快く取材を引き受けていただき、ありがとうございます。まずは、御社の事業内容を教えてください。
前田氏
うちは、建築関係の製品を作っています。
建築関係が9割以上ですね。
設計から製造、取り付けまで行います。
金属は、鉄からアルミ、銅関係、ステンレスを使って、基本的には何でも扱っています。
そこで育てられたといいますか。
お引き合いがあれば、公的な機関から個人店まで、広く扱っています。
自動化が進む中で、板金は、それでも人が介在する工程が多いかと思います。御社の人に対する想いをお聞かせいただけますか。
前田氏
弊社の社長も「人の成長なくしては、会社の成長もなし」といっております。
もちろん、人は重要です。精神面も重要ですよね。
技術の面だけではなく、精神的な面でも成長しなくてはいけないと思います。
御社は、新しく入ってきた20代の若者に対して、どのように技術を教えられているんでしょうか。
前田氏
基本的には、仕事をしながら覚えていくということですよね。
ただし、うちの場合は、会社の方針で、研修制度・競技会などがあります。
日々培われていく技術を評価するために、競技会で点数をつけています。
たとえば、溶接は何点なのか、点数を見ることで、誰の目にもわかりますし。
2009年から、月一で土曜日に出勤していて、研修の日にあてていました。
研修を形を変え、今度は各人が成長したのを実感できるように、「土曜競技会」という形でやっています。
競技会の運営も、準備不足だったり、フォローができなかったり。
まだまだ課題が残されています。
12月が年度末なので、新年から(2019年1月)新しいことをやりたいと思います。
人材育成に力を入れられているとのこと。月一競技会に、社員の方は積極的に参加されたりしていますか。
前田氏
最初は、競技会で技術に点数をつけるのはどうかなって、心配なところもありましたけど。
でも、重要だと受け止めて、みんな抵抗なくやってくれていますので。
われわれ管理職の準備、その後のフォローが不足だったと、正直思っています。
もっと充実すれば、もっと良いものになる。それが、これから一年の課題ですね。
今までで困難なプロジェクトや苦労した案件のエピソードがありましたら、お聞かせいただけますか。
前田氏
私は以前、施工管理の担当をやっていまして。
大江戸線の飯田橋駅のモニュメント工事の時、W6.5m×H20.1mの製品を分割して持って行ったので、現場で組み立てる作業が大変でした。
現場の前の道路は、バスが通るんですよ。
終バスが出てから、クレーンで吊るんですけど。
馬鹿でかくて、電線もあるので、いろいろ計画して、6体吊りあげてセットする仕事だったんです。
ところが、最初の1体をやった時に、失敗しまして。
慎重に計画したつもりが不備があって。
電動チェーンブロック二箇所で吊るはずが、コードが切れて効かなくなったり、いろいろ問題があって、吊り込めなかったんですよね。
非常にショックでしたね。
朝、飯田橋の駅から、しょんぼりしながら、汚い作業着で電車に乗った記憶があります。
作る方で大変だったことといえば、社寺関係で、でかい本堂をやらせていただいた時のことです。
ステンレスで、棟木や破風板などを作らせてもらったんですけど、アールがむくっている(むくりが付いている)ので、工場の中で仮組みして、持って行って。
工期もある話だったので、工期と品質ですね、合わせるのに非常に苦労しました。
大きいのと、精度を要求されるので。
特にアールのものは、工場でちゃんとしたものを作らないと。
アールは作り込みをしないと、現場に行って合わないことが発生するので。
そのためには、工場で一手間をかけて。
ただ作って、現場に渡すんじゃなくて、本当に合っているのか注意して、微調整していかないと、おさまらないです。
3ミリ下げてみたり、4ミリ上げてみたり、それがアール製品の難しさですね。

御社内で今事業として取り組んでいることだったり、新しい取り組みや挑戦していることとか、ございますか。
前田氏
今年から導入していることですが、POP生産管理、要はバーコードで進捗をみえる化したり、工数のみえる化を図ろうとしています。
起動している率としては、5割に満たないなど、まだまだ課題が見つかっています。
着地点としても、目標に届いていないので、2019年度からは100%にしたい。
人の目で、製品を追いかけていくのは、管理者も大変ですよね。
PC上で、今どういう状態か、工数がどのくらいかかっているのかが分かれば、次の対策が素早く打てる。
2004年から「JIT生産方式」を導入し改革活動を続けていますので、JITとPOPを連携して生産性向上をさせていきたいなと考えています。
オーダーメイドだと、工程とかラインの設計も頻繁に変わられたりするんですか。

稼働率が下がりますよね。
前田氏
そうですね。あまり稼働率の話はしたくないですね(笑)
稼働率は、低いですね。
大型の機械なので、設備は動かせないんですが、人は移動したいなと。
溶接したり、ビス止めしたりなどの組み立て作業は、人の手なので。
人の稼働率は当社では特に重要で、人や物を移動することで、下げないようにしています。
機械部門の方は、多能工化で、いろいろな設備を使えればいいなと思います。
先ほどもお話ししている通り、オーダーメイドだと、同じ品物が流れてこないので、品種に特化して仕事を分けると、タイミングにより仕事がない人が出てくるので、多能工化しないと厳しいです。
国内外の著名建築家やインテリアデザイナーとの大きなプロジェクトを任されるようになったターニングポイントについて、教えていただけますか。
田部井氏
弊社社長がいうには、前回の東京オリンピック。
その前に、東京タワーの展望台をやっているんですよ。
その時に、難しい仕事も増えたのだと思います。
前田氏
戦後はあるゼネコンの知遇を受けて業務を拡張していたのですが、その中でお付き合いした設計事務所さんから、ほかの仕事もやってみないかと依頼があったのがきっかけと聞いています。それから、色々なことに挑戦できるようになったと。
設計事務所の先生とお付き合いがはじまり、うちの方に相談していただけるようになる。
ということは、うちからご提案もできますよね。
ご相談があった時に、積極的に売り込みをしていました。
最近の話だと、ロンドンの工事の時は、受け身でありますが、設計事務所さんに出していたサンプルを評価されて、プロジェクトの主要になる仕上げへと、つながったことがあります。


ブルームバーグ新欧州社屋の螺旋階段工事のお仕事ですね。
前田氏
サンプルをお出ししたところ、先生が見て、これはなんだと言われて、受注につながったという経緯があります。
ドイツのメーカーとの競合でしたね。
海外ビジネスというのは、力を入れられている分野でもあるのでしょうか。
前田氏
力を入れていますね。
遠距離なので、輸送コストがかかり、価格も不利な面がありますが、なんとか安いものを提供しながら、品質でカバーしていきたいと思います。
当然ヨーロッパの会社とは、同じものをつくっても、コストの面では、絶対敵わないので。
うちの製品を採用してもらったというのは、品質を買っていただいたということだと思います。とはいえ、価格も抑えていかないと。

製造業や板金業界の抱えている課題について、お考えをお聞かせください。
前田氏
今後、金属をどれだけ使っていただけるのか、不安があります。
金属の良さをどんどんアピールしていかないと。
車だって、金属だけじゃなくて、新しい素材で作ろうとしています。
うちは、意匠的な金属関係が多いので。庇とか天井とかを、いかに金属にしていただくかは、コストであったり、品質であったりです。
その点を考えなければいけません。
設備面も、板金加工は、ITの時代で、設備をPCを駆使して連続して流すような状況になっています。
さらには、ITからAIの時代になってくるので、金属業界が乗り遅れないようにしないと。
今後、5年10年先は、そういう風に考えていかないと。
(まとめ)
独創的なデザインを可能にした理由は、品質へのこだわり
競技会などの研修により、技術の研鑽と人材育成に注力
技術の成長、精神の成長、個人の成長が組織力へ
菊川工業株式会社は、未来を切り開く