ステンレスの焼き入れについて専門家が紹介!

家庭用品をはじめ、機械部品や建築材料として生活を支えているステンレス。

このステンレスには、様々な種類があり特性も違います。その中では、ステンレス素材の強度を向上させるために焼き入れをするものもあります。

ステンレス加工において非常に重要な焼き入れですが、その方法や効果について知っている方はあまり多くありません。

今回はそんな「ステンレスの焼き入れって何?」という疑問をお持ちの方に向け、ステンレスの焼き入れについて詳しくご紹介させて頂きます。また、焼き入れ以外の熱処理についてもご紹介しますので、「熱処理について知りたい!」と思っている方やこれからステンレス加工を依頼しようとしている方も、是非ご一読下さい。

ステンレスの焼き入れの効果

ステンレスの焼き入れは、素材を硬くして強度を高める効果があります。ここでは、焼き入れとはどのような加工処理で、どんな種類があるのか、またその効果の詳細について説明していきます。

焼き入れとは

焼き入れは、一般的には、金属を加熱して高温状態にした後、一定の時間を置いてから急速に冷やす熱処理法です。

専門的には、鉄鋼(ステンレス鋼も含む)の組織を、炭素が固溶しやすいオーステナイトになるまで加熱した後、急冷してマルテンサイトとする熱処理法を指します。

マルテンサイトは、炭素をほとんど固溶しないフェライトに炭素を過剰に固溶させた組織で、硬い性質を持ち、炭素の含有量が多いほど硬度はより高くなります。しかし、焼き入れしたままでは脆いので、通常は粘り強さを向上させるために焼き戻しを行います。

焼き入れの種類

焼き入れの種類は、素材の内部まで焼き入れするズブ焼き入れと、表面のみを焼き入れして内部は柔らかいままにしておく表面焼き入れに二分することができます。

ズブ焼き入れは、内部まで硬化しているため、引っ張りや圧縮に強いという特徴があります。ただし、素材のサイズによっては、浅部と深部の冷却速度が大きく異なるため、内部は柔らかいままということも多々あります。

表面焼き入れは、粘り強さが高く、ねじりや曲げに強いという特徴があります。なお、表面焼き入れでも、焼き入れ後には焼き戻しが必要となりますが、靭性は維持されているので低温焼き戻しを採用することが多いです。

また、表面焼き入れには、加熱する方法の違いにより、高周波焼き入れ、炎焼き入れ、レーザー焼き入れ、電子ビーム焼き入れなどの種類があります。さらに、加熱に併せて素材表面の化学成分を変化させる浸炭焼き入れ、浸炭窒化焼き入れなどがあります。下図は、棒状素材へ高周波焼き入れを適用した例で、加熱機と冷却機を並べて設置して、そこに素材を通すことで、加熱後の素早い冷却と加熱と冷却の同時実行を可能にしています。

引用元:株式会社イプロス

●熱源別表面焼き入れ法

高周波焼き入れ…高周波の電磁波で素材表面に誘導電流を発生させて加熱する方法。

炎焼き入れ…バーナーなどで炎を吹き付けて加熱する方法。燃料ガスとしては、アセチレンなどを使用。

レーザー焼き入れ…レーザー光を照射して加熱する方法。CO2レーザー、YAGレーザーなどを使用。

電子ビーム焼き入れ…真空中で電子ビームを照射して加熱する方法。

●化学成分を添加する表面焼き入れ法

引用元:岡谷熱処理工業株式会社

浸炭焼き入れ…上の模式図のように素材表面に炭素を浸透拡散させた後、またはさせながら焼き入れして表面の硬度を得る方法。例えば、代表的なガス浸炭法では、炉に天然ガスなどを大気と共に入れて加熱。すると、下図のように、素材表面で一酸化炭素が鉄と反応し、炭素が鉄中に固溶する。

浸炭窒化焼き入れ…炭素に加え、窒素も素材表面に浸透させる焼き入れ法。浸炭焼き入れより処理温度を低く、または処理時間を短くすることが可能。

引用元:岡谷熱処理工業株式会社

焼き入れの効果

焼き入れは、素材を硬くし、耐摩耗性や引張強さ、降伏強度、疲労強度などを向上させる効果があります。しかし、展延性や靭性が低下し、脆く壊れやすくなります。

例えば、焼き入れ性が良い、つまり焼き入れによって硬化しやすいSUS440Cでは、焼き入れの仕方で大きく変動しますが、硬度・引張強さ・降伏強度が5倍以上も向上します。しかしもちろん、焼き戻しを行うので、使用する際の硬度や強度は、焼き入れ前の3~5倍程度となります。

一方、焼き入れは、割れや変形、残留応力などの原因となることがあります。これらの焼き入れ欠陥は、主に不均一な冷却による熱応力や組織変態に伴う体積変化で素材内部に焼き入れ応力が生じることで起こります。

焼き入れを行うことができるステンレスの材質

それでは、ステンレスのどの材質であれば焼き入れによって硬化するのかを見ていきましょう。

上述したように、焼き入れによる硬化は、炭素量の多いマルテンサイト組織が存在することを前提としています。そのため、マルテンサイト系と、母材をマルテンサイトとする析出硬化系以外のステンレスでは、焼き入れを行ってもほとんど硬化しません。

しかし、オーステナイト系ステンレスについては、プラズマ浸炭法や真空浸炭法などによる浸炭焼き入れにより、表面焼き入れが可能なメーカーもあります。

マルテンサイト系

マルテンサイト系は、焼き入れによってマルテンサイトを形成し、常温でもマルテンサイトを維持するステンレスです。他のステンレスに比べ、クロムの含有量が少なく、炭素の含有量が多いという特徴があります。

引用元:第一鋼業株式会社

代表的な鋼種には、SUS403、SUS420J2、SUS440C等が挙げられます。これらの成分は、マルテンサイトとするのに必要なため、クロムの含有量が多いほど、炭素の含有量が多くなっています。

そのため、焼き入れ性は、炭素量に依存して、SUS403、SUS420J2、SUS440Cの順番に良くなっていきます。しかし、その反面、炭素量が多くなるほど耐食性は低下します。

また、オーステナイト系やフェライト系と比較すると、硬度や強度は数倍となりますが、耐食性はやや劣ります。腐食に対するこの性質は、クロムの含有量が同程度でも同様で、焼き戻しによるクロム炭化物の析出が原因です。

析出硬化系

析出硬化系は、銅やアルミニウムなどを添加して母相中に析出させることで硬化させるステンレスです。そのため、母相がマルテンサイトのSUS630などでは、焼き入れによる硬化が可能です。上の画像は、ニオブとシリコンを析出させたステンレス表面の状態です。

ただし、析出硬化系の焼き入れは、高温状態で添加元素を十分に溶かし込む溶体化処理を伴い、急冷後も添加元素を析出させる時効処理が必要となります。また、析出硬化系は、全般的に炭素の含有量が少なく、炭素量の多いマルテンサイトの形成で硬度を高めるというよりは、添加元素の析出によって硬度を高めているステンレスです。

ステンレスの焼き入れ方法を解説!

次にステンレスの焼き入れの方法についてご紹介します。焼き入れは主に、①加熱②温度保持③冷却の3つの工程があります。

①加熱

加工する素材を炉などで加熱し、温度をあげていきます。加熱する素材に応じて温度が違う場合もあります。焼き入れをする前工程として、汚れやサビなどが付着していると、焼き入れがうまくいかない可能性があるため、洗浄などで汚れを取り除くことが大切です。

また、加熱する炉には、電気炉やガス炉など様々な種類があります。

②温度保持

加熱で温度が上昇した後は、全体に熱を通さなくてはいけません。加熱の際は、表面が先に目標温度に達成するため、加工物の中心まで熱がわたるまで時間が掛ります。その為、温度を保持する必要があります。必要な温度保持の時間は、素材や大きさによって変わってきます。

③冷却

加工物に十分に熱が渡ったら、冷却工程に入ります。焼き入れに必要な冷却速度は一般的に160℃/秒以上とされています。

以上の工程でマルテンサイト系のステンレスに性質を付与することができます。

ステンレスの焼き入れについてわかったところで、

・具体的にどれくらいの費用が掛かるのか

・納品までどれくらいの期間が掛かるのか

などについて気になると思われます。

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焼き入れ以外の熱処理方法

熱処理方法には焼き入れ以外にも様々な方法が存在します。主に焼き入れ以外の熱処理方法には、以下の3種類の方法があります。

焼きもどし

焼きもどしは、焼き入れをした後に行う熱処理方法になります。マルテンサイト系は焼き入れ処理のみでは、脆いので、焼き戻しをすることで耐性を付与します。基本的には焼き入れと焼き戻しはワンセットで考えられています。

焼き戻しとは、再度加熱することですが、低温焼き戻しと高温焼き戻しがあります。

低温焼き直しは、150℃から200℃程の温度で加熱します。主に、耐摩耗性や経年変化を防ぐために施されます。

高温焼き直しは、高温で再度加熱する方法です。主に強靭性を上げたいときに使用されます。

焼きなまし

焼きなましは、適当な温度で加工物を加熱し、一定時間後に冷却していく方法です。焼きなましの効果には、加工性の向上や内部応力の除去などがあります。

焼きならし

焼きならしとは、加工物を高温まで加熱した後に空冷などで冷却させる方法です。この焼きならしで、金属の組織結晶を微細化させることで、切削性の向上や、機械的性質の改善をすることができます。

まとめ

今回はステンレスの焼き入れについてご紹介させて頂きました。

焼き入れをするステンレスの種類は限られていますが、その特徴や性質を理解することで、焼き入れの依頼する際に手間のかからない提案ができます。また、焼き入れ以外の熱処理方法についても、製品の用途や材料によって選ぶことが大切です。

焼き入れを依頼できない会社もある為、依頼する際には十分に調べたうえで、依頼することをおすすめします。

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