱いやすく、役に立ったからです。
金属が常温で固体であり、優れた展延性と溶融性を持つことは、金属を加工しやすくした1つの理由でしょう。また、金属の強度に関する多様性や良導体の存在は、用途を広いものにしています。さらに金属光沢は、美しいというだけでなく、鏡に利用できるという点でも有用です。
以下では、これらの特性について詳しく説明していきます。
引用元:NIC アルファマガジン.com
展延性は、材料が割れたりちぎれたりせず、柔軟に変形する性質を指します。展性と延性という性質をまとめたものだといえばよりわかりやすいでしょう。
展性は、圧縮する力を加えたときに変形する性質です。具体的には、展性に優れた金属は、ロールで延ばす圧延等によって板状や棒状に成形することができます。
一方、延性は材料に引っ張る力を加えたときに変形する性質を表します。例えば針金は、延性の高い金属の塊を穴の空いた金型に固定。金属の一端を金型の穴から引っ張ることで成形されます。
展性と延性について、一概に一方が高ければもう一方も高いわけではありませんが、プレスなどの加工法では両方の性質が重要になってきます。プレスは一見すると、金属を金型で上下からはさみ込むため、展性のみに左右されるように思えます。しかし、金型は複雑な形状をしている場合があるため、ある部分では圧縮し、他の部分では引っ張っているといったことがあるのです。
このように、展延性が高いほど金属の加工性は上がりますが、それは同時に金属が柔らかいことを意味します。用途にもよりますが、金属の強みは加工性と硬さなどの強度とのバランスが良いモノを選択できることにあります。
引用元:溶接ケース.com
金属は、人間が扱ってきた様々な材料の中でも強度が高い物質だと考えられています。しかし、一概に金属の強度といっても、硬度や靭性、脆性、剛性など、強度には多くの種類があります。
硬度は、材料の変形しにくさや傷つきにくさを表します。実際には金属の硬度は、試料へ圧力が加えられたときのくぼみの面積や深さから評価されます。
硬度は、構造を保持する金属等に用いる場合には重要な指標です。しかし、硬度が高いほど展延性は低くなり切削等の加工も難しくなるため加工性は下がります。
また一般に、硬度が高い金属は脆くなる傾向があります。
脆性は材料の脆さを表し、脆性が高いほど変形せずに割れやすかったり壊れやすかったりします。変形せずに破壊してしまう性質なので、脆性が高いほど展延性は低くなります。
靭性は、脆性とは逆に、材料の破壊しづらさを表す指標で、粘り強さを表すとも言い換えられます。それは例えば、長い期間金属に圧力を加え続けたとき、少しづつ変形していくものの破壊するまでには至らない。このような金属が靭性が高いといわれます。
また、靭性が高いほど展延性は高いですが、かと言って柔らかいというわけではありません。金属、特に鉄鋼などは、靭性が高い上に硬度もある材料であるためにこれほどまで広く普及しているのです。
引用元:NIC アルファマガジン.com
剛性は、ひずみにくさや弾性変形のしづらさを表す指標です。つまり、材料に力を加えたとき、元の形状に戻るような変形範囲での変形しづらさを表します。
金属に力を加えて変形させても、力を抜けば金属は元の形状に戻ります。しかし、加える力を大きくしていくと、一定の大きさの力を超えた時点で変形は固定(塑性変形)し、元の形状に戻らなくなります。元の形状に戻る変形を弾性変形といい、弾性変形に抗う性質を剛性といいます。
剛性は、加工時の被削材の変形しにくさでもあるため、加工精度に関わる性質でもあります。ただし殆ど場合、問題となるのは材料の剛性ではなく工作機械の剛性の方です。工作機械の剛性が低い場合、加工中の工具は材料との接触により弾性変形してしまいます。そのため、設計した寸法まで加工したつもりでも、工具の弾性変形の分だけずれてしまう可能性があるのです。
引用元:昭和精工株式会社
金属が常温で固体であり、かつ熱で融けることも、金属を利用するときや加工するときに重要となります。鉄とアルミニウムの融点はそれぞれ1540℃と660℃ですが、これらは人工的に得られる温度でありながら、常温とはかけ離れている温度です。
そのため金属は、溶かした金属を型に流し込む鋳造という加工法で複雑な形状を簡単に成形できます。そして冷やされて出来上がった金属製品は、融けてしまったり柔らかくなってしまったりといった心配をすることなく利用できます。
また近年では、レーザーによって金属を融点や沸点まで容易に加熱できるようになっています。これにより、金属の切断や穴あけ、溶接など、多様な加工が可能になっています。
金属の電気や熱に対する伝導性の高さも非金属にはない重要な特性です。例えば、銅やアルミニウムが電線や電子機器の導線等に、鉄やアルミニウムなどが熱交換器やフライパン等の調理器具に用いられています。
一般に非金属材料の伝導性は金属の10~100分の1と低いので、近年に至るまで導電性・熱伝導性を活かした材料は金属だけでした。最近では、導電性高分子材料などが開発されていますが、コストや性能の面から用途は限られているようです。
一方、金属における電気の伝導は金属中の自由電子によって、熱の伝導は自由電子と金属原子の振動の伝達によって実現されています。しかし、不純物が多い場合や高温である場合を除き、熱の伝導も自由電子の寄与がほとんどです。そのため、導電性が高い金属は熱伝導性も高い傾向があり、伝導率は共通して上から銀、銅、金、アルミニウムという順番になっています。
銀の伝導性が最も高いですが、コストの面から工業材料としては銅が多く使われています。しかし近年では、より低コストで新たな合金が開発されているアルミニウムへの代替も進んでいます。
引用元:科学情報誌
金属光沢という特性もまた、金属の実用性に大きく貢献しています。
金属光沢はよく磨いた金属表面に現れる性質ですが、これは金属が可視光のほとんどを反射する性質を持っていることに由来しています。特に銀は、下図のように可視光の全域で反射率が高いため、鏡として利用するのに最適な材料となっています。
一方、非金属でも光沢を持つ材料はあります。しかし、ガラスの光沢や宝石の光沢など、金属の代替となるものではありません。
引用元:徳島大学
それでは、上述した特性をなぜ非金属が示さず金属が示すのでしょうか。それは、原子同士を結びつけている機構が、金属では金属結合、非金属ではイオン結合や共有結合というように金属と非金属では異なるからです。
イオン結合は、電子を放出または受け取りやすい原子同士で生じます。電子を放出した原子は正電荷に帯電して陽イオン、電子を受け取った原子は負電荷に帯電して陰イオンになります。この陽イオンと陰イオンが静電気力によって引き合い結合することをイオン結合といい、イオン結合によって形成された結晶をイオン結晶といいます。
例外もありますが一般に、金属原子が陽イオンに、非金属原子が陰イオンになります。つまり、イオン結合はおおよそ、金属原子と非金属原子が結合するときに起こります。代表的な例には塩(NaCl)がありますが、赤サビ(Fe2O3)や黒サビ(Fe3O4)といった酸化鉄、銅のサビである酸化銅(CuO)もイオン結合で生じます。
イオン結晶はおおよそ、硬いことが多いですが脆くて壊れやすい性質を持ちます。それは、結晶が結合している面でずれたとき、下図のように静電気力による反発が起こるためです。また、固体の状態では電気を通しませんが、融点を超えて液体になった状態や水溶液に溶かした状態では電気を通します。
引用元:F’z Theory
共有結合は、電子を引き付けやすい原子が同様な性質を持つ原子と電子を共有することで生じます。この結合はおおよそ、非金属元素間で生じ、分子を形成します。また、同種元素間で最も強く結合します。なぜなら、異種元素間だと電子を引きつけようとする度合いが異なり、共有した電子の位置の偏りが生じるためです。
例としては、酸素(O2)や水素(H2)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)などが挙げられ、ほとんどが常温・常圧下で気体の状態をとります。それに伴い、融点や沸点は極めて低くなっています。
しかし近年では、常温で固体であり軽量かつ高強度な炭素繊維などの共有結合で結びついた材料が開発され、航空機や鉄道車両等で金属材料との代替が進んでいます。融点も3650℃と高く、導電性や熱伝導性にも優れるため、超高温環境で用いられる電子機器などへも用途があります。しかし、高価で加工が困難なため、金属との代替は限られたものとなっています。
金属結合は、金属が陽イオンになりやすいことから生じます。金属が集合すると、各原子は集合体内に電子を放出。これを共有し合うことで金属は安定します。ちなみにこの安定は、量子力学的な効果に由来し、電子の位置に自由度があるほど、その運動性に自由度が増すことから来ています。
この共有された電子は自由電子と呼ばれ、この自由電子によって金属の様々な特性が実現されています。
例えば高い導電性・熱伝導性は、その伝導を担う自由電子が一つの原子に束縛されないことによります。金属光沢もまた、自由電子の存在に由来します。様々な大きさのエネルギーを吸収できる自由電子は、広範囲の波長の光を吸収することができ、即座に光を放出します。この高い反射性が、金属に光沢を生み出しています。
金属の高い展延性も、金属結合の仕組みに由来しています。金属結合では、結合に貢献している電子でも、近くの電子と位置を交換したり移動したりできます。そのため、金属は力を加えて結合面がずれても、下図のようにずれたところで原子同士は再結合できます。それにより、金属は変形しやすくなっています。
引用元:NIC アルファマガジン.com
また、鉄に炭素を加えると硬くなるように、金属は異種金属を加えると展延性が下がり硬くなる傾向があります。これは、力を加えたときに生じるずれが異種金属によって抑えられるためです。金属はこのほか、欠陥や転位(線上の欠陥)が内部にあっても硬くなりますが、異種金属はこれらの欠陥を動きにくくするため、さらに硬度を向上させます。
次は、金属材料として代表的な鉄、アルミニウム、ステンレス、銅、真鍮について見ていきましょう。
引用元:三沢興産
鉄は、人類が最も広く大量に利用している金属です。ですが、実際に使用されている鉄のほとんどは炭素を0.02%〜2.1%含んだ鋼、及び炭素を2.1%〜6.7%含んだ鋳鉄と呼ばれる材料です。工業的に利用される鉄鋼材料には、さらにシリコンやマンガンなども少量含有されており、用途に応じて多様な合金が用いられています。
例えば、自動車に用いられる高張力鋼(ハイテン)と呼ばれる鋼材では、炭素の添加量や合金元素を調整するだけでなく、加工中の温度を調整することで結晶構造や組織までをも制御しています。
このように鉄鋼は、多様な種類がありますが、おおよそ共通して靭性と加工性を両立している加工しやすい材料です。しかし、湿気によってサビを生じ、酸によって溶解することがあるので防サビなどの処置が必要不可欠となっています。
引用元:株式会社UACJ
アルミニウムは、比重が鉄の約3分の1と軽い金属ですが、柔らかいために合金にして用いることが多い金属です。例えば、アルミニウムに少量の銅などを加えたジェラルミンは、航空機の構造材に使用されるほど高強度になります。
特性としては、耐食性に優れる、毒性がない、伝導性が高いなど豊富な利点を持っています。そのため、食品容器や電線などに広く用いられ、強度の高い合金では車両や船舶、航空機等に使われています。
一方、合金の種類によって違いはあるものの、一般に加工性が高く、プレス成形や鍛造、切削に押出成形、鋳造など、多様な加工法で対応することができます。
引用元:鉄板市場
ステンレスは、鉄鋼の一つであり、鉄鋼の中でも特殊鋼と分類される金属です。具体的には、炭素含有量1.2%以下、クロム含有量10.5%以上の鋼と定義されます。
特性は、表面に酸化被膜を形成するためサビにくく、鉄よりも硬く靭性があります。そのため、鉄よりも高い展延性を活かした圧延やプレス成形に向いている一方、切削は鉄よりも困難になります。
用途としては、サビに強いだけでなく低コストでもあるため、サッシや屋根、門扉、エスカレーターなどの建材、また台所のシンクなど、水回り製品によく用いられています。
ステンレスには多くの種類がありますが、代表的なものにSUS304があります。SUS304は、18%のクロムと8%のニッケル、マンガン等を少量含有しており、ステンレスの中では加工性が良いとされています。
引用元:日本銅センター
銅は、電気や熱の伝導性が非常に高い金属で、展延性も高いことから加工性にも優れています。また、殺菌作用や光沢の美しさ、耐食性から身の回りの製品に多く使用されています。これらの特性から食器や調理器具などのキッチン用品などに用いられており、高級感のある製品として一定の需要があります。
銅の耐食性ですが、これは赤褐色の純銅表面に褐色や黒色の酸化銅による酸化皮膜が生成し、青緑色の炭酸銅(II)になることで発揮されます。この炭酸銅(II)は、緑青(ろくしょう)と呼ばれており、内部の腐食を防ぐ効果や抗菌効果があります。ですが、緑青は日本では昭和後期まで毒性があると考えられていました。しかしこれは誤りであり、その毒性は現在では完全に否定されています。
銅は上述したように、その高い導電性から電線や電子機器の導線等に用いられています。銅は柔らかいため、これを克服した亜鉛との合金である真鍮や、スズとの合金である青銅が生み出されました。
引用元:株式会社新栄製作所
真鍮は、銅と亜鉛の合金で、特に亜鉛が20%以上のものをいいます。真鍮で作られている5円硬貨などのように、黄金色に近い黄色を示すため黄銅とも呼ばれています。
また真鍮では、亜鉛の含有量を変えたり他の元素を添加したりすることで、多様な合金が作られています。例えば、亜鉛が約30%の七三黄銅、亜鉛が約40%の六四黄銅等があります。一般に亜鉛の含有量を増すごとに硬くなりますが脆さも増すため、含有割合45%以上では実用に適していません。
特性としては、導電性・熱伝導性が高く、展延性に優れています。硬度も高すぎるということはないため、切削加工しやすく高度な精密加工を必要とする部品の素材として用いられています。ただし腐食が早く、放置しているだけでも含有している銅で黒色に変化していきます。
用途は多種多様で、コネクターやコンセント、ネジやボルト、時計の精密加工部品など、身の回りの様々なところで使用されています。
以上、金属とは何かというところから、金属加工に関連する金属の基礎知識についてご紹介しました。
金属はそれぞれに特有の性質を備えており、その展延性や強度の両立、溶融性、高い導電性・熱伝導性、光沢の特性は、加工性と実用性という面からとても重要です。
展延性、導電性・熱伝導性、光沢といった特性は、金属では原子同士を結びつけている化学結合が金属結合であることに由来します。イオン結合や共有結合で結びつく非金属とは異なり、金属では金属結合によって内部に自由電子が生じ、自由電子が電気や熱の伝導を担うと共に光沢を生み出す高い光の反射率を実現しています。また、特定の原子に束縛されない自由電子の存在は、金属内部の原子配列の組み換えを可能にし、展延性を優れたものにしています。
鉄、アルミニウム、ステンレス、銅、真鍮といった代表的な金属材料についても解説しました。これらの金属は、純金属の特性を保ちながらも合金化することで、強度を上げると共に特性の強化や付加が図られており、さまざまな目的や用途に応じて使い分けることが可能となっています。
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