快く取材を引き受けていただき、ありがとうございます。まずは、御社の事業内容や強みを教えてください。
小貫氏
はい。
弊社は曲げ、溶接の製缶板金をメインとしています。
それに付随してた形ですが、レーザー加工にも力を入れています。
もともと、弊社は金網を作るメーカーとして創業した経緯がございます。
ですから、現在でも金網のフィルターや、お客様のご依頼でストレーナーを作ったりしていますね。
取引をさせていただいている業界としては、食品関係が一番多いですね。
ステンレスをメインに扱っていまして。
食品関係の機械メーカーさんからお仕事をいただくことが多いです。
その他にも理化学や工業系、建築系、半導体など。
機械の部品を提供するようなイメージですね。ありがとうございます。御社の事業の中で、板金加工がメインになっているという理解でよろしいでしょうか。
小貫氏
そうです。
まず板金加工ありきで、お仕事をいただくことが多いですね。
板金加工のお仕事をいただく中で、弊社に不足している部分としてレーザー加工が浮かび上がってきまして。
レーザー加工にも対応できるように、設備を導入しました。
元々、金網屋だったという経緯があるので、一般的な板金屋では難しいパンチングの加工を得意としています。
今は、パンチングメタルは大量生産をする時代です。
メーカーさんが大量生産されたものを購入して、特殊な加工をするのが一般的です。ただ、弊社はタレットパンチプレスを使用しながら、特注の穴あけ加工ができます。
なるほど。板金と金網のかけ合わせが御社の強みに。
小貫氏
その通りですね。
通常の板金屋さんは、金網の部分を協力工場さんを使用しながら対応しているかと思います。
弊社は、ワンストップで実現可能。
先ほど申し上げたようにレーザー加工機もございますので、板金の部分でもお喜びいただけていますね。
金網と板金をワンストップでできることで、納期や単価も抑えられます。
そこが弊社の強みになりますね。
レーザー加工機を導入されたのはお客様からのご要望があった。
小貫氏
そうですね。
これは時代の流れでもあるのですが。
安全性の観点から、プレス機の回転部にカバーをつけなければいけなくなりました。
法律で定められたんです。
それでカバーのお仕事が弊社に入ってくるようになりました。
主に金網やパンチング加工の依頼でした。それに付随して、曲げ加工や溶接加工、ステンレス加工の依頼も増えてきました。そうなってくると、どうしても切断をしなければいけなくなります。
レーザー加工機をもっている業者さまに、外注しなければいけない場面が増えてきました。
ここを自社でできるようにしたい。
板金業界で生き残っていけるようにですね。
そのような経緯で、レーザー加工機を1台購入しました。
レーザー加工の依頼って、一般的には展開したものの図面でするんですね。
結局そこまでしてもらえれば、弊社でも機械さえあればできる。
それで購入することに決めました。
その5年後に2号機を購入しました。
そのような経緯で、レーザー加工に力をいれてきました。
レーザー加工には自信がありますね。
曲げや溶接で出る歪み、伸び縮みを前もって計算して切ります。
レーザ加工機を、ここまで使いこなしている業者さんはなかなかいない、と自負していますね。

これまでに扱った案件で印象深かったものや難しかったものがございましたら、是非お伺いさせてください。
小貫氏
人間がすっぽり入るような大きさのストレーナーを製作したことがあります。
本当に大きなサイズだったので、とても印象に残っています。
ストレーナーというのは、ものをろ過する装置のことなんですね。
様々な用途で使用されるですが、総称としてストレーナーと呼ばれています。
具体的には、からしのメーカーさんが使用されるもの、航空燃料に使用するもの。
基本的にはろ過することで不純物を取り除く。
そのような用途で使用されるものです。とはいえ、弊社が、とりわけ大きなものを得意としているわけではございません。
ただ、大きなストレーナーに対応できる板金屋さんはとても少なくて。
金網が取り扱えない、やったことがない。それで、弊社に依頼がくる。
金網は柔らかいものなので、加工しやすいと思われている方もいるかもしれません。
ですが、実はとても難しいんですね。
毎回難しいです。
なるほど。その金網加工の難しさについてもう少し伺わせてください。
小貫氏
まずは寸法、それから精度。
これらを出すのが難しい。
網目はそもそも直角じゃないんで。
ですから、網目通りに切るとまっすぐにはならずに、うねってしまいます。
金網には目があって、それが横に伸びたり縮んだりします。
ですから、単純に直角に切ることからして、そもそも難しいんです。
同じ理由で、寸法の精度を出すのも難しい。
弊社では、そこの精度を出すのに、レーザー加工機を使うことにしています。
他の金網屋さんは、レーザー加工機を持っていないことが多いですね。
そこで差別化ができていると考えています。
実は、金網加工できる職人さん自体が減ってきています。
金網加工業界は高年齢化していまして。
金網加工の業者さんが、1年に1、2社ずつ廃業していると聞いています。
弊社は創業時は、クリンプ金網というものに特化したメーカーでした。
鋳物屋さんを回って、クリンプ金網を張り替える作業などもしていました。
それだけでご飯が食べられる時代もありました。
しかしながら、時代の流れの中で、鋳物屋さんが減り、仕事も減り。
そのような状況で、先ほど申し上げたように機械メーカーさんから、金網を使ったカバーを作れないか、と。
そこから、板金をはじめるようになりました。
御社の紹介動画を拝見しました。自社で機械のプログラミングを行なっているんですね。
小貫氏
機械を使うと手作業では難しい加工が可能になります。
不良も出にくく、仕上げも美しい。
それが、自社でプログラミングを行うことのメリットですね。
他にも様々なメリットがございますが。
なるほど。小貫さまがこの会社を引き継いだ際のエピソードなどございましたら、是非お伺いしたいのですが。
小貫氏
ものづくり自体は子供の頃から好きでした。
小さい頃から、実家で何をやっているのか子供ながらに認識はありました。
祖父と遊んでたりしても、自然と仕事の話になったり。
最初は別の会社に就職して、外の世界を一度経験しました。
その上で、曾祖父の代から続いていたこの会社を継ぐことを決意しまして。
代々継がれてきたものを、自分の代でなくすのはやはり嫌でして(笑)
自分の中で目指せ100年企業、と思って日々奮闘しています。
私が社長に就任したときは、社内の平均年齢が高かった。
早めの世代交代を意識して経営してきました。
少しづつ自分の目指すものが形になってきて。
創業時の厳しさを知る職人も、まだ現役でいらっしゃいます。
その職人から業界の厳しさを折に触れて伝え聞いています。
これを下の代にもきちんと伝えることができるように。
受け継がれてきたこの会社を大切にしていきたいですね。
ありがとうございます。製造業全体で担い手不足の問題が課題となっています。
小貫氏
はい。
一番の問題は環境整備だと思っています。
そもそも若い人が少なくなってきている中で、どのようにすれば魅力を感じてもらえるのか。
早い時期から、週休2日制を導入しています。
こういう業界では珍しく、リーマンショックの時から。
私はまだ社員でしたが、これからの時代ニーズに合わせていくべきだと思って。先頭に立って訴えましたね。
この制度のおかげで、当時若者だった人間が集まってきてくれました。
もちろん週休2日制にしたからには、質のいい仕事を平日の時間でしっかりとこなさなければいけない。

質のいい仕事というお話なのですが、質の悪い仕事をする業者もあるのでしょうか。
小貫氏
弊社は常時200社ほどとお付き合いがあります。
ただ、いわゆる親会社はいません。
弊社の事業内容からいって、一社に依存しにくいんですね。
その中で、質の悪い業者とは取引していないですね。
質の話しでいえば、弊社は付加価値を意識して仕事をしています。
具体的には高品質で短納期。
住宅街の中にあるという地の利の活かせるように。
品質の高いものを当日に納品する。
お客様に喜んでもらうことで単価を保っていますね。
このように当日納品ができるのは、金網、レーザー、板金の3本の柱が揃っているから。
これはお客さまだけではなく、従業員にも喜んでもらえる。
というのも、従業員が土日にしっかりと休める基盤を同時に作っているからですね。
200社とは直接お取引されているのでしょうか。
小貫氏
はい。
経理上少し煩雑になってしまいますが。
ただ、どこかを介して仕事をいただくということはないです。
一見さんも含めると200社を超えてきますね。
基本的に、多品種小ロットでお困りのお客様をターゲットにしています。
様々なお客様がいますが、1000円のお客様も大事なお客様。
高単価のお客様と差別することなく対応しています。
板金加工業界の課題はどこにあると思われますか。
小貫氏
やはり今話題に出た人手不足から、AI、IoTの発展ですよね。
当然、AI、IoTにシフトしていく会社がたくさん出てくると思います。
ただ、多品種小ロットに特化する業者があってもいいのではないか。
機械化に舵を切る業者もあれば、昔からの技術を残していく業者もあっていいと思います。
その中で、棲み分けがきちんとできていくだろうと思っています。
板金業界のすべてが、AIやIoTを導入していくとは思いませんね。
板金業界全体が設備産業化していると感じています。どのような点で技術の差が生じると考えればいいのでしょうか。
小貫氏
1つのものを作るのにも、様々な工程がありますよね。
お客様と打ち合わせをする。
プログラミングをする。
材料を仕入れて、加工する。
後加工があって、最終的な処理。
それら全ての工程を経て、お客様の手元に品物が届く。
これらの作業を機械で代替した方がいいかというとそうではない。職人が図面を見て、そのまま加工した方が早い場合がしばしばあります。
それは、職人さんの経験と技術力の部分で。
簡単な多品種小ロットのものは、手作業でした方が早いし、安く仕上がります。
人間の手を介する仕事は、絶対に無くならないと確信していますね。
そうすると、技術の継承がポイントになってくる。
小貫氏
そうなってきますね。
この点に関しては、従業員にも意識してやってもらっています。
これはお金を出せば買えるものではないですよね。ですから、ベテランから若手への技術の継承は大事なテーマとして、これからも取り組んでいきますね。
まとめ
金網加工、板金加工、レーザー加工をかけ合わせ。
短納期、高品質、低コストを実現。
大正期から積み上げてきた加工技術を今に伝える。
株式会社小貫金網製作所は、時代のニーズにこたえる。