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真空浸炭焼入れの原理、メリット・デメリット、硬化層深さ、適した材質

2025-01-15

更新

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金属加工業界最大級のマッチングプラットフォーム「Mitsuri」を手掛ける企業。
「未来の製造業をつくる」をモットーに、製造業DXを推進している。

今回は真空浸炭焼入れの原理やメリットなどについて解説します。

真空浸炭焼入れは、金属加工に用いる熱処理方法の一種です。浸炭とは、鋼の表面に炭素を浸透拡散させる処理の総称で、浸炭後に焼入れ焼戻しなどの熱処理を行うと、材料の耐摩耗性が向上します。

浸炭は設備によって、液体浸炭やガス浸炭などのさまざまな方式がありますが、そのなかでも真空浸炭には豊富なメリットがあります。

真空浸炭焼入れとは

真空浸炭焼入れとは、減圧した炉内にメタン・プロパン・エチレン・アセチレンなどの炭化水素系のガスを直接炉内に装入して、ガスの熱分解によって生じる活性炭素を、材料の表面に浸透させる熱処理方法です。

真空浸炭焼入れを施した材料は、表面が硬くなり耐摩耗性が得られます。また、材料の内部は硬さが低いため、高い靭性も有しています。

真空浸炭焼入れは、主に低炭素鋼に施す熱処理で、用途としては自動車部品や機械部品などで採用されています。

参考:焼き入れとは?焼き入れの種類ごとの特徴に分けて解説!

真空浸炭焼入れのメリット

●耐摩耗性の向上

真空浸炭焼入れは、ガス浸炭焼入れに比べて軟化層の発生がしにくく、より製品の耐摩耗性を向上させられます。浸炭を真空炉内で処理することで、浸炭深さのバラつきが抑えられるのもポイントです。

●粒界酸化がなく、品質向上に繫がる

真空浸炭焼入れは、名前の通り真空状態の炉内で処理を行うため、安定して材料全体に炭素を供給できるだけでなく、材料の表層部に粒界酸化が発生しない特徴があります。

粒界酸化とは、酸素や二酸化炭素などの酸化性雰囲気中で熱処理をした際に、金属製品の表層部が酸化する現象のことで、ヒビの原因となるものです。以上のことから、真空浸炭焼入れを行った製品は、粒界酸化材料表面のトラブルが軽減され、品質の向上に繫がります。

●ステンレス鋼の浸炭が可能

真空浸炭焼入れは、ガス浸炭焼入れでは不可能だったステンレス鋼に対しても浸炭を行えます。

●作業効率の向上

真空浸炭焼入れは、最大1100℃程度の高温で熱処理が可能なほか、炉の立ち上がりが素早く行えます。浸炭層の深さは処理温度と時間に比例するので、高い温度で熱処理が可能な真空浸炭焼入れは、作業時間の短縮を実現します。

●環境に優しい

真空浸炭焼入れは、地球温暖化の原因とされているCO2などの温室効果ガスの排出が少なく、環境に優しい特徴があります。

●優れた安全性

真空浸炭炉内は完全密封された状態で、炎や煙が発生しません。これにより、火災や爆発のリスクがなく、安全に使用できます。

真空浸炭焼入れデメリット

●コストが割高になる場合がある

真空浸炭焼入れは、複数の製品を混載処理する事が困難なため、ガス浸炭焼入れに比べるとコストが少し割高になる場合があります。

●ススが発生しやすい場合がある

真空浸炭炉内に炭化水素系ガスを供給すると、熱分解により大量のススが発生してしまいます。そのため、炉のメンテナンスが煩雑になる場合があります。ただし、浸炭ガスにアセチレンガスを用いて、低い圧力で供給するなどの手順により、ススの発生を抑える方法もあります。

真空浸炭焼入れの原理と工程

引用元:岡谷熱処理工業 真空浸炭焼入れ

真空浸炭焼入れは、低炭素鋼を加熱・浸炭を行うことで炭素Cが材料の表面に拡散します。その後に焼入れを行うと、材料表面が高炭素濃度化し、高硬度で優れた耐摩耗性が得られます。このとき、材料の内部は低炭素濃度のままとなっており、優れた靭性も同時に得られます。

真空浸炭焼入れに適した材質

真空浸炭焼入れは、低炭素鋼である以下の材質が適しています。

  • ・SCM415

  • ・SS400

  • ・SPCC

また、真空浸炭焼入れは、難浸炭材と言われているSUS304のステンレス鋼に対しても対応が可能です。優れた耐食性を有するSUS304に表面硬化を行うことで、あらゆる分野の製品に活用できます。

鋼の浸炭硬化層深さ

真空浸炭焼入れでの品質を決める要素に、浸炭の深さがあります。真空浸炭焼入れの深さは、「有効硬化層深さ」と「全硬化層深さ」の2種類がJISにて規定されています。

有効硬化層深さ

有効硬化層深さは、【JIS B 6905:1995 金属製品熱処理用語】にて、「硬化層の表面から、規定する限界硬さの位置までの距離」と定義されています。

また、【JIS G 0557:2019 鋼の浸炭硬化層深さ測定方法】では、限界硬さが550HVにて設定されていることから、有効硬化層深さは一般的に「焼入れのまま、又は200℃を超えない温度で焼戻しした時の表面から、550HVまでの距離」を意味します。

全硬化層深さ

引用元:三洋金属熱錬工業株式会社 浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れ処理

全硬化層深さは、「硬化層の表面から、硬化層と生地との物理的又は化学的性質の差異が区別できない位置までの距離」とJISで定義されています。分かりやすく述べると、上図のように材料の表面から炭素が侵入している所までの距離を指します。

真空浸炭焼入れを行った材料は、内部に行くにつれて硬さが低い値を示します。ただし全硬化層深さは、有効硬化層深さのように明確な硬さの基準があるわけではなく、素地と有効硬化層深さの区別がつかないところまでの距離を指しています。

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