得意な加工分野や強みについて教えてください。
高須氏
弊社は設計から加工を行っています。試作から量産まで一貫して対応しています。設計といっても、1から設計するものと板金に特化した設計がありますが、上流からの設計管理まで対応可能です。
せっかくいただいた図面でも、形状によっては高いものになってしまいます。
そこを「板金加工業者としての設計」をお客様と密に行うことで、コストをどれだけ抑えられるのかを相談しながらモノづくりを行っています。
「良いモノを安く」という気持ちで、その設計の提案というところから携われるところが、もっとも強みだと思います。
分野としては、放送機器・医療・研究用の医療機器・蓄電池・自動車部品などが多いです。
お客様の声に応える形で分野が広がっていっています。
なぜスピード加工が可能なのでしょうか?
高須氏
モノづくりには工程が大まかに8工程ありますが、その中で必ずボトルネックになる工程があり、1人が1つの工程しかできなければ、余剰人員が発生してしまいます。
当社では、1人であっても3つ、4つの工程をこなせるようにしています。
一方、昨今では「4M管理」というところで非常に厳しいご指導を受けており、品質を下げることがあってはなりません。
「お客様に喜んでもらう」というところが大前提です。
そこで、我々は社内資格認定を設けており、資格を保持している社員でなければその工程に携われないという仕組みで品質担保しています。
技術の教育は難しいのではないでしょうか?
高須氏
基本的にはOJTですが、座学の部分でも資料の部分で手厚く用意しています。
そういう意味では、「いま自分が何をすべきか」というところを明確にしています。
アナログな部分をできるだけ文書化することは重視しているところです。
関連サイトの「試作板金加工.com」は設計に関する知見がとても充実しています。アナログな部分をできるだけ文書化することは重視して、サイトの方作成されたのでしょうか?
高須氏
お客様の負担にもならないよう、新入社員の勉強としても良いというレベルで作っていますが、一番の狙いはお客様向けです。
不景気のタイミングが何度かあり、お客様である企業様も従業員を減らしました。
その中で、板金加工について知らないために加工費が高くなってしまう図面が増えてきてしまった。
納得していいものを買っていただきたいので、「少しでもこれぐらいのところを知ってもらえれば、お客様の要求に近づける」と思い作りました。
多品種小ロットのものづくりでは生産管理がとても難しいのではないかと考えています。生産管理の工夫について教えてください。
高須氏
ISO的な絡みもあり、すべての製品を同じ管理をしないといけない。
なので、基本的にバーコードで進捗管理を徹底し、一元管理を行っています。
たとえば、いま発注依頼をいただいても、その過去データの中から30秒ぐらいで納期が提示できるように体制を組んでいます。
一番大きな工夫としては、社外的な納期の他に「社内納期」というものを設けています。
作業者はお客様の納期ではなく、「社内納期」を意識して作業することになります。
スキルを細かく分け認定を行うことで、顧客満足度を向上させられる人材の育成を実現しているのですね。独自技術や既存の項目にない新規技術についても同様の取り組みで、継承が行われているのでしょうか。
高須氏
そうですね。ただし、そこは難しい問題です。
やはり基本的には文書化することです。
職人と呼ばれている人から、とにかく言葉を聞いて蓄積していきます。
それを知識として吸収させてそこからOJTを始めます。
昔は「職人になるには10年ぐらいかかる」と言われていましたが今でも10年ぐらいかかるのではないかと思います。
今の時代、工作機械の発展により職人技は限られている部分もありますが、簡単にできないところもあるので。
職人の言葉をきちんとまとめ、継承する社員が経験をする前に学びの場を与えることでスムーズに仕事ができるように仕組みを作っています。
今の体制ができるまで職人から反発の声はありませんでしたか?
高須氏
1999年はISOを導入したタイミングでこぞって職人の方がいなくなりました。
というのも、寡黙な職人さんにいろんなことを事細かに調査して、細かくルール作って…
それまでは、図面が職人の頭に入っていて「図面は見なくてもできる」という職人だらけでした。
それを「図面は出してこなければいけない、ちゃんと見なければならない、手順書に従わなければならない」というのは彼らにはありえない話だったんですよね。
非常に申し訳ない思いはあります。
一方で、時代の流れの中で、そこの部分を会議から始めるということはできませんでした。
逆に、板金に触れたことのない若い人たちがマニュアルを読んで、手順通りに行えば、意外と色んなことができてしまって。
「大きなものでも作れる、大きな機械を動かせる」ことに喜びを覚えてくれる若い方が入ってきてくれたのが、私達の転機です。
標準化によって痛みを伴うことはたくさんありましたが、今後の時代の流れとして向かっていくべき方向だと思い断腸の思いで推し進めていきました。
時代の流れを感じて体制を強化したのですね。試作が多い会社では生産管理が難しいとも伺っていますが、何か工夫はされたのでしょうか?
高須氏
社員にISOの主任監査人の資格をとってもらって、内製化しました。
ガチガチの体制を築いてしまうと、試作が多い弊社では年中文書を書くことになってしまいます。
導入した当初、管理費が膨れ上がってしまいました。
そこで社内の主任監査人の管理の下、きっちり守るポイントと、緩めるポイントを作ってもらって体制の改善を行いました。
chemSHERPAなどの書類作りだったり、書類事務手続きが煩雑なものがありますから、まだまだ改善していきたいところです。
人材育成に関して体制が整っていることを既にお伺いしましたが、採用ページでも従業員の方に対して温かな思いがあるように見受けられました。
高須氏
先代(父)の時代でインフルエンザで従業員が立て続けに倒れたことがありました。
倒れた従業員に「ちゃんと食べているのか?」と聞いたところ、「コンビニで適当に食べています。」と答えが返ってきて・・・。
急いで健康診断を実施した結果、20代なのに身体年齢40代の人が多かったとのことで。
これはまずいと思い、社員食堂を作って住み込みのコックさんを雇いました。
コックさんにサラダを出してもらうなど、美味しくて健康的な食事を提供するようにしました。
次の健康診断ではほぼ全員が健康診断でA判定だったようで。
仕事に対する姿勢や結果も安定しましたし、何より社員の人生が充実していることに喜びを感じたようです。
「まず、食。家族同様、健康にいいものをおいしくたくさん食べて」という会社作りをしたことによってものづくりが安定していった経緯がございます。
その際に「企業はヒトなり」と先代は強く感じたようで、「会社を支えてくれているのはやっぱり社員の人たちだから、大事にすることによって初めてこの会社は成り立っていくんだよね」と先代が強く言っておりました。
私はその父の思いをしっかり継承したいと思っています。
御社の課題は?
高須氏
一番は技術の継承をどうするかです。まだまだ充分でなく、上を目指さなければと思っています。
また、加工方法の蓄積が膨れ上がったので、今後はどの加工方法がよいかより洗練させていくことだと思います。
管理もしっかりしていて、スピードも早くて、品質もよくて、となっても、価格が高いと喜ばないお客様はいるじゃないですか。
管理体制なり、ノウハウの洗練なり価格を抑える取り組みを行なって、そういったお客様にも喜ばれるようになりたいです。
最後に、今後の意気込みを教えてください。
高須氏
弊社はまだまだ伸び代のある企業です。
体制も整いつつあり、さぁこれからという段階です。
社員は活気に溢れていて、弊社とのお付き合いに喜んでいただける企業様がいると思います。より多くのお客様とよい関係を築いていきたいです。
インタビューの後、施設内を見学をさせてもらいました。


上は、板金部品で作ったオリジナル製品。組み合わせることで様々な形状を作ることができる。下は、その例。

社員食堂。社員の方の健康につながっている。毎日食事を用意してくれるコックさんに感謝!


上はコーヒー豆。下は社内で作った焙煎機(7代目)遊び心を持って研修テーマに取り組む。
まとめ
厳しい品質管理の要求に応えながらも圧倒的なスピード対応を行う深沢製作所。
柔軟な対応が取れる多能工体制を引き、スピードと品質を両立する。
若い活気に溢れる彼らはまだまだ発展途上と向上心に溢れている。
その原動力は社員を大切にする取り組みがあってこそ。