快く取材を引き受けていただき、ありがとうございます。まずは、御社の事業内容を教えてください。
友和氏
事業内容は、ヘラ絞り加工です。
大きく分けると、板金加工の一種。
中でも、ヘラ絞りは特殊な加工です。
一枚の大きな円盤状の板から、立体的に加工していきます。
回転しながら加工していきますので、丸いものに限定されますが、なくてはならない技術です。
御社の強みは何でしょうか。
友和氏
代表が、金属ヘラ絞りで「かわさきマイスター」(※)に認定されています。
川崎で、技能を有する職業の人間に与える称号があるのですが、そのことによって、弊社のヘラ絞りを知ってもらえました。あとは、家族3人の会社という規模ながら、自動絞り機を3台入れています。
昨今では、海外と勝負になってきましたので、遅れをとらないように、新型の機種を1台追加しました。
他の企業にない機器を入れることで、差別化をはかっています。
※編集部注 平成9年度より、川崎市が、市内最高峰の現役の技術・技能職者に与えている称号。
「かわさきマイスター」の選考基準について教えていただけますか。
友和氏
その業種に就業して、25年以上経過していることが基準になります。
審査する方は、大学の教授であったり、実際に経験されている方であったりで、いろいろな面から審査するようです。
絞りの技術を多機能的に有している、技能力の証明になるかと思います。
一方で、弊社の製品が「川崎のものづくりブランド」として認定され、川崎市の名産品になりました。
自社ブランド、自社製品を持ち、他社でやらないことを挑戦しています。
ご依頼はなるべく断らず、社内全員で共有して、挑戦して進めています。
これまで行った加工で、難しかったものはありますか。
友和氏
大きな球体のものだと、機械で挟んで、型に密着させながら回転させます。
加工の仕方がまずかったりしますと、ステンレスなどの材質は硬くなってしまいます。
加工が難しい素材で、加工がまずいと、途中まで絞れても、最後に寸法が出なかったりします。
弊社で加工したものを、ほかの業者に持って行ったそうですが、最終的に形にならなかったことがありました。
大浪夫人
同業者からの依頼だったのですが、最初、その方は断ろうと思ったそうです。
だけど、相和さんにやってもらおうと依頼がきて。
うちでできたので、びっくりされていました。

技術面以外に、難しい仕事はありましたか。
友和氏
最近では、弊社では自社ブランド、自社製品を作っています。
これらの製品は、デザイナーが関わり、デザイナーのデザインを形にする作業を行います。従来の仕事は、寸法を出せれば問題なかったのですが、デザイン性であったり、形の美しさが求められるようになりました。
トータルで見せる必要があります。
製品のラインがダメならば、NG。
やり直しになります。
最初に手がけたステンレスのタンブラーも、深く絞る技術面でも難しかったです。
それ以上に、美しい曲線が連なる形を出すのが、なかなか困難でした。
大体の形にするのは、すぐにできます。
デザイナーさんの意見を汲みながら、修正を加えて、試行錯誤をくりかえし。
半年以上かけて、ようやく完成にこぎつけました。
タンブラーの、この形を出されるのに苦労されたんですね。
友和氏
普通に窄めると、金型から外れなくなってしまうんですよ。
1回目の加工では、完成の形まではできないので、後から加工で窄めます。
加工の過程で、R(アール)といって、なめらかな曲線を出すのが、難しいです。
完成品は、平らの面がないように加工ができていると思います。
指というのは、とても感覚が鋭いので、触った時に、少しでも平らな部分があると違和感があるわけです。
その平らの面がないように、つとめました。
ここまで深く絞るのは、他では難しいと思います。
他の絞り屋さんに「どうやって絞ったの」と言われます。
業界で、自社ブランドを持つ会社は少ないように思います。どのようなつながりの中で進められていったんですか。
友和氏
川崎市では、行政と財団、デザイナーさんが、団体で会社を訪問して、悩み事を聞き取り、行政の事業の中で対応できるものはないか、提案いただく取り組みがありました。
弊社は、その流れで、市の職員と知り合いました。
その関係で、「かわさきものづくりPR製品事業」という、川崎市の名産品をつくる事業への参加に、声をかけていただけました。
そこで、デザイナーさんと出会い、タンブラーの開発を手がけられるようになりました。
自社製品をつくる上での課題はありますか。
友和氏
何が難しいかといえば、商品ができてから、どのように売っていくかを探ることです。
完成してから、販売戦略などの、別の作業力が必要になります。
従来のわれわれの仕事は、企業さんから依頼を受けての仕事が主でした。
そうではない難しさがあるので、挫折される会社さんも多いです。
実売は、どんな状況でしょうか。
大浪夫人
これまででは、レクサスさんで、十周年記念で200個の注文をいただきました。
(企業の)ロゴもレーザーで入れまして。
弊社の製品は、3000円から2万円と、安くはない価格帯ですが、企業さんからは、150個から200個と、まとまった数のご注文をいただけます。
友和氏
神奈川県内で、名産品を集めて販売したことがありまして、その中で、弊社の製品がダントツの売り上げでした。
間に入り、販売宣伝していた産経デジタルさんが、びっくりされていました。
期間限定に加え、三割引きで販売したので、お得感を感じていただけたのでしょう。
そこから火がついて、自分たちも、なんでこんなに売れるんだろうと驚くほどでした。
とても美しい仕上がりだと思います。
友和氏
ありがとうございます。
ステンレスに漆を塗る製品は、6年前にはじめました。
その後で競合がでてきましたが、うちの強みは、ヘラ絞り加工です。
加工が、他とは違います。
ヘラ絞りは、ロケットの先端部を作る技術であるために、付加価値を見出してくれる方が多い。
数ではなく、1個1個を、丁寧につくることで、良い製品を提供したい。
その気持ちで、地道に続けています。
ヘラ絞り加工の技術の難しさについて、教えていただけますか。
忠氏
いい出せばきりがないのですが、跳ね返りがあるものなので、いじればいじるほど、跳ね返りが起こってきます。
それが起こらないよう加工するのに、技術がいります。
絞りが深いものほど、難易度が高くなります。
そこを、切磋琢磨しています。
大浪夫人
絞り屋さんによって、素材の得意不得意があります。
弊社は、鉄、アルミ、銅、真鍮、レアメタルも手がけていますが、どこでもできるものではないんです。
たまたま知り合った社長が、材料を支給してくれ、失敗してもいいから試してと、やらせてくれたので思い切って挑戦でき、技術が向上しました。
技術が向上する中で、以前は外注していた金型も、今では弊社の工場長が作っています。
そのため、短納期で欲しいお客様にも対応できますね。
型の修正もできますし。

技術を強みにされていく中で、技術を継承していくのが大きな課題になると思いますが。
大浪夫人
うちは、社長が小僧の頃から50年やってきて、「見て盗め」の考えでした。
これからの時代は、そんな時代ではないので。パートさんでもできる仕組みにしていきたいです。
学校を卒業した子を、一から育てるのは難しい。
年齢が高くとも、技術のある人に入ってもらって、教育係になってもらう。
そういう働き方も、人の入れ方もあります。いろいろな方向性や形があると思います。
業界全体で、人手不足が課題になっています。御社では、どのようにお考えですか。
忠氏
弊社は後継者がいますので、なんとかなっています。
大浪夫人
本人は会社を譲るつもりでいるのですが、周りからマイスターなので、もう少し残って欲しいと希望されていまして。
これからは、工場長が人を入れてやっていかなくてはいけません。
友和氏
この業界は、零細企業が多いと思います。
家族経営でやってきて、子供に継がせるだけの先行きが難しくなってきました。
一方で、自社製品を作るなど、他社がやらないことをやる独自性のある会社は、求人をしても、人が集まってくるのではないでしょうか。
うちのような規模の会社でも、京都の大学生から、働きたいと問い合わせがありました。
工場体験の受け入れもやっています。
こういう職業もあるのだと、興味をもってもらえれば。
リーマンショックの影響で、現在でも単価があがらないと聞きますが、いかがですか。
友和氏
新しいことに取り組んだことで、注目を浴び、新しいお得意様が増えています。
昔は、まとまった数量の注文があって、昔の価格というのがありましたが、ロットもだいぶ崩れています。
それなのに、価格は据え置きなんてことが多々あります。
弊社の場合は、早い段階で価格の見直しに取り組みました。
お得意様に、事情を説明して、値上げの交渉をやらせていただいて。
受け入れてくださった方とつながっています。
リーマンショック後も、売り上げを伸ばしていきまして、今期の決算でも過去最高の売り上げを出せました。
しかし、今後の見通しは厳しいです。従来のお得意様から仕事を受けるだけではなく、自社製品を持つなど、今までとは違うアプローチをやっていきたいです。
現在抱えられている悩みはありますか。
友和氏
リーマンショック後、業界全体の景気は、正直にいって悪いと思います。
とくに我々のような零細企業はとくに厳しいです。
一方で、求められる製品の質は、上がってきています。
従来であれば、問題として扱われなかった事柄もクレームの対象になってきています。
たとえば加工の過程で、どうしてもついてしまう傷や寸法など。
10年20年の、長いスパンで、問題なくやってきたものに対して、できないことまで要求されることが増えてきたのが課題。業界全体の悩みでもあります。
過剰なまでの商品管理です。とくに大手では、加工の現場のことをわかっていない方から、クレームを受けたりしますね。
忠氏
今は、後処理をやらないよね。
かつては、販売の方で、製品を研磨したり、きれいにしていました。
製造の段階で傷をなくす方向なのだと思う。
絞りの加工上、傷なしにしてと言われても難しいですよ。
効率化のしわ寄せでしょうか。
友和氏
効率化、コストダウンのしわ寄せが、うちのようなところにきていますね。
最後に、ものづくりの情報を発信することへの期待はありますか。
友和氏
ものづくり業者は、発信するのが苦手です。
話していれば仕事にならないですし、数をこなし作るのが勝負です。
ネットを通じて発信できるメディアがあるのは、業界全体としてありがたいです。
受注者発注者の関係も上下関係で、力関係が生まれがちです。
ネットを通じることで対等の立場で付き合うことができます。
これからが楽しみです。
まとめ
難易度の高い金属素材のヘラ絞り加工に絶対の自信をもつ。
金型を自前でつくることから、短納期にも対応。
匠の技と美を重ね合わせた自社製品を世に送る。
有限会社相和シボリ工業は、新たな可能性を創りつづける。