2025-01-15
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板金加工の一種、“打ち出し加工”をご存知でしょうか。ほとんどの金属加工が機械化されている中で、打ち出し加工は、今日も人の手で行われている技術です。しかも製品は、新幹線やモノレールの顔である先頭構体など、人が手作業で作ったと思えないほど精密で美しいものばかりです。
本記事では、打ち出し加工の概要と製品例、プレス加工との比較についてご紹介します。
打ち出し加工は、別名“叩き出し”ともいわれ、厚さ1〜6mm程度の薄板をハンドハンマーなどで叩いて伸縮させ、複雑な三次元曲面をつくりだす板金加工技術の一種です。ハンマーでの金属加工というと、加熱した状態の金属を成形するイメージがあるかもしれませんが、そちらは“火造り”と呼ばれ、打ち出し加工とは異なる技術といわれています。打ち出し加工の歴史は数千年にも及び、古くは金属製のマスクや軍の甲冑などに用いられ、その時代時代で求められる製品を生み出して今日まで継承されてきました。
打ち出し加工の一般的な作業工程は、下記の流れになります。
①形状の輪切り断面図の作成
②精度確認用の型板・材料の金属板・骨組の切り出し
(レーザー切断)
③治具(型板を溶接した補助具)・骨組の溶接組立
④打ち出し成形(成形加工機、ハンマー)
⑤板の溶接と歪み取り
⑥表面仕上げ
打ち出し加工の技術者は、常温のままの金属板をハンドハンマーで成形した後、それら複数の板を溶接接合し、溶接によって発生した歪みを除去し、打痕や溶接ビードの除去などの表面仕上げまで行います。
打ち出し板金に使用する工具は、主に
①金属板を叩くハンドハンマー
②鉄床(金属板を置く鉄製の台)
③あて板(金属板の裏にあてがう)
の3つが挙げられます。
金属板を鉄床の上に置き、金属板の裏側にあて板を片手であてがって、もう片方の手でハンマーを叩いて加工していきます。
手作業の前に、大まかに曲げておく場合は、成形加工機を使用します。成形加工機は、上下運動するハンマーが金属板を叩く仕組みで、技術者の手作業の負担を軽減するために大まかな曲げや細長い部品の成形に使用します。
また、ハンマーひとつをとっても、求める形状や作業工程に応じて5〜6種類が使い分けられます。粗出しハンマー、ならしハンマー、ピックハンマー、木製ハンマー、ゴムハンマーなど、それぞれ大きさや重量、素材が異なります。
とてもシンプルな工具を使用しながら、高度な加工を実現するところに、技術者の技術力が表れています。
シンプルな工具で叩いていくことによって成形する打ち出し加工ですが、実はその曲面形成の原理については、研究者の間でも意見が分かれています。
以上①〜③が繰り返されることによって、滑らかな曲線が形成されるという見方があるとのことですが、実際の現場においては、体で覚えていくような感覚かつ経験に裏付けされた技術によって加工がなされています。
打ち出し加工では、軟鉄やステンレス、アルミ合金、マグネシウム合金などが材料として使用されています。新幹線の先頭構体などは、軽量化が進められた結果アルミ製がほとんどであり、車両部品関係はその軽量化と加工性の良さからアルミニウムやアルミニウム合金が多用されています。
打ち出し加工による成形品は、数cm程度の小さな部品から10mを超えるものまで、多岐にわたります。
鉄道車両部品の分野では、新幹線や在来特急電車、モノレール、路面電車などに活用されています。量産車だけでなく、試作車や実験車両にも使用されており、他にも、運転室の内張や窓枠、計器盤の本体やカバーなどにも打ち出し加工の技術が使われています。
鉄道以外でも、建築物の内外装や開発・試作の装置機器の筐体、また甲冑などの工芸品や美術品も製品例に挙げられ、打ち出し加工は単品または極少量生産の製品に特化している技術といえます。
曲面成形というと、最初にプレス加工を思い浮かべた方が多いかも知れません。打ち出し加工は、機械ではなく手作業のため、加工できる技術者が限られている方法ではありますが、求める製品によっては打ち出し加工を採用する方がメリットをもたらす場合があります。
例えば、少量生産の場合、プレス加工では金型が必要となるため、その金型製作の時間やコストを考えると割に合わない場合もあります。しかし、打ち出し加工であれば、金型が不要なため一品からでも小回りがきき、急な注文にも対応することが可能になります。
また、新幹線の先頭構体を作る場合、新幹線の鳥のくちばしのような顔を作るには、プレス加工ではいくつもの金型が必要になります。打ち出し加工であれば、図面に基づき複数の金属板をハンマーで成形、溶接することで製作が可能になります。
他にも、試作などの検討段階で、様々なサイズや形状に対応できる点も、打ち出し加工のメリットといいます。プレス加工は、パンチとダイのセッティングや板の材質で成形の良し悪しが決まってしまいますが、打ち出し加工は金型を毎回作り直すことなく微調整や再検討ができ、求める製品に近づけていくことができます。
打ち出し加工は、道具や工程のシンプルさから、技術者の経験と研ぎ澄まされた感覚によって成形の良し悪しが決定される、とても奥深い技術です。金属加工の機械化が進む一方で、それでも手作業だからこそ生み出せる製品の価値と精度があります。技術者の技が詰まった打ち出し加工に、これからも注目していきたいですね。
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