今回はお時間をいただきましてありがとうございます。まず御社の事業内容と強みをお伺いさせてください。
春原氏
はい。
会社のパンフレットでも述べているのですが、「板金と電気が融合したものづくり」。
これをコア・コンピタンス(他社に真似ができないような核となる強み)としています。
平たくいってしまえば一貫生産なのですが。
開発から組立、配線まで対応して、完成品に。
完成品、ないし完成品に準ずるところまで仕事をして、納品している。
ここが弊社の特徴で、かつ強みですね。
設計部隊も若干名ですが、揃えています。
ですから、図面を描くところからお仕事をすることができます。
お仕事を依頼してくるメーカー側に、設計や開発がいなくても完成品ができるという理解でよろしいでしょうか。
春原氏
そこは受注形態によりますね。
当然、設計部門、開発部門を持っているお客様もいます。
ただ、いてもそこまで強くないお客様もいます。
あるいは、「こんなものを作りたいんだけど」から始まるお客さんもいますね。
結局、お客様によりけりになってしまうわけなんです。
弊社が設計部隊を揃えているのは、自分たちで設計ができれば、図面だけいただければすぐに製造ができる。
ここを実現できるようにしていたいんですね。
なるほど。ちなみに、製造のみ受注と設計開発からの受注の割合はどのくらいでしょうか。
春原氏
設計から受注していただいて、お仕事するパターンはあまり多くありませんね。
製造のみが9、設計からが1。
それくらいの割合で仕事を受けています。
ただ、外観図というか見た目だけのラフな絵だけをいただくようなパターンもあります。
「こんなの作りたいんだけど、細かいところは任せるから」っていうもの。
そういうものでも、これまでの経験からどういうものかはわかっちゃいますからね。
後は、どうやったら作りやすいのか。
自分達で加工図を書いていくようなイメージですね。
ありがとうございます。御社のお仕事の中で特に結びつきの強い業界などございますでしょうか。
春原氏
そうですね。
主として取引している業界は、音響や映像関係です。
大学などにいくと、教室の設備にスピーカーやプロジェクターなどがありますよね。
役所などにもそういうものが置いてありますよね。
お客様にそのような設備をつくっている方が多いんです。
だから、プロジェクターの架台、スピーカーの架台。
これらにPCをつなげるようなインターフェースのパネル。
そういうものをつくっています。
それ以外のものでいえば、産業用機器の部品やカバー関係などですね。
お客様から部品のみの発注がきても対応は可能なのでしょうか。
春原氏
そうですね。
承ることができます。
売上の比率で言えば、3:7くらいの割合で部品生産の方が多いんですよ。
板金のみで出荷するもの少なくありませんよ。
ただ、一貫生産できるのが弊社の強みなので。
その強みを活かせるようなお仕事を増やしていきたいと考えています。
現状、なかなかそういうお客様が多くないのも事実で。
部品加工の比重が重くなってしまっています。
ですから、現状の受注バランスからして、人員も部品加工の方に多く配置しています。
もっと一貫生産品に挑戦したいんですけどね。

お客様に喜んでもらえているポイントなどございましたら、是非お伺いさせてください。
春原氏
仕様変更への対応に喜んでもらえることが多いですね。
先ほど、お話した音響と映像関係のお客様によく言われることなのですが。
事前にできるだけリサーチをして仕事をするのですが、実際に現場に行ってみると齟齬がでることがあります。
個々の現場でどのように使用されるのかは、リサーチしきれないところがあります。
それで、急に仕様変更をしなければいけないことがでてきます。
部品を急遽追加してつくるんですね。
この辺りに関しては、短納期で対応できます。
そういう対応力に対して、喜んでもらえることが多いですね。
あとは一貫生産で対応できるの、トータルで見ると安く納品できているみたいです。
「いつも安くやってもらってありがとうございます」と言われることがあります。
そういっていただけるのはありがたいのですが、適正価格でやっているだけなので(笑)
関東圏の加工コストと、こちら(長野県)の加工コストが違うんでしょうかね。
今まで加工なさった中で特に難しかった案件などございましたら、お伺いさせてください。
春原氏
難しいものは結構ありますよ。
ただ、基本的に弊社は断らないようにしています(笑)
取り扱いでいうと、大体1品モノや小ロットが多い。
小ロットのものは多くても20〜30ですね。
毎回、新しいものを作っていますので、基本的に難しいことが多いです(笑)
そうですね。
その中で特に難しいものを挙げるなら、なんでしょうね。
お客様が提示してきたお仕事を、組立や配線の部分で実現する難しさもありますね。
そのままつくれないものを提示されることがあります。
できるだけお客様の要望を実現できるように、こちらから提案していく。
そこでの対話というか、すりあわせの難しさはいつもかかえています。
あとは、やはりリードタイムが短い案件ですね(笑)
複雑な加工を1週間でお願いします、といわれても難しいものがあります。
ある程度の時間があれば問題なくできるのですが、時間が限られている。
そういう場合には、すりあわせをしなければいけませんからね。
ありがとうございます。電気配線までされている板金屋さんって少ないと思うのですが、始められた経緯などを教えていただいてもよろしいでしょうか。
春原氏
もともと弊社は板金屋ではなくて、電気屋さんからスタートしたんですね。だから、配線の技術を持っているんです。
その後で板金を始めました。
電気屋としての配線のノウハウを板金加工とからめて仕事をしているんですね。
もともと現代表の松井が事業を始めたときから、音響と映像関係のお客様とお付き合いがありまして。
最初は、筐体と部品を支給してもらって、それを組立して配線をする。
で、納品していたんですね。
ただ、仕事をしているうちにお客様から「筐体や部品の部分も対応できないか」という要望がございまして。
当初は、弊社の方で板金屋さん発注して、部品を作ってもらったりもしたのですが。
あまり質がよくなかったり、納期をまもってくれなかったり。
対応がよくなかったんですね。
それで、困っていたんですが。
そんな中で、お客様が売り上げをあげる旨の経営方針を出されまして。
仕事自体の量が増えるなら、思い切って設備投資をしてしまおうと考えました。
それで、板金もはじめたというのが経緯ですね。
そんな最中、取引先が売上をあげる旨の経営方針を出しまして、そしたら、ウチへの発注も増えるんじゃないかと考えて、いっそのこと設備投資して板金屋はじめちゃうかというところからの板金のスタートですね。
1990年頃の話ですね。
「磨輝(みがき)の時間」という勉強会を開催されていますよね。この勉強会を開催することで変わったこと、実現できたことなどございましたら教えてください。
春原氏
「磨輝の時間」というのは、弊社が作った造語でして。
磨いて輝こうという意図を込めて、社員の技能向上と意識向上を目指した勉強会なんですね。
月に一回開催しているのですが、職種の壁を超えてコミュニケーションを取れるようになりました。
会社内の風通しがとてもよくなったという印象を持っています。
話しやすいとか、話しにくいという声がなくなりました。
電気関係を担っている人間は作業場にこもって作業をしていて。
それに対して、板金関係を担っている人間は工場で加工をしている。
作業場が違いますので、日常業務の中でなかなか接点を持てないんですよね。
その点はきちんと改善できたという実感を持っています。

コミュニケーションが円滑におこなえるようになったことで、具体的に変わったことなどございますでしょうか。
春原氏
ほうれんそう(報告・連絡・相談)がしやすくなった雰囲気はありますね。
そのおかげで、短納期が実現しやすくなりました。
今、弊社の中でとてもスムーズに工程が流れています。
その根底には、社員同士の活発なコミュニケーションがあると感じていますね。
先ほどの「磨輝の時間」は勉強会なのですが、それとは別に部会活動というものがあります。
弊社には、6つの部会がありまして。
総務、品質、製造1、製造2、開発、環境の6つ。
全員がいずれかの部会に所属して、それぞれの観点からどのように会社をよくしていけるのか、議論をしています。
この部会活動も定着してきました。
着実に成果が出始めていますね。
これらの活動を通して、社員が仕事に対して主体的に取り組めるようになってきています。
ありがとうございます。恐縮なのですが、御社の課題などございましたらお伺いさせていただきたいのですが。
春原氏
そうですね。
課題といえるかどうかわかりませんが、強いて挙げれば事業継承ですね。
現社長が来年に代わる予定なので、引き継ぎの部分がスムーズに行くかどうか。
もう1つは挙げるとPRの部分。
弊社は営業部隊がいませんので。
展示会などに積極的に出展することで、少しずつお仕事にはつながっているのですが。
仕事につなげるためには、どうしても出展し続けなければいけません。
ただ、そうすると費用がかさむのですね。
ですから、御社のようなメディアで露出が増えることは、ありがたいですね(笑)
少し大きな話になるのですが、板金業界の課題について教えていただけますでしょうか。
春原氏
板金業界の知名度が低いことですね。
名前として板金のことは聞いたことがあるけど、具体的に何をやっているのかは知らない人が多いと感じています。
これは長野県のシートメタル工業会の会長が言っていたことなのですが。
職業区分の中に板金加工って入らないそうです。
板金加工はそのような扱いを受けているんので、そこを変えなければいけないですね。
職業区分に入ると、専門学校をつくることができるようです。
そこでプロフェッショナルを増やせれば、業界の雰囲気も変わると思います。
板金って汎用性のある加工なんですよね。
ですから、アイデアさえあれば色々なものに応用できる。
ただ、それは板金のことを深く知っていないといけませんよね。
だから、認知度をあげる。
プロフェッショナルを育てる。
金属加工って、要は金属の塊を削っていくという作業ですよね。
板金で置き換えられるところもたくさんあるはずで。
金属を削って箱を作るよりも、板を曲げて箱を作る方が早いし、安いですよね。
ただ、これは板金の知識がないとできない。
板金だったらどうできるか。
そういうことを考えながら、仕事をするのも楽しいのではないでしょうか。
まとめ
設計から板金、組み立てに電気配線。
「板金と電気が融合したものづくり」を実現する。
勉強会と部会活動を通して、スムーズなものづくりを実現。
アルカディアは自己を「磨輝」あげる。