染谷 ひとみ
Mitsuri Media管理人
精密板金加工工場のインサイドセールスとして加工と寸法の提案をしてきた経験を経て、製造業の知見と楽しさを提供している。 幼少期からモノの構造を理解するのが好き。JAPAN MENSA会員。
あまり耳にすることがない純鉄。しかし、純鉄は、交流磁場を発生させるのに適した磁性材料であり、無線通信が欠かせない技術となった現在、極めて重要な材料のひとつです。
また、純鉄の加工には高度な技術が必要です。そのため、磁性材料の加工や磁性部品の製造を請け負っているメーカーも少ないので、純鉄の加工法について知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では、純鉄の詳細や純鉄加工の種類・用途について解説していきます。純鉄加工が難しい理由や加工にあたっての対策・注意点についても説明してますので、ぜひ参考にしてください。
純鉄とは、純度が99.90~99.95%程度、炭素含有率が0.02%程度までの不純物元素が少ない鉄のことです。一般的には、炭素含有率が0.02%以上の鉄については鋼、純度99.999%以上の高純度の鉄については高純度鉄と呼ばれます。ただし、JIS規格では、鋼と純鉄、高純度鉄を分ける純度や不純物濃度の明確な区分はありません。
純鉄は、透磁率と残留磁束密度が大きく、保磁力が小さいという特性を持ちます。つまり純鉄は、磁化されやすく強い磁力を帯びやすい上、磁性を容易に反転できる材料です。このような材料は、軟磁性材料と呼ばれ、電化製品や産業機器、通信機器など、様々な用途で用いられています。
また、機械的性質として、冷間においても展延性が高く軟らかいため、冷間鍛造加工性に優れています。ですが、プレス加工を行うと保磁力が弱まるため、磁性材料として用いるには切削加工がより適切です。しかし、延性が大きいことから、切削加工に高度な技術を必要とします。
純鉄の種類としては、アームコ鉄、電解鉄、海綿鉄(還元鉄)、カーボニル鉄などが取り扱われています。
アームコ鉄は、アメリカの鉄鋼メーカーであるアームコ社が開発した工業用純鉄です。主に電磁石の磁心に用いられています。
電解鉄は、鉄を含む水溶液を電気分解することで精製した純鉄のことです。高純度の純鉄を得られやすく、99.95%(3N品)、99.99%(4N品)、99.999%(5N品)の製品も売り出されています。航空機や自動車の部材、電子部材や高機能磁石などに使用されています。
海綿鉄は、酸化鉄鉱石を還元することで得られる多孔質の純鉄です。これを砕いたものが還元鉄粉で、特殊合金鋼の原料や粉末冶金用の鉄粉として用いられています。
カーボニル鉄は、海綿鉄などを一酸化炭素と反応させて鉄カーボニルガスとし、再び鉄と一酸化炭素に分解することで得られる純鉄です。圧粉磁心(鉄粉を圧縮成形して磁心としたもの)や焼結磁石原料などに広く利用されています。
純鉄は、鉄粉を焼結・圧縮成形して用いるケースと、板や棒などを鍛造・旋盤・切削加工して用いるケースがあります。
鉄粉を成形するケースでは、主に磁心や磁石などに用いられています。そのほか、合金鋼の原料や粉末冶金用に他の金属と混ぜて成形したものが、高密度・高強度部品として金型や自動車部品などに用いられています。
一方、鍛造・旋盤・切削加工を行うケースでは、純鉄は軟磁性材料として使用されることが多いです。自動車エンジンの燃料噴射用電磁弁、ソレノイドコア、トルクセンサコア、各種センサーなど、様々な用途に用いられています。
純鉄そのものを加工する場合、主に鍛造・旋盤・切削加工を用います。これらのどの加工法についても、純鉄は、磁性材料として使用されます。
鍛造加工は、プレス機などで加工物を圧縮または延ばすことで成形する加工方法です。純鉄は、常温でも展延性に優れているため、冷間鍛造加工に向いています。
この方法で加工される純鉄は、リレーや電磁石、磁気クラッチ、ブレーキ、モータなどの磁性部品が用途です。しかし、鍛造加工では、純鉄の保磁力が強まり、磁性材料としての性質が弱まってしまうという欠点があります。
また、これらの磁性部品は、JIS規格において、その化学成分やビッカース硬さ、磁気特性などが下表のように決まっています。ただし、これら「SUY-○」で表される材料は、規格で電磁軟鉄と記述されており、炭素含有量が必ずしも0.02%以下ではありません。しかし、メーカーでは、これらの電磁軟鉄も純鉄としています。
引用元:株式会社淀川製鋼所
引用元:株式会社淀川製鋼所
旋盤加工は、回転させた加工物に工具を当て、削り取ることで加工する方法です。純鉄は、NC旋盤などで加工を行うこともありますが、難削材であるため高度な切削技術を必要とします。そのため、鍛造加工を行って完成品に近い形状に成形し、後に旋盤加工で形状を整えるといった方法も取られています。
用途は、鍛造加工による純鉄と同様ですが、より強い磁気特性や高い精密性を要する製品に用いられます。
参考記事
旋盤加工については、以下のサイトで詳細を説明していますので、ぜひご覧ください。
⇒旋盤加工について専門家が解説!加工の種類・加工機の種類がこの1記事でわかります!
切削加工は、加工物に回転させた工具を当て、削り取ることで加工する方法です。旋盤加工と同様、高度な切削技術が必要です。
そのほか、用途も旋盤加工と同様です。また、マシニングセンタなどの設備に依存しますが、旋盤加工よりも微細な加工が可能です。
参考記事
切削加工の種類については、以下のサイトで解説しています。
⇒切削加工の種類【専門家が解説】フライス加工、旋盤加工について詳細をお伝えします!
純鉄は、延性が大きい、つまり軟らかく粘いため、切削加工が難しいと言われています。
純鉄の伸びは、炭素鋼の伸びが15~25%であるのに対し、45%程度にも達します。そのため、純鉄を切削加工すると、切り屑がのびてしまい材料からなかなか剥離しません。こののびた切り屑は、工具などに絡まりやすく、剥離したとしてもバリになり易いです。
切り屑の絡まりは、工作機械の故障や工具の消耗につながりやすく、また材料の変形や傷の原因となります。さらに、バリが発生しやすいため、バリ取りに手間を取られて工数と加工費がかさみます。
こういった純鉄の難削性は、炭素含有量を上げることで改善できます。しかし、炭素含有量を上げると、電磁気特性が損なわれることから、純鉄を磁性体として用いる場合には適切な方法とは言えません。
可能な限り磁性を維持した快削純鉄と呼ばれる製品もありますが、切削性は向上するものの、電磁気特性がわずかに低下してしまいます。また、切削性についても、低炭素鋼と同等とは言えず、加工が難しいことは変わらないようです。
純鉄のほか、ステンレスやチタン合金など、難削性材料の加工は、ぜひMitsuriにお任せください。
それでは、純鉄を切削加工するには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
難削材の切削加工は一般的に、「工作機械や工具保持具の剛性」、「クーラント(冷却剤)」、「切削速度」、「切削工具」が問題となります。これらの点に関する、純鉄の切削加工をする際の条件について説明します。
機械の剛性、すなわち工作機械や工具保持具の剛性とは、工作機械や工具が動いたり振れたりしにくい性質のことです。加工時に芯が振れてしまえば、加工位置がずれてしまうので、高精度の加工ができません。
工作機械については、自重を上げたりしっかり据え付けたりすることで、工具保持具については、強力かつ高精度の保持具を備え付けることで剛性を向上させることができます。
純鉄は、粘いために切削抵抗が高く、工具が振れることがよくあります。そのため、工具保持具の剛性の調整に注意が必要です。
ク-ラント(冷却材)は工作物や工具を冷却すると共に、切削性を向上させたり工具の消耗を抑えたりするために用いられます。通常、粘度が低いものほど冷却効果が高いですが、粘度が高いものの方が潤滑性や抗溶着性(切り屑等の付着しにくさ)に優れています。
そのため、純鉄にはある程度の粘度があるク-ラントを選定するほうが良いようです。
切削加工の速度は、大きいほど、加工能率が上がり、仕上げ面が滑らかになるという利点があります。しかし、切削抵抗が上がって工具が振れやすくなる、切削温度が上昇して工具の消耗が早くなるなどの欠点も現れます。
純鉄に関しては、工具の劣化が進行すると共に、バリの発生率も跳ね上がるため、バリ取りの工数も考慮することが必要です。つまり、切削速度に関しては、工具の強度や交換頻度などの様々な要因が絡むため、設備や素材に応じて適切な速度を模索しなくてはなりません。
純鉄の切削加工では、超硬合金やサーメット、ダイヤモンド、CBN焼結体などの硬質材料を母材とした工具が主に用いられます。しかしそれでも、工具寿命が短くなりがちなため、この寿命をいかに伸ばすかが課題となっています。
その方法の一つとして、工具に耐熱性や強度を向上させるコーディングを施す方法があります。コーディング法にはPVD(物理蒸着)やCVD(化学蒸着)などがあり、純鉄加工にはPVDによるチタンコーティングが適しているという報告もあります。しかし、純鉄の種類によっては、溶着しやすく寿命が短くなることもあることから、未だ決定的な方法はないようです。
いかがでしたでしょうか。
純鉄の切削加工は、高度な技術が必要なだけでなく、加工特性の研究が未だ道半ばというところが現状です。しかし、このような状況でも、加工メーカーは独自のノウハウや経験を蓄積することで、純鉄の切削加工を実現しています。
磁性材料に関わりのある業種の方は、純鉄という選択肢もあるということをぜひ覚えておいてください。
Mitsuriは、日本全国に協力企業が250社以上ございます。そのため、お客様にとって最適な加工方法の選択に加えて、純鉄加工が得意なメーカーのご紹介も可能です。
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