2025-01-15
更新
大川 嘉雄
有限会社大川板金 取締役
創業50年、板金加工・機械加工等の金属加工を手掛ける有限会社大川板金で取締役を務める。町工場の3K(きつい、汚い、危険)イメージを変え、カッコいい人達で溢れる職場を目指している。
長野県上伊那郡に試作金型、試作プレスをてがけるプレス加工メーカーがある。
有限会社フジ精密工業だ。
諏訪圏地域の精密ものを得意として、多品種小ロットで事業を展開。
ものづくりを通して、人づくりも目指す。
今回は、代表の藤崎聖氏にお話を伺ってきました。
藤崎氏
弊社は、プレスの金型の設計から製作までとプレス加工を手がけています。特徴的には、プレス業界の中では多品種小ロットのプレスを主に扱っています。板金屋さんとプレス屋さんの中間に位置しているようなイメージです。私の構図の中では、広い意味での板金というものがあって、その下に板金加工屋さんとかプレス加工屋さんが入っています。私自身が板金屋さんで働いていたこともあって、板金よりのプレスを手がけている感じですね。
藤崎氏
私は2代目に当たるのですが、先代がもともと日本電産サンキョーの仕事を手がけていたんです。
そちらは、量産にしては比較的ロット数が小さいもの、500個のものとかを多くやっていたんですね。
このロット数は板金では、かなりしんどい。
でも、プレスではちょっと少ない。
そういうロット数のものを多く手がけてきました。
現在もその流れを汲んでやっているので、多品種小ロットになっています。
弊社は、単発金型というものを使って、小回りよく作っていくところに強みがありますね。
もちろん板金でも可能です。
要は、どこにコストをかけるのかの問題です。
板金屋さんは機械にコストをかける。
これに対して、プレス屋さんは、金型にイニシャルコストをかける。
要は、どちらの方が安くできるかっていう問題でもあります。
藤崎氏
専用の金型を作らないと加工できないような案件ですね。
例えば、絞りなど形状が複雑になってくるものです。
どうしても汎用の金型だけでは難しいんですね。
後は、精度が高いもの。
これも、比較的にプレスに回ってきます。
それから、既にプレス加工を見越しているものですね。
最初からプレス屋さんに頼んでたほうが早いですから。
後は、板金ではなくてプレス金型でやることによって、どのくらいのスペックを実現できるのか見極めるために依頼されるようなこともありますね。
試作金型の依頼は、開発される方の要望に依存します。
どういう製品で、どのくらいのコストで市場に出したいのか、どのくらいの売り上げをあげられるのか。
開発される方はその辺りまで見越していらっしゃいますけど、そうすると原価も問題になってきますよね。製品の形状、数、原価のことを考えたときに板金でやるのか、それともプレスでやった方がいいのか。この辺りに関しては、お客さまと一緒に考えて作っていかないといけない部分もあります。その辺りが決め手になってきますね。板金屋さんの場合は、レーザやタレパン、ベンダーなどを使って作る。プレス屋さんの場合は、専用の金型とプレス機でどかどかって作りますね。
藤崎氏
先ほど申し上げたように、先代が日本電産サンキョーさん、昔の名前ですと三共精機製作所さん。
そこでオルゴールなどのプレスや金型を手がけていたんですね。
その技術を引き継いでやっているイメージですね。
これまでは、サンキョーさんの一社購買でやらせていただいていました。
ただ、私の代になってそのような事業スタイルでは難しくなってきまして。
そのような流れの中で、新しいお客さまや業界とお仕事させていただくようになってきました。
その中で、試作ものを手がけるようになってきました。
要は、試作を手がけることで弊社の技術をアピールすることができます。
また、その案件が量産につながっていくこともあります。
もともと、そのような試作案件を当たり前に受けることができる環境があったわけではなかったので、苦労はありましたが。
始めたころは、お客さまから図面が来て、それをただひたすら作っていくという感じでして。
本当に下請けのような感じでしたね。
よく言えば、お客さまの一部署のような感じでした。
藤崎氏
そうですね、事業所みたいな感じでした。
それまで、一切営業機能とかなかったんです。
自分たちの工場や会社を売り出す、アピールするような環境がありませんでした。
そこを変えて、様々なお客さまとお付き合いできるようにしました。
地域的には、諏訪圏です。
この辺りは諏訪圏の影響を大きく受けています。
ですから、精密ものがとても多いです。
弊社は、特に薄ものと呼ばれるようなものの依頼が来ます。
基本的に、1.0ミリ以下の厚さの板金ですね。
弊社で、今、一番薄いものは、100分の1ミリのもの。
こういう薄ものを手がけているのは、諏訪圏の特徴だと思っています。
藤崎氏
基本は、地元の人間ですね。
もちろん県外からいらっしゃった方もいますし、技能実習生もいます。
実習生はベトナムの方が主体ですね。
会社の平均年齢は40ちょっとくらいです。
製造業は、30くらいがいいですね。
弊社だけではなく、ここ数年で製造業の平均年齢ってあがってきていると思います。
若い人が減ってきてしまっているんですね。
それに対して、我々の世代が人口が多い。
そうすると、どうしても比率的に平均年齢があがってきてしまいますね。
弊社のような年齢比率って、結構日本の人口の割り振りに似ていると思います。
藤崎氏
製造業で働きたいっていう人間が、圧倒的に少なくなってるっていう問題もありますよね。
その中で、やるんだったらエンジニアを目指して欲しい気持ちもあるのですが、どうしても時間がかかります。
弊社で言うと、金型をやるのにセンスがいい子でも10年くらい欲しいです。
それで、そこそこ一端になる。
だけど、今10年修行するだけの時間をもらえるかというと、社会がなかなかそういう環境になっていない。
人も同じで、ちょっと違うなと思ったらすぐに辞めてしまう。
なかなかそういう状況では、一人前のエンジニアを輩出することは難しいと思います。
藤崎氏
なるほど。
ただ、これからはそこが明確に分かれてくると思います。
私は、それを全く望んでいないんですが。
お話のワーカーがエンジニアの資質を持ちながらやっていくこと。
それって、本当は日本にすごく合ってると思うんですよね。
でも、社会の流れは違う方向に向いていますよね。
例えば、働き方改革のようなものも含めて。
こちらとしては、経験を積ませてあげたくてもできない。
時間が来たので、今日はここまでです。
もう働いてはいけません、と切ってしまわなくてはいけない。
物覚えがよくて感性がある人間は、就業時間内で様々なことを吸収して、どんどんと力をつけていくことができる。
でも、そういう人間は少数ですから。
そうではない人間に関しては、経験をたくさん積ませてあげなければいけない。
そこが今後できなくなるとすると、いいエンジニアになる可能性があるのに面倒を見てあげることができなくなってしまいます。
そうなると、エンジニアにはなれない、ワーカーです、ってなってしまいますよね。
そこは、ものづくりに関わってきた人間として悲しい部分があります。
私もものづくりに携わって、色々な方を見てきましてけど、やはり職人といわれるような方々は若いころにものすごい量の仕事をされている。
やっている仕事の量の桁が違うんですね。
結局、どれだけ経験値を積めるかの世界でもあるんです。
特に、金型の世界なんて、どれだけ失敗するのかという世界。
失敗して、どうして失敗してしまったのかをきちんと考えて、改善していく。
それが、その人間の技術、引き出しになっていくんですね。
これは、とても時間が必要になることです。
それをやりたいという人間がいても、会社として許すことができませんという環境になってきているので、技術を身につけさせてあげることができなくなってきているわけです。
藤崎氏
仰る通りで、私も1回計算したことがあるんです。
金型をきちんと作れる人間を育てるのどれくらいコストがかかっているのか。
まったくのゼロからスタートすると、3年は教えますので、大体600万くらいかかります。
一人当たりに、です。給料とは別にそれだけのコストをかけないといけない。
ですから、給料の分も含めて考えると一人の人間を育てるのに1000万を軽く超えていくような金額をかけているわけです。
もちろん、これは将来その人間がきちんと育って、力を発揮してもらえれば、すぐに元は取れます。
ただ、その人間が、例えば途中で辞めてしまって、ほかの企業さまに行ってしまえば、それはもうただの損失です。
ですから、この辺りは賭けみたいなところがあります。
だけど、そういう人間をきちんと育てていかないと、弊社のような中小企業って成り立たないんですよ。
ですから、賭けだとわかっていて、やりつづけなければいけない。
そこは本当に難しいところです。
プレス金型で言えば、正解なんていくらでもあるんです。
その正解の中で、どれを選択するのかっていうところが、腕の見せどころになるんです。
それはもう、どれだけ引き出しを持っているかですから、どうしても経験が必要なんですよね。
1点でも同じものを作らない、毎回違うものを作っている。
ですから、引き出しを沢山持っていなければ対応できないんです。
ここの人材育成の部分は、正直とても興味はあって。
余裕があれば、力を入れてトライしてみたいと思っています。
弊社の職人さんを第一線から早めに外して、教育の方に回してどんどん人間を育成していってみたい。
それも、単に弊社の中ではなくて、外部の人間に向けて教育してみたいんです。
ここら辺の工科短大でも工業高校などに向けても、そういう人間を派遣できるように。
実際に教えて欲しい、というお話もありますので、将来の話にはなりますが、早めに取り組んでいきたいと思っています。
それで、板金ってなんだろう、プレスってなんだろうって興味をもってもらいたい。
そうすれば業界全体が発展していくでしょうから。
大手の設計担当の方にも、そのような話し合いができるような、もっと言えば教育できるようなチャンスが欲しいです。
プレス部品っていうのは、こういうもので、何に強みがあって、どれくらいの単価でできるものなのか。
あるいは、こういうもんは苦手としているので、そういう設計はして欲しくないとか。
それが、できていれば毎回毎回折衝してたり、来た図面を戻したりなんて手戻りは圧倒的に減るでしょうから。
藤崎氏
それも大分流行ってきていますよね。
できるだけアウトソーシングして、リスクを減らしていくっていうやり方ですね。
ここはビジネスモデルの話でもありますが、そのように考えらる経営者の方も多いです。
ただ、ものづくりってやはり一貫な部分があります。
素材から始まって、部品を作って、それが実際に組み込まれていって最終的にどのように動くのか。
ものづくりの理想は、これを全部やることです。
ただ、すべて手がけるのは現実的ではないですし、リスクも増えます。
ただ、できるかぎりものづくり全体を手がけたいという思いはあります。
全体をトータルで見渡すことのできる環境があればいいな、ってずっと思っています。そのことが先ほどの教育の話にもかかわってくるのですが。
結局、プレスなんて、ものづくりの末端の手法の一つ、工法の一つでしかないですから。この製品にこの工法が向かないなって、思ったら別の加工方法にトライできたらいいですよね。そういう柔軟さは、ものづくり全体で考えれば、重要なことだと思っています。多分ですけど、弊社のような小規模の会社が、1社だけで頑張って、技術磨いてやっていく方式って難しくなってくると思うんです。ですから、例えば弊社と別の加工業者さまが組んで、一緒にできる仕事は共同でやっていきましょう、一緒にやることでこういうことができるようになりました、とか。そういうことを一つずつ積み重ねていって、一つのまとまりができたらいいな、と考えています。
藤崎氏
そうです。
沢山ありますよね。
これは、もうコーディネーターに尽きると思います。
実際に、ものをつくるときに何の工法でやるのがベストなのか。
さっきの金型ではないですが、工法にも正解は沢山あります。
板金でつくってもいいし、切削でもいい、鍛造でもいい。
要は、この部品に何が求められているのかがわかればいい。
逆に言うと、全部理解していなければいけない。
この部品だったら、この工法がいいよねって、どんどん決定していくことができるコーディネーターが肝になってきます。
そこが一番難しいでしょうね。
藤崎氏
そうですね。
ものづくりも取りまとめてやるので、プロデューサーがいないとなかなか上手くいかないこともありますよね。
個々の技術云々っていよりも、技術を理解していて、つくる部品のことも理解していて、マッチングさせていく力。
これは本当に難しいと思います。
これだけITが進んでいますから、ある程度システム化もできるのではないかとは思っています。
ただ、細分化して仕事を考えなければいけない部分ももちろんあって。
例えば、プレス業界では、自動車部品得意なところ、白物家電の部品が得意なところ、バネものが得意なところ。
大きさも含めてですけど、プレス屋さんも細分化しています。
そこを、選択肢としてどれだけ整理できるのか。
藤崎氏
プレスも同じですね。
金型屋さんって、全く同じ金型をつくるところってそうそうないんです。
ここら辺は、地域性の問題も絡んでくるのですが。
弊社の地域で言うと、セイコーさんとかサンキョーさんの金型のつくり方がすごく強く出ています。
これが、関西のほうに行くと全く違う金型になるし、東北行ってももちろん違う金型になる。
関東はちょっと似てるけど、でもちょっと違う。
弊社は、色んな地域から依頼をいただいていますので、なかなか大変だなと思いながらやっていますけど(笑)
諏訪地域の金型に限って言うと、かなりお金をかけている金型です。
ですから、パーツの交換さえしていけば半永久的に使えるような金型です。
県外の方ですと、よく保証ショット数いくつです、とかっていう話があります。
逆に、保証ショットとか言われて依頼されると困るんですよね。
一万個打ったら、型を更新してくださいみたいな。
そういう、言ってみたらラフな金型って作れって言われてもなかなか(笑)
藤崎氏
弊社は、とにかく人づくり、エンジニア育てていくことが一番の課題です。
そのためには、若い人にどうやって入っていただいて、かつ育てていくのか。
これは、来年からなのですが、とても技術の高い会社さまと業務提携をして、そこの技術を教えてもらいながら、仕事をアウトソースしていくような仕組みを作る予定です。
生産技術と教育が一緒になったような部隊にアウトソーシングして、そこからフィードバックをもらいながら仕事にいかしていく。
そういうやり方も模索しています。
少し話が横にそれてしまうかもしれないのですが、日本人って何なのかなって最近思っています。上手く、見えてこないんです。優秀な人って絶対いるとは思うのですが、なかなかそういう人に出会うことができない、引き当てることができないんです。自分はこれをものにして、将来こういうことをするんだっていうビジョンを持っている人が少ない感じがします。今の自分に合うかどうかで判断して、違うなって思ったら辞めてしまいます。で、別の業界に行ってしまう。やってみて、できるようになったら面白い仕事なんですけど、なかなかそこまで続かない。その点、技能実習生なんかは意識高く仕事されています。技術身につけて、国に帰ったら起業したいっていう思いを持っている人もいますから。単純にお金を貯めて、それを元手に経営者になりたいっていうタイプの人もいます。いずれにせよ、目的がしっかりしているんですね。だから、仕事に対して貪欲。これに対して、日本人はわかりづらい感じがするんです。お金が欲しいのか、技術を身に着けたいのか、よくわからないんですね。
藤崎氏
基本的には、同じだと思います。
私も板金の業界にいたことがあるのですが。
板金って技術者の集まりみたいなところがありまして。
プレスも似てはいるのですが、技術の8割くらいは金型に集結します。
後の2割くらいをワーカーさんが加工するというイメージですね。
板金屋さんがやっている技術を、プレスは金型に詰め込んでいくという作業がある点で違いがありますね。
弊社は、板金屋さんとも繋がりが強いので。
板金屋さんがお手上げしたようなものを受けてやっていくこともあります。
冒頭で申し上げたことでもあるのですが、広い意味での板金があって、その下に狭い意味での板金とプレスがあると私は思っています。
ですから、とても身近な業界だと思って、一緒に仕事をしていますね。
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