株式会社 小川製作所

町工場にしかできないことがある

株式会社 小川製作所について
東京にかつて存在した城東区。
江東区の編入されたこのエリアには、昔ながらのものづくりを実現する町工場が集積する。
株式会社小川製作所もその一つだ。
小さな町工場にしかできないことがある。
試作品を中心とした多品種少量生産。
切削、溶接、めっきといった各工程のプロフェッショナルとのパートナー提携。
さまざまな業界から引く手あまたである。
今回取材に対応していただいたのは、3代目代表の小川真由(おがわ まさよし)さん。
元々発注する側であるメーカーに勤務。
家業を継ぐと決断後、近所の精密板金加工業者で研鑽を積んだ。
発注側と受注側の双方を経験した小川さんに板金加工への思いを聞いた。
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快く取材を引き受けていただきありがとうございます。早速ですが、御社の事業概要や強みを教えてください。

小川

はい、まずは全体像からお話しさせてください。
弊社は、大きく分けて3つの領域で事業を展開しています。

①社内工程事業
一番のベースとなる事業が、社内工程事業です。
板金加工、製缶加工、溶接加工、バフ研磨加工、筐体等の組立といったものです。
これらは職人の手、つまりアナログ工程でしかできないものです。

②最先端ものづくり事業
これは社内工程のものとは対極に位置するような事業です。
最新設備を使った精密加工。
協力会社とのネットワークの中で、それぞれの強みを活かした複合工程で製品を作っています。
最先端のものづくりに挑戦する事業になります。

③技術支援事業
元々私はメーカーで設計を行っていました。
その経験を活かして、主に3次元CADを使いながら、お客様の希望を対話を通して形にしていく。
自分自身が営業の窓口となった技術支援型の事業になります。

最後のものは、技術コンサルティングと理解しても大丈夫でしょうか。

小川氏

そうですね。主に3次元CADを使った設計業務が中心ですが、相談だけのようなコンサルティング業務もあります。
明確に作りたいものがあるのだけど、図面に落とし込めないお客様の希望を伺います。
それを3次元CADでイメージを作り、対話を通して共有し、開発をサポートする仕事です。
簡単に言えば、ものづくりの上流工程に関わっていく仕事ですね。

なるほど。展開されている事業の中で特に結びつきの強い業界はございますか。

小川氏

そうですね、特定の業界というものはないかもしれません。
我々の方で対応できるエリアであれば何でもという姿勢を取っています。
強いて挙げるとすれば、2番目の事業では、航空宇宙業界、半導体業界、医療業界を意識していますね。
あとは1番目の事業での製缶板金、研磨は意識するところがあります。
製缶板金は建築業界から引き合いがあります。
研磨は少し特殊で食品や医療器具を手がけていますね。

本当に多岐に富んでいますね。ところで「東京町工場HUB」の試みを拝見しました。その試みが実現するまでの経緯や苦労などがあれば是非伺ってみたいのですが。

小川

現在の形が実現するまでに、主に2つの流れがありました。
創業が1953年、今年で65年です。
祖父が創業、父が継いで、私が今やっています。
ずっと製缶板金でほそぼそとやってきました。
それが、あるときから社内工程の他の事業について相談をもらうことが増えてきました。
葛飾区の南のエリア、江戸川区、墨田区は工場集積地で、相談を受ける度にそういった地域の仲間の企業を紹介してもらったり、時にはインターネットで調べて業者を探したりしていました。
そのような流れの中で、それぞれの分野で特化した加工屋業者さんとのつながりが増えていった。
これが1つ目の流れですね。

もう1つの流れは、修行先のお客様とのおつきあいや付き合いのあった業者さんを引き継いだことからです。
私はメーカーで設計者として働いていました。
長男だったので、そろそろ家業を継がないといけないと考え始めた時期がありました。
その当時の弊社はスケールが小さくて。
仕事も多くありませんでした。
このまま継いでも上手くいかないだろうと思って、近所の精密板金加工業者で修業をさせてもらいました。
そこでは主にマシニングセンターやNC旋盤という精密加工の分野を得意にしているところでした。
営業もやる。
技術もやる。
仕上げも含めて本当に何でもやっていました。
そこで様々な協力会社さんとのつながりができました。
修行後、家業に入ったのですが、修行先の会社がほどなくして倒産してしまいました。
それで可能な限りではあったのですが、協力会社や取引先を引き継ぎました。
彼らがそのままネットワークになっていったという流れです。

各工程、各分野の専門家とパートナーを組んだことで、図面さえあれば大体のものが対応できるような体制になりました。
それが「東京町工場HUB」という形になったわけです。

詳しく説明していただいてありがとうございます。そのようなネットワークの中で上手くいかなかった経験だったり、泣く泣くお断りした案件などはございますか。

小川氏

それはもうしょっちゅうです。
日々その繰り返しで、めちゃくちゃありますよ(笑)
我々の仕事はまず、図面を受け取るところから始まります。
受け取った図面を見積りします。
この見積りに正解がないんですね。

例えばですが、基本的にはいつも全く作ったことのないものを作ります。
今まで自分が手がけてきた経験からコスト計算をします。
でも、やっぱりお客様によって、出来栄えであったり、暗黙の了解の部分で理解が異なっていることがままあります。
もっと安くできるはずだ、と言われたり。
自分のコスト計算と相手先のコスト計算で5倍〜10倍の開きがあったりします。
それでお断りするケースなどがありますね。

他の例なら、こういうのもあります。
①10φの穴を開けるもので、開けるにあたって±3μmの公差でという依頼がありました。
②見積りの段階でこれだったら、公差は外れるかもしれないとは相手先に伝えている。
③自分たちの検査ではOKだが、相手先の検査で公差から1μm外れている。
④元々は見積り段階でそれを伝えていたので問題ないと理解していたが、相手先からそれは受け付けられないと突っぱねられる。
⑤協力会社に再度製作を依頼しても、外れてもいいという条件で引き受けたので、それは対応できないと突っぱねられる。

まさに板挟みの状況ですよね(笑)
こんなことの繰り返しですよ。

小川様の苦労がひしひしと伝わってきます。人の面で伺いたいことがあります。人材の担い手不足の問題がよく言われています。この点について、意見を伺いたいのですが。

小川氏

確かに現象として、若い人材の担い手不足の問題があります。
が、根本的な問題は値付けの部分にあると感じています。

現場の工員さんの最低賃金として、時間単価で言えば4500円は必要だろうと考えています。
でも、昔から職人と言われるような人の工賃は、1時間あたり1500円~2500円くらい。
これは30〜40年前の相場で、現在の相場に直せば4500円以上になるはずです。
この金額が全然更新されません。
発注するメーカー側は、時間単価1500円~2500円を基準に仕入れ費用の予算を決めます。
ですから、現場の感覚で時間単価4500円を基準に見積りすると、高いと言われてしまう。

なぜこのようなことが起こっているのか。
そこには複合的な問題があるように思います。

例えば、職人さんと言われる年配の方は気質が良い人が多い。
昔からの取引で、値段を上げてくれと言えず、頼まれたら断れない。
技術があるから1500円でパッとやってしまう。
ただし、それは年金ももらいながらです。
これから生計を立てていかなければいけない若い人とは話が全然違います。

若い人材の担い手不足の問題に戻ると、果たして時間単価1500円の仕事をやりたいと思えるのか。
その可能性は限りなく低いですよね。
根本の問題はその辺りにあると思います。

時間単価1500円ならコンビニでアルバイトするよりいいじゃないか、と思われるかもしれません。
でも、そこから様々な経費やコスト、税金も払うとすると、手元に残る手取りは半額以下になります。
これは生活できないレベルです。
板金業界だけではなくて、製造業全体が抱えている問題です。

どうすれば解決できるのでしょうか。

小川氏

お客様に決断してもらう時が来ていると思います。

リーマンショック後、国内の仕事が一気に減少しました。
体力のないところや安い予算でも飛びついていたところは、軒並み倒産しました。

その結果、数年後に供給側が不足するような逆転現象が起きました。
今は無理して案件を引き受けなくても、たくさん案件が転がり込んでくるような状況です。

そろそろ業界全体が意識改革をしなければならないと思います。

例えば、発注するメーカーさん。
今まで、1万円で調達できていた取引先が廃業することになりました。
そこで、他の業者のところに依頼してみたら2万円と見積りをされた。
さてどうするか。

発注するメーカー側は、この依頼を海外に出すのかどうか。
海外に出しても、向こうも人件費が上がってきている。
今後もっと上がってくるでしょう。
すぐにこちらと同じ問題が浮上してきます。
小手先の手当てでは、根本の問題は解決しません。

今までは1万円でできるところにみんな群がってしまった。
でも、そういうところはギリギリでやっていたんでしょう。
体力がなくて自滅しました。
残っているのはきちんとした提案をしてきたところ。

「申し訳ございません。これまで通りの1万円では生活できません。2万円ならできます。本当は3万円もらいたいんです。でも、2万円ならなんとか頑張ります」

ここで発注するメーカー側が、その2万円の価値を認めるかどうか。

意識改革しなければならないのは、発注メーカー側だけではありません。
我々としても供給側のエゴとして2万円を提示してはいけません。
設計の最適化、工程数の削減を実現する。
商品の付加価値を最大限高める努力をする。
お客様にとって価値あるものを届ける。
その上で、今まで固定化していた値段を上げてくださいとお願いする。
弊社はそうしています。

おかげさまで、努力を認めてくださった業者さまとは、お互いにとってメリットのある関係を築けています。
弊社の周りでは、少しづつそういう流れが広がってきているという感じがしています。
やりがいを感じていますね。

どのような案件や企業と一緒にお仕事をされたいとお考えですか。

小川氏

そうですね、熱量を感じるお客様と一緒に仕事をしたいですね。
例えば、相見積のような慣習を一概に否定するわけではありません。
でも、そういうお客様が重視しているのは金額。
私が大事にしたいのは、一個一個のものづくりを大事にしているお客様の熱量。
この部品はこうやって、こういう風にして作りたいという熱量があるお客様なら、我々もやりがいを持って仕事に臨むことができます。

素敵ですね。最近はITの時代だと言われます。弊社はまさにITの会社でして。もし何か期待していただけることがあれば、お伺いしたいのですが。

小川氏

ITを駆使して製造現場の環境が変わったり、受発注のシステムが変わったりすると思います。
極論をいえば、淘汰されるところは淘汰されちゃっていいと思うんです。
自分たちがきちんと強みを持っているからこそ、成長ができるし、よい仕事を実現できると思います。
結局、仕事の中身が重要です。
製品の質を高めるだけではなくて、時代のニーズに対応するマインドも重要でしょう。
今までやってきたことをただ継続するだけでは、仕事として不十分だと思います。

そういう意味では、業者をある程度限定する必要があると思いますよ。
御社のような会社が、既存の全ての業者を応援していく必要はないと思います。
個人的には、「22世紀のものづくりって何かな」と模索している会社にスポットをあててほしい。
それが最先端である必要はないと思います。
最先端ではないけど、22世紀につながるものづくりをしているところ。
そういう業者にスポットを当てていただきたいです。

まとめ

22世紀につながるものづくりを模索する小川製作所。

社内工程事業だけではなく、最先端ものづくり事業にも積極的に取り組み、技術支援まで行う。

それは、各工程、各分野の専門家とパートナーを組んでいるからできること。
熱量のある業者と仕事がしたい。
小さな町工場にしかできないことがある。

加工技術

  • 板金加工
  • 金属・切削加工

基本情報

代表者名
小川弘之
担当者名
小川真由
従業員数
5名
創業年度
1953年
メールアドレス
info@bangking-yeah.com
電話番号
03-3657-4196

住所

〒124-0021 東京都葛飾区細田1-10-20

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